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第219話 断罪

 日向の”紅炎奔流ヒートウェイブ”を受け、キキは空中から落下した。その身は炎に包まれて、黒煙が立ち上っている。


 キキが倒れたからか、街を包んでいた薄い霧も晴れてきて、天を仰げば青空が見えるようになった。


 キキは、日向の”紅炎奔流ヒートウェイブ”を受けるまで、たったの二回しか日向の攻撃を受けていなかった。しかも、うち一回は『星の牙』への特効を失った『太陽の牙』による一刺しだ。


 つまり、キキはまだ、余力たっぷりの状態だったはずだ。

『星の牙』は、生物の枠組みから外れた尋常ならざる生命力を持つ。


 にもかかわらず、日向の”紅炎奔流ヒートウェイブ”は、一撃でキキを再起不能にしてしまった。恐るべき火力である。


「や、やったか……?」


 燃え続けるキキを見ながら、呟く日向。

 呟いた瞬間、日向は咄嗟に、己の口をつぐんだ。


(し、しまった。『やったか?』は、やってないフラグだ!)


「ギ……ギ……」


 日向が「やったか?」などと言ったためかどうかは分からないが、キキは生きていた。しかし、もうキキに再び立ち上がるだけの余力は無く、呼吸も荒い。


 それでも、キキは忌々しそうに日向を睨んでいる。

 その瞳からは、底知れぬ強烈な怨嗟の念を感じる。


「く、まだやるのか、コイツ……!」


 そんなキキの瞳を受けて、日向は思わず身構える。

 と、その時だ。


「フン。ざまぁねえな、エテ公」


 どこからか、何者かの声が聞こえた。

 その声は、日向にとっても聞き覚えのある声だ。


「こんなところで何してるかと思えば、随分と派手に暴れたな?」


 声と共に空から降りてきたのは、一羽の鮮やかな赤い鳥。

 星の巫女の側近のマモノの一体、ヘヴンだ。

 キキの前方で、羽ばたきながら滞空している。


「ギ……! ヘヴン、ヘヴンダ! ヘヴンガキテクレタ!

 ギャクテン! ギャクテンダ! ギギギギギギーッ!!」


 ヘヴンの姿を見たキキが、不気味で耳障りな笑い声を上げる。


 だが、キキの言う通りだ。星の巫女の側近であるヘヴンは、当然日向とは敵対関係にある。そのヘヴンがこの場に姿を現したということは、目的はやはり、キキの救援なのだろう。


「くっ……!」


 身構える日向。


 先ほど”紅炎奔流ヒートウェイブ”と名付けた技を放ったばかりで、『太陽の牙』からは星の力への特効が失われ、冷却時間クールタイムが必要だ。とても満足に戦える状態ではない。


 キキはすでに手負いとはいえ、敵の幹部級を二体同時に相手して、果たして無事でいられるのか。日向に冷たい緊張が走る。



「……はっ、おめでたいヤロウだ。盛大な勘違いをしているらしいな」


 と、ここでヘヴンが口を開いた。

 日向ではなく、キキに向かって。


「俺はテメェを助けに来たワケじゃねぇ。むしろ逆だ。俺は、テメェに沙汰を下しに来たんだぜ、エテ公」


「……ギッ!?」


 沙汰を下しに来た。

 それはつまり、今からヘヴンがキキを裁く、ということだ。

 ヘヴンは自分を助けに来た、とばかり思っていたキキは、思わずたじろぐ。


(な、なんだ? ヘヴンはキキを助けに来たわけじゃないのか?)


 両者の不穏な空気を感じ取った日向は、様子見に徹することにした。

 そして、”死神”ヘヴンの裁定が始まった。


「百歩譲って、この街を勝手に襲ったのは目を瞑ってやる。人間に目にモノ見せてやるためには、街の一つや二つはいずれ潰さなきゃならんからな。……だがテメェ、その力を得るために、他の『星の牙』を喰らったな? それも『巫女派』の同胞たちをだ」


「ギ……」


「もうタネは割れてるんだぜ。テメェは星の力を得るために、愛嬌溢れるチンパンジーを装って巫女に近づいた。巫女のお気に入りになって、彼女から力を貰って強くなり、最後には彼女をも越えようと考えていたな? ……だが巫女は、マモノに与える力は常に一定量だと決めている。その時点で、テメェの計画は頓挫した」


