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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第二章 伯爵の町〈フォーン〉での闘技大会編
33/37

ライカはレティとライバル関係になった!

ポケモン新作買ったので次回は遅くなるかもしれません。

悪しからず。

 というわけで、なぜか修羅場に突入しました。


 誰か助けてください。


「うふふ、レティシエント様ったら、随分大きい寝言ですね」


「起きてますわよ!」


「チッ」


「舌打ち!? 舌打ちしましたわよね今!? しかも結構大きめに!」


「気のせいですよ」


 アルセラはとびっきりの営業スマイルを浮かべる。


「ところで今しがたご自身のほうがライカの親友にふさわしいという発言がありましたけど、いったいどの口でほざいてるんですか? あなたが先に喧嘩を売ってきたこと……まさか忘れてませんよね?」


 そして、表情を変えないまま、冷酷にレティシエントを糾弾した。


「わたくしとライカの間には死闘を経て紡がれた熱い友情がありますわ! だから親友の座はわたくしのものですわ!」


 対するレティシエントは目をかっぴらいて持論を展開。いつの間にか爆誕していた私との友情を主張する。いや、それはいいんだけど、死闘? ほとんど私からあんたへの私刑だっただろ。お人好し過ぎて記憶まで捏造したのか?


「それってあなたの感想ですよね? ライカはあなたの〝才能を認める〟としか言ってません。でも、私は確かに親友と呼ばれました。端からレティシエント様に出る幕はないんですよ。第一、私たちと違ってあなたは友達ですらないじゃないですか」


「えっ? ……そ、そうですの……?」


 アルセラが鋭く切り返し、絶望に染まるレティシエント。


 友情云々以前に友達ですらないとか、これはもう決まったな。


「初対面で喧嘩を売り、ライカの夢を鼻で笑い、親友である私を貶めた。これだけのことをしておいて友達ヅラできるなんて普通の神経じゃ無理ですよ。少しは他人の気持ちを考えたらどうです? 自分勝手にも程があるでしょう。友情が聞いて呆れますね!」


 うわ、きっつ。アルセラ、やっぱり相当怒ってたんだな。ってかレスバ強い。でもそれを二人に挟まれた状態で聞かされる私の身にもなってほしい。


「そんな……わたくしは友達ですらなかったなんて……。ねぇ、ライカ! 嘘だとおっしゃって! わたくしを捨てないでくださいまし!」


「ライカ! 甘さを見せてはいけませんよ! 私、知ってます! 教会にもくるんです! 救われたいときだけしおらしくなる、彼女みたいな人が!」


 闇を見せるな、闇を。汚い大人の話なんか聞きたくないってばよ。


「ま、まぁ、とりあえず二人とも落ち着こう? 一応ここ病室なわけだし」


「わたくしたち以外には誰もいませんじゃありませんの! それよりライカ! どうなんですの!? わたくしは貴女のなんなんですの!?」


「ライカの親友は私です! 貴族は貴族らしく上流階級とたわむれてなさい! 私たちは庶民同士仲良くやるので!」


「貴女だって元貴族でしょうが! こんなときだけ立場を使い分けるなんて卑怯ですわ!」


「二人ともそろそろいい加減に」


「ライカ、この人の話なんて聞かなくていいですからね!」


「ライカ、わたくしの話を聞いてくださいまし!」


「あの」


「ライカっ!」


「ライカぁ!」


「「ライカぁぁぁっ──!!」」


 ……ブチッ!


「だぁぁぁァァアアア!! うるせぇぇぇェェエエエ!!」


 私は咆哮と共に立ち上がり抜剣した!


「さっきからゴチャゴチャやかましいんだよ! だったら剣で決めればいいだろ! 私たちは剣士だ!」


 ぎろりと左右を睨む。挑発ついでの『神威』も忘れない。二人は急に静かになった。


「な、何もそこまで言ってませんわ……」


「そうです。今は身体を休めるのが最優先じゃないですか」


「散々騒いどいてひよってんのか、あぁ!? 私に勝てたら親友でも嫁でもなってやるからかかってこいよ!」


「「嫁!?!?」」


 怒涛の勢いで食いつく二人。あ、これマズったな。


「お嫁さんといえばどう考えても親友よりも上の立場ですよね! 不束者ですがよろしくお願いします!」


「馬鹿をおっしゃい! それこそフォーン家の次期当主であるわたくしのほうがふさわしいですわ! 生活には絶対困らせませなくってよ!」


 気づけば二人はそれぞれの得物が握っていた。しかも私以上の臨戦体勢である。やっちまった。鎮火するつもりだったのに油を注いじゃった。てへ☆


 とか言ってる場合じゃねーよ! 修羅場超えて羅刹場だよ、もう! 一触即発もいいところだ!


