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第六十四章 七日間  

十一月八日から十五日までの七日間は、直人の人生で最も密度の高い一週間だった。

 比嘉が沖縄県文化財課に提出した緊急調査申請書は、翌日には課長の机に載り、その翌日には副知事の決裁を仰ぐ段階に入った。通常ならありえない速度だ。三条財団の名前と、永田修造の推薦状が効いた。だがそれだけではない。首里城の復元は沖縄県にとって最重要事業であり、その地下から遺構が発見されたという情報は、県の政治的関心を直接的に刺激した。

 だが、県庁内で情報が動けば、東京にも伝わる。

 十一月十日。比嘉から緊急の連絡が入った。

「鷺宮さん。内閣官房から沖縄県に連絡がありました。地下空洞の調査は国の管轄で行うため、県独自の調査は控えるようにと」

「圧力か」

「形式上は『助言』です。文化財保護法の枠組みでは、国指定文化財に関連する可能性のある遺構については、国と協議することが望ましいという規定があります。その規定を根拠にしているのですが——首里城の地下遺構はまだ何なのか確認されていない段階で、国指定文化財との関連を主張するのは論理的に無理がある」

「つまり、県が突っぱねることは可能か」

「法的には可能です。ただ——副知事が動揺しています。国との関係を悪化させたくないと」

 直人は三条冬美に連絡を取った。三条は即座に動いた。

 翌十一日、沖縄の地元紙二紙に、記事が載った。見出しは「首里城復元工事中に未確認の地下遺構を発見 県が学術調査を検討」。記事の内容は事実を淡々と伝えているだけだ。だが、首里城という文字が入った瞬間に、沖縄の県民感情が動く。首里城は沖縄の魂だ。二〇一九年の焼失は沖縄全体のトラウマであり、復元は県民の悲願だ。その城の地下に何かがあるという情報は——県民の関心を一気に喚起した。

 十二日。沖縄県議会で質問が出た。「首里城の地下遺構について、なぜ県民に公開されていないのか。国の『助言』に従って調査を控えるのは、沖縄の自治権の放棄ではないか」。

 副知事は答弁で「学術調査の準備を進めている」と明言した。議会の圧力が、副知事の背中を押した形だ。

 情報が公になった以上、内閣官房は強引な介入ができなくなった。公開の場で県が調査を行うことに反対すれば、「国が沖縄の文化財を隠蔽している」という批判を招く。沖縄の歴史的感情——本土による支配と収奪の記憶——を考えれば、政治的リスクが大きすぎる。

 十三日。沖縄県が正式に学術調査の実施を発表した。日程は十一月十五日。参加者は沖縄県文化財課、琉球大学考古学研究室、文化財修復の専門家として永田修造と鷺宮直人。メディアの取材も許可。

 十四日。直人は那覇に飛んだ。真琴と早川も別便で沖縄入り。永田は前日に到着している。

 その夜、首里城近くのホテルで、直人は眠れなかった。

 窓の外に、首里の丘が見えた。工事用の照明が、復元中の城壁を薄く照らしている。

 かつてそこに城があった。焼けて、建て直されて、また焼けて、また建て直されて。四百年の間に何度も。琉球王国の滅亡。沖縄戦の砲火。そして二〇一九年の火災。

 そのたびに、沖縄の人間が建て直してきた。

 首里城そのものが——「未完」なのかもしれない。永遠に完成しない城。焼けるたびに、その時代の人間が、その時代の技術と想いで建て直す。完成は終焉。未完は希望。

 暗号の設計者が第五の封印を沖縄に置いたのは——沖縄の人間のこの「建て直す力」を、見抜いていたからかもしれない。

 直人は目を閉じた。明日、この城の地下を掘る。

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