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軍則第四条の罪人  作者: 南雲 燦
第二章
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ミルガの帰国

「そりゃそーだよ、稽古ならまだしも、俺の仕事が増えるのは嫌だ」

「俺と一緒にいれる時間が増えるぞー?」

「いらんっ。これ以上増えてどうする」


 やっぱり、こいつは弄り甲斐があって面白い。カルキが楽しんでしまうのも無理はない、とレイは小さな彼を見下ろした。彼はその肩をいからせて、ずんずんと進んでいる。それが殊更面白い。


「まあ、いつも通り頼むぜ」


 そして、彼の柔らかい金の髪に手を伸ばし、くしゃりと撫でた。


「おーじっ」


 乱れた髪を押さえ、頰を膨らませて俺を見上げるジェノヴァ。桃色の頰は、ふっくらとして、指でつついたら餅のように萎みそうだ。こうやって、いつもムキになる彼はなんとも可愛い。


 そうやってしばらく歩き、仕事部屋のドアを開けようと、真鍮のノブに手をかけた。そのひんやりとした感覚に、すっと感情は檻に投げ込まれ、胸の奥にくすぶる塊の存在が主張し始める。それでも、君は俺の《《従者》》という事実に変わりはない。


「……ジェノヴァ」

「はい」


 言葉を出すのに突っかかるような、そんな感覚がする。舌が重く、喉が狭くなる。これはいつになっても慣れないものだ、と内心、自分の心の弱さに苦笑いした。

 しかし、彼の声は既に何かを察した声だった。レイが部屋の木製の重厚な扉を、静かに閉める。


「仕事を頼まれてくれるな?」


 その凛とした燃える瞳がジェノヴァを貫いた。

 紅い、紅い。

 ルビー色の瞳。

 王子の瞳だ。

 胸に手を当て、その瞳に促されるように王子の足元に片膝をついて跪く。


 俺はあなたの従者だ。


 そっと目を伏せた彼の顔に降り注ぐ窓から差し込んだ月光が、彼の口許にたたえられた、仄かな笑みを浮かび上がらせた。


 そう、俺の命はこの方の為に。

 盾にも矛にもなりましょう。

 そして従うのだ。


「……仰せのままに」

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