最終章 プロローグ
ちょっと短めです
「ユージさん、こんな感じでどうだ? それっぽくなってるんじゃねえか?」
「あ、はい、いいと思います、ブレーズさん。さすがですね」
「冬の間、農業班は手が空いてたからな。ちょいちょい手伝ってもらったおかげだ」
ホウジョウ村の中心地。
そこには文官のユージと村長のブレーズの姿があった。
ブレーズは腕を組んでうんうんと満足そうに頷いている。
目の前の広場を見つめて。
「それにしても、みんなが集まるのにこれだけ大きい広場が必要になるなんて……。ホントに人が増えましたね!」
「まあ詰めりゃユージさんの家の前の円形劇場でもいけるだろうけどな。お祭りってんならこれぐらいやんねえと!」
「今年だけじゃなくて、定例にしたいですね、春のお祭り!」
長い冬を終えて雪解けを迎えたホウジョウ村。
文官のユージと村長のブレーズは、お祭り会場となる広場の出来を確かめていたようだ。
「トマスたちが張り切ってたぞ? 屋台を作るから誰か出店を出してほしいっす! ってな」
「はは、トマスさんらしいですね」
「ああ。もうずーっと家を建て続けてるからな。気晴らしに違うものを作りたいんだろうよ」
「そっか、そうですよね。ここ4年ぐらい毎年移住者が来てたから。俺がここに来てから12年目。ここ4年が一番人が増えたなあ」
「ああ。工員、針子、商人、農民、警備兵。家族で来たヤツもいるからな。ユージさん、知ってるか? 子供も合わせたら、もうすぐ300人を超えそうなんだぜ?」
「もうそんな人数ですか!」
ユージがこの世界に来てから12年目の春。
8年目から毎年迎えてきた移住者たちは、合計で200人を超えている。
ケビン商会の缶詰生産工場と針子工房への増員、畑仕事と畜産を担当するべく移住してきた農民たち、臨時から常設となったケビン商会の店舗に常駐する商人、ついに自警団としての防衛団から公的組織となった警備隊。
医者も入れて42人だった8年目のホウジョウ村の人口と比べて、5倍以上である。
「でもなんか、いい人たちばっかりでよかったです。のんびりした雰囲気のままですし」
「ま、この村は裕福だからな。食うものにも金にも困ってねえんだ、そうそう荒れねえよ。領主ご夫妻と代官様と、ケビンさんたちがガッツリ調べてるってのもあるけどな」
「それが大きいんですかねー。俺は最後に会うだけだから、イマイチ実感ないんですけど」
「ああ、ユージさんはそれでいいって。な、コタロー?」
ブレーズの質問の、ウォンッ! と元気な鳴き声を返すコタロー。
そうよ、ゆーじじゃなくてわたしがえらんであげてるの、とばかりに。
さすが最終面接官である。
ちなみに領主夫妻と代官、ケビン、冒険者の場合は加えてギルドマスターの面接を潜り抜けたのに、コタローに落とされた面接希望者もいる。
ホウジョウ村の隠れた権力者である。犬だけど。
ユージがこの世界に来てから12年目。
コタローはいまや27才。
犬種によって違うが、犬は20年生きればかなりの長寿だろう。ギネス記録さえ29才がやっとなのだ。
位階が上がると身体能力が上がって、寿命も延びる。
150才ほどまで生きる人間がいることを考えると、寿命は倍以上に延びるのだろう。
コタローは、いまも元気に駆けまわっている。
12年目。
ユージはいま、42才である。
不惑だったり厄だったりである。
立派な中年である。
見た目がさほど変わらないのは、位階が上がって寿命が延びたせいだろう。
ホウジョウ村に移住した研究者いわく、体力的に最も充実する頃の見た目が長く、そこから緩やかに見た目が変化するらしい。
「広場の準備はOK。よし、これでいつみんなが来ても大丈夫そうですね!」
「ケビンさんはもうすぐだろうがよ、他の方はまだかかるんじゃねえか? 雪解けのぬかるみがなくなってからの移動だからな」
