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59 秘密が明かされる時

 衝撃の事実が告げられてただ困惑しているのみだった麗華はしかし、一瞬立ち上がろうとしかけてそれを抑えると、首を振って力強く叫んだ。

「でも……でも、姉は確かに一年前に死んだんです! わたし……姉があの鉄柵から……この目で見たわ……今でもその時のことをよく覚えています……」

 麗華は、理解が追いつかずにただ取り乱していた。もしも目の前に祐介がいなかったら、枕元のスタンドランプを掴んで、窓ガラスに投げつけていたことだろう。


「麗華さん。一体、何が起きているのか。これからしっかりとご説明します。ですが、まずは落ち着いて下さい……」

「ええ……すみません……でも、姉が生きているなんてそんなこと……」

「そうです。まさに信じ難い事実です」

「説明を……お願いします……」


「ええ、分かりました。この複雑な事情を説明するには、まずそもそも琴音さんには双子の妹がいたということから説明しなければいけません」

「姉に、双子の妹……」

 麗華は驚きが隠せない。そんな事実は今日の今日までまったく知らなかった。


「その方は滝川鞠奈さんと言って、赤沼家に引き取られた琴音さんとは違って、滝川家の方に残されて育てられることとなった方です。この方は小学生の頃に、栃木県の山奥で起きた自動車事故で亡くなっています。ところが、この自動車が転落した谷底は人がまったく近寄れないところで、死体は回収することすらできなかったらしいのです。つまり、実際には鞠奈さんの死体は確認されていない、ということなのです……」

「………」


「この時、警察が手がかりとしたのは鞠奈さんが親戚の叔父さんと一緒に車に乗り込んだという情報です。結局はこのことだけが、鞠奈さんが自動車の中にいて事故で死んでしまったという証拠なのです。そしてこの事実こそ、村上隼人君がずっと探し求めていた情報なのです。彼は実際に、警察の手で、鞠奈さんの死が科学的に証明されているのかどうかを調べていたのです」

「何の為に……」


「それは、鞠奈さんが死んでいないという可能性があるのでは、と彼が考えたからです。そう彼に思わせたものが何であったかは分かりませんが……。今の段階で、わたしは、この事故の際に鞠奈さんは死んではいなかったと思います。その後、鞠奈さんがどのように生きていたのか、これは推測し難いところがありますが、ひとつの仮説を述べるならば、偽名を名乗ってどこかで生き続けたのでしょう。このことによって、死んだはずの鞠奈さんは実はずっと生き続けていたのです。そして、一年前の夜、琴音さんは首を吊りました。しかし、首を吊った人物は果たして本当に琴音さんだったのか。それとも鞠奈さんだったのか」

「まさか……」

 麗華は震える瞳で祐介を見つめた。


「まだ村上隼人君は全てを語ってくれてはいませんが、このように考えると、一年前に首を吊っていたのは琴音さんではなく、鞠奈さんの方だったのではないか、という疑いが生まれてくるのです。そして、もしそうだとすれば琴音さんは現在でも生きていることになるのです……」

「それでは、姉は今どこにいるんですか……!」

 麗華はベッドの上で、外の廊下に聞こえそうな声で叫んだので、祐介は慌てて制止する。


「まだ分かりません……この話もまだ推測の域を出ていないので……しかし、つい先程、村上隼人君にこのことを問い詰めたら、彼は、自分は琴音さんの罪を被るためにこの赤沼家にやってきたのだ、と正直に語ってくれたのです……」

「それでは、姉は……、姉はこの事件の犯人なんですか!」


「まだ何とも言えません。それよりも琴音さんが本当に生きているのだとしたら、どうにかして会って事情をお聞きしたいものです」

「何か手がかりはないのですか……」


「今は何も……しかし……警察はこれから先、琴音さんを犯人だと考えるようになるかもしれません。村上隼人君もそう考えたように、警察もまた、琴音さんが生きていると知ったら、完璧な動機をもった行方知らずの容疑者がいる、という発想になりかねませんからね……」

「でも、そんな、姉がまさか……」

 麗華は、悲痛な叫びを上げると、髪の毛を両手でくしゃくしゃにしたかと思うと、ベッドに突っ伏して、泣き声を上げ始めた。

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