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【書籍化決定】社畜令嬢だって異世界でキャンプがしたい!~馬鹿王子を婚約破棄してやった私の飯テロスローライフ~  作者: 忍丸
第一部 馬鹿王子騒乱編

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人生の休暇を満喫するつもりなので!②

「いやあ、いい話だったなあ」


 ユージーン王子とおじ様。彼らの姿を眺めながら、私はしんみりと浸っていた。


「家族っていいね。うんうん、一件落着って感じで安心したわ」

「お嬢。どこに行くんです?」


 じりじりと後ずさる私をヴァイスが怪訝そうに見つめている。

 いまだ状況が理解出来てない様子の執事に、私は親切丁寧に教えてあげた。


「ふ。そんなの決まってるでしょ。ここから逃げるのよ……! この場にいたら、後処理なんかで長時間拘束されちゃう」

「いやでも、そもそもお嬢が始めたことでしょうに」

「なに言ってるの。国の最高責任者が来たのよ。むしろ丸投げチャンスじゃない!」

「お嬢って、生真面目な癖にめんどくさがりですよね」


 別に、サリーが騎士団を凍らせちゃった件をなんとか誤魔化せないかな~なんて考えてないから。それに、おじ様の近くって癖のあるイケオジだらけなのよ。気がつけば仕事を押しつけてくるような奴らがウヨウヨいるわけ。


 対して私は仕事をしたくない。

 つまり、ここは逃げるが勝ち……!


「という訳で、行くよ。みんな!」

「俺はお嬢の行くところについていくだけです」

「アッハッハ。一番の功労者がコソコソ逃げるとか、おもろいなあ」

「面倒ごとは勘弁だから、アタシもそれで構わないけど。秘密基地に行く? 疲れちゃったわ。お茶にしましょうよ……」

「いいね! サリーってば天才!」


 ひそひそ話しながら後退していく。

 ふふふ。湖畔の森に紛れれば、簡単には追ってこれまい――


 そう思っていたのだけれど。


「アイシャ・ヴァレンティノ!」


 なんでか、ユージーン王子に見つかってしまった。側にいたおじ様も、驚いたような顔をしている。あああああ、見つかってしまった! ちくしょう。私になんの恨みがあるってんだ。生理的に無理って言ったの、まだ覚えてたりする!?


 私の焦りを知ってか知らずか、ユージーン王子はやけにさっぱりした顔をしていた。


 あ、なんか険が取れたって感じだね。ますますおじ様にそっくり。よかったねえなんて思っていると、とつぜん王子が深々と頭を下げた。


「――いままで、すまなかった!! そして、助けてくれてありがとう!!」


 なんとも潔い行動に呆気に取られる。なんだなんだ。どうしたんだ。お腹でも壊したのか。思わず固まっていると、頭を上げた王子はこう続けた。


「自分の未熟さを棚に上げて、君に突っかかってばかりいた。反省している。思えば、アイシャ嬢が僕との婚約を破棄したのも理解できる。僕自身が、君の隣に立てるほどの人間ではなかったんだ。これからは、課せられた役目を果たせるように鍛え直すつもりだ。アイシャ嬢のように、大勢から信頼を勝ち取ってみせる。見守っていてくれ」


 やけに持ち上げてくる。物わかりがよすぎる気もした。

 ――いやだ。照れるなあ。こそばゆいからやめてほしい。


「へへへ……」


 ほんのり照れていると「だから!」と、王子は笑顔になった。


「もし君が王位を継いだ時。僕が役に立てるように努力するよ……!」


 ……んん?

 ……んんんんん?


「王位ッテナンデスカ」


 思わず片言になってしまった。なんの冗談だ。ちょっと待って。マジで待って。

 だらだらと冷たい汗が流れ始める。ヴァイスの背中に隠れようとするも、間に合わない。空気が読めない王子様は止まらなかった。


「僕は、君こそが父上の後継に相応しいと思っている!! だから、期待しているぞ。アイシャ・ヴァレンティノ……!!」


 ――どれだけでかい爆弾を投下しやがるんだコイツ!!


 目眩を感じていると、静かに成り行きを見守っていたルシルさんが「まあ~!」と目を輝かせ始めた。


「それはいいですわね! アイシャ様が次代の王となれば、水の神殿の地位も安泰ですし。給付金の増額もあり得ますわね! お金があれば、なんでもできますものね……! あ、ちなみにいま増額してくださっても構わないんですけれど。井戸が老朽化しておりますの」


 ルシルさん、落ち着いて……! 調子に乗って金の無心をするな。


「おお。嬢ちゃんが王か。そんなら、酒造りを国策にしてくれるかもしれんなあ。ドワーフ専用の酒蔵とか夢があるのう。酒風呂とかどうじゃろか。酒に浸かりながら酒を飲みたい」


 やめて。本当にやめて。その荒ぶる肝臓を宥めてほしい。世のなか酒だけじゃないの。気づいてよヴィンダーじい……!


「アイシャねえちゃんが王様かあ。楽しそうだね」

「ねえちゃんなら、いい国にしてくれそうだもんね!」

「ね~! 今日みたいなの、またやってくれないかなあ……」


 孤児たちまで賛同し始めると、とうとう手が着けられなくなってきた。

 なんなのこの空気。やめてくんない!?


「ね、父上もそう思うでしょう!?」


 場の空気に調子づいたユージーン王子が、期待の籠もった眼差しをおじ様に注いでいる。やめろやめろやめろ! 現実に戻ってきてくれ。妄想は心の中にだけ止めておいてくれ……!


「えっと」


 注目を浴びたおじ様は、少しだけ戸惑った様子を見せた。

 だけど、すぐさま笑顔になる。ああああああ。アレは。


 ――おじ様が面白いおもちゃを見つけた時の顔だ。


「アイシャちゃんが僕の跡継ぎかあ。それもいいかもね!」

「ぜっっっっっっっっっっっっったいにお断りします!!!!!!!!!!!!!!!」


 叫んだ瞬間、誰かにひょいと抱き上げられた。

 ヴァイスだ。いつの間にかお姫様だっこの体勢になっている。


「逃げましょう。お嬢……!」

「僕が先導したるわ」

「任せて。追っ手はぜんぶ凍らせてやるわよ」

「みんな……! よろしく頼みます!!」


 私たちの心はひとつだった。

 脱兎のごとく駆け出す。そうしなければならないと思った。


 王位争いに巻き込まれるのだけは勘弁してほしい。そんなのいらぬ。私はキャンプするの。遊ぶの! もう仕事なんて知ったもんか……!


「おじ様、ごめんね! 私、人生の休暇を満喫するつもりなので……!」


 頼むから別の人間を見繕ってくれ。


 アイシャ・ヴァレンティノ。転生者で公爵令嬢。

 別に王位なんて望んでいない。私がほしいのは――自由。

 ただ、それだけだと再確認した日だった。


というわけで

第一部完~~~~~~~~!

お疲れ様でした!


カドカワBOOKS様より、6/10に書籍がでるよ!

三万字書き下ろしで、短編三話ほどプラスされております~~~

イラストレーター様は煮たか様。ぜひぜひよろしくね!

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