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黒幕幼女の異世界ゲーム  作者: バッド
22章 黒幕のいる世界なんだぜ

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300/311

300話 鉱山奴隷

 トート帝国の最大鉱山、キルン。家と呼ぶのも抵抗があるようなボロボロの掘っ立て小屋が鉱山の麓に大量に建てられている。ここ、キルンは人口30万人、その内、奴隷は23000人を擁する。トート帝国の中でも随一の奴隷数を抱えていた。


 そこには多くの奴隷が存在し、ボロ布を着て疲れた表情で寝ていた。朝早くから危険な坑道で休みなく働いているので疲れ切っているのだ。髪はぼさぼさで脂ぎってねっとりとしており、顔も真っ黒な者たち。痩せ衰えてはいない。なぜならば鉱山奴隷は体力が必要なので、すぐに倒れられて死んでもらっては困るからだ。


 鉱山奴隷はカチカチに硬い黒パンとたっぷりの野菜くずが入ったスープを3食貰っていた。奴隷の中でも労働条件が厳しく短命なために羨ましがる者はいないが。


 宵闇が空を覆い、逃走防止に柵周りに篝火が焚かれているだけの暗闇が支配する中で、掘っ立て小屋の中で、僅かに明かりが灯る小屋があった。その小屋には十数人の奴隷たちが厳しい表情で集まっていた。


「諸君、今回集まってもらったことに感謝を」


 中心に座る老齢に差し掛かる男が頭を下げる。その所作から教育を受けた者だと見る人が見れば気づくだろう。


「やはり噂は本当だったようだ。陽光帝国は我らを使い捨ての道具として自国に持って帰るらしい。そこでは今まで以上の過酷な生活が待っているとのことだ」


 その言葉に周りは騒然とする。鉱山奴隷も過酷であるのに、それ以上となると想像もつかない。今だって月に何人もの仲間が死んでいっているというのに。


 隣の知り合いが落盤で押し潰されて死ぬ。土を掘っていたら大ミミズに食われてしまう。体調不良となりそのまま目を覚まさないなど、この鉱山で奴隷の命がどれだけ軽いか具体的に出すと枚挙がない。


「どうやら開拓に使うらしい。魔物が徘徊する中で、カチカチの荒れ地を掘り返し、今よりも少ない食事で働かないといけないようだ」


 肩をすくめて淡々と事実のように語る男の話に聞いていた皆が絶望の表情となる。街の外の過酷さは知っていた。逃亡奴隷が稀に出るが、街の外に出たら最後魔物に食われて死んでしまうのだから。


 看守が面倒くさそうに血だらけのツルハシを持ち帰ってくるのだ。奴隷をわざわざ殺しにいったわけではない。そんなことをせずとも、魔物に食われてしまうのだから。看守たちの仕事は盗まれた鉄製のツルハシなどを回収すること。


 彼らは逃げた奴らに怒りもせずに、ただ面倒くさい表情を浮かべるだけ。それを見て奴隷たちは自分たちに価値がないと気づく。逃げても看守に相手もされず、ツルハシの方が彼らにとっては大事なのだと思い知らされて。


 そんな凶暴な魔物蠢く荒れ地を開拓するなどと、狼の前に生肉を置くことと同義だ。誰も彼も死んでしまうのは間違いない。


「俺たちが開拓すれば、それでも数の力で開拓は成功するに違いない。そうして俺たちが命を懸けて耕した土地を貴族は奪い取っていくわけだ」


「なんとかならんのかのぅ? 儂は鉱山奴隷で良い」 

「死にたくねぇ、死にたくねぇよ〜」

「最低だと思っていた暮らしにまだ下があったのかよ」

「電撃ビリビリエンジェルリングはあるのか?」


 男の断言するセリフに肩を落とす面々。もはやお終いだと泣く者も現れる中で、一人の少女がそっと手を挙げた。


 その挙手に気づいて男は鷹揚に手を振り、話すように勧める。


「……えーと……ジュリは思うんだけど、奴隷を何人ぐらい連れて行くわけ? 100人? 200人?」


 教育を受けていない奴隷でありながら、数が数えられる少女の言葉に、そういえばそうだと皆は希望を持って男へと強い視線を向ける。少ない人数なら、自分が選ばれないように頑張れば良い。卑怯と言われようと、奴隷が長く生きるには仕方ないことなのだ。


