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第214話 凍結能力と炎の鱗粉

 アグニスモルフォの巨大な羽が、真っ赤に燃えだした。

 羽を羽ばたかせる度に、火の塊が落ちてくる。

 十字駅の正面広場は赤々と燃え上がり、地獄のような光景が広がっている。


「うひゃあ……この場にいるだけで汗かいてきちゃった……」


 額を手首でぬぐいながら、北園は呟いた。


 アグニスモルフォの羽が大炎上したことにより、吹雪で羽を湿気しけらせて無力化する作戦は失敗に終わった。こうなった以上、やはり当初の作戦通り、凍結能力フリージング氷柱つらら攻撃で撃ち落とすしかない。


「……けど、ここじゃ熱気が強すぎて、満足な氷柱を作れない。もっと水気のある場所に移動しないと……」


 北園の凍結能力フリージングは、周囲が熱気に包まれていると、威力が落ちる。最大威力を発揮するには、周囲が湿気っているか、あるいは水から氷を作り上げるくらいでなければ。


 と、そこで北園は思い出した。

 この駅から東にしばらく行き、ストリートの商店街を抜けると、十字川という大きな川が流れていることを。そこでなら、アグニスモルフォを仕留めきるのに十分な氷柱を生成できるはずだ。


「じゃあ、まずはそこまで移動しなくちゃ!」


 すると北園は、念動力サイコキネシスの空中浮遊を発動し、宙へ浮かび上がる。そして、十字川に向かって一直線に飛んでいった。


 アグニスモルフォも、北園を追って飛行を開始する。巨大な羽を存分に使って空を飛ぶアグニスモルフォは、北園よりも飛行速度が速い。あっという間に北園の頭上を取り、羽の炎を落として空襲を仕掛けてくる。


「わっ!? わ、わっ!?」

 

 北園は、空中で身体を右に左に振りながら、落ちてくる炎を避ける。

 ところどころ炎がかすりそうになるも、北園は上手く炎を避ける。

 北園に当たらず落ちて行った炎が、下の建物に燃え移ってしまう。


「あわわわわ。早くこの子を倒さないと……!」


 さもなくば、火災の被害は広がるばかりだろう。

 炎の粉落としを潜り抜け、北園は再び川を目指す。


 ……だが、炎攻撃の失敗を悟ったアグニスモルフォは、今度はその巨体を活かして体当たりを仕掛けてきた。頭上から押し潰すような急襲が北園を襲う。


「あいたぁっ!?」


 今度の体当たり攻撃は避けきれず、空を飛んでいた北園の背中に直撃した。バランスを崩し、落下していく北園。


 だが北園は、途中で再び空中制御を発動させ、バランスを取る。

 無事に下の建物の屋根に着陸し、どうにか地面へ激突することは避けきれた。


「とっとっと……着地成功! それ逃げろーっ」


 そして北園は、今度は建物の屋根から屋根へと飛び移りながら、走って移動を始めた。空中制御を利用して、高い建物は大ジャンプ、低い建物はゆっくり降りて、離れた場所は飛距離を伸ばす。

 その様はまるで忍者……というワケにはいかない。なにせ、北園の走るスピード、落ちる速さがわりとゆっくりなので、どちらかというと往年の横スクロール型アクションゲームに見える。マリ●とかロック●ンとか。


 アグニスモルフォも北園の追跡を続行する。

 北園に並行して飛行し、羽の炎を撃ち出してくる。


「あ、熱っ!? よくもやったねーっ!?」


 炎が二、三発、北園にかすった。

 腕や脚に軽い火傷を負ってしまう。


 北園は一旦、空中制御を解除して、走りながら氷弾を撃ち出す構えを取った。左手で右の手首を押さえ、開いた右の手の平から、それなりの大きさがある氷の塊を次々と連射する。言葉を選ばず例えるなら、ココナッツくらいの大きさの氷塊だ。そして、そんな氷塊が次々とアグニスモルフォの身体に命中する。


