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軍則第四条の罪人  作者: 南雲 燦
第二章
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忠臣

 そんな彼の、レイのものは自分のもの、という態度がジェノヴァは嫌いだ。気に食わない。

 雪が舞い落ちるかのように沈黙がその場に静かに降り、それに取り巻かれる2人は、暫く言葉を交わすことなく対峙する。睨みにも似て、只視線を交わしているようにも見えたが、先に無機質な紅から力が抜けた。


 ルイが、ジェノヴァ、と仕方なしに後ろの彼を呼んだ。しかし、視線は目の前の男から一瞬も外さないままだ。ジェノヴァはこちらの様子を伺うように、ゆっくりと柱の陰から出てくると、胸元のポケットから折り畳まれた紙を取り出した。ちらりと不安そうな眼差しをルイに向けるが、彼の曲線美を描く横顔を、数秒眺めるだけのこととなった。結局、メモ紙をエディアルドの背後からぬっと現れた男に、それそれは嫌そうに渡す。


「ジェノヴァ、元気にしてたか」


 洋紙を受け取ったその男は、ジェノヴァの頭をくしゃくしゃと大きく無骨な掌で撫でた。彼からは、本物の嬉しさが滲み出ている。


「ヤヒト……この前も会っただろうが」


 そうだっけ、と適当を言いながら、髪をぐしゃぐしゃと撫で回し続けるもので、ジェノヴァから蹴りをお見舞いされている。それを身長からは想像ができない身のこなしで、綺麗にかわした。


「レイ、ありがとね」


 エディアルドはにこり、と微笑むと従者であるヤヒトを連れて、去っていった。


「相変わらず、嵐のようだな」


 ヤヒトがしつこく手を振るもので、ジェノヴァも恥ずかしがりながらも、振り返した。2人の姿が消えて、手を下ろしたジェノヴァは、隣の彼を見上げる。


「レイもあの人には頭が上がらないんだな」


 少し苦笑い気味の笑顔をもらしながらも、感心したように言う。


「うるせーよ」


 ジェノヴァの頭に、置くように手刀を落とすと、主人が従者いじめていいの?と彼は頰を膨らました。彼の兄はよく、ルイの元に来てはちょっかいを出したり、情報をもらいに来たりする。七刃の情報収集力に目を掛けている、と言えば聞こえはいいが、ていのいい横取りである。レイは兄には頭が上がらない様子だし、従者達は人よりけり、兄の弟に対する態度に多少の不満を抱えてはいた。最も、そんなことはおくびにも出さないが。


「お前もヤヒトはあんな感じで手を振るんだな」

「うるさっ」


 口の端を持ち上げ、面白がるレイに、ジェノヴァは下から威嚇の視線をぶつける。ヤヒトはジェノヴァと戦闘スタイルが似ている。お陰で、軍に入ってからは彼の元で訓練をしてきた。ジェノヴァが優秀なので、彼もよく目をかけてくれていたものだ。


「シャイボーイ、俺にも手ぇ振って?」

「黙ってろブラコン主人」

「あ?もういっぺん言ってみろ」


 先ほどとはうって変わって、年相応にふざけ合う2人の明るい声と戯れるような姿。もうそろそろ、月が真上に登る頃のことであった。


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