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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『最終章 元引きニートの代官ユージ、ホウジョウの街に引きこもる』

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第十話 ユージ、プルミエの街から王都に向けて旅立つ


「な、なんか想像以上の人数なんですけど……」


「すごーい! 騎士さんがいっぱい!」


「ユージさん、貴族も含めた移動ですからね。これでも少ないほうですよ」


「ふむ、ここからは貴族として振る舞わねばならぬか……ままならぬものじゃのう」


 プルミエの街、領主の館に到着したユージは目を見張っていた。

 正門前の車まわしには4頭引きの馬車が5台並んでいる。

 台数が多い以上、護衛の人数も増える。

 馬車の横には、30人ほどの兵が並んでいた。それぞれ馬を引き連れて。


『リーゼ、馬車に乗るのひさしぶり! またアリスちゃんと一緒がいいなあ』


『馬車は初めてじゃな! うむうむ、長生きはするもんじゃ』


『もう、年甲斐もなくはしゃいじゃって』


 ユージ、アリス、ケビン、コタロー。

 その後ろにはエルフの少女・リーゼと、リーゼの両親、祖母のイザベル、長老の二人。

 領主の館ではなくケビン商会に泊まって、孫との触れ合いを堪能したバスチアンもいる。

 10人と一匹の大所帯である。

 だが王都に向かうのはユージたちだけではない。


「おお、ユージ。準備は良いようだな」


「ファビアン様? あれ? 鎧姿で馬に乗って……馬車には乗らないんですか?」


「ほらあなた。ユージにも言われてますよ」


「領主の儂がこの地の責任者である! 客人であるエルフのみなさまの安全を守るのは儂の務めだ!」


「ファビアン様、本音は」


「儂は騎士だからな! 馬車に閉じ込められるよりこっちのほうが性に合っておる! ……何を言わせるのだレイモン」


 辺境の領主ファビアン・パストゥール、その夫人のオルガ。

 使用人も合わせて一緒に王都まで行く予定となっている。

 王宮に招かれたユージと、同行するエルフの客人を無事に送り届けるために。

 もちろん領主夫妻は王宮で行われる謁見とパーティにも参加する。

 ユージの上司であり、直接褒められるのは領主なので。

 領主に本音を問いただした代官のレイモンは、この街に残るようだ。


「あなた……」


「むっ、もうこんな時間か! バスチアン様、エルフの皆様。どうぞ馬車にお乗りください。ユージ、アリス、ケビンもな!」


 ごまかすように告げる領主。

 全部で5台の馬車のうち1台は道中の荷物を、もう1台は領主夫妻の使用人を乗せるようだ。

 領主夫人のオルガと貴族のバスチアンで1台、ユージとエルフたちに割り当てられた2台。

 5台とも装飾がなされた馬車なのは、どこに貴族が乗っているかわからなくするためなのだろう。


「ええっと、どう分かれましょうか」


「はーい! 私、リーゼちゃんとユージ兄と一緒がいい!」


「リーゼ、リーゼも!」


「あら、じゃあ私はリーゼの護衛で同じ馬車にするわね。ケビン」


「では、私が他のエルフの皆様との橋渡しを務めましょう。人間とエルフの言葉、両方わかる者がそちらに固まってしまいましたからね」


 あっさりと組み分けが決まる。

 いまのユージは『グループを作って』という言葉も怖くないのだ。

 ユージ、アリス、リーゼ、イザベルの四人が箱馬車に乗り込むと、コタローもさっと続く。

 こちらは4人と一匹が乗客らしい。

 ケビンに促されて、初めての馬車に乗り込んで行くリーゼの両親と長老たち。

 エルフの言葉を理解できるうえに、博識なケビンがついたのは賢明な判断だったのかもしれない。

 すでにエルフのテンションは高く、質問攻めされることが予想されるので。


「うむ、乗り込んだな。ではレイモン、留守は任せたぞ! 出発!」


 領主の号令で馬車が動き出す。

 もちろん、護衛のために集められた兵士も。

 ちなみにアリスは『騎士さんがいっぱい』と言っていたが、称号として『騎士』なのは領主その人だけである。

 『騎乗して戦う者』という意味では、30人ほどの騎馬兵も騎士ではあるが。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 プルミエの街から王都に続く街道には、所々に休憩できる広場が設けられている。

