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黒の剣姫 〜異世界転生したので世界最強を目指します〜  作者: 阿東ぼん
第二章 伯爵の町〈フォーン〉での闘技大会編
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ライカはアルセラの奥の手を見た!

皆さん、こんにちは。

コロナにかかりました。オミクロン株です。

ようやく熱が引いてきましたが、数日間何もできなかったため執筆が大幅に遅れてしまっています。申し訳ありません。

しかし、コロナなんぞに負けず続きを書いていく所存です。

今後ともよろしくお願いします。

 レティシエントが呼吸を整えている間、アルセラはそれをただ見つめていた。


 アルセラは頭を使って戦うタイプだ。どちらにもまだまだ余力はあるようだし、下手に踏み込んで痛手を負うよりは冷静になる時間を作ったほうが得と判断したのだろう。


 レティシエントのほうも追撃が来ないことにホッとしているみたいだ。でも、次の瞬間には険しくアルセラを睨みつけていた。「余裕ぶってるんじゃありませんわ!」ってトコかな。


『動くぞ』


「今度はレティシエントからか」


 回復したレティシエントが大剣を軽々と天に掲げた。身体中から金炎の魔力を噴き出し、それを大剣に注ぎ込む。大剣は力強く煌めき、振り撒いたその圧力でアルセラの無表情を崩す。


 アルセラが防御体勢を取った。


 わかっているみたいだね、アルセラ。


「来るよ──本気の《飛竜剣技》が」


 レティシエントが地面を足で割りながら大剣を振り下ろした。


 金炎の魔力が剣の軌跡を写し取り、三日月状の飛ぶ斬撃となってアルセラに襲いかかる。


 その速度は反応しきれないほどではないが──アルセラが正面から受け止めるにはやや荷が重いように思えた。


 アルセラは双剣を交差させ、さらに土魔法を使用。地面の砂を鞘のように固め、それを刀身に被せることで防御力の向上を図った。


 金炎の飛ぶ斬撃とアルセラの双剣がぶつかる。


 結果は、アルセラが吹き飛ばされた。


 と言ってもダメージを負ったわけではない。完璧に防御を固めた上で後ろに跳ぶことによって威力を減衰させていた。


 しかし、戦いの駆け引きがわからない観客からすると、レティシエントが今の『竜墜刃』で劣勢を打開したように見えたらしかった。歓声が沸き起こり、コニマちゃんも興奮気味に声を響かせる。


『な、なんという威力でしょうか! レティシエント選手、得意の『竜墜刃』でアルセラ選手を大きく後退させました! それにほら、『竜墜刃』が通った後をご覧ください! 地面が痛々しく抉れております! あんなのくらったらひとたまりもないですよ! ひぇー、恐ろしい!』


 楽しそうだねぇ。まあ見た目は派手だからエンターテイメントとしては十分か。でもアレなら普通に斬ったほうが強いよ?


 アルセラがあえて『竜墜刃』を受けたのもそれを見抜いていたからだ。一度体感しておきたかったのだろう。そこから通常の斬撃の威力を割り出し、今後の戦闘構築に役立てる。たぶん、そういう狙いがあるはずだ。


 レティシエントが金炎を撒き散らし、再度『竜墜刃』を放つ。


 身体を起こしていたアルセラは、今度は受けずに横っ跳びして回避する。


 それに気を良くしたのか、レティシエントは畳みかけるように『竜墜刃』を撃ちまくった。


 アルセラは壁沿いに走り、飛来する三日月を避け続けた。


 試合場の壁に無数の爪痕が刻まれた。うーん、修繕費がかさみそうだなぁ。伯爵涙目でしょこれ。


 試合場を半周したところで、『竜墜刃』だけでは捉えきれないと判断したのか、レティシエント自身も動き出した。横薙ぎの『竜墜刃』で壁を作り、それに隠れるようにしてアルセラに接近する。


