表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第2部完結】欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!  作者: 花房いちご
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/36

21話 アナベルの言い分

「アレクシス・デュラン男爵令息。8年前の件を改めて謝罪いたします。

 令息が仰る通り、私の癇癪のせいで令息と姉の縁談は潰れ、令息は当家に近寄ることすら禁じられました。

 これは私の罪です」


 私はまず、デュラン男爵令息に謝罪した。

 手紙で謝罪は済んでいるし、デュラン男爵夫妻からは「これ以上の謝罪は不要」と言われているけど、やはりケジメとして直接謝りたかった。

 お姉様が何か言いたそうに……恐らく庇おうとしてくれてるけど、手で制する。


「癇癪を起こした原因は、魔炎(まえん)病で思考能力が下がり錯乱していたからです。だからといって、私がやった事実は消えない。令息がお怒りになるのも当然です。信用がないのも当たり前です。

 ただ、今の私が姉を慕っているのも、幸福を祈っているのも、また事実なのです。

 少しだけで構いません。信用していただけないでしょうか?」


 黙って聞いていたデュラン男爵令息は、油断なく私を見つめながら口を開いた。


「……謝罪を受け入れます。両親にも貴女を責めることは許さないと言われていますしね」


 デュラン男爵夫妻との会話を思い出す。詳しく聞きたいけど話の途中だ。後で確認しなきゃ。


「しかし、私からの信用など貴女には必要ないでしょう」


「いいえ。必要です。令息は私の義兄になる方ですから」


「は?」


「あ、アナベル?何を言ってるの?」


 デュラン男爵令息もお姉様も呆気に取られている。何を言ってると言われてもなあ。


「私は、デュラン男爵令息がお姉様の伴侶に相応しいと思う。というか、2人に結婚して欲しい」


「あ、アナベル!急になぜそんなことを?」


「……本気で仰っているのですか?」


 狼狽えたり疑ったりする2人。何を今更。というか、そのために2人は動いてたんでしょう?

