第23話 ガチンコ! ラストバトル!
初見勢の為に念の為簡単な用語解説を記載しておきます。
ゲーム好きの読者様なら大抵分かると思いますし、本文中でも説明も入れてますので、読み飛ばしてもらっても全然OKです。
【AP】≫アーマーポイント。所謂ヒットポイントでダメージを受けると低下し、ダメージ量に応じて段階的に防具が壊れます。0になるとすっぽんぽんになるよ! ポーションなどの回復行為ではこのAPが回復。壊れた防具が修復されます。
【SP】≫スタミナポイント。持久力。攻撃や防御、回避行動。他にもアビリティや技の発動でも消費する。
【MP】≫マナポイント。所謂マジックポイント。RPGなどではお馴染みのアレ。
【HP】≫ハートポイント。性的興奮度合い。Hな魔法や攻撃で上昇していき、最大値に達すると【オーバー・ハート】状態となり足腰に力が入らなくなって、なんかもーメロメロになる。エッチ要素。
【STR】≫ ☆筋☆肉☆ 説明不要!!
【VIT】≫頑強さ。物理防御が上がったり前述の【SP】が上昇する。
【DEX】≫器用さ。銃や弓などの射撃ダメージが上昇したり、後述の【チェイン】の回数やクリティカル確率が増加。
【AGI】≫素早さ。足が速くなってダッシュや回避行動の性能が上昇。一部の技――突進したり飛んだり跳ねたりするヤツ――の性能が上昇。
【INT】≫賢さ。魔法攻撃力が上昇。【MP】も上昇。
【MND】≫精神力。我慢強さ。魔法防御力やHな攻撃の耐性。【MP】も上昇。
【LUC】≫幸運。運命力。あらゆる確率に作用。
【DES】≫性欲。H攻撃力が上昇。高いとムラムラしやすくなるけど、Hな魔法やテクニックで相手を【オーバー・ハート】させやすくなる。
【アーツ】≫所謂必殺技。大抵の場合【SP】と【MP】の両方を消費する。強力だけど発動後硬直して動けなくなるので乱用すると痛い目に。後述の【チェイン】を利用する事で【アーツ】を連続で行い、格闘ゲーム紛いの近接コンボをする事が可能。
【チェイン】≫【アーツ】の技後硬直をキャンセルし、別の【アーツ】へと繋げるテクニック。【DEX】が高い程【チェイン】回数が増加し、連続で【アーツ】を放てる。ただしチェインコンボ中に同じ【アーツ】を連続で出す事は出来ない。
【アビリティ】≫特殊能力。色んな種類、効果がある。
「さあっ! 絶望の時間よ!」
遂に切って落とされたハル対ヴェタルのバトル。
ヴェタルは開幕、ハルへと突っ込んだ!
「っ!?」
まさか接近戦を仕掛けてくれるとは思っていなかったのだろう。
ハルはあからさまに動揺し、反応が遅れる。
「すっトロいのよ! 小娘が!」
赤いネイルをした両の爪から、真紅に輝く刃が形成される。
【血霊爪】。吸血鬼などが主に使用する、アビリティ。自身の爪から闇属性の刃を生成する。
リーチも威力も大した事は無いが、STRとINTの値に応じて僅かにダメージが上昇する。元でも吸血鬼はSTRとINTが高い種族だが、ヴェタルのレベルは204。STR、INT共にかなり高く、【血霊爪】の攻撃力は無視出来ない程高くなっていた。
闇属性に耐性を持つサキュバスにはダメージの通りが極端に悪くなるが――腕以外初期装備のサキュバスならば、アーツを一発でも当てれば致命傷となるだろう。
(裸にひん剥いた後、たっぷり血を吸ってやる!)
そうして気分が済んだらゴブリン達にくれてやろう。泣きわめく姿を録画し、配信してやるのだ!
