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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第二章 伯爵の町〈フォーン〉での闘技大会編
26/37

ライカは二人の決着を見届けた!

お待たせしました。

コロナによる咳と体力低下に悩まされながらもなんとか続きを書けました。

これも読者の皆さんが応援してくれたおかげです。

いつのまにかポイントが伸びていて、わりとマジで励みになりました。

今後ともよろしくお願いします。

 視界が白で埋め尽くされ、待つこと数秒、閃光が止み、私はうっすらと目を開く。


「あれは……」


 アルセラは──変容していた。


 全身に稲妻を纏い、桃色だった髪を白く染め上げ、これまでにない圧倒的な存在感を放っていた。


 私はその姿を、雷の化身だ、と思った。


 同時に既視感を覚える。


 あれは……『雷神の滅鎚(トールハンマー)』だ。


「まさか『雷神の滅鎚(トールハンマー)』を取り込んだのか!?」


 だとしたら今のアルセラはぶっちぎりで最強だ。私は『雷神の滅鎚(トールハンマー)』の凄まじい威力を知っている。あれをその身に宿すということは、つまりはそういうことだ。私とレティシエントが二人がかりで挑んでもきっと勝てない。


 迸る魔力はひたすらに凄絶で、アルセラの足元は蜘蛛の巣状に割れていた。私の目の前にある窓ガラスすらも悲鳴のような軋みをあげている。ついでにミルフィーユちゃんが腰を抜かし、口をあんぐりと開けていた。


 私が状況を把握した頃、白い稲妻と化したアルセラが動く。


 否。


 すでに(・・・)動き終わっていた(・・・・・・・・)


「はやっ!?」


 ずがん、と試合場の壁が砕ける。慌てて視線をスライドさせると、今までレティシエントが立っていた場所に、剣を振り抜いた姿勢のアルセラがいた。


 アルセラは誰にも反応を許さない速度でレティシエントをぶっ飛ばしたのだ。


「な、なんてスピードだ。まるっきり見えなかったんだけど。それにパワーも桁違いに上がってる」


『だが反動も大きいようだぞ』


 アルセラはレティシエントのほうに向き直り、さらなる追撃を仕掛けようとして、大きくよろめいた。その際、全身を包む白い稲妻が弱々しく明滅する。


 そりゃそうか。『雷神の滅鎚(トールハンマー)』は一発撃っただけで身動きが取れなくなるほどの大技だ。それを無理やり体内に押し込めたとなれば肉体への負担は計り知れない。今の一撃だけでも相当つらかったはずだ。


 だけどアルセラは諦めない。しっかりと大地を踏み締め、白い稲妻と共に戦闘態勢を取る。


 壁に叩きつけられたレティシエントが這い出し、大剣を支えに立ち上がった。こちらもまだ心は折れてない。


「すごいな……」


 おそらくアルセラはこの技を私との試合で使うつもりだったのだ。


 でも、レティシエントが予想以上に手強くて、奥の手を切らざるを得なかった。


 私の自惚れでなければ、アルセラが私に謝ったのは初披露のタイミングが前倒しになってしまったからだろう。


 充分だ。充分だよ、アルセラ。


 気持ちは確かに伝わった。


 嬉しくて、泣きそうだ。


 そしてレティシエント、あなたもすごいよ。


 あなたの強さは想像を超えていた。


 ここを凌げばあなたの勝ちだ。


「がんばれ、どっちも」


 それは本心からの応援だった。私は二人の剣技にすっかり魅せられていた。


 どっちが勝ってもよかった。むしろどっちにも勝ってほしかった。そうすれば両方と戦える。


 だが、戦いとは勝敗を決めるためのものだ。アルセラとレティシエント。二人の天才のうち、どちらかとしか私は戦えない。


 だから、せめて両者の勝利を願う。


 これがこの大会における私なりの賛辞だ。


 アルセラが再び閃光になる。文字通り目に止まらぬ速さで移動し、レティシエントの真横の壁を蹴って無理やり停止、反応が間に合わないレティシエントを裏拳で殴りつけ、試合場の中央に戻す。

