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太陽の勇者は沈まない ~マモノ災害と星の牙~  作者: 翔という者
第5章 人の心 マモノの心
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第124話 制裁タイム

 4月1日の曇り空の下。


 引き続きこちらは、ましろの勘違いで連れてこられてしまった日向。

 強面の不良中学生、計五人を前にして表情が思いっきり引きつっている。


 そんな日向に、リーダー格の男が詰め寄る。

 彼の取り巻きの男子四人があっという間に日向を取り囲む。

 彼らは日向より年下のはずだが、みな日向と体格が変わらない。

 特にリーダー格の男は別格だ。

 日向より身長が高く、ガタイもかなり良い。


(あかん。絶対ひどい目にあう)


 背中に嫌な汗が流れる日向。

 そんな日向に、リーダー格の男が問いかけてきた。


「おたくが日影くん?」


「いえ違います」


「ウソだ! 間違いねぇよ! ソイツがアタシをコケにしたんだ! 痛めつけてやってよヒロシ!」


「だってさ。ウチのサキちゃんが世話になったらしいからね。そこでましろちゃんから君の事を聞いて、彼女に君を呼んできてもらったってワケさ、日影くん」


(アイツ、俺の知らないところで何やってるんだぁぁぁぁ!!)


 心の中で、盛大に頭を抱える日向。

 何とかこの場から逃げ出すべく、日向は事情を説明しようとする。


 しかし、日向と日影の『本当の』関係を話しても、誰一人として信じる者はいないだろうし、逆に追及されるのも面倒である。何とかごまかす方向で弁明を続ける。


「いや違うんですよ! 俺は……その……日影の双子の兄でして!」


「ウソつけ! そっくり過ぎんだろ!」


「アレだよ、一卵性双生児ってヤツだよ!」


「ありがちなウソついてんじゃねぇよ! 見苦しいぜ! 昨日の威勢はどうしたよ!? こっちが男連れてきたら、途端にヘコヘコしやがって!」


「ウソだけど、ウソじゃないんだよぉ! 俺は本当に日影じゃないんだよぉぉ!」


「……ま、お兄さんならお兄さんでいいや。弟の責任は兄の責任だよね?」


「へ?」


 そう言うとリーダー格の男、ヒロシは、日向の左頬を思いっきり殴り飛ばした。


「ぶっ!?」


 不意打ちを喰らい、仰け反る日向。

 その日向の後ろから、別の男子が日向を羽交い締めにした。


「あ、ちょ!?」

「よっしゃ、やっちまえ」


 ヒロシの声を受け、残り三人の男子が日向をリンチにする。

 動きを封じられた日向を殴りつけ、蹴り飛ばす。


「痛って!? うぐ……!?」


「へへっ! いいぞー! やっちまえー!」


「ああっ、日影さん!? や、止めてください! その人は悪くありません!」


「おやぁ? じゃあましろちゃん、アイツの代わりに俺たちからいじめられる?」


