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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第七章 ユージは農家から開拓団団長にジョブチェンジした』

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第十五話 ユージ、ゴブリンとオークの調査に来た冒険者たちを迎える

「よし、こんなもんかな。アリス、いーぞー!」


「はーいユージ兄! 土さん、ちょっと下にいってー!」


 4年目の春が終わり、そろそろ初夏を迎える頃。

 ユージは開拓予定エリアの端まで出向き、木製の杭を立てて柵作りに取りかかっていた。開拓済みの範囲はすでに柵に覆われているため、完成すれば二重の囲いとなる予定だ。

 アリスはユージが作った柵の外側の土を魔法でへこませ、ひたすら空堀を造っている。魔法でこなしているとはいえ、作業量としては33才のユージより8才のアリスの方が多い。まあいつものことだが。

 コタローは作業する二人の護衛をしていた。ふんふんと嗅ぎまわったり、時にふらっと離れて周辺を見まわっていた。


 ユージの奴隷、犬人族のマルセルとその息子のマルクは開墾済みの畑で農作業。

 留守番組の冒険者パーティのうち、男二人は木々の伐採に。

 猫人族のニナと留守番組の冒険者パーティの紅一点、弓士のイレーヌは狩りに出ている。

 男は開拓と農作業、女が狩りに。開拓地はなんとも不思議な組み合わせになっているようだ。


 移住予定の元冒険者パーティと木工職人のトマスは、建材となる木を探して伐採するため周辺をうろついている。

 トマスはすでに三つのテントを建て終えていた。一つはトマス自身の住居兼作業場、一つは元冒険者たちのうち、男二人の分。そして最後の一つは、元冒険者たちの夫婦の分だった。

 誰も新婚夫婦と一緒に住みたくなかったのだ。当たり前である。誰が好き好んで他人のいちゃいちゃを見たいというのか。ユージは何度も爆発しろ、という言葉を飲み込んでいた。アリスは爆発魔法を使えるのだ。シャレにならない。だが同じ妬みを抱えたゆえか、ユージは元冒険者パーティで唯一の独身男性と仲良くなっていた。ユージに異世界で初めての友達ができたのである。


 ちなみに留守番組の冒険者パーティ三人は自前のテントで過ごしていた。ひとまずケビンを待つことにしたようだが、常設のテントを建ててもらうことは遠慮していた。いや、なんか居着いちゃいそうだからやめておくよ! と断ったのは派手な鎧の男エクトルだった。農村育ちの彼らはすっかりこの生活に馴染んでいたのである。


 ふんふんふーんと鼻歌を歌いながら柵作りを進めるユージ。人数が増えたことで開拓は順調。ユージとアリス、獣人一家の食料も冬を越す分ぐらいは生産できるようになった。さらに職人が来たことで獣人一家の住む家も目処がついたのだ。このところユージはご機嫌であった。

 鼻歌を歌うユージの後ろからは、アリスがえいっ、やー! と魔法を使う声が聞こえる。いま柵作りに取りかかっているのはユージの家の南側。獣道がある以上、そちら側の防衛を優先させようという開拓団満場一致の意見だった。



「お、見えましたね。ユージさーん!」


 呼ばれた声に振り向くユージ。どうやら行商人のケビン、いや、いまや商会の会頭であるケビンが到着したようだった。

 ちなみに、いつの間にかユージとアリスの下から離れていたコタローが一行を先導していた。音か匂いに気づき、出迎えに行っていたようだ。あいかわらず働き者でよく気がつく女である。犬だけど。



「おお、ケビンさん! お待ちしていました!」


 ユージとアリスが作業を止めて家の方へケビン一行を案内する。途中、留守番組冒険者パーティの大柄な男、ジョスがケビンを呼ぶ大声が響く。


「あ! その……ええと。……申し訳ない。忘れていました……」


 ジョスと目が合ったケビンは、言い訳をせず素直に謝っていた。やはり三人をどうするか、指示を忘れていたようである。

 もうしょうがないわねえ、と言わんばかりにコタローがケビンに冷たい目を向けていた。珍しい事態である。ワンッと一吠えするコタロー。まあはじめてだしゆるしてあげるわ、と言いたいようだ。あいかわらず上から目線であった。下から見上げているクセに。



 ケビン一行を引き連れ、昼休憩を兼ねてユージの家の前にぞろぞろと全員で集合する。

 かつて外側にケビン、内側にユージが座り、二人が向かい合って会話した門の前にはいくつかの切り株が置かれ、いまでは簡易な集会場所となっていた。すぐ横にはユージが初めて開拓した畑も見える。


「さて、ユージさん。こちらが今回ゴブリンとオークの調査依頼を受けた冒険者の方々です」


 人が集まったのを見計らい、ケビンが二人の冒険者を紹介する。さっそくケビンが場を仕切っていた。もちろんこの開拓地の開拓団長はユージであり、みんなをまとめるのもユージの仕事のはずである。

 そのユージは、そうですか、よろしくお願いしますと暢気なものだ。自分がまとめるなど思いもしなかったようだ。

 コタローもそんなユージに何も言わなかった。いや、コタローはしゃべれないが。


「この前4級から3級に上がりました、冒険者パーティの『宵闇の風』です。相棒が斥候で、僕が遊撃を担当する軽戦士です。隠密行動を得意としてますので調査はお任せください。よろしくお願いしま……え? 先輩?」


 立ち上がって挨拶する二人の冒険者『宵闇の風』を、ニヤニヤと見つめる元冒険者パーティ『深緑の風』。どうやら彼らは知り合いだったようだ。


「おーう、お前らが3級って、ついに並ばれてたのか。まあしっかりやれや」


 四人全員で立ち上がり、元冒険者パーティが二人の冒険者を囲む。

 肩を組み、ニヤつきながら現役冒険者の顔を覗き込む元パーティリーダー。ポン、と肩を叩く男。唯一の独身男は、依頼を受けた二人の目の前で腰を落とし、ニヤニヤと見上げている。どう見ても若い男に絡むチンピラである。

 視線を遮る先輩連中から逃れ、依頼主のユージを見る二人の冒険者たち。


「あの……これ、僕たち要りました?」


 首を傾げるユージ。アリスは何がおもしろいのか、独身男の真似をして二人の冒険者の前にしゃがみこみ、ニコニコ見上げている。コタローはしゃがんだアリスの背中をハッシと前脚で叩いていた。ありす、ぎょうぎわるいからまねしちゃだめよ、と言いたいようだ。


 ユージたちの様子に困惑した二人の冒険者は、無理やり身をよじってケビンを見る。

 ええもちろん。依頼料も冒険者ギルドに払っていますし、がんばってください。ああ、調査依頼は時間がかかりますし、ここを拠点にしてかまいませんからね、と笑顔でケビンが告げる。


 元3級冒険者パーティの四人、4級相当のコタローとアリス、さらに今回ケビンについてきた護衛の一人、依頼で来た現役3級冒険者の二人。

 開拓地の防衛戦力はさらに過剰になった。もはやユージには肉壁という役割もなさそうである。


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