「ほらっ!」
一息に踏み込み、右の爪を薙ぎ払う。
ハルはバックステップしてそれを何とか回避するが――即座に左の爪で追撃する。
「ほらほらっ!」
「くっ! この!」
逃げるハルを、執拗に追いかける。
(はっ! 何よ。逃げてばかりじゃない! 銃を持ってるから少し警戒してたけど……拍子抜けだわ)
正直な話。『【ハンドガン】を持った【サキュバス】』というのはヴェタルが今、最も戦いたくない相手だった。
何故か。
その一。虎の子の【血霊爪】のダメージが通り辛い。人間と戦う事を想定すれば闇属性の近接武器は重宝するが、サキュバスには闇属性耐性があり、接近戦で火力不足になる。
その二。ヴェタルのクラス【セージ】は――詠唱を短縮した魔法で弾幕を張り、隙あらばアーツと魔法の複合コンボを決めるという――近・中距離向けのクラスだ。
しかし、その距離は【ハンドガン】が最も得意とする距離でもある。
接近戦は迎撃能力の高いアーツで返り討ちにされ。
魔法を放てば、その硬直に弾丸の雨をもらう羽目になる。
そしてその三。サキュバスにはヴェタルお得意の【心魂掌握】が効かない。もしくは効き辛い。
そして最後に。サキュバスはINTとDESが高い種族だ。
魔法、Hアタックの威力に優れる。それらのダメージはMNDが高いほど軽減する事が出来る。
が、吸血鬼はMNDの値が極端に低い。60以上のレベル差はあれど、何て事の無い初級魔法魔法の一撃が、痛手になる可能性を考慮せざるを得ない。特に、あのミスティを倒した【ハートブレイク・アロー】は警戒せざるを得ない。
――と思っていた。
(この娘、やっぱりレベルだけだわ! 戦闘のイロハも知らないっ)
ところが開幕突っ込んで爪をぶんぶんと振るだけで萎縮してしまい、反撃の一つもしてこない。ひたすら逃げの一手。
サキュバスや吸血鬼などの有翼種は、レベルを100を越えた時点で翼が進化し【飛行】のアビリティを手に入れる事が出来る。
目の前のサキュバスも、今や立派な翼を持っていると言うのに――飛んで逃げようともしない。
(完全にテンパってるじゃない。無謀な挑戦だったようね!)
ナイフの如き真紅の爪が、ハルに届き始める。
ギリギリで躱していたところが、薄い衣服に届き、引き裂く。
「っ!?」
(動揺の気配、駄々洩れ♪)
本当は回復魔法でAPを回復し、万全と態勢で殺しに掛かるべきだが――
もう、いいだろう。このままなぶり殺しも悪くは無いが――今は一刻も早く、この小娘の絶望顔が見たい!
(ギアを、上げる!)
尚速く踏み込み。尚鋭く爪を振るう。
アーツを使っていない、ただの攻撃にも関わらず、ヴェタルの攻撃は速く、重い。
ハルはそれをなんとか死に物狂いで避け――
――どんっ、と小さな背が家屋の壁にぶつかった。
その隙を見逃すヴェタルではない。
青白いオーラ、【アーツ】のエフェクトを纏いながら文字通り一瞬でハルへと肉薄する。
「堕ちろっ!」
【スクリュー・ダイブ】。【爪】カテゴリの【アーツ】だ。螺旋のエフェクトを纏いながら爆速で突進し、多段ヒットの突きを見舞う。先程アイセにお見舞いした技である。
突進力、技発生速度ともに――素早さが売りの【刺剣】の【アーツ】、【フラッシュ】と同等。
戦闘慣れしてない小娘の不意を突くには充分すぎる高速技だった。
ハルが戦闘慣れしていないのなら。
ヴェタルの爪が届く寸前――否。届いている。
突き出した爪が、ハルの細足にめり込んでいる!
が! ダメージが入らない!
(なっ!?)
ハルはアーツのエフェクトを纏いつつ鮮やかな側転跳びを披露。
そして宙を舞いながら、その銃口をヴェタルの頭部へと向けた。
(【ロンダート】!?)
ギャウギャウギャウギャウギャウギャウン!!
(【緊急霧散】!)
銃弾が届く直前に【霧化】を発動。事なきを得る。
(【ロンダート】の無敵時間で攻撃を躱しつつ反撃ですって!?)
戦闘慣れしていない? とんでもない!
(このピンク、今の狙ってヤったわね…!)
つまり――実戦経験の無い小娘を装ってこちらの油断を誘い、その上で【アーツ】を先に出させた。【ロンダート】で確実な反撃を行う為に。
更に今、硬直時間を解除されたハルは近くの物陰にへと身を滑り込ませる。それを見届けてからヴェタルも【霧化】を解除した。
(――逃げた? いや、こちらを誘っている? 追撃する?)