 だが男は沈痛の表情で首を横に振り、ボソリと呟くように絶望の言葉を口にした。


「全員だ。……全員なんだっ」


 悔しそうに拳を握り、顔を俯ける男の言葉に皆は力なく崩れ落ちる。もう駄目なのだと理解したのだ。救いはどこにもない。


 いや、そうではなかった。


「皆っ。このままでは死ぬのは間違いない。座して死ぬなら、ひとつだけ方法があるんだ」


 男ががばっと俯いていた顔を持ち上げると、力強い声音で皆へと問いかける。


「武器はある。ツルハシだ。そして俺たちは数もいる。蜂起してこの鉱山都市を乗っ取るんだ!」


 思いもよらなかった提案に皆は驚く前に戸惑ってしまう。そんなことをしても無駄だと理解しているのだ。貴族が出てくればその時点でいかに大勢の奴隷が戦いを挑んでも蹴散らされるのは目に見えているからだ。


 その態度を予想していたのだろう。男は自らが隠していた秘密を話す。


「……俺が借金奴隷というのは知っていると思う。それが嵌められたからだとも。だがひとつ言ってないことがあるんだ。俺は実は元貴族だ。相手に貴族がいても皆が手伝ってくれれば勝てる! 俺を慕って密かに集まっている元家臣たちも実は街に潜伏している。これまで皆に密かに配っていた薬や食料、酒などは元家臣からの差し入れだったんだ」


「な、なんだって! お前貴族だったのか!」


 今度は皆も驚く。貴族が鉱山奴隷になったなどと聞いたことはないからだ。


「そうか……あんたはどうやって看守から食い物とかをちょろまかしているのか不思議だったが、そんな偉い人だったのか! レックス!」


 レックスと呼ばれた男は最近になって奴隷として鉱山に来た男だが、以前に奴隷を仕切っていた奴隷頭をあっさりと倒すほど腕っぷしも強く、またどこからか食べ物や薬、酒などを手に入れては気前よく皆に渡したのであっという間にリーダーとなった男だ。


 元貴族ならそれも簡単なことなのだろうと、周りの者たちは納得する。


「隠していて悪かった。だが元貴族というと俺を敬遠しただろう? こんなことがなければ俺も黙っているつもりだった。だが、このままでは皆の命にも関わるからな。立ち上がることにしたのだ」


 レックスは周りの反応を窺い、反対しそうな奴がいないことを確認する。そして、奴隷たちには希望となる計画を話すことを決意した。


「計画はこうだ。皆は奴隷頭だ。そこで密かに皆に伝えて欲しい。立ち上がろうと! 皆で自由を手に入れようと!」


「だが、ここの領主は騎士団も持っている。簡単に蹴散らされるぞ?」


「大丈夫だ。俺の元家臣が潜入していると言っただろう? 皆の蜂起に合わせて混乱する騎士団を領主共々討つ。それだけではもちろん駄目だ。皆で都市を制圧し終えたら、俺の罪は冤罪だったと皇帝陛下に訴える。証拠も元家臣が集めてくれた。皇帝陛下は公明正大な方だ。すぐに俺は貴族に戻れるだろうから、その時に俺を助けてくれた皆も奴隷から解放すると誓おう! レックス・フォードの名に置いて!」


 レックスは立ち上がり、胸板を叩き宣言した。


 その力強く押しの強い言葉に皆は目を輝かせる。救世主はいたのだと、潤んだ瞳で興奮して拳を突き上げる。死を待つ絶望から一転して奴隷から自由になれる希望を見せてくれたのだから当然である。


「皆の命を俺にくれっ。きっと光ある未来へと皆を導くことを誓おう!」


「おうっ! あんたに命を預けるぜっ」


 最初にレックスに絡みボコボコにされた元奴隷頭が興奮で顔を真っ赤にして応える。それを聞いた他の者たちも、同じように仲間になることを誓い始める。


「あんたについていくぞっ」

「おれもだっ!」

「奴隷でなく自由民となる。ヘヘッ興奮するぜ」

「俺は密かにナイフとかを集めていたんだ。役にたててくれ」

「そうだな、ここで残していても待っているのは死だけだ。俺も油を少し隠し持っているんだ」


 わあッと騒ぎが大きくなるので、落ち着くように優しげな笑みでレックスは手を振り皆を宥めながら、感動で微笑む。


「ありがとう、ありがとう。皆の勇気が勝利の道を作るだろう」


 男泣きと言うのだろうか、感涙するレックスを前に皆は勇気を持ち意気軒昂となり、お互いに拳をぶつけ合い士気を上げるが、その中で再び挙手をした少女がいた。ジュリと呼ばれた少女だ。


