9話 新ベルトラン子爵の誕生
私たちは、巨大な王城の中に入った。
私はルグラン様、お姉様はドゴール監査隊長にエスコートされて入場する。
周りを見る余裕はない。「とにかく転ばないようにしなきゃ!」と、念じながら侍従の案内を受けて歩く。
それにしても裾の長いドレスと、低いとはいえヒールのある靴って歩きにくい。
ルグラン様が、さりげなく身体を支えてくれたり、フォローしてくれるのがありがたい。後でお礼しなくちゃ。
そんな風に緊張しながらかなりの距離を歩き、謁見の間に入った。
「マルグリット・ベルトラン子爵令嬢、ドゴール伯爵、アナベル・ベルトラン子爵令嬢、エリック・ルグラン聖騎士の御入場!」
私たちは所定の場所まで歩き、カーテシーをする。
謁見の間は、開放感のある空間だった。吹き抜けでカーテンが開かれており、窓から入る日光で明るい。
そして正面には見上げるほど高い階があり、その上に玉座が据えられていた。
国王陛下と王妃陛下が並んでお座りになられている。神々しいまでの威厳と存在感に、自然と更に頭が下がった。
「うむ。マルグリット・ベルトラン子爵令嬢、アナベル・ベルトラン子爵令嬢、ドゴール、聖騎士ルグランよ。良く来た」
「顔を上げなさい。この場において直答を許します」
お二人の言葉が降り注ぐ。どちらの声も威厳と気品に満ちつつも、どこかあたたかな優しさを感じる。
まず、お姉様が口を開いた。
「寛大なお言葉に感謝申し上げます。また、この度は謁見の機会を賜り恐悦至極に存じます。
王国の至高の統治者たる国王陛下、並びに王配たる王妃陛下に、ベルトラン子爵家が長子マルグリット・ベルトランがご挨拶申し上げます」
お姉様は堂々とご挨拶をした。私も内心で震え上がりながら、なんとか同じようにご挨拶した。
ドゴール監査隊長とルグラン様もそれに続く。本来なら爵位順に挨拶するけど、今回の謁見は私たち二人が主役。二人はあくまで付き添いなので、この順番だという。
全員の挨拶後、国王陛下と王妃陛下は表情を和らげた。どちらも包み込まれるような、器の大きさがそのまま現れたような表情だ。
「マルグリット・ベルトラン。よくぞ、怠惰な愚者からベルトラン子爵家と子爵領を守り通した。
アナベル・ベルトラン。よくぞ苦境に腐らず、賢姉を助けた」
「貴女がたの功績と研鑽は、ドゴールたちより報告を受けています。
マルグリットは、新産業の確立と平時における領地経営の手腕はもとより、三年前の災害時も適切な対処をしました。言葉にすると簡単ですが、なかなか完遂できることではありません。
アナベルは、長く魔炎病で苦しんでいたというのに、己の非を認め姉を助けました。これもなかなか出来ることではありません。その後も研鑽を積み、この場に来れるだけの実力を身につけました。
二人とも、立派な我が国の家臣です。
国王陛下も私も、貴女たちの働きに報いると誓いましょう」
「うむ。マルグリットは、今この時よりベルトラン子爵である。今後も、子爵家と子爵領を盛り立てるように。アナベルは、ベルトラン子爵令嬢として姉を助け、これからも励むように」
この瞬間。お姉様は正式にベルトラン子爵となった。私もまた、引き続きベルトラン子爵令嬢として生きることを許された。
よ、よかった!
脱力してへたり込みそうになるのを耐える。まだ謁見は終わらない。主に話すのはお姉様だけど、私も話を振られる。
なんとか乗り切って退出し、王城を出た。
馬車の中に入って、ようやくまともに息がつけた。
「あああ!緊張した!ルグラン様!私、変なこと言ってなかった?カーテシーの姿勢とかおかしくなかった?」
「大丈夫だ。明らかに緊張していたけど、話し方もカーテシーも綺麗だったぞ」
「うむ。声が若干上擦っていたし、何度か姿勢がグラついたがな」
「ぎゃー!やらかした!」
「やらかした内に入らない程度だから大丈夫だって」
キャッキャとはしゃぐ私とルグラン様、対してお姉様とドゴール監査隊長は冷静だ。大人って感じ。
「マルグリット嬢は完璧だった。だが、3日後の夜会では社交力が問われる。例の婚約者とも会うだろう。ベルトラン子爵としての最初の仕事だ。私は補佐程度で、君のお手並みを拝見させてもらうが、対策は出来ているか?」
「はい。トリュフォー伯爵令息との縁を切り、社交を成功させるべく対策済みです。
アナベルたち力強い味方にも手伝ってもらいますし。……アナベル、ルグラン様、夕食の後で相談していいかしら?」
「お姉様!もちろんよ!」
「俺も異存は無い」
「よかった。新たなベルトラン子爵として、改めて貴女達と話したいことがあるの」
その後の話し合いは、実に有意義だった。
話し合いで決めたことをもとに、私とルグラン様は3日後の夜会に向けて準備を詰めた。
もうかなり遅い時間だけど、例によって図書室で話し合う。付き合わせてしまう専属侍女たちには、後で臨時報酬を渡さなきゃ。
それはともかく、相談しなきゃいけないことは無数にある。
「お姉様の事が一番心配だけど、夜会で上手くダンス出来るかどうかも心配なんだよね。
モロー監査官からは「見苦しくない程度には踊れますが、完璧には程遠い」って言われたし。失敗したら、ルグラン様とお姉様に恥をかかせちゃう」
ちなみお姉様は完璧だ。モロー監査官からお墨付きを頂いた。凄いし天才だし素敵。
「俺もまだまだ踊り慣れてないから心配だ。当日は早めに登城して、控室で練習しよう」
「控室?」
「うん。王城の夜会では、貴族家ごとに控室があてがわれるんだ。そこまで広くないが、ステップの練習くらいなら……そうだ。控室だ。【例の策】に使える」
ルグラン様は、後半だけ声をひそめて囁いた。私はその囁きにピンと来た。
「わかった。【彼】に、連絡しなきゃね」
ニヤリと二人で笑い合い、デュラン男爵令息に手紙を出す。
2日後。デュラン男爵令息から手紙が届いた。
内容は簡潔だ。
【役者も準備も万端。後は舞台の開始を待つばかり】
その手紙を読んだ後、私たちはマルグリットお姉様に呼び出された。
「準備は終わったわ。明日の夜会に向けて相談しましょう」
こうして私たちは、様々な思惑と陰謀渦巻く夜会の日を迎えた。
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