 くそったれ、こうなったら元凶である私が二人を止めるしかない! 1対2では分が悪いけど、やるってんなら存分に楽しませてもらおうか!


 くく、なんだかアガってきたな! 貧血? ンなもん知るか! 血ィくらい急造しやがれ、私の身体ァ!


 さぁ、始めようか!


「いったい何事ですか、騒々しい!」


「「「あ」」」


 ドアが乱暴に開かれ、私たちは停止する。


 現れたのは医者だ。額に青筋を浮かべ、耳を真っ赤に燃え上がらせ、明らかにブチギレた様子である。


 これはやばいぞ。年の功でわかる。優しい人ほど怒らせると怖いんだ!


「君たちは病人としてここにいるんですよ! おとなしく寝てなさい!」


「止めないでくださいまし! 今は大事な話の途中ですの!」


「あっ、バカ!」


「休む以上に大事なことなどありませんッッツツツ!!」


「ぴぃっ!?」


 どこから出したの? と聞きたくなるような悲鳴をあげるレティシエント。自業自得だ。その隙に私は寝かせてもらうぜ! ちなみにアルセラもとっくにシーツの中へと退避していた。


「わかったらさっさと寝なさい! 伯爵家の方でも容赦しませんよ私は!」


「ご、ごめんなさ〜い!」


 レティシエントも頭からシーツを被り、私たち三人は小さな繭と化す。


「まったく……。ヤンチャなのは試合の中だけにしてくださいよ。君たちは医者の目から見ても無茶が過ぎる。もう少ししたら伯爵様もいらっしゃいますから、三人ともちゃんと安静にしているように。いいですね?」


「「「はーい」」」


「よろしい。次騒いだらベッドに縛りつけますからそのつもりで」


 そう言い残して、医者という名の嵐は去った。


 私たちはすっかり意気消沈である。


「怒られちゃいましたの……」


 左から啜り泣く声が聞こえる。これくらいでめそめそするなよ……。


「情けないですね。私なんか毎日あれより怒られてましたよ。家族のもとに帰りたくないのかって何度殴られたことか」


 そこ、同意見だけど、不幸マウントはやめなさい。誰も幸せにならないから。


「はぁー……」


 なんだかドッと疲れた。貧血以前に、気持ちがね。


「で、結局親友の話はどうすんの。二人とも親友ってんじゃダメなの?」


「レティシエント様と同列に扱われるのはちょっと……」


 ド直球ですげぇ失礼なこと言うのな。あんたも大概いい性格してるよ、アルセラ。


「ぐすっ、ライカはわたくしにとって初めての友達ですの。できるだけ特別な関係がいいですわ」


 涙ながらに訴えてくるレティシエント。事情は知ってるからどうにか応えてやりたいけど、先にアルセラを親友認定しちゃったからなぁ。


 さてはて、どうしたものか。


「…………。……あっ、じゃあこういうのはどう?」


 二人が私に注目した。


「親友はアルセラね。これはもう決めたことだし変えられない。だからレティシエント。あんたは私のライバルってことにする」


「ライバル……ですの?」


「そう。何があっても絶対に負けたくない相手だ。今回、私が勝てたのは、私に有利な条件がたまたま揃っていたからだ。同じ条件で戦っていたら……たぶん結果は逆だった」


 反省点は試合終了直後に挙げた通り。掘り返せばまだまだ出てくるだろう。


「あんたはこれからグンと伸びる。そう確信している。だから私は、特別なライバルであるあんたにだけは負けないようもっともっと強くなる」


「…………」


「ってことで、どうかな? アルセラは親友。レティシエントはライバル。これがいい落としどころだと思うんだけど」


「……レティと呼んでくださいまし」


「へ?」


 涙目+上目遣いで急に何を言い出すんだ。


「わたくしと貴女は特別な関係なのでしょう? なら呼び方も特別でなくてはいけませんわ」


 あ、そういうことっすか。こだわるねぇ。


「わかった。今後はレティと呼ばせてもらうよ」


「ええ、ええ! どうかたくさんお呼びになって! ちなみにお父様以外でレティと呼ぶことを許したのはライカが初めてでしてよ! 光栄に思うといいですわー!」


「へいへい、あざーっす」


 調子いいんだから。まぁ、泣きベソかかれるよりはマシか。ライバル視しているのは本当のことだし。


「…………」


 ハッ。背中に冷たい視線。


「妬いてる?」


「妬いてませんっ」


 そう言ってほっぺを膨らませ、プイッとそっぽを向くアルセラはどう見ても妬いてます本当にありがとうございました。こっちもこっちでわかりやすいわ。


「んじゃ、一番の親友がアルセラで特別なライバルがレティってことで決まりね。二人とも、もうこの件で喧嘩はしないように」


「構いませんわー!」


「……いいでしょう。それで手を打ちましょう」


 アルセラはまだ不服そうだが、どうにか丸く収まったな。


 いや、それにしても。まさかモテ期が死んでからくるとは思うまいよ。しかも相手は高貴な生まれで同性の子供だ。フツーに考えて手を出すのも出されるのもマズかろうて。よくがんばったぞ、私。


