表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『最終章 元引きニートの代官ユージ、ホウジョウの街に引きこもる』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

496/537

最終章 プロローグ

ちょっと短めです


「ユージさん、こんな感じでどうだ? それっぽくなってるんじゃねえか?」


「あ、はい、いいと思います、ブレーズさん。さすがですね」


「冬の間、農業班は手が空いてたからな。ちょいちょい手伝ってもらったおかげだ」


 ホウジョウ村の中心地。

 そこには文官のユージと村長のブレーズの姿があった。

 ブレーズは腕を組んでうんうんと満足そうに頷いている。

 目の前の広場を見つめて。


「それにしても、みんなが集まるのにこれだけ大きい広場が必要になるなんて……。ホントに人が増えましたね!」


「まあ詰めりゃユージさんの家の前の円形劇場でもいけるだろうけどな。お祭りってんならこれぐらいやんねえと!」


「今年だけじゃなくて、定例にしたいですね、()()()()()!」


 長い冬を終えて雪解けを迎えたホウジョウ村。

 文官のユージと村長のブレーズは、お祭り会場となる広場の出来を確かめていたようだ。


「トマスたちが張り切ってたぞ? 屋台を作るから誰か出店を出してほしいっす! ってな」


「はは、トマスさんらしいですね」


「ああ。もうずーっと家を建て続けてるからな。気晴らしに違うものを作りたいんだろうよ」


「そっか、そうですよね。ここ4年ぐらい毎年移住者が来てたから。俺がここに来てから12()()()。ここ4年が一番人が増えたなあ」


「ああ。工員、針子、商人、農民、警備兵。家族で来たヤツもいるからな。ユージさん、知ってるか? 子供も合わせたら、もうすぐ300人を超えそうなんだぜ?」


「もうそんな人数ですか!」


 ユージがこの世界に来てから12年目の春。

 8年目から毎年迎えてきた移住者たちは、合計で200人を超えている。

 ケビン商会の缶詰生産工場と針子工房への増員、畑仕事と畜産を担当するべく移住してきた農民たち、臨時から常設となったケビン商会の店舗に常駐する商人、ついに自警団としての防衛団から公的組織となった警備隊。

