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【第2部完結】欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!  作者: 花房いちご
第一部

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12話 アナベルの奇行、エリックの恋(エリック視点)

 翌朝。

 食事を済ませた俺たちは、速やかにアナベル嬢の治療に取り掛かった。


 アナベル嬢の自室には、本人、マルグリット嬢、ベルトラン子爵夫妻、執事長と侍女長ら使用人がいた。

 皆が固唾を飲んで見守る中、ミシエラはベッドに横たわるアナベル嬢に手をかざし唱えた。


「聖なる光よ。この者を癒したまえ。【神聖回復魔法(ホーリーヒール)】」


 神聖魔法特有の神々しい光があふれ、アナベル嬢の身体を包む。

 見る見るうちに顔色が良くなり、髪の艶と空色の瞳の輝きが増していく。

 性格はともかく姿は綺麗だと、素直に思った。


「アナベルさん。お身体の具合はいかがでしょうか?痛いところはございませんか?」


「私の、身体……動かせる!」


 かすれていない、小鳥のように愛らしい声がサクランボみたいな唇からこぼれた。

 アナベル嬢ははしゃいだ様子で上半身を起こし、腕をあちこちに動かす。


「すごい!いっぱい動かせる!きゃはは!……きゃあ!」


 倒れそうになるアナベル嬢。背に手を添えて支えた。

 あまりにも軽く薄い背に動揺しそうになる。


「アナベル嬢。病が治って嬉しい気持ちはわかるが、急に動いては危ないよ」


「はぁい。えへへ。ありがとう。もう大丈夫よ」


「それはよかった」


 健康であどけない。そして心からの笑顔に唐突に悟る。

 この子は、7歳の時から8年間も苦しんでいた。治って嬉しいだろう。はしゃぐだろう。

 苦しんでいた頃は、心の余裕などなかっただろう。

 俺の想像を絶する苦痛が、苦悩が、常にあっただろう。

 俺は教師として……いや、違う。人として、もっとその苦しみに思いを馳せるべきだった。

 そっと、背から手を離す。今度はぐらつかなかった。


「よかった。完治したようですね」


 ミシエラもホッとした様子だ。部屋中が安堵と歓喜に包まれる。だが……。


「素晴らしい!流石は聖女様だ!この私の財力を注いだ甲斐がある!」


「ああ!私の可愛いアナベルちゃん!奇跡よ!これも私たちが善良なお陰ね!」


 子爵夫妻の言葉に引っかかる。事前情報もあって、この二人はなんとなく嫌だ。

 いや、偏見はいけない。


「アナベルが自分で身を起こせるようになるなんて……。聖女様、感謝申し上げます!本当にありがとうございます!このご恩は生涯忘れません!」


 姉君のマルグリット嬢の言葉は、胸につまされるものがある。


「アナベル。治って本当に良かったわ」


「マルグリット……お姉さ……。っ!」


 ん?アナベル嬢の雰囲気が変わった?目つき顔つきも違う?汗もかいているな。

 どうした?ミシエラにみてもら……。


「マルグリットお姉様ぁ!」


 バサァ!バッ!


「きゃ!」


「アナベル嬢!?」


 いきなり飛び上がった!?一体どうし……。


「マルグリットお姉様!これまでご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!私は姉の物を欲しがる妹をやめます!我儘ももう言いません!」


 アナベル嬢は、ジャンピング土下座をして謝罪した。


「は?ど、どう言うことだ?」


 不覚にも混乱した。

 だって土下座だぞ?この世界、この国にはない文化だ。偶然か?


 その後、様々な事が判明する。


 ベルトラン子爵夫妻は、マルグリット嬢を虐待し、領地経営と家政を押し付けていたこと。

 アナベル嬢は、魔炎病に罹患したため人格が変わっていたこと。そのせいで、マルグリット嬢への虐待に加担してしまっていたこと。

 あと、アナベル嬢は五体投地もキメた。そして。


「お父様、お母様、罪を認めて(つぐな)いましょう。私もそうしますから。

 ……というか、この時点で『ざまぁ』されてた方が、マシな死に方ができますよ」


 『ざまぁ』という言葉を使い、まるでこの先に何が起こるか知っているかのように話す。


 間違いない!アナベル嬢は転生者だ!しかもこの世界の事を知っている!


