第六十九章 記者会見
十一月十五日。午後五時。
首里城公園内の仮設テントで、緊急記者会見が行われた。
登壇者は沖縄県文化財課長、琉球大学考古学教授、永田修造。そして比嘉の強い推薦で——鷺宮直人。
記者席には地元メディアに加え、東京から全国紙と通信社の記者が駆けつけていた。早川のライブ配信がSNSで拡散され、発掘の模様を数万人がリアルタイムで見ていた。
文化財課長が経緯を説明した。復元工事中の地中レーダーによる空洞の発見。学術調査の実施決定。漆箱と内容物の発見。淡々と、事実だけを述べた。
考古学教授が所見を述べた。石灰岩の加工技術、漆器の年代推定、保存環境の評価。専門家としての抑制された語り口。
永田が文化財としての価値を語った。漆器の技法は琉球王府時代の一級品であること。印章の青銅の質と造形が平安~鎌倉期の特徴を持つこと。保存状態が極めて良好であること。
そして直人の番が来た。
マイクの前に立った。記者たちのペンが止まり、カメラのレンズが直人に向けられた。
「鷺宮直人です。文化財修復士として、今日の発見について所見を述べます」
直人は一度深く息を吸い、言葉を選んだ。
「今日発見された印章は、空白の印面を持っています。何も彫られていない印章です。これは破損や劣化ではなく、意図的な設計です」
「空白の印章に文化財としての価値があるのですか」記者の一人が挙手もなしに質問を投げた。
「あります。むしろ——空白であることに、最大の価値があります」
記者席がざわめいた。
「この印章は、明治初期に本土から沖縄に預けられたものと推定されます。併せて発見された文書には、印章の空白が意図的であること、そして印面に刻むべき内容は『後の世の人間が定めるべし』と記されています」
「具体的にはどういう意味でしょうか」
「百五十年前の人間が、未来の私たちに判断を委ねた——ということです。何を刻むか。何を約束するか。それは、私たちが決めることです」
「政治的な意味合いはあるのですか。日本と琉球の約束、というのは——」
「私は修復士であって、政治家ではありません。この印章の歴史的・文化的な意味を明らかにするのが、私の仕事です。政治的な解釈は——それぞれの方に委ねます」
直人は意図的に「国民」と言わなかった。「それぞれの方」と言った。一億二千万を一括りにしない。一人一人が、自分自身の頭で考えるべきだという意味を込めて。
記者会見は一時間に及んだ。質問は尽きなかったが、直人は修復士の領分を超える回答は一切しなかった。