「ギギ……」


「それでもテメェは諦めず、道化のフリをし続けた。だが巫女の方針は、テメェが日影とやらにやられて帰ってきても、変わることは無かった。アイツは裁定者としての立場を尊重し、お前の仇討ちなど考えなかった。しかし日影に復讐することを決めたテメェは、強硬策に出た。他の『星の牙』を喰らって、奴らの中の星の力を奪う作戦にな」


「ギギギ……」


「テメェは過激派の顔役だった。いずれは巫女を超えて、この星の王になる、とでも考えていたんだろ? どこまでもおめでたいヤロウだぜ、バカが」


「ギギギギ……!」


 ヘヴンの挑発的な言葉を受けるたびに、キキの表情が憎悪に染まる。もはや、ヘヴンへの敵意を隠そうともしていない。


「さてと。クソッタレな人間を少しでも減らしてくれるかと思って、テメェの残虐性も見逃してやってきたが、それもここまでだな。テメェは俺たちの同胞を喰らった。そして、巫女への反逆を企てた。これは許されざる裏切り行為だ。反逆者には死の制裁を。これより処刑を執り行う」


「ギギギギギ……ムッギャアアアアアアッ!!」


 とうとうキキは怒りを抑えきれなくなり、ヘヴンに向かって殴りかかった!


(うるせぇ、うるせぇ! お前のその偉そうな態度が、前から気に喰わなかったんだよ! 俺様は強くなった! 能力も三つに増えた! 身体だって、もうお前より何倍もデケぇ! 俺様の方が強い! 偉そうに指図するんじゃねぇぇぇぇぇッ!!!)


 心の中で、ヘヴンに対する恨みつらみをぶちまけながら、キキが右ストレートを放つ。剛拳がうなりを上げてヘヴンに迫る。


 対するヘヴンは、しかしいたって冷静だった。


「ケッ。能力が三つになった? 身体がデカくなった? だからなんだ? その程度で俺より強くなったと思っているから、テメェはおめでたいんだよッ!!」


 そう言うと、ヘヴンは自身の翼を一回、キキに向かって大きく羽ばたいた。その瞬間。


「ギャアアアアッ!?」


 突然、キキの全身が切り刻まれ、大量の鮮血が噴出した。


 それだけではない。

 足元の道路に、切れ込みが入った。

 乗り捨ててあった自動車の窓ガラスが、音を立てて割れた。

 近くに立っていた電柱が真っ二つになり、上半分が地面に落ちた。

 傍にいた日向の頬が薄く切り裂かれ、瞬時に”再生の炎”によって治療された。


「なっ……!?」


 突然、謎のダメージを受けた日向は、驚きの声と表情を発する。

 周囲のあらゆるものが、見えない刃によって切り裂かれてしまったかのようだ。


 傷を受けた自分の頬……今は傷が治った頬を、日向はそっと触ってみる。


(今、俺の頬が切り裂かれた瞬間、『風』を感じた。風が吹き抜けるような感覚を……。まさかそれが、ヘヴンの能力なのか……!?)


 つまりヘヴンの能力は『羽ばたくことで、見えない風の刃を生み出す能力』だ。


 以前、日影がキキを追い詰めた時、ヘヴンによってトドメを妨害されたことがあったが、その時の攻撃の正体もコレだろう。ヘヴンは、”暴風トルネード”の星の牙なのだ。



「ア……ギ……」


 ヘヴンの見えない風の刃を受けたキキは、血まみれになって立ち尽くしている。もはや完全に虫の息。放っておいても死ぬだろう。


 それでもキキは、最期の力を振り絞って、弱々しく口を開いた。


「ギ……ヘ、ヘヴン……タスケ、タスケテ…………」


「ケッ、お断りだね。地獄に落ちろ、キキ……!」


「…………イヤダアアアアアァァァァァァッ!!!」


 キキの叫びが止むのを待たずに、ヘヴンが翼を一回、羽ばたいた。

 そして、見えない風の刃が、キキの首を切断した。


 ボトリ、とキキの首が道路に落ちる。

 続いて、頭が無くなったキキの巨体が、前のめりに倒れた。

 その一連の出来事を、日向は、ただ茫然と見ていた。



 だが日向は、すぐにハッと顔を上げた。

 目の前に、巨大な白狼を引き連れた、深緑のフード姿の少女が立っていたからだ。

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