 

 レティシエントは吹っ飛ばされたが、今度は受け身を取って立ち上がった。そして大剣を盾にした。それが読みなのか、はたまた反射的な行動なのかはわからない。しかし、偶然にもアルセラの追撃を防ぐことができていた。


 だが今のアルセラは比類なきパワーも備えている。さすがに威力を殺し切ることはできず、大きくノックバック。そのまま倒れ込んでしまう。


 アルセラはその隙を突くことができない。その場に立ち尽くし、反動による苦痛に耐え忍んでいた。白い稲妻がさらに弱まる。あと一発で力尽きそうだ。


 一方、どうにか立ち上がったレティシエントも肩で息をしていた。気合いと根性だけで持ち堪えているような状態。こちらもあと一発で完全に動けなくなりそうな雰囲気だった。


 勝負はもう決まる。


 あと一発で、決まってしまう。


『次で最後だ』


「うん」


 アルセラが攻めの姿勢を取った。


 レティシエントが守りの姿勢を取った。


 両者は裂帛の叫びをあげ、最後の力を振り絞り、互いに向けて剣を振るう。


 その結果は──。


「ああ……」


 アルセラの、自滅だった。


 稲妻そのものと化したアルセラは、進行方向の制御ができず、レティシエントの横を通り過ぎたあたりでつまずき、そのまま壁にぶつかるまで試合場を転がった。


 空を切ったレティシエントはしばらく呆然としていたが、ゆっくりと振り向いてアルセラが倒れているのを確かめた。


 それから大剣を消し、握り拳で天を突き上げる。


 無言の勝利宣言だった。


『決着ッ! ついに決着ですッ!! 壮絶な意地と意地のぶつかり合いの末、最後に勝利を掴んだのは、レティシエント・マリー・フォーン選手だぁぁぁぁぁ!!』


 コニマちゃんがアナウンスし、観客はこれ以上の試合はないと言わんばかりの大歓声をあげる。会場全体が一つになった瞬間だった。


 レティシエントは賞賛の雨に対し、全方位に笑顔を振り撒く。それから一度アルセラを眺め、拳を掲げたまま颯爽と試合場を出て行った。


 入れ替わりで救護班が担架を抱えて飛び込んできた。気を失ったアルセラは彼らの手によって試合場の外へと運び出される。


 誰もいなくなった試合場には、未だに二人を讃える声が降り注いでいた。


「ふぅ」


 なんだかドッと疲れた。見ていただけなのに不思議な感じだ。


 アルセラ、落ち込んでないかな。負けたから私との約束は果たせなかった、なんて勘違いをしてなきゃいいけど。もしそうなら、私のほうからヴァンキッシュ領奪還作戦に協力するってあらためて伝えないとだ。


「よし、お見舞い行くか」


 そうと決まれば即行動である。私は控え室を出て、


『いやー、筆舌に尽くしがたいとはまさにこのこと! 両者とも一歩も譲らぬ激しいバトルを見せてくれました! レティシエント選手の粘りはすごかったですね! アルセラ選手のテクニカルな動きに翻弄されっぱなしかと思いきや、最後のほうは追いついているように見えました! それをさらに覆したのがアルセラ選手が最後に使ったあの技です! というか、変身? とにかく人間離れした強さでした! あれはなんだったのでしょう? あんな魔法は見たことがありません! アルセラ選手は治療室へと搬送されましたが、後ほどインタビューしたいと思います!』


 響き渡るコニマちゃんの声を聞きながら、治療室に向かうべく廊下をずんずん進んでいった。




 各所にある案内板のおかげで道に迷うことはなかった。


 治療室に入ると、まず医者と看護士が一人ずついて、ベッドにはアルセラが寝かされていた。医者はアルセラの手首に指を当てている。どうやら脈を測っているらしい。記録係の看護士は私の来訪に気づき、笑顔で迎え入れてくれた。