 歓喜すると同時に、その人柄に好感を抱いた。

 一生懸命で思い切りが良い。姉君のマルグリット嬢のことを大切に思っている。

 今までの自分に対する嫌悪が強く、『ざまぁ』を受けたがっている。恐らく保身もあるのだろうが、責任感が強く他者に対して優しいからだろう。

 身も心も元気そうだが、どこか落ち着いている。俺と同世代か少し下くらいな気がする。

 あと、愛嬌があって可愛い。


「ん?可愛い?」


 自分が言った言葉に引っかかる。

 今日は色々あったので、客室のベッドに横になりつつ、自分の考えを呟いていたのだ。


「今日は、本当に色々あった」


 ベルトラン子爵夫妻を拘束し監禁し、ミシエラと共に子爵夫妻の犯行を教会と貴族院に報告し、子爵家の使用人たちの出入りの制限と口止めをし、アナベル嬢が転生者だと判明し……。


 アナベル嬢の喜怒哀楽豊かな表情、子爵夫妻への容赦のない発言、キラキラ輝く空色の瞳が浮かび、心臓が高鳴った。


 アナベル嬢ともっと話したい。どんな人か知りたい。側にいたい。一緒に出かけたい。

 手を繋いだり、キスをしたり、それ以上のこともしたい。


「これは、恋……だな」


 あんな少女に……と、言いかけて俺もまだ少年だと思い出す。

 アナベル嬢は15歳、俺は17歳。問題ない歳の差だ。


「しかし恋か。何年ぶりだ?」


 俺も枯れてはいないので、女性に対して『ちょっと良いな』と思うことはある。

 ただ、同世代の女性は子供としか認識できないので対象外だった。対象になるのは、村にいたシシリーおばさん(当時38歳、現在45歳)とか、先輩聖騎士(現40歳)とかだな。

 だが、それらは淡い好意だ。明確に恋愛感情を抱くのは17年、アラフォーの体育教師時代を含めると20年以上ぶりの感覚だろうか。


「まずは親しくなろう。前世の話と、この世界のことも聞きたい。口説くのはその後で……いや、アナベル嬢は貴族令嬢だ。完治した今、親しくなるのも二人きりで話すのも難しいのでは?」


 恐らく、ベルトラン子爵夫妻は身分を剥奪されるだろうが、アナベル嬢たちは貴族身分のままでいれるはずだ。

 そうなると、婚約者でもない男と二人きりで話すのは難しい。未婚の貴族令嬢は純潔性が重んじられる。アナベル嬢の名誉を傷つける恐れがある。


「なら、親しくなる前に婚約すればいい」


 後に、いくらなんでも飛躍しすぎだと反省したが、この時はそれしかないと思い込んでいた。



◆◆◆◆◆◆


 翌朝、俺は早速行動を起こした。

 まずミシエラに事情を話し、協力を願った。ミシエラは金の瞳を細め、ニンマリと笑う。


「お爺ちゃ……エリックにしては思い切りましたねえ。というか、私が言った通りじゃないですか。んっふふ。あのお爺ちゃんっぽいエリックが恋。でもわかります。アナベルさんって、とっても可愛らしいですものね。んふふふふふ」


 畜生。面白がりやがって。


「爺って言うなクソガキ。いいから協力しろ。第二王子殿下にお前の恥ずかしい話をしてやろうか?」


「ごめんなさい止めて!

 嬉しくてからかい過ぎました。貴方が自分のためだけに、何かをしようとするのは初めてですから」


「は?そうか?俺は、俺のやりたいように生きてきたぞ?」


 ミシエラは苦笑した。ずいぶん大人びた顔をするようになったな。


「ええ。きっと貴方自身のためでもあったのでしょう。ですが、貴方は常に『自分以外の誰かにとっても良いように』考えて行動してました。

 村で働きだしたのはアンおば様のため、教会を気にかけていたのは神官様と私たち孤児のため、聖騎士になったのは私と村のため。

 ……ねえ、エリック。私たちは貴方に感謝しているけど、いつも心配だった。貴方はいつか、自分を犠牲にして擦り減ってしまいそうで……」


「ミシエラ……そんな風に思ってたのか」


「ええ。でも、もう大丈夫そうですね。これまでのお礼も兼ねて、アナベルさんとの仲を全力で応援します。この聖女ミシエラにお任せ下さい」


 晴れやかな笑顔に胸が熱くなる。俺の生徒……いや、妹分は頼もしく育った。


「それに、お二人の婚約は私にとっても都合が良いですし」


「というと?」


 ミシエラの顔が曇る。


「実は、私と貴方が恋仲だという噂があるのです」


「は?」


 寝耳に水とはこのことだ。そんな事実無根の噂があるなんて、俺は全く知らなかった。


閲覧ありがとうございます。第2部に続きます。

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こちらの作品もよろしくお願いします。

「【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜」

book1.adouzi.eu.org/n7345kj/

異世界恋愛小説です。ダーク、ざまあ、因果応報のハッピーエンドです。

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