「あの〜……もしも蜂起に失敗したら、私たちはどうなるんでしょうか〜? もしかして連座で処刑ですかぁ?」


 その言葉に士気が上がり熱気に包まれていた部屋の温度が下がったような空気になる。レックスは一瞬苛立たしそうにするが、すぐに柔らかな笑みへと変えて、手を広げて寛容なところを見せてきた。


「君の不安はわかる。だが、大勢の奴隷が蜂起するんだ。負けはないよ。……万が一失敗しても、その場合はこの俺、リーダーが処刑されるだけだ。奴隷を物として考えているふざけた奴らだからな。無駄な消耗は嫌うんだよ。君たちに失うものなどないだろう?」


 その言葉にコテンとジュリは首を傾げる。


「本当にそうなんですかぁ? ジュリたちは失うものはない。負けても元の奴隷に戻るだけぇ?」


「そうさ。負ければ陽光帝国の奴隷となり死ぬから、負けるわけにはいかないけどな」


「……そうなんですかねぇ? う〜ん……そうですよねぇ」


 レックスのにこやかな表情に顔を顰めながらもジュリは納得する。周りの面々もそのとおりだと強く頷き、万が一失敗した場合にレックスが処刑されると言うので、その勇気にますます感心し、尊敬の念を送る。


「わかってくれて、何よりだよ。では蜂起の日だが……3日後にしよう。その日は陽光帝国の重鎮が訪れる日らしいからな。その日に蜂起すれば、大混乱は間違いないだろう。俺たちの勝利は確実だ。頑張ろう、みんな!」


「おー!」

「我らに勝利を!」

「やってやる、やってやる!」


 皆が賛成をして、夜も更けたので解散となり、こっそりと小屋から帰り始めるのであった。



 ジュリはぼさぼさの頭をぽりぽりとかきながら、自分の寝る小屋へと帰った。ちらりと周りを窺いながら看守に見つからないように。なぜかいつもは見回っている看守の姿を全然見かけない。いつもなら外出は許さないと、うろうろしているのに。


 違和感があると思いながら、小屋の中に戻ると、寝ていたはずの仲間がむっくりと起きて、ジュリに小声で問いかけてきた。


「ジュリ、どうだった? なにかあった?」


「ん〜…実はねぇ〜」


 レックスの話を繰り返すと、周りの寝ていたはずの女の子たちも起きており、耳をそばだててくる。


 ジュリは生まれた時から奴隷であり、年若い少女ながら、借金奴隷などから話を聞いて読み書きができる頭の良い少女である。見かけはぼさぼさの散切り頭に脂ぎった髪の毛、いつ洗ったかわからないほど泥だらけの身体に、かなりきつい体臭をしていたが。能力はかなり高く女奴隷頭となっているのである。


 どこか違和感があると顔を顰めながら話すが、皆は目を輝かせて話を聞いて、自由とはどんな感じなのだろうと勝利したあとの話をし始める。


「お姉ちゃん、奴隷から解放されたらどんな感じなんだろうね?」


 唯一の肉親である妹がウキウキとした表情で尋ねてくるが、生まれてから奴隷である自分には想像もつかない。


「イリーナを学校に入れることができる……かな?」


昔に聞いた教育を受けられる場所、学校というものに入れることができるかもしれないとジュリは思う。


 可愛らしい妹の頭を撫でながら、本当に自分たちは失うものがないのだろうかと不安を押し隠すのであった。


 そうして3日後、陽光帝国の監査部隊はやってきた。奴隷の蜂起の雄叫びに合わせるように。

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― 新着の感想 ―
[一言] レックスとかいうのがめちゃくちゃ胡散臭いですね。 ぷんぷん臭いますね。ガイさんの体臭並ですよ!
[良い点] 300話おめでとうございまーすヽ(*´∀`)ノ そして、エンジェルリング キタ━(゜∀゜)━! [一言] この手の武装蜂起は十中八九、碌なことにならないw 相手が陽光帝国じゃなかったら、…
[一言] 酷い職場だ!って転職したらもっと酷い仕事になった!みたいな話を思い出します。 現実もそうとう世知辛いんですよね。 悪い事してない人達なら幸せになってほしいですな。
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