いや、一旦距離を取る。
速攻で勝負を決めようかと思ったが気が変わった。
(この小娘、思ったよりも強い!)
より正確に言うなら――小賢しい!
ヴェタルは【闇歩きの洞窟】のモンスター達からヴェイグランツの戦闘能力に関して報告を受けていたが、ハルの戦闘能力に関してはまともに聞いていなかったのだ。『所詮レベル1。気にする価値も無い』、と。
油断大敵とは正にこの事であろう。
(ここからは、少し慎重に行く)
さっきの攻防でこのピンク、狡猾な娘だと分かった。恐らく待ち伏せされているだろう。追撃をしに顔を出した瞬間ズドン、とされるのが目に見えていた。
それに、あの小娘が何の【クラス】を選択したのか、それが判明していない。ミスティを倒した時点で【後衛職】だと言う事は確認済みだが――クラスチェンジで一体何のクラスになったのか。
それが判明するまで思い切った行動に出るのは少し危ないかもしれない。
(けど、時間を掛ければアビリティなんかをセットする時間を与えてしまう)
この機を逃すのは余りにも愚かと言えよう。
それに、こちらには【緊急霧散】がある。余程の事が無ければ痛手を受けるような事はあり得ない。
(油断はしないわ。けど……少し、強引に攻めて上げる!)
***
――追って来るかな?
路地裏に身を潜め、リチャージで愛銃【デリンジ】にエネルギーを込める。いつ襲われても反撃できるように、路地の入口と上空を警戒。
先ずは先制する事が出来た。いや、当たらなかったけど。
でもヴェタルは知性派だ。ボクがある程度戦える事を察知しただろう。警戒して、少しは攻撃の手を緩めてくれるかもしれない。
正直、あのペースで攻撃を仕掛けられるとしんどい。
35あったAPが残り20まで減っている。衣服が損傷し【アーマー・ダメージ】となって元でもへっぽこな防御力が更にへっぽこになっていた。
正直ポーションなり魔法なりで回復したいけど――絶対に安全、という保証が確保出来るまで迂闊な回復行動は控えないといけない。
ポーションの使用モーションとか『ゴクゴクゴクゴク――プハーっ!!』
やからな。隙だらけになるっちゅーねん。
「【ダイバート・ストリーム】!」
うん?
「【アクア・セラピー】!」
ヴェタルの魔法?
でもこっちに攻撃は来てない――って事は……
「補助魔法かっ!?」
「【ヴァーナル・ブリーズ】!」
まずい!ボクが顔を出さないからってモリモリバフってる!
「このっ!」
慌てて路地裏から飛び出し、
「食らえっ」
ハンドガンのアーツ、【スマッシュ・ショット】をぶっ放す!
ギャウウゥン!!
甲高い音を立て、水平に重ねるように構えた二丁銃から大きなエネルギー弾が発射され――
「っ?」
発射と同時にボクは気付く。
ヴェタルのすぐ眼前。ボクと攻撃を阻むように青白く輝くタイルのような物体がいくつも存在している事に。
バキャアアンッ!!
そして案の定、それらは粉々に砕け散りながらもボクの放った【スマッシュ・ショット】と相殺した!
何だあれ!? マナのシールドか!?
「【リニア・アクセル!】」
四つ目のバフ魔法が完成する。ヴェタルの体に、緑のオーラが二つ、青と黄色のオーラが一つずつ発生する。
【ヴァーナル・ブリーズ】は知っている。ミスティさんが使った自動回復の魔法。クラスチェンジで修得する事が出来たから、今ボクも装備している。
でも残りの三つは分からない。多分風と雷、それに水属性の補助魔法。
「覚悟は――出来たかしらっ!!」
いきなり突っ込んできた!?
ばちんっ、と電気が跳ねるような音がしてヴェタルが加速する!!
「っ!?」
はっっっやっ!?
繰り出される爪の攻撃を後方へと飛翔してなんとか躱す。
いや、躱しきれてない! 服が引き裂かれる!
クソっ! 元でも速かったのに、更に早くなってる!
補助魔法の効果か!?