 攻撃力の都合上、直接攻撃をくらうわけにはいかないアルセラは『竜墜刃』を棒高跳びのように跳び越えつつ双剣を振り、土魔法の石の柱でレティシエントの進路を塞ぐ。


 しかし、レティシエントは大剣でそれらを難なく振り払い進撃し続け、アルセラを壁際まで追い詰める。


 レティシエントがにやりと笑い、アルセラがここで初めて表情を歪めた。


 大剣は横に振り回されようとしている。背後には壁があるため、これを避けるには跳ぶしかなく、跳べば空中で叩き落とされるだろう。


 逃げ場はない。


 ならばどうするか。


 アルセラが出した答えは──前進だった。


 アルセラは倒れるように前へと一歩、レティシエントとの距離を一気に詰めた。鼻先が触れ合い、あと少しでキスしてしまいそうな超至近距離まで近寄られ、これにはレティシエントもぎょっとして攻撃を中断、足をもたれさせながら後ろに退がる。


 が、さらにもう一歩。アルセラはレティシエントの懐から出ようとしない。そこが安全圏であることを熟知している動きだった。


 そして、三歩目。アルセラは剣でも魔法でもなく、頭突きをレティシエントの鼻先にかました。


 レティシエントは片手で顔を押さえてよろめいた。


「今のは肝が冷えたなぁ。でもアルセラらしいや」


 ああいう荒々しい手段を躊躇いなく選べるのが彼女の強みだ。私も今度剣技の中にステゴロを組み込んでみようかな。不意打ちとしての性能はかなり高いと思う。


 してやられたレティシエントだが、この試合場には外傷を無効化し痛みだけを与える魔法が施されているため、鼻血を出したりはしなかった。立ち直るのも早く、再び通常攻撃と『竜墜刃』でアルセラの行動を縛っていく。


 すなわち回避の強要だ。当たれば一撃必殺の火力を前にアルセラは反撃を許されない。距離を取ろうにも『竜墜刃』の発動が予想以上に早く、予備動作が通常攻撃とほぼ同じなので見分けがつきにくい。慣れてきたのか、先ほどと違って魔法で細々と妨害を試みるも、全て攻撃のついでに振り払われてしまう。


 しかもレティシエントは少しずつだがアルセラの回避先を読み始めている。こうなるとアルセラは攻撃を避けるために無茶な身体の使い方をしなくてはいけなくなる。消耗は激しくなる一方だ。


 うーん……アルセラ、危ないかも。正直レティシエントの技量がここまでとは思ってなかった。口先だけじゃなかったってことだな。


 アルセラの動きが少しずつ遅れ始め、レティシエントの攻撃を捌き続けた先ほどとは真逆のシチュエーションが完成していく。直撃は時間の問題。状況はレティシエントが有利だ。


 ところで、レティシエントは何発も『竜墜刃』を撃っているけど、あれは魔力の残量とか平気なんだろうか?


「ねぇクロウ。《飛竜剣技》ってあんなにバカスカ撃てるもんなの?」


『元は飛竜を落とすために編み出したのだろう? それほど効率の良い技とは思えないが』


「うん、私も同感。結構消耗が激しいはずだよね、あの技」


 なのにレティシエントはいくら撃っても疲れを見せない。これは単純にレティシエントの魔力量が人並み外れていると考えるべきか。


 すると、この戦いはアルセラの体力とレティシエントの魔力の残量にかかってくる。


 私はどちらが先に力尽きるかを想像し、


「アルセラ、かな」


 消耗の激しさを基準としてその答えに行き着いた。体力は逐一減っていく。しかし魔力が減るのは『竜墜刃』を使ったときだけ。普通に考えて体力のほうが早く尽きるだろう。まあ実際に尽きるのはもっと後になると思うが。


 逆にレティシエントの魔力切れを狙う戦法はやめておいたほうがよさそうだ。効率が悪いし、何よりそんなやり方はつまらない。


 私がやるときはもっとガンガン打ち合いたい。


 ここまであまり褒めてこなかったけど、彼女の剣技だって素晴らしいものだ。しっかり鍛錬しなきゃあんなふうに大剣は振り回ないし、通常攻撃と『竜墜刃』をスムーズに切り替えるなんてできっこない。


