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【第2部完結】欲しがる妹アナベルは『ざまぁ』されたい!  作者: 花房いちご
第一部

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1話 はじまりの土下座

「聖なる光よ。この者を癒したまえ。【神聖回復魔法(ホーリーヒール)】」


 聖女ミシエラ様の声と共に光があふれた。その光が私の体の中に入っていく。

 わぁ。気持ちいい。痛いのも苦しいのも消えていくわ!


「アナベルさん。お身体の具合はいかがでしょうか?痛いところはございませんか?」


「私の、身体……動かせる!」


 かすれた声じゃない!はっきりした声が出たわ!あんなに重かった身体も軽い!

 やったあ!治ったんだ!


「すごい!いっぱい動かせる!きゃはは!……きゃあ!」


 嬉しくて上半身を起こしたけど、勢いがつきすぎて倒れそうになる。でも大丈夫。すぐに聖騎士の……確かエリック・ルグラン様?彼が支えてくれたわ。

 あら?聖騎士様なのに地味な黒髪黒目でガッカリしたけど、エリック様って顔の造りは良いわね。

 背が高くて頼もしいし。うふふ。ドキッとしちゃう。


「アナベル嬢。病が治って嬉しい気持ちはわかるが、急に動いては危ないよ」


「はぁい。えへへ。ありがとう。もう大丈夫よ」


「それはよかった」


 エリック様は、そっと手を離した。今度はぐらつかなかった。

 すごい!私、自分で自分の身体を起こせてる!話してても息苦しくない!本当に【魔炎(まえん)病】が治ったんだ!嬉しい!


「よかった。完治したようですね」


 聖女ミシエラ様のお言葉に歓声が上がる。


「素晴らしい!流石は聖女様だ!この私の財力を注いだ甲斐がある!」


「ああ!私の可愛いアナベルちゃん!奇跡よ!これも私たちが善良なお陰ね!」


「アナベルが自分で身を起こせるようになるなんて……。聖女様、感謝申し上げます!本当にありがとうございます!このご恩は生涯忘れません!」


 うふふ。お父様、お母様、マルグリットお姉様も嬉しそう。当然よね。世界で一番華やかで可愛い私の病気が治ったんだから。


 それにしても、マルグリットお姉様って本当に地味ね。

 ピンク髪に空色の瞳の私と違って黒髪黒目だし、髪はリボンで一つに結んだだけ。紺色のワンピースは色褪(いろあ)せててみっともない。

 ……でも、髪を結んでるリボンはちょっと良いわね。白地にオレンジ色の花模様が可愛いわ。


 マルグリットたんのあのリボンと衣装、公式SNSの宣伝イラストでよく見たなあ。欲しい。後でもらってあげよう。

 ……え?

 公式SNS?宣伝イラスト?って、なに?

 聞いたことのないはずの言葉……あれ?私、聞いたことがある?一体どこで……。


「アナベル。治って本当に良かったわ」


「マルグリット……お姉さ……。っ!」


 再びお姉様の姿を見た瞬間、私の頭の中がクリアになった。私はこれまで、深く思考できない状態だったと自覚した。

 そして、忘れていた記憶が蘇る。

 それは、この世界とは違う世界で生きた女性の記憶。女性は会社員として働いていて、ある小説を読むのが好きだった。

 今生の記憶と前世の記憶が混じり合う。

 この世界は小説の世界そっくり、いや、どう考えてもそのままだと確信する。


 ……なるほど。つまり、私は異世界転生したのね。

 ん?だとすると今って、あのシーンだよね?ここからの展開は……。


 やばい。


 うわあああああ!やばい!

 このままだとやばい!どうしよう!


 冷や汗を流しながら内心で混乱していると、マルグリットお姉様と目があった。

 お姉様は、涙を散らしながら私に微笑みかける。

 ああ、私の回復を心から喜んでくれている。痛いほど伝わってくる。私はそんな人を……。


 私の馬鹿!まずはアレをしないと!


