第六十五章 発掘
十一月十五日。午前八時。
首里城復元工事現場。
朝の光が、赤い城壁の残骸を照らしている。空は快晴。十一月の沖縄の風はまだ暖かく、半袖でも過ごせる気温だった。
発掘エリアにはテントが張られ、琉球大学の考古学チームが機材を搬入していた。測量用の三脚。土壌サンプリングの容器。記録用のカメラ。
県文化財課の比嘉が全体の指揮を執る。比嘉の顔には緊張があったが、声には揺らぎがなかった。沖縄の人間が、沖縄の城の下を掘る。その当然の行為を、当然のこととして遂行する覚悟が、声に出ていた。
メディアは五社。地元紙二紙、NHK沖縄、琉球放送、そして全国紙一紙。早川が二台のスマートフォンでライブ配信の準備を整えていた。
直人はテントの外に立ち、発掘エリアを見つめた。赤いコーンが撤去され、白いロープで区画が示されている。一メートル四方のグリッド。考古学の標準的な発掘手法だ。
永田が隣に来た。杖をついている。沖縄の湿気が膝に堪えるらしい。
「緊張しているか」
「はい」
「そうか。——俺もだ。七十八年生きてきたが、こういう緊張は初めてだ」
午前九時。発掘開始。
琉球大学の考古学チームが、表土を慎重に除去していく。スコップではなく、移植ごてと刷毛。考古学の発掘は、一センチずつ掘り下げる。直人は修復士として、出土物の取り扱いを担当する。
最初の一時間で、深度五十センチまで到達。赤土の層。首里城建設時に盛られた造成土だ。遺物は出ない。
次の一時間で、深度一メートル。赤土の下に灰色の粘土層が現れた。首里城以前の堆積層。ここでも遺物は出ない。だが粘土の色と質感が変化し始めた。人為的な擾乱の痕跡——過去に誰かが掘り返した形跡がある。
正午。休憩。
直人は比嘉と並んで弁当を食べた。ソーキそば弁当。沖縄の味だ。出汁の甘さが、緊張で強張った体に染みた。
「比嘉さん。人為的擾乱の痕跡、見ましたか」
「はい。深度八十センチ付近から、土の色が不均一になっている。過去に掘り返されて埋め戻された証拠です。時期は分かりませんが——」
「百五十年前だろう。暗号を埋めた人間が掘った穴だ」
「かもしれません。午後、もう少し掘れば——」
午後。発掘が再開された。
深度一・五メートル。粘土層の続き。擾乱痕跡がさらに明瞭になる。
深度二メートル。粘土層の下に、琉球石灰岩の岩盤が現れた。白灰色の硬い石。発掘の速度が落ちる。石灰岩の表面を傷つけないよう、移植ごてから竹ヘラに切り替える。
深度二・五メートル。石灰岩の岩盤に、人工的な切り込みが見つかった。
考古学教授が発掘坑に降り、切り込みを確認した。「鑿による加工痕。加工面は平滑で、計画的に削られています。自然の亀裂ではない」
直人も発掘坑に降りた。石灰岩の加工面に手を触れる。手袋越しに感じる感触——滑らかだが、微かに波打っている。鑿の刃幅は約三センチ。手作業。機械ではない。
「この加工痕は——摩文仁の洞窟と同じ時代性を持っている。鑿の種類、削り方の角度が一致しています」
比嘉が上から確認した。「一致——ということは」
「同じ人物、あるいは同じ技術系統の人間が加工した。沖縄の石工の技術です」
深度二・八メートル。石灰岩の加工面が広がり、箱型の構造が姿を現した。
石灰岩を刳り抜いて作られた、直方体の空間。一メートル四方、深さ五十センチほど。天板は——石灰岩の板で塞がれている。蓋だ。
テントの下に集まった全員が、息を詰めた。メディアのカメラが発掘坑に向けられる。早川のスマートフォンが映像をリアルタイムで世界に送っている。