 レティシエントとの戦いにおいては、あれと思いっきりぶつかることこそが醍醐味だ。あれを味わわないなんてスイカの真ん中を捨てて皮だけを食べるのに等しい。


 でも、アルセラはそうもいかないな。正面から打ち合えない以上、どうにか絡め手を使ってこの状況を打開する必要がある。さっきみたいに懐に潜り込めたらいいのだが……。


 あるいは、レティシエントの〝致命的な欠陥〟を突くか。


 ──アルセラの動きが変わった。


 どうやらこちらもレティシエントの剣を見切り始めたらしい。回避が減り、受け流しが増えてきた。


 表情こそつらそうだが、戦況は均衡を取り戻していく。


 そして、


「ああ、そうすべきだよね、アルセラ」


 レティシエントとの位置関係が逆転するように立ち回り、さらに土魔法を使う隙を十分に作った上で、アルセラは『竜墜刃』を正面から防いだ。


 アルセラは数メートル吹き飛ばされ、壁際から試合場の中央へと帰ってきたのだった。


『相手の技を利用したのか。上手いな』


「気づかせないのがすごいよね。ほんと天才的だ」


 会場もいつのまにかアルセラが窮地を脱していたことに驚いていた。アルセラが仕組んだ罠はそれほどまでに巧みだったのだ。当のレティシエントもようやく嵌められたことを悟ったようで、一瞬呆けたのちに大剣を構え直している。


『だがアルセラの消耗は激しいぞ。今度絡め取られたら一巻の終わりだ』


「第二ラウンドはレティシエントの判定勝ちってことでいいだろうね。アルセラはそろそろタネが尽きてきたかな? まだ何か隠してそうな気はするんだけど」


 自分で言ってて思った。なんだかアルセラが手品師みたいだ。『戦場の魔術師』とかでもよかったかもしれないな、二つ名。


『奥の手があるとして、それを出さないのはライカとの戦いに備えているからじゃないか?』


「だとしたら私はこの試合を観るべきじゃなかった? ……いや、無理! こんなにすごい戦いを見逃すとかありえないよ! もはや拷問じゃん!」


 もしそうなっていたら、私は人を殺してでも観戦しようとしただろう。残虐非道の剣狂い・魔王ライカの爆誕である。


「お、おい! いきなり大声出すんじゃねぇ! 独り言なら静かにしやがれ!」


 部屋の隅にいたミルフィーユちゃんがこっちに向かって叫んできた。クロウとの会話は小声だから聞こえてなかったけど、さすがに今のシャウトは届いてしまったらしい。びっくりさせてごめんよ。私は愛想笑いで誤魔化した。


「ったく、これだから頭のおかしいヤツは……」


 ミルフィーユちゃんはブツクサ言いながら試合観戦に戻った。


『ライカの将来が心配だ』


 クロウも呆れ気味だった。


「と、投獄されるような真似はしないと誓うよ」


 そんなことしちゃったら剣を振れなくなるもんね。犯罪者にだけはならないように気をつけよう。


 試合は第三ラウンドに移行する。


 おそらく次の攻防で決着がつくだろう。


 アルセラは度重なるトリックプレイで火力のなさを補ってきた。


 レティシエントは翻弄されながらもパワーで劣勢を覆してきた。


 どっちが勝ってもおかしくない。


 どっちが負けてもおかしくない。


 勝負の行方はわからない。


 睨み合う二人が醸し出す雰囲気は会場を呑み込んで静寂を生む。コニマちゃんも空気を読んで黙っていた。みんな終わりが近いことを感じ取っている。


 ふと、アルセラがこちらに顔を向けた。


 その唇がかすかに動いた──ように見えた。


「〝ごめんなさい〟……?」


 頭に浮かんだ言葉を復唱する。けれど、これが合っているのか、合っていたとして何に対しての謝罪なのか、まったく理解できない。


 アルセラが構えを変える。


 胸の前で双剣を交差させた状態から、腕をまっすぐ前に伸ばした状態に。


 三体のオークを跡形もなく屠った戦技『雷神の滅鎚(トールハンマー)』の構えだ。


 あれをやる気か? でも隙が……。


「違う」


 そうじゃない。アルセラは別のことをやろうとしている。私の直感が未知の技を予感している。


 右は白に。左は紫に。アルセラの双剣が輝き出し、魔剣として起動した。


 同時にアルセラの周りに四色の光の玉が現れる。


 二つ名の由来にして翼に喩えられし六色の魔力は、双剣の間に溜まるのではなく、アルセラ自身に吸収されていく。


 そして、


「うっ……!?」




 ピ シ ャ ア ァ ァ ァ ン ッ ッ ! !




 と、白雷が爆ぜた。

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