 日本人的な感覚を残していた自分を褒めつつ、私はひと段落ついたことに安堵し息を吐いた。




 それから約10分後のことだ。


 フォーン伯爵がセバスさんを連れて治療室にやってきた。


「お父様!」


 レティがいち早く反応する。


「おお、レティ。身体の具合はどうだ? お腹は空いてないか? 喉の渇きは? 必要なものがあればなんでも持ってこさせよう」


 私だったらレバーとほうれん草が欲しいね。あとは白米とステーキ。焼き魚とお刺身も少し。野菜はあんまり好きじゃないからいいや。あー、腹減った。


「そんなことよりお父様! わたくし、ライカと特別なライバル関係になりましたの!」


「ほう」


 眉を上げるフォーン伯爵。アルセラは相変わらずムッとしていた。


「特別だからレティと呼ぶことを許しましたわ!」


「そこまで親密になったのか。ライカ、君は実に不思議な子だな。たったの一日でレティがこうも変わるとは。……父親として不甲斐なく思うよ。この天真爛漫さを殺しかけていたんだな、私は」


「ストップ。暗い話はやめてください。気が滅入ります」


「おお、すまんすまん。病は気からとも言うしな。切り替えて、大事な話をしようか」


 そう言うとセバスさんが部屋の隅から椅子を持ってきて、フォーン伯爵がその場から動かずとも座れるようにした。おそろしく速い動き。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。


「まずはアルセラ。君に対しての謝罪だ。ヴァンキッシュ子爵家からの救援要請に応じなかったこと。試合が終わり弱っているところにこの真実を明かして追い詰めたこと。以上の二点について我々は深く反省している。本当にすまなかった」


「アルセラ、二つ目に関してはわたくしの独断でやったことですわ。大変申し訳ありませんでした。体調が戻ったら伯爵家の一員として正式にお詫びをさせてください」


 フォーン親子は深々と頭を下げた。レティに至ってはベッドの上で土下座している。先ほどの〝病は気から〟という(ことわざ)だったり、今の土下座だったり、そこかしこに散りばめられた日本の要素で、私は前世に戻ったような気分になった。


「……別にいいです。あなたたちに謝られたところで何も返ってきませんから」


 アルセラが視線を落とす。大人びてはいるものの彼女とてまだ11歳の子供。そう簡単に割り切れるはずもない。


 静寂の帳が下りて、フォーン親子は気まずそうにアイコンタクトを交わした。次はどうするべきかを無言で協議しているように見える。


 おいおい、しっかりしろっての。ヘタレてんじゃないよ。


 ……ったく、しゃーない。


 ここは親友のために一肌脱ぐとしますか。


「謝罪は結構ですけど、どうやってけじめをつけるつもりなんですか?」


「う、うむ」


 助かったぞ、とフォーン伯爵が咳払いしつつウィンクしてくる。やめろ気持ち悪い。


「我がフォーン伯爵家は、アルセラ嬢が計画しているヴァンキッシュ領奪還作戦に対し、可能な限りの全面的な支援をすると此処に誓う。当面の衣食住の提供などもこれに含まれ、計画実行の際には〈フォーン〉を拠点とする冒険者に対してクエストを発行し、必要があれば騎士団を動員し、人員の確保に努める。また、計画が成功した暁には貴族院に対して当家からヴァンキッシュ家の再興を申請。アルセラ嬢が〈ヴァンキッシュ〉の領主となるよう計らう所存だ」


 ひゅぅ、破格の条件だねぇ! これはつまり〈フォーン〉が丸ごとアルセラの戦力に加わるということだ。計画実行までの間に冒険者や騎士団を鍛えておけば成功率はさらに上がる。こんな美味しい話を蹴る理由はない!


「いいです。信用なりませんから」


 って、あっるぇー?


 アルセラは賢い子だ。自分にとって何が得になるかを冷静に判断できる。だから、フォーン親子を許せないにしても協力関係だけは結ぶと思っていた。


 しかし、結果はご覧の通り。


 にべもない拒否である。


 らしくない。らしくないぞ。


 アルセラ、いったいどうしちゃったの?

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― 新着の感想 ―
[一言] 分かった!アルセラもライカに特別の呼び方で呼ばれたいでしょ! ※違います
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