「どうも。アルセラの様子は?」


「うん? 君は……ああ、ライカ選手でしたか。アルセラ選手ならなんともありませんよ。ひどく体力を消耗していますが」


 医者が朗らかに言い、「もう少し待っていてください」と付け加えた。私はその通りにする。


 数分が経過し、


「ライカ選手、彼女の検査が終わりました」


「大丈夫なんですか? 結構無理してたように思えますが」


 ちょっと食い気味に聞いてしまった。落ち着け、私。


「先ほどもお伝えしたように健康状態に異常はありません。ただ、今は軽度の魔力欠乏症に陥ってます。この状態は精神が荒れやすく刺激するのは好ましくありません。丸一日安静にして自然回復を待つべきでしょう」


「アルセラが傷つくようなことを言わなければいいんですかね?」


「その認識で合ってます。大人であればさほど気にしなくてもよいのですが、アルセラ選手はまだ子供で精神が不安定ですから。どうかご友人として優しく接してあげてください」


「わかりました」


「では、私たちは一旦これで失礼します。二人きりのほうが心も休まるでしょうから」


 医者と看護士は軽く会釈したのち、治療室を出て行った。


 私はアルセラが眠るベッドの傍らに移った。


 規則正しい寝息が聞こえる。


「おつかれ、アルセラ」


 労いの言葉をかけながら頬をひと撫でしてやると、アルセラはくすぐったそうに身をよじる。


 うーん、美少女ですね。顔がいい。同性でよかったよ。異性なら絵面が危なくてこんなことできないもん。トータルだと私結構年齢(トシ)いってるし。ぶっちゃけおばさんですし。


 などとヘラヘラ笑っていたら、アルセラが唐突に目を覚ました。


「ライカ?」


「うわおっ!? びっくりした!」


 リアクションで変なポーズを取っちゃったじゃんか。


「ふふ、なんですかそれ」


 アルセラは私の奇行に微笑むが、すぐに表情を曇らせる。


「ここにいるってことは負けたんですね、私」


「ああ、うん。最後は力を制御し切れずに自滅してた」


「はっきり言いますね……」


 遠い目をするアルセラ。ヤバ、今はとびっきり優しくしなきゃいけないんだった。


「い、いやぁ、でも仕方ないと思うよ! あんな大技発動できるだけですごいし! 真似しろって言われても絶対できないし! っていうかあれ『雷神の滅鎚(トールハンマー)』の応用だよね? 技の名前はなんていうの?」


「誤魔化すのヘタクソすぎませんか? まあ、ライカだからいいですけど」


 よくわからんが許された。やったぜ。


「私はあの技を『雷神の滅身(トールギウス)』と呼んでいます」


「『雷神の滅身(トールギウス)』……」


「六つの異なる属性を上手く混ぜ合わせると、なぜかあの白い稲妻に変わるんです。それをそのまま撃ち出す場合は『雷神の滅鎚(トールハンマー)』、体内に取り込む場合は『雷神の滅身(トールギウス)』と呼び分けています。どちらも反動がひどくて、一度使えばこのザマです」


「本当にすごかったよ。まさに一発逆転の切り札だ」


 あくまで推測になるがステータス的には数倍……いや十倍以上はパワーアップしていただろう。少なくとも強化倍率は私の『気功剣技』を確実に上回っていた。アルセラがあれを完璧にコントロールできるようになったらそれこそ敵無しだ。


「本当はライカとの試合でお披露目するつもりだったんです。でも、レティシエント様が想像以上に強くて、勝つためにはああするしかありませんでした。ごめんなさい」


「謝ることないって。アルセラは私との約束を充分に果たしてくれたよ。だから私もヴァンキッシュ領奪還作戦に参加すると此処に誓う。一緒に戦おう」


「ライカ……! ありがとうございます。私、すごく嬉しいです!」


 涙ぐんじゃってまあ。しかし今は精神が不安定だから喜びも強く感じるんだろうな。お見舞いにきて正解だった。


 ──コン、コン。


 突然のノック音。私たちは揃って反応する。


「誰でしょう?」


「私出るよ」


 商人のおじさんたちかな? と思いつつ私はドアを開いた。


 すると、真っ赤なドレスの金髪美少女が現れた。


「レティシエント!」


 もしかしてお見舞いにきたの? うぉぉ、いいところあるじゃん! そりゃあんな試合しちゃったら相手の様子が気になるよね! 戦いの後には友情が芽生えるのがセオリーだ!