 水場も設置されていて馬や馬車の場合は休憩や食事の場所に、徒歩で移動する場合は野営に利用できる場所となっていた。


 プルミエの街を出て、初日の昼。

 ユージたちは馬車を停めて、昼食のための休憩を取っていた。

 広場の中央付近には折り畳みのテーブルと椅子が広げられて、領主夫妻やユージ、エルフたちが食事している。

 広場の端では兵士たちが交代で短い休憩を取る間に、簡単な昼食を口にしている。


 王都まで約7日、50人規模の大移動。

 だが、規模のわりに荷物は少ない。

 基本的に宿泊は宿場町の予定で、必要なのは道中と昼食、休憩時の荷物だけ。

 峠越えの際には野営することになるが、その時に必要な荷物は直前の宿場町に置いてある。

 そのため、馬車で持ち運ぶ荷物はかなり少なくなっていた。

 しかも。


「うむ、やはり缶詰はいいのう! 長期保存が可能で温めるだけで美味しく、持ち運びに気を遣わなくてよい。ユージ、ケビン、よくやった!」


「あなた、缶詰だけではありませんわ。ユージ、いい機会です。兵たちの昼食をご覧なさいませ」


「あ、カ○リーメイト風の保存食」


「これまで移動中の昼食は固いパンをかじっておったからな! 夕食にはスープがついてふやかせたものだが……昼はキツくてなあ」


 移動をはじめた初日の昼食は、ケビン商会の保存食だった。

 缶詰、カ○リーメイト風のスティック。

 ユージと掲示板住人が知識を提供してケビンが形にしたアレである。

 缶詰は乱暴に扱っても壊れず、カロリーメイ○はかさばらないため兵士自身がそれぞれの分を運べる。

 ケビン商会が売り出した保存食、いまのところ最大のお得意様は領主であるようだ。


「ユージ、騎士団に所属する騎士としても、領主としても感謝しておる! ああ、ケビンもだ。もしユージが広めた知識が保存食と服でなければ、辺境もこの国もどうなっていたかわからん」


「そうじゃな。話を聞く限り、ケビンの慧眼じゃろう」


「お褒めいただきありがとうございますファビアン様、バスチアン様」


「え? ケビンさん、どういうことですか? 俺、よくわかってないみたいで」


 道中の風景で盛り上がるエルフたちとアリスをよそに、人間の大人たちは真面目な話をしていた。

 ユージはあいかわらずだが。


「例えばもしユージが新たな武器の知識を持って、ケビンが形にしていたら。辺境は、この国は、戦乱となっていたかもしれん」


「え?」


「ユージ、当然ですわ。優れた武器は取り合いになり、その知識をもたらすユージのこともまた取り合いになっていたでしょう」


「……お、おおう」


「辺境だけであれば、モンスターとの戦いに利用されるだけで済むかもしれん。だが、優れた武器のウワサは広まるものだ」


「そうなれば他の貴族が黙っておらんじゃろうからなあ。人間の欲とは恐ろしいものよ」


 ユージ、ギリギリセーフであったらしい。

 多少手は加えられているが、ホウジョウの街で運用されている対ワイバーン用のボウガンも投槍も投網も、この世界に存在したものである。

 投擲の補助具・アトラトルはなかったが、技術的には何一つ難しいものはない。

 火薬やそこから派生する爆発物、銃、大砲はモノが違うのだ。

 ギリギリセーフである。

 危うく掲示板住人に乗せられるところだったが。


「感謝しているのは保存食の件だけではないぞ? 開拓地であったホウジョウ村は街となった。おかげでプルミエの街はずいぶん雰囲気が変わっておる」


「あ、はい。みんないろんな服を着ててビックリしました」


「ふふ、ユージ。そのことではないわ。いえ、私はそれも興味深く見ているけれど」


「うむ。ホウジョウの街はこれから発展していく場所で、品行方正であれば移住の機会がある。あらゆる職が求められ、職にあぶれる者は減り、儂の領地はずいぶん治安がよくなっておる」


「はあ……」


「ユージさん、誇っていいことですよ」


 ポンとユージの肩を叩くケビン。

 ユージ、よくわかってないらしい。

 領主夫妻もバスチアンも、そんなユージの様子に苦笑を浮かべていた。付き合い方がだいぶわかってきたようだ。


「くくっ、わかっておらぬようだな。よいよい、儂もオルガもユージに感謝していることだけわかってくれればな」


「その、こちらこそありがとうございます」


 ユージ、代官となってもズレた答えである。

 10年間引きこもっていたためではなく、これが地なのだろう。

 なにしろユージは、この世界に来てから12年目。もはや引きこもっていた時間よりも長い。

 とりあえず、こちらこそ稀人の俺を受け入れてくれてありがとうございます、と辺境の責任者に伝えたかったようだ。たぶん。


「ゆえにな。ユージが望む限り、王都で何を言われようと儂が手放す気はない。安心して謁見とパーティに臨むがいい」


「うむうむ。この『赤熱卿』、バスチアン侯爵もユージの味方じゃからな」


「ありがとうございます」


 領主はあらためてそれが伝えたかったらしい。

 腕を曲げて胸にあてて、この世界の礼をするユージ。

 反射的に頭を下げないあたり、すっかりこの世界の風習に馴染んでいるようだ。

 領主は笑顔でユージの礼を受け入れていた。


「よし、では出発するか!」


 領主が立ち上がって指示を出す。

 つられてユージも立ち上がって、盛り上がっていたエルフたちとアリスに声をかける。


 ユージがこの世界に来てから12年目。

 ユージはプルミエの街を出て、一路王都を目指すのだった。

 30人ほどの騎馬兵と騎士と、人間兵器なアリスと一騎当千なエルフたちとともに。

 どう考えても過剰戦力である。

 たとえモンスターや盗賊に襲われたところで、あっさり撃退する未来しか見えない。

 ユージ、初めての『安全な陸路の旅』となるようだ。



次話、明日18時投稿予定です!

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