「マルグリットお姉様ぁ!」


 バサァ!バッ!


「きゃ!」


「アナベル嬢!?」


 私は勢いよく起き上がり、ベッドの上で跳ねた。そしてベッドの上に膝と手をそろえて座り、頭を深く下げ、腹の底から叫ぶ。


「マルグリットお姉様!これまでご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!私は姉の物を欲しがる妹をやめます!我儘ももう言いません!」


 そう、私はドアマットヒロインものの定番である『姉の物を欲しがる妹』に転生していた。

 その強奪と我儘っぷりは酷いもので、私は土下座して謝罪したのだった。

 もちろん謝っただけで許されるとは思わないけど、まずは罪を認めてお姉様に謝りたかった。


「ひっ?あ、アナベル?な、なんだ?頭がどうかしたのか?ま、まさか別の病気か?」


「わ、私のアナベルちゃんがおかしくなった?怖いわ!」


 しまった。土下座はちょっと奇行過ぎた。

 シーツに頭をめり込ませながら周りを確認すると、お父様とお母様がめっちゃ引いてた。


「え?飛びました?何故?」


「は?ど、どう言うことだ?」


 聖女ミシエラ様と聖騎士エリック・ルグラン様もポカーンだよ。

 そりゃそうだよね。この世界のこの国、土下座なんてないもの。お姉様もドン引きだろう。怖がらせて申し訳ない。


「あ、アナベル?なにを言っているの?そのポーズはなに?いきなり動いて大丈夫なの?まだ横になっていた方が……」


 ああ!お姉様は引いてない!驚きつつも私を心配してくれてる!

 私は、こんな優しい人からあらゆる物を奪ってきた。やっぱり罪を償わないといけない。

 ……それはそれとして。


「マルグリットお姉様あぁ!」


「きゃっ!?」


 ズバァアン!!!

 私は一度半身を起こし、再び勢いよく土下座しながら謝罪した。簡易版五体投地である。


「重ね重ね申し訳ございませんでしたあああああ!私がお姉様から奪った物は全てお返しします!もちろん精神的物理的苦痛の慰謝料として、私の私財の全てをお渡しします!足りなければ働いて納めます!そして出家し、修道院で己の罪と向き合いますううううう!」


「アナベル!?だからどうしたの!?そのポーズは一体なんなのおおお!?」


 マルグリットお姉様、驚かせてごめんね。

 私は姉の物を欲しがる妹で、ざまぁされるのがお約束の存在で、今までの罪を償いたいと思ってる。


 だけど私、イケメン達に利用されて恨まれて執着されて死にたくない!


 それくらい私、アナベル・ベルトラン子爵令嬢……前世で私が読んでいた小説【聖女はドアマットを許さない】に出てくる【姉のものを欲しがる妹アナベル】の末路は悲惨過ぎるの!


 そうだ。土下座している間に状況を整理しよう。


 小説【聖女はドアマットを許さない】は、聖女ミシエラを主人公にした長編ラノベシリーズだ。

 聖女ミシエラが聖騎士エリック・ルグランと共に、ドアマットヒロイン達を救っていくストーリーだ。

 ドアマットヒロインは、シーズンごとに代わる。お姉様ことマルグリット・ベルトラン子爵令嬢もその一人。


 小説とこの世界、いえ、現実はつい先ほどまで全く同じだった。




閲覧ありがとうございます。

本日(2025/07/23)は、朝、昼、夕方、夜の四回更新。明日以降は、1日一回か二回更新予定です。

ストックはありますので、しばらくは毎日更新できそうです。

よろしければ、ブクマ、評価、いいね、感想、レビューなどお願いいたします。皆様の反応が励みになります。

こちらの作品もよろしくお願いします。

「【完結】ヒトゥーヴァの娘〜斬首からはじまる因果応報譚〜」

book1.adouzi.eu.org/n7345kj/

異世界恋愛小説です。ダーク、ざまあ、因果応報のハッピーエンドです。

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