「お邪魔しますわ」


「いらっしゃいませ!」


「なんで貴女が嬉しそうなんですの。気色悪い」


 つっけんどんだねぇ。レティシエントも疲れているのかもしれないな。


 レティシエントはアルセラのそばに近寄った。そして細腕を組み、ため息混じりに見下した。


「みっともない最後でしたわね。まさか自滅するなんて」


 抑揚のない声。どこまでも冷ややかだ。


「お恥ずかしい限りです。二度とこのような失態を犯さぬよう精進致します」


「あー、レティシエント? 今のアルセラは不安定だからあんまり追い詰めるようなことは……」


「お黙りなさい。貴女には関係ありませんわ」


「むぅ」


 な、なんだよ、私だけ除け者にしちゃってさ。もうちょっと会話してくれてもいいじゃん。っていうか、なんか様子がおかしくないか? 疲れているとしてもこんなにローテンションな子だっけ?


「わたくしは勝ちました。貴女は負けました。貴女は弱者で罪人です」


「今更言われずともわかっていますよ。ところで、ヴァンキッシュ領奪還作戦にフォーン伯爵のお力添えをいただく話は──」


「あんなもの白紙ですわ」


「……そうですか」


 明らかに落胆するアルセラ。心配すんなって。仲間集めも手伝うさ!


「弱さは罪。罪には罰を」


「あん? 急にどうしたの?」


 私がレティシエントの後ろでこっそり親指を立てていると、レティシエントは神妙な顔つきでつぶやいた。当然、私のことは無視だ。


「アルセラ。貴女はわたくしに負けましたわ。負けたのは弱いからですわ。ゆえに罰を受けねばなりません。そうじゃないと──辻褄が合いませんわ」


「レ、レティシエント様? 何の話をしているのですか?」


「わたくしだけがこのルールに縛られるのは間違っている……だからわたくしのすることは正しいはず……」


「レティシエント、ホントにどうしたの? さっきからなんかおかしいよ?」


 私はレティシエントの肩に手を乗せた。


 彼女はそれを即座に振り払い、やけに据わった目つきでアルセラを注視する。


 なんか、ヤバい。


「貴女の素性は調べました。ヴァンキッシュ家の隠し子でしたのね。捨てられちゃって可哀想に」


「それは……」


「おい、言いすぎだろ」


「しかも調査の過程で面白い事実が発覚しましたわ。数年前、ヴァンキッシュ子爵家は我がフォーン伯爵家に対して何度も支援要請を出していました。けれどお父様はこれを徹底的に無視。ほどなくしてヴァンキッシュ領が陥落しました」


「っ、やめろ! ぐぅ……っ!?」


 この先は言わせちゃいけない──。そう直感して再度レティシエントに掴みかかる。だが、かえって両手首を締め上げられてしまった。異様な力だ。なんらかの方法でステータスを底上げしているとしか思えない。


「つまりどういうことか、お分かり?」


 私の静止を意に介さずレティシエントは語り続ける。


「嘘だ……」


 アルセラの白い肌からスッと赤みが抜けていく。

 

「聞くなアルセラぁ!」


 少なくとも情緒不安定な今はダメだ! 私は体内の気を練り上げ、本気でレティシエントの口を塞ごうともがいた。


 しかし、


「お父様はね。わざと見殺しにしたんですのよ。魔物に蹂躙される貴女の家族を」


 最悪のカミングアウトは……止められなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか纏うとは思いませんでした!予想外でした レティシエント追い詰められているのでしょうか… [一言] コロナ結構きついですよね...水分取って大事にしてください 続きめっちゃ楽しみです …
[一言] もうやめて、とっくにアルセラのライフはゼロよ!
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