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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第8章 先を生きる者 その生にならう者
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第230話 一日オペレーター日向

 6月も終わりに差し掛かるころの日曜日。


 日向は朝からマモノ対策室十字市支部にびたり、トレーニングに励んでいる。一通り筋トレを終えると、小休止のためにリビングへ。今はお昼前。昼食にはちょっと早い。


「ふー、疲れたぁ」


「お疲れ様、日向くん。調子はどうだい?」


「狭山さん。ええ、良い感じだと思いますよ。一週間前と同じトレーニングをしてみると、格段に楽に終わっちゃいます」


「それはいいね。慣れてきたら、負荷をもう一段階増やして頑張ってみるといい。あまりに軽い負荷では、効果的なトレーニングにならないからね。悲しいことに」


「悲しいですよね……。俺が今まで続けてきた腕立て伏せも、あまり効果は無かったみたいだしなぁ」


「腕立て伏せで重要なのは、回数と姿勢だ。20回そこらを1セットでは、まぁ確かにタカが知れているかもね」


「ぐぬぬ……。そういえば、日影はどこにいますか? 最近なら大体トレーニングルームにいるのに、今日は姿が見当たらないんですよ」


「日影くんなら、北園さんや本堂くんと一緒にマモノ討伐に出かけてるよ。十字市郊外の廃マンションが、虫のマモノの群れに占拠されたらしい。目的地がここから近いので、三人はそれぞれ現地で集合し、自分がここのモニター室でオペレートする予定だよ」


「ああ……そういえば、そんなことをアイツが昨日言ってた気がする……」


「トレーニングを始める前に日向くんに予告していたとおり、君にはしばらくマモノ討伐をお休みしてもらい、トレーニングに集中してもらう手筈になっているからね」


 日向に残された時間は限られている。

 一刻一秒とて無駄に出来ない。


 そして、単純に筋力や体力を増強したいのであれば、マモノと戦うより筋トレをしていた方が断然効率が良い。そのために、日向はマモノとの戦いから外れているのだ。


 ……しかし、日向はどことなく、日影たちとマモノとの戦いに興味をひかれているような様子を見せている。視線が定まらず、小刻みに動いて落ち着きがない。


「気になるかい? 三人の戦いが」


「え、ええとまぁ、正直言うと」


「じゃあ、君も見てみるかい? 三人の戦いを」


「で、でも、俺はトレーニングをしないと」


「まぁまぁ、いいじゃないか少しくらい!」


「まさかそちらからサボりを提案してくるとは思いませんでした」


「ははは。まぁ実際問題、気になることを引きずりながらトレーニングをしても、意欲が削がれるだろうし高い効果も期待できないからね。モチベーションアップと思って、時間を投資してみては?」


「そうですね。そう考えましょう。……あれ? そういえば、『三人の戦い』って言ってますけど、シャオランは?」


 日向の言うとおり、今回のメンバーの中に、シャオランの名前が見当たらない。シャオランは臆病な性格だ。ついにサボった、という可能性もあるが……。


「シャオランくんなら、今日はお休みだ。一週間前のラビパンヘビィとの戦いで受けた、腕の粉砕骨折を完治させるためにね」


「ああ、なるほど」


 シャオランは前回、『星の牙』ラビパンヘビィとの戦いで右腕を大怪我した。その後、北園の治癒能力ヒーリングで治してもらったが、それでもいわゆる『治りかけ』の状態であり、下手に扱うと再び骨にヒビが入ったり、変な形でくっつく恐れがある。だから、今回は養生させているというワケだ。


「……もっとも、それを聞いた本人は、すごく嬉しそうだったけどね」


「うーん、その時のシャオランの様子が、余裕で脳内再生できちゃうなぁ」


「しかし同時に『サボったと思われて日影や本堂から詰められたりしないかな!? イヤぁぁ怖い!!』とも言っていた」


「相変わらず心配性だなぁ……俺も人のことは言えないけど」


「さて、もうそろそろ三人も到着する頃だろう。さっそくモニタールームに行こう。昼食前にひと仕事だ」


「分かりました。行きましょう」


「……そうだ、良いこと考えた。日向くん、今日は君がオペレーターをやってみないかい?」


「…………はい?」



◆     ◆     ◆



「集合場所は、確かこの辺でいいんだよな……?」


 スマホの地図アプリとにらめっこしながらそう呟いたのは、日影だ。黒く染めた髪をボサボサと掻きながら、少々まいったような表情をしている。


 この辺りの道は、やや分かりにくい構造をしており、土地勘が無い彼は苦労しているようだ。閑静な住宅街を通り抜け、目的地の廃マンションの前へと到着する。


 この先に仲間たちがいなかったらどうしようか。

 そう思っていたが、その心配は杞憂に終わった。

 すでに集合していた北園と本堂を見つけたからだ。

 北園も日影を見つけると、手を振って彼を呼ぶ。


「やっほー、日影くん」


「おう、北園」


「おぉー、日向くんから聞いてたけど、髪を黒く染めたんだねー。よく似合ってるよー」


「へへ、そうか?」


「うんうん。たぶんこれは、日影くんだから似合うんじゃないかな。同じ顔の日向くんがやっても、ここまでさまになるとは思えないかも」


「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。帰ったら菓子でも奢ってやるよ」


「やった! じゃあ私、クリームが美味しいショートケーキがいいな!」


「俺はぬか炊きを所望する」


「本堂はしれっと入ってくるんじゃねぇ」


 一通りやり取りを終えたところで、三人はオペレーターを務める狭山に通信を入れる。……が、通信機から聞こえてきた声は、狭山とは違う声だった。しかし、三人はこの声の主をよく知っている。


『あ、あー、あー。聞こえてるのかな、コレ?』


「あれ? この声って……」


「日向じゃねぇか? 何やってるんだアイツ?」


『あー、どうも北園さん、本堂さん、あと日影。今回、なぜか俺がオペレーターを務めることになりました』


「え、日向くんが?」


「そりゃあ大変だ。命がいくつあっても足りねぇぜ」


「死ぬ前にぬか炊きが食べたかった」


『ほら絶対こういうイジリをしてくると思ったんですよ特にこの二人は!!』


『ははは。信頼されてるねぇ』


 日向の声と一緒に、狭山の声も聞こえる。どうやら当初の予定通り、狭山も一応オペレーターを務めるらしい。日向の補助といったところだろうか。

 確かにオペレーターは現場の状況をモニターしつつ、様々な数値に気を配り、機材を操作しなければならない。オペレーターとは本来、何の知識もない人間が手を出せる仕事ではない。


『ま、まぁ、最大限努力するけど、いざとなったら狭山さんもいるし、あんまり心配しなくていいと思うよ……?』


 突発的な変更であるため、皆は迷惑していないだろうかと少々気弱になってしまう日向だが、仲間たちはそんな日向に了解の返事を送る。


「私は日向くんのこと、頼りにしてるよ。この間、『日向くんはマモノと戦う才能がある』って言ったばかりだしね。日向くんならどんなマモノが出てきても、良い機転を利かせてくれるって信じてるよ」


「俺も信じよう。お前自身はあまり実感が無いかもしれないが、お前の、マモノに対する鑑識眼は本物だと感じている」


「ま、せいぜい上手く動かしてくれよ? オレを捨て石に使うとかは勘弁だぜ?」


『みんな…………分かった。だったら俺も、精一杯頑張るから』


 日向の覚悟も固まったところで、現場の三人は廃マンションへと向かった。



 灰色のコンクリート造りのマンションは、まるで森になってしまったかのように緑で覆われていた。

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