「このっ!」
間髪入れずに突っ込んでくるヴェタルに牽制で一発、弾丸を放つ。
ところが…!
――銃弾が、逸れた!?
青白い光の尾を引く弾丸は、ヴェタルの纏う緑色のオーラに触れた途端に僅かに弾道が逸れ、彼女の衣服を少し傷付けるだけに終わってしまった!
多分、さっき使った【ダイバート・ストリーム】って魔法の効果だ。射撃攻撃を逸らされる!
まずい! 銃が効かなきゃ、牽制だって出来ないぞ!? いや、でもっ。初級魔法だったよ!? 射撃攻撃を完璧に無効化する、って程強力じゃない筈だ!
――多分、弱い射撃攻撃だけを逸らす効果だと見た!
「そんな豆鉄砲、効かないわよ!」
バチン、と再び電気が走る音とエフェクト。
突進と同時にヴェタルの体に、アーツのエフェクトが宿る!
さっきの爪のアーツか!?
「風穴開けたげる!!」
高速の突き攻撃が迫る!
「ロンダアァトッ!!」
ヴェタルのアーツに【ロンダート】の無敵時間を合わせる。
さっきと同じ展開。けど、さっきと違うのはヴェタルがボクの攻撃で怯む事も、【霧化】で逃げる事もしないって事だ!!
ボクはヴェタルの攻撃を躱し、ヴェタルはバフの効果でボクの攻撃を軽減する。お互いにアーツの技後硬直となる。
シュインッ、とヴェタルの体に小さな閃光が吸い込まれるようなエフェクト。
――【チェイン】のエフェクト!? 不味い! 銃による迎撃が出来ない!
「取った!!」
ヴェタルが跳躍し、両手の爪を交差するように構える!
牽制射撃は効かない。
【スマッシュ・ショット】じゃ発生が間に合わない!
【ロンダート】は今使ったからチェイン出来ない!
なら! ――こいつだ!
「うああああっっ!!」
爪がボクの首を刈り取ろうとするする瞬間、ボクもチェイン!
新たな【アーツ】を発動させた!
「ぺぎょっ!?」
それは一言で表すならバク転蹴り。ジャンプしないサマーソルトキック。
[カウンタークリティカルヒット♪]
爪の一撃を無敵時間で回避しながら、渾身の蹴りでヴェタルを空に打ち上げる!
そして二丁の銃を真上に――宙に浮くヴェタルに向けた!
銃口に青白い光が収束していき――
「【ファイアー・ワーク】!!」
ギャオオンッ!!
二つの銃口から、強力なエネルギー弾が同時発射!
青白い光が螺旋を描き、ヴェタルに直撃する!
「ぎゃひんっ!?」
着弾と共に青白い爆発が起こり、ヴェタルを更に天高く打ち上げた!
――通った! やっぱり、打撃と、威力の高い射撃なら【ダイバート・ストリーム】を貫通出来る!
なら、ついでにおまけだ! チェイン!
と行きたいところだけどエネルギー切れ。仕方なくボクはヴェタルから距離を取る。
[2ヒットコンボ♪]
31ダメージ!
くそっ。弾切れなんて! 追撃のチャンスだったのに!
あ、でもヴェタルには【緊急霧散】のアビリティがある。さっき追撃したところでどうせ当たらなかったかもしれない。
「うん?」
そこでふと、違和感を覚えた。
さっき使った【ファイアー・ワーク】。蹴り上げだけじゃなくて追撃の溜め撃ちまできっちり直撃していた。一発目の蹴りは不意打ちだったから食らったんだろうけど――追撃の溜め撃ちは【緊急霧散】で回避出来た筈だ。
何でそれをしなかった?
いやひょっとして――出来なかった、とか?
そうだ。【緊急霧散】は完全無敵状態になる【霧化】をいつでも発動可能にするアビリティだけど――その性能じゃいくら何でも強すぎる。文字通りの無敵だ。
アイセさんの【陽炎】だってチート性能だけど、消費が多すぎてコンボに組み込むのは4回が限度ぽかった。
同じように、【緊急霧散】にも何かしらの弱点はある筈だ。
「――あ」
そう言えばさっき、蹴り上げの部分で『カウンタークリティカルヒット』の判定が出てた!