「フィィイイイイ……!?」


 ココナッツほどの大きさの氷塊を勢いよくぶつけられたら、マモノであっても普通に痛い。ましてやそれが、マモノ自身が弱点とする属性であればなおさらだ。


 アグニスモルフォは、たまらずといった様子で、北園から距離を取った。


 その隙に、北園は一気に進むスピードを速める。

 そして、ようやく目的地の川が見えてきた。


「よーし、到着!」


 北園は建物の屋根から跳躍し、空中制御を使って、コンクリートで形作られた河川敷へと降り立った。川の水に念動力サイコキネシスをかけて、巨大な水の塊を宙に浮かべる。


「よいしょーっ!」


 そして、その水の塊を勢いよく地面にぶちまけた。

 コンクリートの河川敷が、水浸しになった。

 これで準備万端だ。

 場の水気が増し、凍結能力フリージングの威力が上がる。


 と、ここでアグニスモルフォも追いついて来た。

 川の上に滞空し、北園と正面から向かい合う。


「フィィィィィイン……!!」


「ここまで来たら、もう火力負けしないからね! 撃ち出すのは氷だけど!」


 自信満々に宣言する北園。

 さっそく両手を左右に突き出し、両脇に大きな氷柱つららを作り出した。

 竜の牙かと見紛う、鋭く巨大な氷柱ソレを、ミサイルのようにして撃ち出す。


 アグニスモルフォも羽から炎を撃ち出して迎え撃つ。

 氷柱のミサイルと炎の塊が空中で激突した。


 打ち勝ったのは、北園の氷柱だ。

 炎をぶち抜き、その先のアグニスモルフォに直撃した。


「フィィィィィイン!?」


 アグニスモルフォが悲鳴を上げる。

 氷柱はバッチリ効いているようだ。

 味を占めた北園は、続けてもう一度氷柱のミサイルを撃ち出す。


 だが、アグニスモルフォは宙を舞うようにして氷柱を避けた。

 そして、きりもみ回転しながら北園に体当たりを仕掛けてくる。

 巨大な炎の塊が、うなりを上げて迫ってくるかのようだ。


「あまいよっ!」


 冷気を纏った北園の右腕が、足元に叩きつけられる。それに呼応するかのように、濡れた地面から鋭い氷柱が何本も突き出てきた。

 その氷柱がアグニスモルフォの突進を食い止め、逆にダメージを与えた。さながらファランクスのようなカウンターが、アグニスモルフォに浴びせられる。


「フィィィィィイ!?」


 反撃を仕掛けるはずが、逆に手痛い一撃を貰うことになったアグニスモルフォ。北園の氷柱によって吹っ飛ばされるも、空中で一回転して受け身を取る。


「フィィィィィイン!!」


 そして今度は、その羽を大きく羽ばたかせ、風のような炎を放ってきた。渦を巻く灼熱の突風が、北園に襲い掛かる。


「えぇーい!!」


 北園は両手から吹雪を撃ち出して、これに対抗する。

 炎の風と氷の風、それぞれが空中でぶつかり合う。

 威力は互角。勢いは拮抗し、押しも引きもされぬ状況である。

 そしてとうとう、炎と氷の激突地点で大爆発が起こった。


「フィィィィィイン……!?」


 爆風にあおられ、アグニスモルフォが空中でバランスを崩しかける。


 アグニスモルフォがなんとか体勢を立て直したその瞬間。

 爆風の向こうから炎と冷気の塊が飛来してきた。


 相反する二属性が混ざり合う。

 そしてアグニスモルフォの眼前で、さらなる大爆発を巻き起こす。


「フィッ……!?」


 それは北園の必殺技、氷炎発破フュージョンバスターだ。


 先ほどの熱風と吹雪の激突の、さらに数倍はあるかという大爆風を、真正面から受けたアグニスモルフォ。そのあまりの威力によって、羽がズタボロになり、飛行不能となって川へと墜落した。


「フィ……フィィィィィイ……!?」


 川の水が、燃え盛っていた羽の炎を鎮火させる。

 アグニスモルフォは溺れないようにもがいているが、傷ついた羽ではもはや飛ぶことはできない。


「よーし、決める!」


 北園が空中浮遊で川の上まで来ると、その表面に手をついた。

 すると、川の水が瞬時に凍りだし、おぼれているアグニスモルフォに向かってはしっていく。


「フィィィィィイ……!」


 アグニスモルフォは、成す術無く川の凍結に巻き込まれた。

 みるみるうちに氷がアグニスモルフォを包み込み、とうとう全身が凍ってしまった。


「トドメだよっ!」


 凍った川の上に着陸した北園は、両手で念動力サイコキネシスのエネルギー弾を作り出す。

 一抱えほどの大きさがあるエネルギー弾を作り出すと、それを凍り付いたアグニスモルフォ目掛けて撃ち出す。


 エネルギー弾はアグニスモルフォの氷像のど真ん中に風穴を空けた。そしてそこからピシピシとひびが広がっていき、アグニスモルフォはバラバラになってしまった。いくら『星の牙』が生命力に優れているとはいえ、これはもう生きてはいまい。


 炎と氷がぶつかり合ったこの戦いは、北園の勝利に終わった。


「やったっ! 大勝利! ……おっと、それより早く、他の場所に向かわないと。まだ逃げ遅れている人がいるかもしれないし、他の皆も心配だもんね!」



 そう呟くと、北園は宙に浮き、空を駆け、再び街へと戻っていった。

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