第十一話 ユージ、開拓団長として一足先に家に帰る
途中、場面が飛ぶ箇所があります。
ご注意ください。
「ユージ殿、申し訳ありませんでした!」
開拓都市、プルミエの街の北門。そこで二人の男が地面に膝をつき、ユージに頭を下げていた。
冒険者ギルドでユージに絡んできた大男と、直接は絡まなかったがその連れの猿人族の男である。
「あ、ええ。冒険者ギルドから罰も出てるんですよね? しっかりやってくれればそれでいいですから」
実害がなかったユージは甘い応答である。
ユージが初めて異世界の街を訪れてから一週間。
ユージとアリス、コタローは自宅に向けて帰路につくようだ。
「おう、ユージ殿がこうおっしゃってんだ。しっかり働けよ」
冒険者ギルドのギルドマスター、サロモンが地面に膝をつく二人の前にしゃがみ込み、凶悪な面相を歪ませて凄む。ヤンキー座りである。歴戦の勇士の迫力は、ヤンキーなど裸足で逃げ出すほどであった。
領主夫人と代官の書状を持った依頼主に絡んだ罰。
冒険者ギルドが二人に下した罰は『プルミエの街から開拓地まで、荷車が通れる道を造る』であった。
「まあまあサロモンさん、そんな脅さなくても大丈夫ですよ。行き来する商会の者や開拓団の人間が働きを見ますし、食料も届けますから。逃げたって街に入れないわけですし、ねえ」
ニコニコと優しげに言葉をかけるケビン。だが言っている内容は監視体制、食料供給は押さえているという事実、逃走を防ぐ情報である。まったく優しくない。
「おう、まあそういう訳だ。ああ、税は心配すんな。立て替えておいてやるから」
ポンと肩を叩くギルドマスター。
そう。
大人の足で三日かかる森に、荷車が通れる道を造る。どう軽く見積もっても、年単位が必要な大事業である。
とはいえ封建制の社会で権力者の代理人に絡んだのだ。罰則としては軽い方だろう。まあ他の冒険者からは『プルミエの街からの追放』として見られているようだが。荷車が通れる道が完成すれば、街に入れるよう取り計らわれていた。完成すれば。
「ギルマス、ユージ殿はどれぐらい戦えるんですか? ユージ殿とアリスさんを守りながら森を歩くとなると、けっこう時間かかりそうで」
今回、ユージに同行するのは一組の冒険者パーティだ。3級までいったプルミエの街の冒険者だが、メンバーの結婚を機に引退を決めたのである。ちなみにパーティは男三人、女一人。一組が夫婦となり、残りの男二人のうち一人が婚約済み。斥候役の男が独身のままあぶれていた。
彼らの役割は、開拓地の下準備である。道を知り、場所を確かめ、先行して伐り拓く。彼らの働きに、引退した冒険者たちをどれぐらい引き受けてもらえるかが掛かっていた。
「ユージ殿は7級ぐらいだな。オークでも一対一なら問題ない。アリスちゃんの護衛は……」
チラリとコタローに目をやるギルドマスター。
ワンワンッとコタローが吠える。ありすはわたしがまもるからだいじょうぶよ、と言っているようだ。
「……おまえらは心配するな。進む速さだけ気をつけてりゃ大丈夫だ」
アリスに目を向け、苦笑いを浮かべるギルドマスター。は、はあ、そうですか……と腑に落ちない様子だが、冒険者たちはひとまず気にしないことにしたようである。
「アリスちゃん、魔法はユージ殿の許可をもらってから使うんだぞ!」
話題になって思い出したのか、ギルドマスターはアリスに声をかける。はーい! と元気いっぱいに応えるアリス。ちなみにアリスとギルドマスターのこのやり取り、北門に集まってから三回目であった。アリスの火魔法は彼の心に大きな傷跡を残しているようだ。
「ユージさん、はやく行きましょーよ!」
今回開拓地に向かう最後の一人は、若手木工職人のトマスである。工房から派遣予定の手伝いとともに第二陣と一緒に行けばいいものを、待ちきれずにトマス一人でついていくようだ。新しい技術がよっぽど気になっているのだろう。
「じゃあケビンさん。あっちで待ってますから」
「ええ。これからは頻繁に行き来すると思います。あらためてよろしくお願いしますね。開拓団長のユージ殿」
がっちりと握手を交わすユージとケビン。
こうして、ユージ初めての異世界の街訪問はぶじに終わりを迎える。
ユージ、アリス、コタロー、4人の冒険者、木工職人のトマス。8人の大所帯、いや、7人と一匹の大所帯でユージの家を目指すのだった。
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「どこを通るか俺らが決めて印を付けておくから、おめえらは薮と枝を切り払え。きっちりやれよ」
森に入る手前で、冒険者パーティのリーダーが罰を受けた二人の男に声をかける。わかりました! と背筋を伸ばし、声を揃えて応える二人。
ユージに同行している、引退して開拓者となる元3級冒険者パーティ。プルミエの街には、4級〜1級の冒険者は40人ほどしかいない。ケビンとの交渉で追い詰められたギルドマスターが、最初に開拓団に送り込むほど信頼された冒険者パーティ。戦闘力でも人間性でも、彼らは一目置かれる存在だった。
ちなみに、ユージに絡んだのは人族の大柄な男だけ。とうぜん罰を受けるのも本人だけの予定だった。だが猿人族の男はパーティだし、止められなかった俺も同罪だと自ら罰を引き受けたのである。美談であった。原因に目を向けなければ。
ともあれ、こうしてユージに絡んだ男と猿人族の男、二人の長い長い戦いは始まりを告げるのだった。
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「もうすぐ見えてくると思いますよ! いやあ、それにしてもみなさん強いですね」
一行が森に入って4日目。
アリスと手を繋いで歩くユージが、冒険者たちに声をかける。
「まあ俺らは戦いしか知りませんでしたからね。それがこんなことになるなんてなあ……」
パーティリーダーがそんな言葉をユージに返し、柔らかな眼差しで弓士の女性を見る。微笑み返す女。この二人がパーティ内で結婚し、それを理由に引退することになったのだという。
通じ合う二人の微笑みを目にして、ユージの心にどす黒い感情が湧き上がる。
リア充爆発しろ、という言葉を飲み込むユージ。
アリスが近くにいる以上、その言葉は禁句である。もしアリスがユージの言葉を指示と捉えたら、物理的に爆発させかねない。どーんってなれー! である。
ワンワンッ、と先頭を進んでいたコタローの吠え声がユージの耳に届く。ほらゆーじ、みえてきたわよ、と伝えているかのようだ。
ユージがコタローに追いついて前方に目をやると、獣道の脇から猫人族のニナが顔を出す。どうやら近づく気配を察知して、警戒に出ていたようだ。
「あ、ユージさんたちか。お帰りニャさい」
家を出てから2週間。
ユージとアリスとコタローは、家に帰ってきた。
簡易な柵を越え、家を見たユージの目から、滂沱の涙が流れ落ちていた。
ようやく、帰り着いたのである。
お風呂と、水でお尻をキレイにしてくれるトイレがある我が家に。
明日は18時投稿予定です!
予定ではひさしぶりの掲示板回!
話題がありすぎるんだよなあ…





