ライカは未来予想図を思い描いた!
お久しぶりです。
八ヶ月ぶりの投稿になります。
去年の末から某バンドアニメの影響を受けてギターにハマってました。もちろん今も継続中。
長らく放置してましたがちょいちょい反応がもらえていたのでモチベが上がって書きかけの話を投稿できました。
みなさん、ありがとう!
ライカは相変わらずの剣狂いです!
「んっ……」
朝、目覚めと共に感じたのは素肌にまとわりつく寒気と左右からの圧迫感だった。部屋はうっすらと明るい。カーテンを閉じた窓から朝日が差し込んでいるのだ。おかげで私は今の状況を的確に把握することができた。
右にはレティが、左にはアルセラが。二人は下着姿で眠っていた。寝返りを打った際にそうなったのか、レティは三人で被っていたはずのシーツを独り占めにしている。アルセラはちょうど日向に位置しているからか、ぐっすりすやすやと……は? 寝顔まで可愛いとか反則か?
とにかく私だけが寒い思いをしていた。主にレティのせいだ。起きたらしばいてやる。
ってか、そもそもなんで半裸なんだ私たちは。脱ぎ癖があるわけでもあるまいし、三人が三人とも下着姿ってどう考えてもおかしいだろ。
なんでだっけなー……。未だ眠っている二人の体温を素肌で感じながら、私は昨日の出来事を思い出そうとした。
──そうだ、きっかけはあの一言だった。
「寒くなってきたし、湯たんぽが欲しいなぁ」
「「!」」
ガタッ! と椅子を鳴かせて立ち上がったアルセラと座った状態からテーブルに膝蹴りをかましたレティ。夕食の途中だったからそのときはフォーン伯爵もいて、部屋の片隅にはセバスさんも立っていて、突然動き出した二人に目を丸くしていた。
「ど、どうしたのだ二人とも」
フォーン伯爵の問いに二人は答えず、ぎらついた視線をこちらに向けてきた。おいおい、ガン無視かよ。しょんぼりしちゃったぞ。強面な見た目に反して繊細なメンタルの持ち主であることは周知の事実だろうに。
「ライカ」
口火を切ったのはアルセラだった。前屈みになっているのでさらさらとした桃色の前髪が目元にかかり、本物にも負けないくらい綺麗な翡翠色の瞳が暗がりで輝いている。普段は可愛いけど睨んでいるときはイケメンだなぁ。
「今夜、部屋に行きますね」
「え? いいけど」
「ライカ!」
レティも吼えた。毛先に緩くウェーブのかかった金髪。それが気迫によって獅子のタテガミみたいに見える。爛々と煌めく碧眼も獲物を捕らえんとする猛獣のそれだ。こっちも真面目な表情をするとすごく整っていることがわかるんだよな。普段はアホだけど。
「今夜は一緒に寝ましょうね」
「え? いいけど」
なんで同じこと言ってんだコイツら。私も同じ返事をしちゃったじゃないか。
そうして、なぜかアルセラとレティは視線を交え、その中央地点で火花を散らせ始めた。修行中ですら見せない対抗心のぶつけ合いだった。なんだってんだよ、まったく。
夕食が終わり、湯浴みの時間までは日課の素振りをするために庭へと出る。フォーン邸の庭は私たち三人が素振りに熱狂してもなんら問題ないほど広い。もはや公園だ。さすが伯爵の地位を有するだけのことはある。
しばらく素振りを繰り返してうっすらと汗をかき始めた頃、突然アルセラとレティが動きを止めた。
「レティ。ちょっと模擬戦に付き合ってもらえませんか」
「いいですわ。打ち砕いて差し上げます」
バチバチにギスったまま二人は向かい合う。こうした模擬戦はいつも闘技場を借りてやっている。ゆえに私はこの流れを想像できず出遅れてしまった。
「じゃあ、勝ち抜けね! 負けたほうが私と交代!」
「いいえ、次はありません」
私の提案はあっさりと却下された。なんだそりゃ。不公平だぞ! そんな恨みを込めた視線もまた、完璧に無視された。
レティが修行用の木剣を構えた。芯の部分に金属を使った木製の大剣だ。魔力による身体強化を前提としている重さのため、軽く振り回すだけでもかなりの迫力がある。
「一戦だけです。ライカは少し離れててください」
対するアルセラも木製の双剣を構えた。こちらも修行用の造りだが、アルセラのサイズであればちょっと重たい木剣程度の代物だ。木材の中では比較的魔力を通しやすい材質で作られているので、極小規模の魔法を行使することも可能な一品だ。
「……ふんっ! 勝手にすれば!」
除け者にされた私はわかりやすく拗ねて素振りを再開。もどかしさを燃料に集中力を最大まで高め、二人の存在を完全に意識から外して剣に没頭した。こうなると時間の感覚もおかしくなる。
そして気づくと、ボロボロになった二人が剣を支えにかろうじて立っている状態になっていた。
「え、ナニコレ。どーなってんの?」
それまでの過程を認識してなかった私には何がなんだかわからなかった。ここまでの死闘を繰り広げるならやっぱり混ざりたかったな、と思うくらいだった。
「決着はつかず、ですか」
「この短期間でここまで追い上げてくるなんて。大したものですわ、アルセラ」
「元よりそこまでの実力差があったわけではないでしょう」
「……チッ。反論できない自分が情けありませんわ」
舌打ちっておまえ。仮にも伯爵令嬢だろうに。
「ねー、なんで二人だけでやっちゃうのさー。私も混ぜろよー」
問答無用で斬りかかれば応えてくれるかもしれないが、私は別に戦闘狂というわけではない。これでも平和な日本で教育を受けた一社会人の魂を持つ者である。まずは確認するのが礼儀ってもんだ。
「ごめんなさい、ライカ。これはわたくしたちにとって譲れない戦いだったのです」
レティが屋敷の壁に木剣(大)を立てかけた。やる気はないらしい。ちぇっ!
