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【第2部完結】欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!  作者: 花房いちご
第2部

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9話 新ベルトラン子爵の誕生

 私たちは、巨大な王城の中に入った。

 私はルグラン様、お姉様はドゴール監査隊長にエスコートされて入場する。

 周りを見る余裕はない。「とにかく転ばないようにしなきゃ!」と、念じながら侍従の案内を受けて歩く。

 それにしても裾の長いドレスと、低いとはいえヒールのある靴って歩きにくい。

 ルグラン様が、さりげなく身体を支えてくれたり、フォローしてくれるのがありがたい。後でお礼しなくちゃ。


 そんな風に緊張しながらかなりの距離を歩き、謁見の間に入った。


「マルグリット・ベルトラン子爵令嬢、ドゴール伯爵、アナベル・ベルトラン子爵令嬢、エリック・ルグラン聖騎士の御入場!」


 私たちは所定の場所まで歩き、カーテシーをする。

 謁見の間は、開放感のある空間だった。吹き抜けでカーテンが開かれており、窓から入る日光で明るい。

 そして正面には見上げるほど高い(きざはし)があり、その上に玉座が据えられていた。


 国王陛下と王妃陛下が並んでお座りになられている。神々しいまでの威厳と存在感に、自然と更に頭が下がった。


「うむ。マルグリット・ベルトラン子爵令嬢、アナベル・ベルトラン子爵令嬢、ドゴール、聖騎士ルグランよ。良く来た」


「顔を上げなさい。この場において直答を許します」


 お二人の言葉が降り注ぐ。どちらの声も威厳と気品に満ちつつも、どこかあたたかな優しさを感じる。

 まず、お姉様が口を開いた。


「寛大なお言葉に感謝申し上げます。また、この度は謁見の機会を賜り恐悦至極に存じます。

 王国の至高の統治者たる国王陛下、並びに王配たる王妃陛下に、ベルトラン子爵家が長子マルグリット・ベルトランがご挨拶申し上げます」


 お姉様は堂々とご挨拶をした。私も内心で震え上がりながら、なんとか同じようにご挨拶した。

 ドゴール監査隊長とルグラン様もそれに続く。本来なら爵位順に挨拶するけど、今回の謁見は私たち二人が主役。二人はあくまで付き添いなので、この順番だという。

 全員の挨拶後、国王陛下と王妃陛下は表情を和らげた。どちらも包み込まれるような、器の大きさがそのまま現れたような表情だ。


「マルグリット・ベルトラン。よくぞ、怠惰な愚者からベルトラン子爵家と子爵領を守り通した。

 アナベル・ベルトラン。よくぞ苦境に腐らず、賢姉を助けた」


「貴女がたの功績と研鑽は、ドゴールたちより報告を受けています。

 マルグリットは、新産業の確立と平時における領地経営の手腕はもとより、三年前の災害時も適切な対処をしました。言葉にすると簡単ですが、なかなか完遂できることではありません。

 アナベルは、長く魔炎(まえん)病で苦しんでいたというのに、己の非を認め姉を助けました。これもなかなか出来ることではありません。その後も研鑽を積み、この場に来れるだけの実力を身につけました。

 二人とも、立派な我が国の家臣です。

 国王陛下も私も、貴女たちの働きに報いると誓いましょう」


「うむ。マルグリットは、今この時よりベルトラン子爵である。今後も、子爵家と子爵領を盛り立てるように。アナベルは、ベルトラン子爵令嬢として姉を助け、これからも(はげ)むように」


 この瞬間。お姉様は正式にベルトラン子爵となった。私もまた、引き続きベルトラン子爵令嬢として生きることを許された。


 よ、よかった!


 脱力してへたり込みそうになるのを耐える。まだ謁見は終わらない。主に話すのはお姉様だけど、私も話を振られる。

 なんとか乗り切って退出し、王城を出た。


 馬車の中に入って、ようやくまともに息がつけた。


「あああ!緊張した!ルグラン様!私、変なこと言ってなかった?カーテシーの姿勢とかおかしくなかった?」


「大丈夫だ。明らかに緊張していたけど、話し方もカーテシーも綺麗だったぞ」


「うむ。声が若干上擦っていたし、何度か姿勢がグラついたがな」


「ぎゃー!やらかした!」


「やらかした内に入らない程度だから大丈夫だって」


 キャッキャとはしゃぐ私とルグラン様、対してお姉様とドゴール監査隊長は冷静だ。大人って感じ。


「マルグリット嬢は完璧だった。だが、3日後の夜会では社交力が問われる。例の婚約者とも会うだろう。ベルトラン子爵としての最初の仕事だ。私は補佐程度で、君のお手並みを拝見させてもらうが、対策は出来ているか?」


「はい。トリュフォー伯爵令息との縁を切り、社交を成功させるべく対策済みです。

 アナベルたち力強い味方にも手伝ってもらいますし。……アナベル、ルグラン様、夕食の後で相談していいかしら?」


「お姉様!もちろんよ!」


「俺も異存は無い」


「よかった。新たなベルトラン子爵として、改めて貴女達と話したいことがあるの」


 その後の話し合いは、実に有意義だった。

 話し合いで決めたことをもとに、私とルグラン様は3日後の夜会に向けて準備を詰めた。

 もうかなり遅い時間だけど、例によって図書室で話し合う。付き合わせてしまう専属侍女たちには、後で臨時報酬を渡さなきゃ。

 それはともかく、相談しなきゃいけないことは無数にある。


「お姉様の事が一番心配だけど、夜会で上手くダンス出来るかどうかも心配なんだよね。

 モロー監査官からは「見苦しくない程度には踊れますが、完璧には程遠い」って言われたし。失敗したら、ルグラン様とお姉様に恥をかかせちゃう」


 ちなみお姉様は完璧だ。モロー監査官からお墨付きを頂いた。凄いし天才だし素敵。


「俺もまだまだ踊り慣れてないから心配だ。当日は早めに登城して、控室で練習しよう」


「控室?」


「うん。王城の夜会では、貴族家ごとに控室があてがわれるんだ。そこまで広くないが、ステップの練習くらいなら……そうだ。控室だ。【例の策】に使える」


 ルグラン様は、後半だけ声をひそめて囁いた。私はその囁きにピンと来た。


「わかった。【彼】に、連絡しなきゃね」


 ニヤリと二人で笑い合い、デュラン男爵令息に手紙を出す。


 2日後。デュラン男爵令息から手紙が届いた。

 内容は簡潔だ。


【役者も準備も万端。後は舞台の開始を待つばかり】


 その手紙を読んだ後、私たちはマルグリットお姉様に呼び出された。


「準備は終わったわ。明日の夜会に向けて相談しましょう」


 こうして私たちは、様々な思惑と陰謀渦巻く夜会の日を迎えた。


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こちらの作品もよろしくお願いします。

「【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜」

book1.adouzi.eu.org/n7345kj/

異世界恋愛小説です。ダーク、ざまあ、因果応報のハッピーエンドです。

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