「……はい。それであなた方の気が済むなら……!」


「へぇ! 度胸あるじゃーん? あの彼氏さんより、よっぽどなぁ?」


 そう言って、ヒロシは成す術無く殴られ続ける日向を見やる。


 ……しかし日向は、自身を羽交い締めにしていた男子を、羽交い締めにされたまま無理やり前方に投げ飛ばし、そのまま前方にいた別の男子に叩きつけた。


「いい加減に……しろぉ!!」

「おわぁ!?」

「ぶべっ!?」


 一気に二人の男子が、日向の前でのびてしまった。

 ヒロシは楽しそうに拍手している。


「おぉ!? あの体勢から投げ飛ばすかよ! つまらないヤツだと思ってたら、結構やるじゃねぇか!」


「はぁ……はぁ……こ、これに懲りたら、もう帰ってくれないかな! 人と喧嘩するのは好きじゃないんだよ!」


 すでに日向は、殴られた部分が”再生の炎”によって回復し始めている。一般人に見られると面倒なので、日向は口元を左手で覆って回復しているところを隠す。


 そんな日向に、ヒロシが下卑げひた笑みを浮かべながら声をかける。


「へへ! つれないこと言うなよー日影くん? 一緒に喧嘩を楽しもうぜー?」


「だから、俺は日影じゃないって……!」


「そうだぞ。オレをこんなヘタレと一緒にするんじゃねぇ」


「誰がヘタレだ! ……って、お前……!」


 日向の背後から、日影がやって来ていた。

 その後ろには本堂も連れて。


 やって来た日影を見て、ましろが目を丸くしている。


「あ、あれ!? 日影さん!? じゃあ、私が連れてきたこの人は……」


「よう、ましろ。残念ながら、そっちはハズレだ」


「誰がハズレだっ! さっきから言いたい放題言いやがって! 俺が相手になろうか!?」


 日向が抗議の声を上げるが、日影はそれを聞き流しながら周囲を一瞥する。


 不良の群れ、昨日のサキとかいう少女、そしてましろと、ボロボロになったいなずまちゃん。ついでに日向。


 日影は状況を理解し、なるほどな、と呟いた。


「ったく、マジで性根の腐った奴らだぜ。こりゃ鉄拳制裁タイムだな」


「や、やんのかコラァ!」


 ヒロシの取り巻きの一人が日影に殴りかかるが、日影は上体を屈めて取り巻きの拳を避けると、がら空きになったみぞおち目掛けて強烈なボディーブローを叩き込んだ。


「おるぁッ!!」

「ぐぇ!? げ、げぇ……」


 ドスッ、と腹を叩いた音が響く。

 取り巻きの両足が、殴られた衝撃で数センチ浮いた。

 取り巻きは、腹を押さえながらドサリと倒れた。


 これで残るは、取り巻きが一人とヒロシのみ。


「……へぇ、同じ顔だぁ。お兄さんの言っていたことは本当だったんだねぇ」


「あ? お兄さん? ……ああ、双子設定使ったのか。けどよ、双子設定にするならオレは兄がいいっていつも言ってるじゃねぇか」


「あのな、文句言いたいのはこっちだぞ! 勝手に勘違いされて連れてこられて、話も聞いてもらえずリンチされて…………ひどい目にあったぞ! 本っっ当にひどい目にあったぞ!!」