そんなこんなで不完全燃焼のまま楽しい素振りタイムは終わりを告げ、私たちはお風呂で汗を流すことにした。元日本人である私にとってお風呂の有無は死活問題。貴族という地位そのものには興味がないけど、毎日お風呂に入れるならなってもいいかなって思うくらいには助かっている。お風呂は心の洗濯、ナントカが生み出した文化の極みってね。
「って、どうしたの二人とも。服着たまま入るつもり?」
汗まみれの服を洗濯籠に投げ入れ、全裸になった私は浴室のドアに手をかけたところで振り返った。アルセラとレティがじっとりと私を見つめている。なんて言うの? 野獣の眼光、的な?
「ライカの身体はいつ見ても綺麗ですわね……」
なんか急に肉体美を褒められた。アルセラも何度か頷きを繰り返した。
「そりゃ鍛えてるしね。もうちょっと筋肉が欲しいところだけどそこは成長待ちかなー。ってゆーか、二人もいいカラダしてんじゃん」
「まぁ、ライカったら……。わたくしたちのカラダに興味がおありですの?」
なんで頬を赤くするんだ、そこで。
「ラ、ライカが望むのでしたらこの身を捧げる覚悟はあります」
アルセラよ。雌の顔すんな。くねくねすんな。普通に可愛いから困るんだよアンタの場合は。
「あるかないかで言ったら、ある」
「「!!!!!」」
「だって大切な親友でライバルの身体でしょ? もっともっと強くなってもらうんだから必要なら健康管理とかもするよ。修行メニューも組み直すし、伸び悩んでいるなら些細なことでも相談に乗る。強くなるためなんでもする」
「「なんでも……?」」
「反応するのそこかよ」
眼光を余計に滾らせるアルセラとレティ。なんだかよからぬことを企んでいる気がする。
「ライカ。実は私、最近伸び悩んでいるんですよ。なので身体をチェックしてくれませんか? それはもう隅々まで。ついでに洗ってくださると幸福です」
そう言ってアルセラは湿り気を帯びた目で私を見つめながら服を抜き始めた。手足が長くて腰が細いから年齢不相応な色気がある。さながらストリップショーだ。見たことないけど。
「ライカ! わたくしもです! どこを鍛えればいいかアドバイスしてくださいまし!」
レティも脱ぎ出した。勢いよくシャツを捲り上げ、年齢のわりに大きく育った胸をぷるんと震わせる。スッゲェ美乳でビビる。アルセラがスレンダーならレティはグラマーだ。もしかして体型と戦闘スタイルは一致するものなのか……?
「うん、なんか真面目に検証したくなってきた。二人とも面倒見てやるからこいよ」
「「はいっ♡」」
そうして私は二人の身体を確かめまくった。
「──はっ」
気づいたらベッドの上にいた。あれからずっと体型と戦闘スタイルの一致について考察を深めていたのだが、いつのまにか二人に運ばれていたようだ。
その二人は私の両腕に巻きつくように寝転び、すでにすやすやと寝息を立てていた。
「いかん、またやっちゃった……」
剣のことで悩んでいるうちに時間を忘れ、現実を疎かにし、生命活動が危ぶまれるまで止まらないのが私の悪癖と言えよう。しかし、それをアルセラとレティがカバーしてくれるからなおさら悪化してしまった。今回はその一例である。今はフォーン伯爵が養ってくれているが、大人になっても二人と一緒にいるとしたら、衣食住の九割くらいは管理してもらわないとダメそうだ。
「まるでヒモ男だ」
独白に対する応答はない。すっかり寝入っているらしい。
「……でも、そんな未来もいいな」
自分にとって都合のいい未来を思い描く。大人になった私たちは今みたいに剣を振り、生活を共にしている。色んな場所を冒険して、未知の魔剣や伝説の剣士と出会ったり、自分たちで最高の剣を造ったりするんだ。冒険の他に集めた剣を展示したり道場を経営したりして豊かな生活をしよう。そして稼いだお金を剣にまつわることに全ブッパする。
最高だ。最の高。最高オブ最高。
「うへ、うへへへ」
朧げな意識が生んだ妄想はだんだんと夢にすり替わっていく。子供の身体は夜更かしには適していないのだ。私は幸せな未来予想図で頭の中をいっぱいにしながらようやく寝付いた。
ってなことがあったわけですよ。よく思い出せたな、私。
風呂と睡眠を共にした私たちが同じベッドにいるのは当然のこと。そこはなんとも思わない。だが、冷え込んできたこの時期に下着姿で寝かせた上に私だけが寒い思いをしていることには納得いかねぇ!
「うぉらぁぁ!!」
私はレティからシーツを奪い、そのままアルセラの顔面に叩きつけた。
昨晩見た夢の続きを叶えるためには寝坊なんてしてられない。そんなの私が許さない。
「朝だぞ、起きろ! 今日も修行だ!」
寝ぼけ眼をこする親友兼ライバルに向かって、私は朝一番の大声を張り上げた。
【簡易メモ】
ライカボディ……筋肉質で引き締まっている。その代わり身長があまり伸びていない。三人の中で最も小柄。
アルセラボディ……モデル体型。「どこに内臓入ってんの?」ってなる。三人の中で最も華奢。
レティボディ……平たく言えばロリ巨乳。骨格もしっかりしている。三人の中で最も大人びた体型。




