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軍則第四条の罪人  作者: 南雲 燦
第三章
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舞踏会

 こんなに、俺を困らせるのも。

 こんなに、俺をそそらせるのも、お前だけ。

 笑いあっていたいのも。

 触れたいのも。

 ずっと一緒にいたいのも。

 ジェノヴァ、君だけだ。


「あっ!レイ、見て!流れ星!」


 ドレス姿なのも忘れて、無邪気にベランダから身を乗り出して、夜空を指差す彼女。こっちを見て、ニカリと笑う。上品さとは程遠いのにも関わらず、なんて魅力的に映るのだろう。誘惑的な仕草なんて何1つしていないのに、その笑顔にやられそうだ。5歳も年下にこんなにも惑わされるなんて予想もしてなかったと、レイは自身に苦笑した。


「落ちるぞ」

「落ちないしっ。俺の運動神経舐めんなってー」


 なおもベランダの手すりにのしかかる彼女の腰に手を回し、引き下ろした。うわ、と声をあげるのも構わずに、手を引っ張って室内へと導く。髪飾りの、短く薄いベールを下げてやれば、彼女の目元が隠された。


「ちょ、どこ行くんだっ」

「舞台」

「はぁ?」


 戸惑う彼女のイエス・ノーなんて、待ってやらない。待ってやる訳が、ない。会場の人は皆、否が応でも、第二王子と彼が連れている見知らぬ女に視線を集めた。そんな視線も意に介さずに、彼は彼女を会場の真ん中へと誘う。流れる優雅な音楽にあわせて。


「お、おい、目立つだろ!」

「わかんねぇって」


 すっぱり言い返し、立ち止まった彼は、彼女の腰に手を回した。


「え、ちょっ、ダンス!?」


 慌てふためく彼女に、思わずくすりと笑みをこぼした。


「無理だよ!」

「なんだよ、周りの奴らも踊ってるだろ」

「そういうことじゃないっ」

「あぁ、女側のダンスは知らないってことか。全部、俺に任せとけばいんだよ」

「そういうことでもないっ」


 彼は噛み付くジェノヴァをあやすかのように、よしよしと彼女の背中をさする。


「ほら、ステップ」


 ワンツー、と子供に教えるように囁く彼は、とても楽しそう。彼にリードされて、くるくると鮮やかなオレンジをひらめかせて踊る彼女も、次第に笑顔を見せ始める。


「なかなか上手いじゃねえか」

「言っただろ?俺の運動神経舐めんなよって」

「それは失礼致しました、お嬢様?」

「お、おじょっ!?」


 びっくりして足を踏み外した彼女を片腕で引っ張りあげて、彼は笑う。なんて優しい、笑顔。ジェノヴァはその一瞬の笑顔に見惚れる。


「今夜は、全て忘れて」


 その囁きは、砂糖菓子よりも甘い。ふわふわとした思考の中、ジェノヴァはそう思う。


「俺と過ごそうか」


 片膝をついて手の甲にキスを落とす彼は。

 私だけを見ていた。




***あとがき***


いつもご愛読ありがとうございます。

『ダウズウェル伯爵の深謀』がアンティーク系小説としてウェブサイトに開示させていただきました!

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