「お、おう。なんか悪かったな……。お詫びついでに、あとはオレと本堂が片付けてやるから、お前は後ろで高みの見物決めてろよ」


 その日影の言葉を聞いて、本堂が日影の方を振り向く。


「…………む? 俺も数に入ってるのか?」


「良いだろ本堂? ちょうど二対二だ」


「ふむ。まぁ、構わんか。運動がてらに付き合おう」


 面倒くさそうにメガネをかけ直しながら、本堂は前に出る。

 本堂の相手は、最後の取り巻きの男子だ。

 さっそく取り巻きが本堂に向かって殴りかかる。が……。


「おらぁ!」

「ほい」


「このっ!」

「ハズレ」


「こいつ!!」

「ヘタクソ」


 本堂は、自慢の反射神経で取り巻きの拳をヒョイヒョイと避ける。その合間合間で挑発を織り交ぜ、取り巻きの神経をさらに逆撫でする。


 取り巻きの攻撃の勢いは増すが、そのぶん拳はより直線的で大振りになり、本堂としてはますます避けやすい攻撃となった。


「避けんな、メガネ野郎ぉぉ!!」


「どうしたどうした。さっきの方がまだ良い動きしてたぞ。…………む。おい待て。向こうに警察がいる。このまま続けるのはちょっとマズイぞ」


「え、警察!? どこだよ!?」


 そう言って本堂は取り巻きの男子の後ろを指差す。

 取り巻きも釣られて後ろを振り返る。


「馬鹿め、エイプリルフールだ」


 そう言うと本堂は、取り巻きの首根っこを掴んで電撃を流した。


「あ”あ”あ”あ”あ”あ”!?」


 絶叫を上げて、取り巻きは地面に倒れた。

 本堂の電撃は、下手なマモノなら殺傷してしまうほどの威力があるが、もちろん人間相手には気絶程度に手加減している。


「な、なにしやがった……。卑怯だぞ……」


「卑怯? あの女の子一人を相手に、これだけの人数でってたかっておいて偉そうに。それでも男か負け犬め」


「く、くそ……」



 一方、こちらは日影とヒロシ。

 二人は至近距離で睨み合っている。


 ヒロシは中学生のはずだが、身長は170センチ以上あるようだ。

 一方、日影は日向と同じく、身長は165センチほど。よって、日影がヒロシを見上げる構図となる。


「初めまして、だねぇ日影くん。俺はヒロシ。俺ってこう見えてもボクシングやっててね。最近はケンカに飢えてたんだぁ」


「へぇ、そうは見えなかったな。その程度のボクサーってことか」


「……君、結構強いらしいねぇ。サキから聞いたよ? 俺の周りって雑魚ばっかりだからさぁ。ちょっと楽しみにしてたんだぁ」


「そうかよ。すぐに楽しくなくなるぜ」


「ちっ。せいぜい、楽しいケンカになるといいねぇ? ま、勝つのは俺だけど!」


「そりゃ負ける奴のセリフだぜ。……んじゃ、行くぞぉぉッ!!」


 叫び、日影がヒロシに向かって走る。

 ヒロシは両拳を構え、日影を待ち構える。


(へへへ! 真正面から一直線とは、狙いやすいったらないねぇ! そら、その鼻ヅラにカウンターのストレートをぶち込んで、鼻血ブーにしてやるぜぇ!)


 ヒロシは右拳を引き絞り、日影の顔面めがけて殴りかかる。

 ヒロシの拳が、日影に命中。

 顔面を殴られて、怯まない人間などまずいない。日影の動きが止まる。


 ……と思われたが。

 日影はヒロシの拳を顔面に喰らってもなお怯まず、止まらない。


「なっ!? こ、こいつ、止まらないだと!?」

「こんなクソみてぇなパンチで止まるかよッ!」


 日影がヒロシの拳を耐え切れた理由は、ただの気合い。

 日影は、意地の塊のような男であった。


 そして日影はヒロシに肉薄。

 素早く右拳を振りかぶり、渾身の右フックを繰り出した。


「おるぁぁぁッ!!」

「ぶげぇぇ!?」


 日影がヒロシの顔面を思いっきり殴り飛ばす。

 稲妻のような速度で拳が叩きつけられ、強烈な打撃音がこだました。


 日影に殴られたヒロシの体が、浮いた。

 そしてそのまま背中から地面に叩きつけられた。


 周囲から見た日影の強さは圧倒的だった。それを見ていたましろも、サキも、その取り巻きの女子たちも、驚愕の表情を浮かべていた。当然ながら、日向も息を呑んでいる。


(ひ、日影あいつ、素手でもあんなに強くなってるのか……)


 一方のヒロシは、仰向けに倒れ、痛みに悶絶している。

 日影の拳を受け、ヒロシの戦意は一撃で喪失していた。


(ぐ……痛ぇ……! つ、強すぎるぜあいつ……!? 全力の右ストレートに対して真正面から突っ込んでくるとか、正気じゃねえよ!? と、とにかくここは死んだフリをするぜ。これは勝てねぇ。大人しく負けを認めてやるよ……。だから早くどっか行け……)


「おい」


「へ!?」


 どっか行くどころか、日影は倒れているヒロシの胸倉を掴み、無理やり引き起こした。


「これで終わると思ってんのか? 第二ラウンド行こうぜ、ボクサーさんよ?」

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