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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第六章 ユージは開拓者から農家にジョブチェンジした』

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第六話 ユージ、オークとゴブリンを撃退して遭遇頻度を懸念する

※残酷な表現があります。苦手な方はご注意ください

「よーしいいぞコタロー、よくやった!」


 ユージの声と、ワンワンワンッと吠えたてるコタローの鳴き声が森に響く。


 ユージに向かってくる一頭のシカ。


 体高は80cmほどだろうか。見た目はニホンジカに似ているが、ニホンジカより小さいようだ。あるいはコタローが群れを追い込んだ際にはぐれたまだ若い鹿だろうか。


 コタローに追いかけ回されてついに逃げることを諦めたのか、シカは角を向け、ユージに突進してくる。


 シカの悪あがきに応じるようにユージは前傾姿勢で前に体重をかけ、盾をしっかり両手で握って構える。


 ガツンッと鈍い音を立て、シカの突進が止まる。やや後ろに押し込まれただけでユージは耐え切ったようである。


 すかさず右手を盾から離し、持ち替えた短槍をシカに突き刺す。


 追いついたコタローがシカの横手にまわり、スピードを活かしてそのまま突っ込む。

 体ごとぶつけ、弱ったシカをしっかり押し倒したようである。


 ユージは鉈に持ち替え、ぐったりと地面に倒れたシカにトドメをさした。



 季節は既に夏の終わり。

 アリスを家に置き、ユージとコタローは採取と狩猟のため森を訪れていた。


 この季節にしか採れない木の実や果物を得るため。そして、秋ってたしか狩猟シーズンだったよな、いやもっと遅い秋か冬だったかな、まあでも異世界だしわからないか、というユージの思いつきによるものである。


 なんとなくの探索行ではあったものの、コタローがシカの群れを発見。

 それから1時間ほどで群れから一頭切り離し、コタローが追い立ててユージが仕留める。

 原始的だが見事なシカ猟であった。ユージもたくましくなったものである。



「よーし、今日はごちそうだな!」


 せわしなく左右に尻尾を振り、ワンッ! と吠えたコタロー。しかはおいしいらしいからたのしみだわ! と言っているかのようだった。



 仕留めたシカの横に小さな穴を掘り、シカの体と近くの木の枝にザイルをかけて引っ張り上げるユージ。血抜きである。

 位階が上がって向上した身体能力を活かしての力技だった。


 おお、意外といけるもんだなとユージが独り言をつぶやいていると、コタローが毛を逆立てて警戒態勢に入る。

 そのままユージの足に頭を当て、ぐいぐいと薮の方へ押していくコタロー。

 てきがきたわ、いちどかくれるわよ、と言いたいようだ。

 珍しくコタローの意図を察して無言のままシカから離れていくユージ。吊り下げられたシカからは血が垂れている。


 5メートルほど離れたユージが周囲を見ていると、やがてコタローの警戒対象が姿を現す。


 ゴブリンが6匹、オークが2匹。

 これまで遭遇した中で最大の戦力であった。


 合計で8匹という数にユージが逡巡していると、そっとコタローがユージに視線を向けてくる。

 その目にはきしゅうでやるわよ、あのしかはわたさないわ、という意思が込められていた。


 なんとなくコタローの言いたいことを理解し、ユージは音を立てないようにそっと準備をはじめる。


 血の臭いを嗅ぎ付けていたのだろう、ゴブリンとオークは血を流すシカを目にするとゲギャグギャ、フゴフゴと喜び勇んで近づいてくる。なぜ吊るされているのか、まわりに仕留めた存在がいるのではと考える知能はないようである。


 モンスターたちがシカまで2メートルほどの場所まで近づくと、きたないてでさわらないで、とばかりにコタローが静かに駆けていった。遅れてユージも走り出す。


 ユージがガサガサと薮を進む音に気づき、足を止めて目を向けるモンスターたち。だが、手に持った棍棒はだらりと下げられたままである。


 ユージの方を見ているオークに、その視線の手前からコタローが飛びかかり、そしてそのまますれ違う。

 腹を(えぐ)られたオークは腹膜まで破れたのだろう。腹圧で飛び出た腸を目にして、こぼれる腸をなんとかしようとあたふたと両手で腹をおさえ出す。


 ゲギャグギャと騒ぎながらようやく棍棒を構える1匹のオークとゴブリンたち。


 遅れて飛び出したユージが、走るスピードそのままに短槍をオークの腹に突き刺し、槍を抜かずにそのままコタロー同様に駆け抜けていった。


 ユージとコタロー、それぞれが主力であるオークに大きな傷を負わせる不意打ちであった。


 スピードを殺さずにUターンしたコタロー。

 何やらモゴモゴと口を動かし、続けてペッと吐き出す。なによ、おいしくないじゃない、と言いたげであった。

 肉か。オークの腹肉を食ったのか。そういえばアリスの魔法で焼かれたオークはいい匂いを発していた。興味を抑えられなかったようだ。はしたない女である。犬だけど。


 再び接敵したコタローとユージ。

 だがいかに6匹とはいえ、相手はゴブリンである。位階が上がる前のユージでさえ倒せた相手だ。

 縦横無尽に駆けまわり、6匹のゴブリンを翻弄するコタロー。

 盾で棍棒を防ぎ、鉈で確実に仕留めていくユージ。


 それはもはや蹂躙戦であった。

 ほどなくゴブリンを殲滅し、倒れていたオークにトドメをさす。


「よし! 完勝だなコタロー!」


 ワンワンッとユージの声に応えるコタロー。頭を撫でられ、尻尾を左右にブンブン振ってご機嫌なようである。


「それにしても……農家の大敵、シカとイノシシか。シカは県北だけじゃなくて県南の西の方でも農業被害が出てたもんなあ。ゴブリンやオークもよく遭遇するようになった気がするし。次にケビンさんが来た時に相談するか。畑とヤランガのまわりも柵かなんかで囲った方がよさそうだなあ……。ああ、やることがいっぱい……」


 一つ終えると一つ出てくる。それどころか同時進行を求められる。ようやくユージも働くことの大変さを身に染みて理解したようである。


 まあひとまずシカを持って帰ってアリスと解体だな! シカは美味しいらしいし、アリスもきっと喜ぶぞーと独り言を言いながら、シカを背負ったユージとコタローは家路に就くのであった。


 いかに小さめで血を抜いたとはいえ、シカの体重は50kgはあるだろう。何気なく担いでいるが、位階が上がっていることと日々の労働によるユージの身体能力の向上は顕著であった。


 だが本来シカは仕留めた場所で内臓を抜くことが多い。

 そして何気なくアリスも解体作業の頭数に入っている。


 身体能力や戦闘、狩猟に関しては成長したものの、ユージのグロ耐性はまだまだ未熟なものであった。



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