 医者も入れて42人だった8年目のホウジョウ村の人口と比べて、5倍以上である。


「でもなんか、いい人たちばっかりでよかったです。のんびりした雰囲気のままですし」


「ま、この村は裕福だからな。食うものにも金にも困ってねえんだ、そうそう荒れねえよ。領主ご夫妻と代官様と、ケビンさんたちがガッツリ調べてるってのもあるけどな」


「それが大きいんですかねー。俺は最後に会うだけだから、イマイチ実感ないんですけど」


「ああ、ユージさんはそれでいいって。な、コタロー?」


 ブレーズの質問の、ウォンッ! と元気な鳴き声を返すコタロー。

 そうよ、ゆーじじゃなくてわたしがえらんであげてるの、とばかりに。

 さすが最終面接官である。

 ちなみに領主夫妻と代官、ケビン、冒険者の場合は加えてギルドマスターの面接を潜り抜けたのに、コタローに落とされた面接希望者もいる。

 ホウジョウ村の隠れた権力者である。犬だけど。


 ユージがこの世界に来てから12年目。

 コタローはいまや27才。

 犬種によって違うが、犬は20年生きればかなりの長寿だろう。ギネス記録さえ29才がやっとなのだ。

 位階が上がると身体能力が上がって、寿命も延びる。

 150才ほどまで生きる人間がいることを考えると、寿命は倍以上に延びるのだろう。

 コタローは、いまも元気に駆けまわっている。


 12年目。

 ユージはいま、42才である。

 不惑だったり厄だったりである。

 立派な中年である。

 見た目がさほど変わらないのは、位階が上がって寿命が延びたせいだろう。

 ホウジョウ村に移住した研究者いわく、体力的に最も充実する頃の見た目が長く、そこから緩やかに見た目が変化するらしい。


「広場の準備はOK。よし、これでいつみんなが来ても大丈夫そうですね!」


「ケビンさんはもうすぐだろうがよ、他の方はまだかかるんじゃねえか? 雪解けのぬかるみがなくなってからの移動だからな」


「ブレーズさん、油断できませんよ。ハルさんとか、エルフのみなさんの気分次第ですから! 迎えに行っちゃった! とか言い出しそうですし」


「……たしかに。あの人らは船で移動できるんだったか」


 大きな広場で準備されているのは、春のお祭りの会場だ。

 ホウジョウ村で初開催となる春のお祭りには、別の場所から参加予定の人もいるらしい。

 潜水艇を使うエルフたちは、道がぬかるんでいようが問題なく移動できる。川ぞい限定だが。

 ホウジョウ村のエルフ居留地で暮らすエルフがその気になったら、さっさと集めてきてしまうだろう。

 プルミエの街も王都もリザードマンの里も、ユージに関係ある人が住むのはすべて川ぞいなので。


「どうするつもりか聞いといたほうがよさそうですね! 里からも誰か来るかもしれませんし」


「だな、頼むわユージさん。おっ、ウワサをすれば」


 ユージの背後に目を向ける村長のブレーズ。

 その仕草を見て、ユージもコタローも振り返る。


「はーい! みんな、こっちだよー!」


「ほらほら、よそ見しないの! はぐれちゃうよ!」


 ホウジョウ村で生まれたちびっ子と、移住してきた子供たちを二人の少女が先導している。


 赤い髪をたなびかせて、楽しそうに大きな瞳を輝かせる先頭を歩く少女。

 アリスである。

 アリス、16才である。

 ユージに保護された幼女は、すっかり美しい少女に成長していた。

 この世界の人間の成人は15才のため、いちおう大人の女性である。


 アリスに続いてちびっ子たちに囲まれる少女。

 細やかな金髪が陽を反射してきらめいている。

 リーゼである。

 エルフの少女・リーゼ、18才である。

 とはいえエルフの成人は100才で、それまでは人間よりも成長が遅い。

 リーゼは、いつの間にかアリスに身長を抜かれていた。


「ふふ、リーゼったらすっかり大人ぶっちゃって」


「お祖母さま! リーゼはもう立派なレディなの!」


 集団の後方から続くのはリーゼの祖母でエルフのイザベルだ。

 数百才のエルフはユージと出会ってから見た目は変わらない。

 リーゼがホウジョウ村を出歩く時は、イザベルかリーゼの両親が護衛として必ず付き添っている。

 二人の少女と子供たちのまわりには、小さなオオカミがじゃれながら歩いていた。

 護衛のつもりか。


「あっ、ユージ兄! ブレーズさん! こんにちは!」


「おう、こんにちはアリスちゃん。子供たちの面倒を見てくれてありがとうな」


「どういたしまして! 私、もうオトナだからお仕事しないと!」


「はは、アリスちゃんは工事のたびに魔法を使ってもらってるんだ。充分だけどなあ」


「うーん、アレはすぐ終わっちゃうもん!」


 16才となっても、アリスの天真爛漫っぷりは変わっていないようだ。


「アリス、リーゼ。ほら、もうすぐここでお祭りがあるんだよ」


「うわあ、ひろーい! みんながんばったんだね!」


「お祖母さま、お祖母さまも、お父さまとお母さまもお祭りに行くわよね? リーゼも一緒に行きたいなあ」


「ふふ、心配しないで。私も息子夫婦も参加するから、ちゃんとリーゼも連れていくわよ」


「やった! アリスちゃん、一緒に行こうね!」


「うん、リーゼちゃん!」


 16才の人間と、18才のエルフ。

 年月が経っても身長順が入れ替わっても、二人の仲は変わらないらしい。

 二人とも『自分のほうがお姉ちゃんだ』と思っているのも一緒である。



 ユージがこの世界に来てから12年目の春。

 変わらないものもあれば、変わっていくものもある。

 とりあえず、移住者が増えても、村が広くなっても。

 ホウジョウ村は、今日も平和であるようだ。



次話、明日18時投稿予定です!






…最終章だからって特別なことはありませんよ?

ネタバレっぽい章タイトルもママいきますし、

そもそも前の閑話シリーズと合わせて後日談的なアレになります。

構成ミスじゃなくてね、ええ、本編終了後に後日談をやりたくなかった感じでして。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ネタばれタイトルは好き。興味のない系は跳ばせるから。そして、好きな話は探し易くて再度読めるから。
[一言] コタローはいつのまにか不老不死になっててもおもしろそうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