 お姉様に至っては、デュラン男爵令息に名前で呼ぶよう言ったり、私と恋バナしてたのに。

 散々「今でもアレクシスが好き。婚約を申し込もうと思うの」とか言ってたくせに。

 私はちょっと呆れつつ微笑んだ。


「はい。デュラン男爵令息以上に、お姉様を大切にしてくれる方はいませんから。

 お姉様もわかっているでしょう?だからドレスに令息の瞳と同じオレンジ色を……」


「い、今はドレスの色は関係ないでしょう!」


「いやいや、それは無理があるよ。大体お姉様って、小さい頃からデュラン男爵令息のこと大好きじゃない」


「〜〜〜!」


 真っ赤になって黙り込むお姉様、お姉様の反応にソワソワするデュラン男爵令息。なんか初々しくて甘酸っぱい。

 ああ、そうか。さっきから感情に振り回されてるこの2人は、まだ10代の若者なのだ。どんなにしっかりしていても、アラフォーの記憶がある私やルグラン様と違う。

 おこがましいかもしれないけど、はっきりと言葉にして伝えないと、きっと伝わらない。


「お姉様、私はお姉様に幸せになって欲しい。

 お姉様は、自分のことを弱いと言ったけどそれは違う。お姉様はとても強い。そして、身内に対して優しすぎる。身内のためなら理不尽に耐えて自分を犠牲にしてしまう。

 お姉様の伴侶は、お姉様をこの世の何よりも大切にしてくれる人じゃないと駄目」


「アナベル……。でも、アレクシスは貴方に敵意を持っているわ。姉としても当主としても心配よ」


「多少敵意を持たれてるくらいで丁度いいよ。元両親みたいに、お姉様より私を優遇するような馬鹿はやらないだろうし」


 それに、アラフォーだった前世の記憶で知ってる。生きていれば、自分を嫌いな相手とも関わらないといけない。

 何を考えているかある程度わかる分、デュラン男爵令息はマシな部類だ。


「……まあ、さっきみたいに殺意増し増しだとキツいし、身の危険を感じるから嫌だけど。

 デュラン男爵令息。そういう訳で、これからは程々にしてもらえますか?」


「……」


 私の問いかけに対し、デュラン男爵令息はしばらく考えてから口を開いた。


「……善処します。ただ、貴女がマルグリットに危害を加えるようであれば、私は貴女を許さない。全力で排除します。例え、ルグラン卿に殺されるとしても」


 オレンジ色の瞳が決意と覚悟に輝く。「いい度胸だな」と呟いたルグラン様の鋭い眼光と威圧を受けても、全く揺るがなかった。


「構いません。その代わり、何があっても姉を守ってください。そして今回のように、姉の心や立場を蔑ろにするような真似はやめて下さい」


「わかりました。マルグリットに誓います」


 ここで神様ではなくお姉様に誓うところが、デュラン男爵令息らしくて怖いやら笑えるやらだ。ちなみにお姉様は感動したらしく、瞳が潤み頬が染まる。

 ルグラン様がボソッと「破れ鍋に綴じ蓋」と、言ったので肘鉄を食らわせた。空気読め。


「アレクシス……」


 デュラン男爵令息はお姉様の側に行き、跪いて手を差し出した。


「マルグリット。俺は君を愛している。

 生涯をかけて君を支えて守りたい。

 もう二度と君の誇りを傷つけないと誓う。

 俺と婚約して欲しい」


「……私も貴方を支えたいし守りたい。貴方って器用で聡明なのに、肝心なところで不器用で思い込みの激しい。可愛い人なんですもの。

 私も愛してる。貴方に伴侶になって欲しい」


 お姉様の瞳から、真珠のような涙がこぼれる。

 2人の手が重なり、柔らかな笑顔が浮かぶ。


 ルグラン様の手が私の手をそっと握る。

 そこで私はようやく、自分も感極まって少し泣いてることに気づいた。幸せな涙だった。




 ◆◆◆◆◆◆



 お姉様とデュラン男爵は、いつまでも見つめ合っていた。ルグラン様がコホンと咳をし、甘い空気を壊す。


「ベルトラン子爵閣下、デュラン男爵令息。まだ話し合ってないことがあります。さっさと済ませましょう」


「え、ええ。わかったわ」


 照れ笑いするお姉様が可愛い。

 部屋の奥に控えていた侍女に紅茶を淹れてもらい、仕切り直す。

「デュラン男爵令息。先ほど貴殿は、話し合いを求めた理由が二つあると言ったな。一つはアナベル嬢の真意を確かめるためだった。もう一つは何だ?」


 そういえば、そんな話をしていた。


「単純な話です。マルグリットから報酬を渡すという申し出があったので、直接会って断りたかったのです」


「なるほど。ベルトラン子爵閣下に、求婚の許可を得るためか」


「え?ルグラン様、どういうこと?」


 ルグラン様はニヤッと意地悪く笑う。


「ベルトラン子爵閣下は、誠実で真面目な方だ。

 報酬を受け取るか、その代わりの対価を申し出るよう言うだろう。この男は、それを狙ってたのさ。

 ちなみに最初に言わなかったのは、君とベルトラン子爵閣下の現在の状況と関係性を探り、場合によっては他の対価を求めるつもりだったからだ」


「……色々とお見通しのようで」


 気まずそうな顔になるデュラン男爵令息。お姉様は真面目な顔になった。


「アレクシス。報酬は受け取ってもらわないと困るわ。貴方のやり方に問題はあったけれど、私、いいえ、ベルトラン子爵家そのものが助けられたのよ。貴方と貴方の配下には相応の報酬が必要よ」


「わかったよ。配下への報酬は受け取る。俺には、大広間に戻ったら君と踊る権利をもらえないか?」


「……貴方は受け取る気はないのね。仕方ない人」


 お姉様ったら、まんざらでもない様子。また2人の世界に入りそうなのを、ルグラン様が引き止める。


「アナベル嬢、君も確認したいことがあるだろう?デュラン男爵夫妻が言っていた……」


 あ。そうだった。

 お二人は8年前の件について「ベルトラン子爵令嬢。手紙でもお伝えしましたが、もう謝罪は充分です」「むしろ謝罪する必要があるのは、私たちとアレクシスです」と仰っていた。

 デュラン男爵令息もそれらしいことを言っていた。


「デュラン男爵令息。先ほど触れていらっしゃいましたが、ご夫妻はなぜ私の謝罪が必要ないと仰ったのでしょうか?」


 デュラン男爵令息の表情が変わった。また怒らせたかと緊張しかけて、違うと気づく。

 あれ?もしかして気まずい?私に対して罪悪感を抱いてる?

閲覧ありがとうございます。よろしければ、ブクマ、評価、いいね、感想、レビューなどお願いいたします。皆様の反応が励みになります。

こちらの作品もよろしくお願いします。

「【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜」

book1.adouzi.eu.org/n7345kj/

異世界恋愛小説です。ダーク、ざまあ、因果応報のハッピーエンドです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