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第六十三章 集結  

十一月八日。

 池袋のシェアオフィスに、五人が集まった。

 直人。真琴。早川。永田修造。そしてモニター越しに——三条冬美。

 真壁透は来なかった。辞職の手続き中で行動が制限されている。だがUSBメモリのデータは直人の手元にある。真壁の分析と情報は、この部屋の空気の中に溶けている。

 直人がホワイトボードの前に立った。

「状況を整理する。首里城の地下、正殿中心軸の直下、深度三メートルに空洞がある。地中レーダーで金属と有機物の反応が確認されている。内調は十一月中旬にこの空洞の中身を回収する計画だ。俺たちがその前にアクセスする猶予は——」

「一週間」早川が言った。

「比嘉さんが協力してくれる。だが掘削には県の正式な許可が必要だ。許可を取るには空洞の重要性を県に説明しなければならない。説明すれば内調に漏れる可能性がある」

「ジレンマっすね」

「だから——正攻法でいく」

 全員が直人を見た。

「正攻法?」

「空洞の発掘を、公式な学術調査として行う。沖縄県、関係学術機関、そしてメディアの立ち会いの下で。公開の場で行えば、内調は手が出せない」

「公開の場——考古学の発掘調査みたいにってことすか」

「そうだ。首里城の復元工事中に発見された遺構の学術調査。名目としては完全に正当だ。比嘉さんが県に提案し、永田先生が文化財の専門家として参加する。——学術調査であれば、出土品は調査チームが管理する。内閣官房が横から手を出すのは困難だ」

 永田が腕を組んだ。

「可能だ。首里城の復元工事は国家プロジェクトだが、事業主体は沖縄県だ。県の判断で学術調査を組み込むことはできる。俺が文化財修復の専門家として参加する名目なら、形式的にも問題ない。——ただし時間がない。通常なら学術調査の計画策定に数ヶ月かかる」

「一週間で」

「無茶だな。だが——」

 永田は真琴を見た。

「宮内庁の元職員が関与しているなら、皇室関連の文化財としての位置づけが可能だ。皇室関連文化財の緊急調査は、通常の手続きを省略できる場合がある」

 真琴が頷いた。

「宮内庁書陵部の元職員として。この空洞の中身が皇室の歴史に関わるものであることを、県に説明できます。書陵部の内部文書へのアクセスはもうありませんが、これまでの調査で得た知識は——私の中にあります」

 モニターの向こうで、三条冬美の声が流れた。

『三条財団から、学術調査への資金提供ができます。調査の正当性を高めるために、複数の大学の考古学・歴史学の研究者に参加を依頼することも可能です。琉球大学には旧知の考古学教授がおります。国立歴史民俗博物館にも連絡を取りましょう。——百五十年の人脈を使います』

 早川が手を挙げた。

「俺は何をすれば」

「データの全バックアップ。そして——調査の全過程を、リアルタイムで記録・配信する準備。公開の場で行うなら、記録が最大の防御になる。内調が介入しようとしても、映像記録が残っていれば隠蔽できない」

「ライブ配信っすね。機材は——スマートフォンで十分。複数台で異なるアングルをカバーすれば、プロ並みの記録が取れます」

「頼む」

 直人はホワイトボードに大きく書いた。

「十一月十五日。首里城地下空洞、公開学術調査」

 五人の視線が、日付に集まった。

 永田が言った。

「一週間か。——老骨に鞭を打つには十分だ」

 三条がモニター越しに言った。

『百五十年待ったのです。一週間くらい——どうということはありません』

 早川がノートPCを開いた。

「機材リスト作ります。あと通信環境の確認。沖縄の——」

 真琴が直人の隣に立った。

「直人さん」

「ん」

「大丈夫です。——うまくいく気がします」

「根拠は」

「ありません。でも——百五十年間、これだけ多くの人間がこの暗号を守り、伝え、繋いできた。その流れの中に今、私たちがいる。その流れが——止まる気がしない」

 直人はホワイトボードの日付を見つめた。

 十一月十五日。

 五つの封印のうち、最後に残された沖縄の封印。その封印が——物理的に開かれる日。

 第二部の終幕が、近づいていた。

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