ひょっとしたら――
「試してみるか…!」
***
「やってくれたわね…!」
空中で態勢を整えたヴェタルは、油断なく眼下を見渡す。
明かに格下の相手から手痛い反撃を食らい、高い自尊心に傷が付いた。血管が浮き出る程ヴェタルは怒りに身を震わせ――
次の瞬間、身に纏っていた青いオーラが仄かに輝く。
【アクア・セラピー】。水属性の初級魔法だ。効果中はMPの自然回復能力が僅かに増加し、精神系のステータス異常を予防、あるいは治癒する。
MPの回復量は本当に微々たるものだが――MNDが軒並み低い吸血鬼達は沸点も低く、すぐに怒りで我を忘れる。
ヴェタルはレベルアップボーナスポイントをMNDにきっちり振っていたが、プライドが高く、策士の為、想定外の事が起きるとすぐに苛立ってしまう。【アクア・セラピー】はそれを防ぐ為に使っていた。
(本当に忌々しい奴! こんなにも手こずるとは思わなかった…!)
【アクア・セラピー】の効果でなんとかプッツンする事を堪えたヴェタルはハルの姿を探し――コソコソと路地裏へと逃げ込むハルを捕らえる。
(また物陰に…!)
一瞬、ヴェタルは悩む。
このまま追撃するか、それとも効果がもうすぐ切れる補助魔法を掛け直すか。アイセの時のように【ブルー・フラッド】から【ブリザード】のコンボで地面からいぶり出すのもいい。
――いや、追撃だ。
APは削っている。ハルは残り20ポイント。対してこちらはまだ120以上残っている。【緊急霧散】のSP・MPの消費は少なくは無いが、あと10回程度なら使えるだろう。
いつでも完全無敵になる事が出来る技をあと10回。
この条件で何に怯える必要があるのか。
確かにあのピンク、予想以上に強い。
【ロンダート】を使った緊急回避。
【ファイアー・ワーク】でのカウンター。
それに運悪く、蹴り部分でクリティカルが出たせいで【緊急霧散】を起動する事が出来なかった。
お陰で追撃の溜め撃ちを食らってしまった。
そう。【緊急霧散】にも弱点――というよりも、仕様による死角が存在する。
雷属性の攻撃を連続で受けたり、痺れ毒などで付与される――アビリティとアーツが使用不可になる【痺れ】状態。
近接攻撃等を連続で受けた際に、行動不能となる【ピヨリ】状態。
ガードブレイクされたり、攻撃をパリィされた時に態勢を崩し、行動不能となる上に、次に受ける攻撃が必ずクリティカルになる【おっとっと】状態。
そしてクリティカルを受けた直後。
これらのタイミングでは、【緊急霧散】を発動させる事は出来ないのだ。
しかし、それらを狙って行うのは今のピンクには難しい。
【痺れ】や【ピヨリ】は、そもそも連続でダメージを受ける事が条件であり、それ自体を【緊急霧散】で回避する事が出来る。
ヴェタルは軽装でガードよりも回避を重視している為、防御を行う事自体が無い。つまりガードブレイクから【おっとっと】になる事も無い。
警戒すべきは低LUCから来る不意の【クリティカルヒット】と【パリィ】くらいなものだろう。
しかし【パリィ】は無い。そもそもタイミングがシビアなのだ。
相手の行動パターンや攻撃の癖、相手の使う【アーツ】のモーションの把握、その上でやっと成功する――それくらい難しい。
しかも【パリィ】系のアーツはチェインが出来無いので失敗すれば敵の目の前で大きな隙を晒す事になる。そうなればフルコンボを貰うのは確実だ。
そんなリスキーな事をあんな低APで出来る訳がない。
それにパリィを取られるほど、単純な攻撃をするつもりも無い!
つまり――手痛い反撃は受けたが、それを気にして日和る必要は無いと言う事だ。
「兎に角殴る…!」
ほぼほぼ一直線に、路地に逃げ込んだハルに目掛けて突っ込む。
【ファイアー・ワーク】はランク3のハンドガンアーツ。
蹴り上げ部分に無敵判定が有り、それに当たると追撃の溜め撃ちに派生するという種別【乱舞】のアーツだ。
いや、性能云々は兎も角として――ランク3という事はレベルアップの後に新しく覚えたアーツと言う事だ。
そしてバトル前は様子を見るに――新しく覚えたアーツ、魔法、アビリティ、その全てをセットする時間は無かった。恐らくアビリティか魔法、その内どちらか――或いはその両方ががまだセット出来ていない。
どちらにせよ、長期戦をする意味はない!