「ブレーズさん、油断できませんよ。ハルさんとか、エルフのみなさんの気分次第ですから! 迎えに行っちゃった! とか言い出しそうですし」
「……たしかに。あの人らは船で移動できるんだったか」
大きな広場で準備されているのは、春のお祭りの会場だ。
ホウジョウ村で初開催となる春のお祭りには、別の場所から参加予定の人もいるらしい。
潜水艇を使うエルフたちは、道がぬかるんでいようが問題なく移動できる。川ぞい限定だが。
ホウジョウ村のエルフ居留地で暮らすエルフがその気になったら、さっさと集めてきてしまうだろう。
プルミエの街も王都もリザードマンの里も、ユージに関係ある人が住むのはすべて川ぞいなので。
「どうするつもりか聞いといたほうがよさそうですね! 里からも誰か来るかもしれませんし」
「だな、頼むわユージさん。おっ、ウワサをすれば」
ユージの背後に目を向ける村長のブレーズ。
その仕草を見て、ユージもコタローも振り返る。
「はーい! みんな、こっちだよー!」
「ほらほら、よそ見しないの! はぐれちゃうよ!」
ホウジョウ村で生まれたちびっ子と、移住してきた子供たちを二人の少女が先導している。
赤い髪をたなびかせて、楽しそうに大きな瞳を輝かせる先頭を歩く少女。
アリスである。
アリス、16才である。
ユージに保護された幼女は、すっかり美しい少女に成長していた。
この世界の人間の成人は15才のため、いちおう大人の女性である。
アリスに続いてちびっ子たちに囲まれる少女。
細やかな金髪が陽を反射してきらめいている。
リーゼである。
エルフの少女・リーゼ、18才である。
とはいえエルフの成人は100才で、それまでは人間よりも成長が遅い。
リーゼは、いつの間にかアリスに身長を抜かれていた。
「ふふ、リーゼったらすっかり大人ぶっちゃって」
「お祖母さま! リーゼはもう立派なレディなの!」
集団の後方から続くのはリーゼの祖母でエルフのイザベルだ。
数百才のエルフはユージと出会ってから見た目は変わらない。
リーゼがホウジョウ村を出歩く時は、イザベルかリーゼの両親が護衛として必ず付き添っている。
二人の少女と子供たちのまわりには、小さなオオカミがじゃれながら歩いていた。
護衛のつもりか。
「あっ、ユージ兄! ブレーズさん! こんにちは!」
「おう、こんにちはアリスちゃん。子供たちの面倒を見てくれてありがとうな」
「どういたしまして! 私、もうオトナだからお仕事しないと!」
「はは、アリスちゃんは工事のたびに魔法を使ってもらってるんだ。充分だけどなあ」
「うーん、アレはすぐ終わっちゃうもん!」
16才となっても、アリスの天真爛漫っぷりは変わっていないようだ。
「アリス、リーゼ。ほら、もうすぐここでお祭りがあるんだよ」
「うわあ、ひろーい! みんながんばったんだね!」
「お祖母さま、お祖母さまも、お父さまとお母さまもお祭りに行くわよね? リーゼも一緒に行きたいなあ」
「ふふ、心配しないで。私も息子夫婦も参加するから、ちゃんとリーゼも連れていくわよ」
「やった! アリスちゃん、一緒に行こうね!」
「うん、リーゼちゃん!」
16才の人間と、18才のエルフ。
年月が経っても身長順が入れ替わっても、二人の仲は変わらないらしい。
二人とも『自分のほうがお姉ちゃんだ』と思っているのも一緒である。
ユージがこの世界に来てから12年目の春。
変わらないものもあれば、変わっていくものもある。
とりあえず、移住者が増えても、村が広くなっても。
ホウジョウ村は、今日も平和であるようだ。
次話、明日18時投稿予定です!
…最終章だからって特別なことはありませんよ?
ネタバレっぽい章タイトルもママいきますし、
そもそも前の閑話シリーズと合わせて後日談的なアレになります。
構成ミスじゃなくてね、ええ、本編終了後に後日談をやりたくなかった感じでして。





