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【書籍化決定】社畜令嬢だって異世界でキャンプがしたい!~馬鹿王子を婚約破棄してやった私の飯テロスローライフ~  作者: 忍丸
第一部 馬鹿王子騒乱編

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湖の水をぜんぶ抜きます!①

 私――アイシャ・ヴァレンティノは無力だ。令嬢として過保護に育てられたから、そこらの女性と比べると体力もない。吹けば飛びそうなレベル。


 取り柄といえば、前世の記憶があることと、身分が高いことくらいかな。

 

 自分に力がないことくらい、誰よりも私が理解してる。


 万能感なんて欠片もないね。なにせ、幼い頃に知識チートでやりすぎちゃって、黒歴史を築いちゃったからね。もう懲り懲りだよ。私は凡人。特別な力はない。


 だからこそ、周りを頼るんだ。私と違って、みんなは特別だからね。いろんなことができる。なにもできない私は、彼らが動きやすいように、彼らが頑張れるように補佐したり、応援したりする。


 やりたいもの、ほしいものの数だけは人様より多い私は、そうやって様々なものを手に入れてきた。


 きっと間違っていないと思う。最終的にみんなハッピーならそれでいいじゃない!


 だから、私は誰かを信じて願いを託す。

 そのための報酬は惜しまない!!


「お嬢、サリーが広域結界を張り終えました。近くにいた巨大魚はグリードが片付けたようです。いまのうちにこちらも行動を」

「了解っ! じゃあ、ルシルさんたち! よろしくお願いしまーす!!」

「やってやりますわー!!」


 計画は非常にシンプルだった。

 サリーとグリードが巨大魚の対処をしているうちに、水を抜いて巨大化する前のブラックバスを一網打尽にする。


 そもそもの発想は前世のテレビ番組……ではなく、両親の田舎で行われていた〝干し上げ〟だ。意味はそのまんま。ため池なんかの水を抜いて干す。水質保全対策のために定期的にやってたんだよね。


〝干し上げ〟は、外来種の駆除に関しては最強の威力を誇る。なにせ水を抜いちゃうからね。一網打尽にできるって訳だ。


 もちろん問題もある。ひとつは、ため池くらいの規模だと大丈夫なんだけど、大きな湖でやるには現実的でないという点。水を抜く方法がないからね……。でも、ここは異世界である。魔法があるのだ。やりたい放題である!


 じゃあ、どうやって水を抜くか!

 その役目を担ってくれるのは、水の神殿の面々だ。


「ルシルさん! よろしくお願いしまーす!! 寄付金はいつもの五倍出します!」

「まああああっ!! 金があればなんでもできる! それだけの額があれば、建物の修繕に、冬服の買い換えに……。うふふ、夢が膨らみますわね! さあ、みなさん。水の女神アクア様に祈りを……!!」


 ルシルと神官たちが一斉に祈りを捧げると、貯水湖の上空に美しい女神が姿を現した。


 慈愛の笑みを湛えた女神が手を広げると、貯水湖の水が生き物のように蠢きだす。ぷかり、大きな水玉が宙に浮かび出すと、辺りから歓声が上がった。


「かかれ~!」


 すると、宙に浮かんだ水玉に孤児たちが一斉に群がった。水玉に閉じ込められたブラックバスや在来種の魚を捕獲していく! 

 手づかみ楽しそうだなあ。ちょっとやってみたい。


「ようし。捕まえた魚はこっちじゃ!」


 次いで声を上げたのはヴィンダーじいたちだ。

 彼らには魔法のいけすを用意してもらっていた。もちろん、私たちが想像するいけすではない。水に魔法をかけて固定。そのまま置いておけるという優れもの。


 元々は、水棲の魚人が陸で暮らすための道具だった。贅沢品でね、城の宝物庫に眠っていたそれを、数年前にお願いして改良してもらってあったんだよね。

 ……新鮮なお刺身を食べるために。


 ウン。ごめん。やりたい放題なのは私の方だわ。と、ともかく! 魔法のいけすは大活躍だった。あっという間に在来種の魚でいっぱいになっていく!


 ちなみに、在来魚たちは数日間そこで過ごしてもらう予定。〝干し上げ〟のふたつめの問題を解決するためでもある。


 前世で〝干し上げ〟をしたバラエティ番組で、隔離した在来種を死なせてしまった話があったんだよね。それじゃ元も子もない。だから、こういう手段を採ったんだ。水の女神アクアは、水棲生物の加護も司っている。ルシルさんたちの祈りのおかげで、むしろ捕まる前より元気なんじゃないかってくらいだ。


 すると、ヴィンダーじいが声をかけてくれた。


「嬢ちゃん、いけすの稼働も順調じゃ。こんなもんで大丈夫かのう~?」

「うん、最高~! お礼は現金にする? お酒にする?」

「もちろん酒に決まっておろうが!」

「よし。酒蔵をひとつ開けよう。二日酔い、覚悟しておいてよ……!」

「わははははは! 期待しておるぞい!」


 談笑していると、ブラックバスを捕獲していた子どもたちが声をかけてきた。


「ねえねえ。アイシャ様! このお魚って美味しいの~?」

「美味しいらしいよ。前世では、元々食用として輸入されたらしいし」

「……!! 本当!? これ、王都の魚屋に売ってもいい~!?」

「いいよ! 持ち運べないぶんは私が買い取ろうか。そうだなあ。籠いっぱいで銀貨五枚!」

「~~~~ッ! アイシャ様、太っ腹!! 大好き!」


 どうやら、駆除したブラックバスの嫁ぎ先も決まったようである。


 ブラックバス、前世では釣り人に大人気だったけれど、普通に食用としても美味らしいね。上質な白身が味わい深いとか……。ムニエルとか、アクアパッツァとかいいかもしれないね。夢が膨らむ!


「――うん。順調だね!!」


 それぞれの作業はスムーズに進んでいる。魚を取り除いた後の水は、ブロック状に固めて湖畔に積み上げてあった。ブラックバスの駆除が終わった後、数日間湖底を干した後、湖に戻すだけで済むという算段だ。


 よしよし。このまま上手くいってくれよ……。


「金をばらまいて、人を動かす。それがお前のやり方か」


 なんとも険のある声だった。

 振り返ると、ユージーン王子が立っている。

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