ヴェタルは不意打ちを気にせず、強気に上空から路地裏に飛び込む。
「っ!」
(リチャージ中!)
正確に言うと丁度リチャージを終えた所か。ヴェタルに気付いたハルが銃口を向ける。
それを意に介す事無く、ヴェタルは距離を詰める!
急降下しつつ【血霊爪】を展開し、着地と同時に切り付け。それを辛うじて大通りに向けてステップ回避するハル。
追い掛けるように爪の連撃で畳み掛ける。ハルもひたすらステップによる回避を続けるが――爪による連撃を回避しきれず、APが少しずつ削られていく。
開幕直後と同じ展開だ。
[アーマー・ブレイク♪]
そしてとうとう残りAPが20%を下回り、防具が破壊され、下着姿となった。
流石はサキュバスと言った所か。小娘の癖に男の視線を集める良い体つきをしている。下着がシンプルな白パンツ&ブラなのは意外だが。
「くそっ!」
ハルの悪態がヴェタルには心地よく聞こえた。
そうだ。こうやってひたすら攻撃を続ければいい。ステップによる回避動作にもSP消費は存在する。向こうはひ弱なサキュバス。こちらはボス化した吸血鬼。どちらが先に息切れするか、考えるまでもない。
が――。
(っ。補助魔法の効果が切れた)
ヴェタルを覆う、三色四種類のオーラが順に消滅していく。
(掛け直す?)
答えは――否。
このまま畳み掛ける。銃弾を逸らす効果は消えてしまったが豆鉄砲1、2発程度なら怯む事も無い。何よりこちらには【緊急霧散】がある。
対して向こうはAPも残りわずか。SPだってキツイ筈。
(このまま押し切る!)
と思った直後。
ハルが先にアクションを起こした!
「【マニューバ・ファイア】!」
こちらの通常攻撃に合わせてアーツを発動。
上空へ高く飛翔しながら、銃弾をばら撒く。
【マニューバ・ファイア】。任意方向へと高速移動しながら銃弾をばら撒くランク2のハンドガンアーツ。【ロンダート】と性質が似ているが、【マニューバ・ファイア】の方が移動距離がかなり長い。
代わりに、【ロンダート】と違い無敵時間が存在しないのでいざという時の緊急回避というよりも、攻撃しながらの長距離の移動など、戦闘の立ち回りを補佐するアーツだ。本来なら地上を走り回るアーツだが、翼を持つ種族なら飛行しながら発動する事が出来る。
(痺れを切らしたわね!)
恐らく【ダイバート・ストリーム】による風のバリアが消失した事で、迎撃出来ると判断したのだろう。
だが甘い。
ヴェタルはタイルシールドを前面に連続生成しながら突貫する。
【霊魔収束】と呼ばれる【中級職】【ワイズ】の【クラスアビリティ】だ。MPを消費して自身の周囲に小さなマナの障壁を『設置』する。
一度設置した障壁はその場から動かせない代わりに盾にしたり、足場にする事が可能だ。
もっぱら魔法詠唱時、無防備になる身を守るために予め設置するのが基本だが――銃弾の連射に対して突進しながら使えば、銃弾を防ぎつつ接近する事が出来る!
「っ!?」
風のバリアが消えたのに突っ込んでくるのが予想外だったのか、ハルに焦りの表情が浮かんだ。
ここは空中。射撃アーツや魔法は使えても、地上用のアーツ――つまり先ほどの【ファイアー・ワーク】のような技は使えない。
「このっ」
チェインの光。同時にハルの体がひらりと宙返りする。
(【ロンダート】! それしかないわよね!)
【ロンダート】は無敵技だ。追撃する事に意味は無い。
【飛行】のアビリティを使い、乱射される銃弾を左にロール回避。六発の弾丸がヴェタルの脇を通り過ぎ、家屋の屋根に直撃する。
撃ち終えたハルの体は技後硬直を迎え、重力に引かれ落下していく。
追撃してもいいが――落下しながら【スマッシュ・ショット】辺りにチェインしてくるかもしれない。
ならばこちらはひたすら張り付き――
(安全に、着地を刈る!)
