表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/94

57 三度目のフラッシュバック

 わたしにとって、この夜は深いため息が白くくもるほど寒いものに感じられた。妹の麗華はどこか、わたしの気持ちを察してくれているように寂しげだった。隼人さんとの結婚はこの夜の闇に消えていくようね、とわたしが麗華にぽつりと告げると、わたしの代わりに彼女は涙を流してくれた。すべてが(むな)しい雪のように溶けてゆく。この冷えた感情も何の意味もなさずに、ただ思い出の一欠片(ひとかけら)となるだけだと昨日、悟ったのだった。


 新しい結婚の話、けして悪い話じゃない。でも、そこに何の愛があるというのかしら。幸福というのは外から見えるものじゃない。ただ外面ばかりの人生だったけれど、それでも真実の愛を求めてかけ走った数年間が一瞬で破れて、雪のように消えていった。


 今夜は、お父さんがわたしに言ってくれた言葉があった。「違う形の幸せもあるよ」とお父さんは言った。でも、そんなものはない。違う形の幸せなんてありえない。


 この目の前のバルコニーから、外の暗闇を見つめていたら、何かが見えてきそうな気がして、涙を流しながらずっと見つめていた。山並みは黒い影、鉄柵が冷たく光る。それでも、わたしには何も見えなかった。


 ところが、わたしの首に、今まさに、後ろから、ロープが。

(助けて!)

 わたしは首を絞められた。誰。今、首を絞めているのは一体。誰なの。お願い。離して。わたしの人生はこんなものではない。こんなことで終わってしまう人生ではないわ。

 わたしを殺そうとしている誰かが。わたしのことが憎い誰かが。わたしの命尽きるのを喜ぶ誰かが。その誰かが今わたしを地獄に突き落としてしまう。


 わたしの人生は偽りだらけ。本当のわたしは。本当のわたしは琴音ではない。琴音なんかじゃない。

(助けて!)

 わたしはずっと影法師だった。わたしは死ぬ時も琴音のまま。でも、わたしは琴音じゃない。死んだ後までわたしは琴音の影法師。誰か。わたしは琴音じゃない。わたしはわたしとして生きたい。生まれた時から死ぬ時まで。死んだ後も。ただ滝川鞠奈として生きたかった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