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第六十章 復元現場  

十一月三日。首里城復元工事現場。

 沖縄の十一月は、まだ夏の名残がある。半袖でも過ごせる気温の中、巨大な工事フェンスに囲まれた正殿跡地に、永田と直人は立っていた。

 重機の低い唸り。作業員の掛け声。コンクリートと赤土の匂い。

 案内役は比嘉健太。三十代前半、日焼けした肌に真っ直ぐな目。永田の教え子だという。首里城の復元に携わる若い文化財職員。

「永田先生。お久しぶりです。お変わりなく」

「変わったよ。膝が悪くなった。——比嘉くん、こちらが鷺宮直人。修復の腕は俺以上だ」

「嘘です」直人が即座に否定した。

「半分は本当だ」

 比嘉の案内で、正殿跡地の基礎工事エリアに入った。焼けた正殿の土台。黒く炭化した石の上に、新しい基礎が組まれつつある。

 直人は歩きながら、地面の状態を観察していた。内調のレーダーデータが示した空洞の位置は、正殿の中心軸上、深度三メートル。現在の基礎工事は深度一・五メートルまで掘削が進んでいる。空洞はその下だ。

「比嘉さん。この基礎工事で、何か想定外のものが出てきたりしませんでしたか」

 直人はさりげなく尋ねた。

 比嘉の表情が、一瞬で変わった。案内役の穏やかさが消え、本気の顔になった。

「——何を指していますか」

「たとえば、地下の構造物とか。旧琉球王府時代の遺構とか」

 比嘉は周囲を見回した。作業員が離れていることを確認し、声を落とした。

「永田先生からお聞きになりましたか」

「いいえ。独自の情報源です」

「独自の——」

 比嘉は直人を真剣な目で見つめた。直人はその目を受け止めた。

「鷺宮さん。ここだけの話ですが——発見があったのは事実です。地中レーダーで空洞が検出されました。一年前のことです。報告は上に上げましたが、上からの指示で非公開扱いになっています」

「理由は」

「『国の関係機関と協議中のため』。具体的にどの機関かは教えてもらえていません。正直——現場としては困惑しています。空洞の上の掘削は止められているし、基礎工事のスケジュールに影響が出ている。でも理由を聞いても、上は教えてくれない」

 直人は永田を見た。永田が小さく頷いた。

「比嘉さん。その空洞の直上に、近づくことはできますか」

「現場の中ですから、立ち入りは可能です。ただし掘削はできません」

「掘削はしません。地表面から空洞の状態を非破壊で確認したいだけです。修復士の目で」

 比嘉は迷った。唇が一瞬引き結ばれ、それから——ゆるんだ。

「案内します」

 三人は基礎工事エリアの中心に向かった。掘削禁止区域を示す赤いコーンが、円形に配置されている。直径四メートルほどの範囲。

 直人は赤いコーンの内側に入り、地面にしゃがんだ。

 土の色を見る。琉球石灰岩の地盤の上に、赤土——国頭マージ——が堆積している。土の粒度。含水率。色の変化。

 直人は地面に耳を当てた。

 何も聞こえない。当然だ。だが——

 基礎工事の重機が、数十メートル先で稼動している。その振動が地盤を通じて伝わってくる。直人は手のひらを地面に当て、振動を感じた。

 振動は一定のリズムで伝わる。だがこの場所——空洞の直上だけ、振動の伝わり方が微妙に異なっていた。振幅がわずかに小さい。周波数が微かに変化する。空洞が振動を吸収し、減衰させている。

「空洞は——ここだ」

 直人は地面の一点に手を置いた。

「この下。三メートル。確かに空洞がある」

 永田が隣にしゃがみ、同じように地面に手を置いた。七十八歳の修復士の手。皺だらけだが、感覚は生きている。

「……ああ。確かに。——直人、お前の感覚は正しい。ここの下に、何かがある」

 比嘉が二人を見下ろしていた。その目に——決意の光が灯った。

「鷺宮さん。正直に聞きます。あなたは、ここの下に何があるか——知っているのですか」

「推測です。確証はありません。だが——百五十年前に本土から沖縄に預けられたものが、ここに埋められている可能性がある」

「本土から沖縄に——」

「それは沖縄の歴史に関わるものであり、沖縄の人間が判断すべきものです。東京の官庁が秘密裏に回収して金庫にしまうべきものではない」

 比嘉の顔が引き締まった。風が吹き、赤いコーンのテープがはためいた。

「——私は沖縄の人間です。首里城は——私たちの城です。燃えたんです。燃えて、それでも建て直そうとしている。何年かかっても建て直す。この城の下に何があるかは——私たちが知る権利がある」

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