見ろ。あの小生意気なピンクの顔が、悔しさで歪んでいる!
自分の未来を、敗北を悟っているのだ!
ヴェタルは落下するハルに張り付くように急降下。
そして――ハルの足が地面に付いた瞬間、爪を振るう!
瞬間、ハルにチェインのエフェクトが閃光る!
(【ファイアー・ワーク】でしょう!?)
爪を振るうとほぼ同時に【緊急霧散】を発動。ハルの蹴り上げをギリギリで回避し、すぐに【霧化】を解除。
目の前には、渾身の蹴りを回避され、硬直を晒すハルの姿がある。
チェインは、恐らくあと一回程度なら可能だろう。
だが【ロンダート】も、【ファイアー・ワーク】も、【マニューバ・ファイア】も使った。残りのチェインで、これらの技は使えない!
「終わりよ!」
無防備なハルに目掛けて【スクリュー・ダイブ】を放つ。
爪による高速の突き攻撃。三度目の正直。
(今度こそ当たる!)
瞬間。ハルの体からチェインの光が走る。
だがもう遅い。こちらはもう攻撃モーションに入っている。それにこの至近距離。どう考えても間に合う訳が無い。
良くて相打ち。いや、一方的にこちらが発生勝ちするに決まって――
――ハルは、両腕を眼前で交差させ、防御するような態勢を取っていた。
それが何のアーツのモーションだったか、ヴェタルが思い出す前に。
一歩踏み込みながら交差していた腕を、外側へと大きく、鋭く開く。
まるでヴェタルの攻撃を、二丁の銃で弾くように。
カキイイィンッ!! ―― ワアアァァァァ…! ――
まるで打者が派手にホームランを打ったかのような打撃音。
そして歓声。
同時にヴェタルの体が大きく後方へと仰け反った。
それはガードブレイクされた時、もしくは攻撃をパリィされた時に付与される、【おっとっと】状態。
つまり――【スクリュー・ダイブ】をパリィされたのだ。
さっきまでレベル1だった小娘に。
「――――は?」
その事実を認める前に、アーツのエフェクトを纏ったハルがヴェタルの無防備な腹部に、左右二つの銃口を突きつけた。
そして静かに呟くのだ。
「その技、見せ過ぎですよ?」
ギャウギャウギャウギャウギャウギャウンッ!
[クリ[クリ[クリ[クリ[クリ[クリティカルヒット――]
0距離から怒涛の六連射による連続クリティカルヒット!
「たああああぁぁぁっっ!!」
ばきいぃっっ!!
[――クリティカルヒット♪]
更にフィニッシュの飛び蹴りを顔面に食らい、ヴェタルの体は大きく吹き飛んだ。
総合ポイント500達成!!
累計PVもあとちょっとで50、000!!(11/1現在)
まだまだ弱小作品に過ぎませんが、少しずつ努力が実っている気がします。
今後とも皆様の応援を宜しくお願いします!
次回投稿は11/9(月)AM8:00の予定です。
以下、いつものオマケコーナー。
【プリーズテルミー! リリウム様!】
今回のお題は~?
『ヴェタルはレベル200越えの強敵だけど、ステータスってどれくらい?』
という事でヴェタルのステータスを公開!
ちなみにヴェタルはボス化しているからAP・SP・MP・HPが三倍になっているよ!
『=================
名前:ヴェタル=ネラプシー
性別:♀
年齢: お ば さ ん
種族:吸血鬼
クラス⑤セージ(4/300)
④パンディット(100/100)
③ワイズ(50/50)
②スカラー(30/30)
①マジシャン(20/20)
称号:恐怖の精神支配者
状態:ヤローテメーブッコロシテヤル!
所属:魔王軍、レイドボス
ファミリー:ネラプシー
パーティ:アンチ・アイセ
LV:204
LP:416/418
AP:180(+360)
SP:476(+952)
MP:749(+1498)
HP:909(+1818)
STR:709(+50)
DEX:536
VIT:476
AGI:810
INT:849(+194)
MND:435(+21)
LUC:30(-6)
DES:819(+90)
================』




