閑話21-51 とあるニート、キャンプオフに参加してみるpart2
副題の「21-51」は、この閑話が第二十一章 終了後で「50」の話の後、という意味です。
ご注意ください。
ユージは本当に異世界に行ったとは思ってないけど、キャンプオフに来てみた。
清水公園までの送迎バスが出る新越谷駅が近かったからってのもある。
とりあえずほぼ無言で髪を切った俺は、ほかの店が出店してるエリアに向かってる。
服屋と靴屋、あとはメガネ屋と、今回からアニメイ○が出店してるらしい。
バンガローエリアの中、木立の間の道を歩く。
宿泊者用のシャワーハウスの横にある喫煙スペースで一服。
この先に服屋やらがあるらしい。
あるらしいっていうか、もう見えてるけど。
細い道の左右にあるスペースと、バンガローのテラスには商品が並んでいる。
横にいる喫煙者の会話を聞いてると、ユニク○が初めてキャンプオフに店を出した時は、こんなに整ってなかったらしい。
ワゴンを並べて上に見本の服を置き、後ろに商品&サイズごとの段ボールが並んでたそうだ。
試着室はバンガローで、あとはレジと姿見があっただけ。
それが今回は、普通にユニク○の店舗っぽくなっている。
テラスをうまく利用して、むしろ店舗よりオシャレなんじゃないかと思うほど。
いやでも、そんな怯えなくていいだろ。
お前らタバコ吸うペースがはええよ。
喫煙スペースでタバコを吸う同志たちにチラッと目を向ける。
挙動不審だった。
落ち着かない様子で出店スペースを、そこにいる店員さんを見ては、さも見てないかのように視線を泳がせる。
やたらと灰皿を見つめる。
きっと。
きっと、お店で服を買うことに緊張してるんだろう。
気持ちはわかる。
俺だって得意じゃないけど、働いた経験あるしコイツらよりは慣れてるだけだから。
ガシガシと灰皿でタバコの火を消して。
俺は、臨時ユニク○に向けて歩き出した。
背中に視線を感じながら。
いやそんな『勇者よ!』みたいな目で見なくていいから!
「いらっしゃいませー。ご自分で選ぶという方はこちらのカゴをお持ちください! お任せしたいという方はコチラの黄色いカード、アドバイスが欲しいという方は青いカードをお選びください!」
ユニク○の商品が並ぶエリア内に入ると、おばさ……30代半ばぐらいのキレイなお姉さんがにこやかに話しかけてきた。
マジか。
美容院に続いて服屋までそんなスタイルになってんのか。
迷ったけど、俺は青いカードを手に取った。
後方の喫煙スペースから動揺した気配が伝わってくる。リアクション芸人か。
「あんまりこだわりはないんで、ベタなヤツが欲しいです。パンツ一本と、上を何枚か」
「かしこまりました! では担当に代わりますね」
最初に話しかけてきたお姉さんは、いわゆる受付だったらしい。
ちょっと若めの女性店員さんが登場する。
後ろに男の店員も控えているあたり、人嫌いっぷりによっては男の店員がまわされるのだろう。
「普段は今日みたいなシンプル系の服が多いですかー?」
「あ、はい。ちょくちょく買うわけじゃないんで、使いやすいヤツを」
「なるほどですねー。じゃあ今シーズンの新作や、お持ちの服に合わせられるようなものをご提案しますー」
「お願いします」
お人好しそうな笑顔だからか、軽い口調も気にならない。
ってかこの人のノリじゃ喫煙スペースの男たちを接客するのはツラいだろ。あ、だから俺に当てられたのか。
そんなことを考えつつ、服を見てまわる。
言ってもユニ○ロ、そうそう代わり映えしない。
合わせやすそうなパンツを一本。
上はけっきょく無難なパーカーを一枚買っただけ。
今夜は冷え込むらしいから。
まあ泊まるか帰るかまだ決めてないけど。
ともあれ、買い物を済ませて俺はユ○クロを出る。
向かったのは、店に行く前にいた喫煙スペース。
灰皿を前にタバコに火をつけて。
煙を吐き出して、口を開く。
「……大丈夫。店員さんみんな慣れてる感じだったぞ。オススメされるまま一式まるごと試着して、無言で選んでるヤツもいた」
話しかけられると思ってなかったのだろう。
喫煙スペースにいた三人が顔を上げる。
俺が服を買う前から、ずっとここにいたヤツら。
タバコを吸って、煙を吐く。
俺の言葉に返事はない。
ただスーハーいう音だけ。
まあ答えを期待してたわけじゃない。
だけど。
「…………外に出たの、3年ぶりで、ここまでは送られてきて、服を買えるようにってお金は渡されて」
「そっか」
「でも親に言われたからじゃなくて俺が行きたくて、何かしたくて、ユージの話を知ってここならって、まわりがみんな似たような人なら俺でもって、それで、君みたいに」
「落ち着けって。俺だってただのニートなんだから」
「あ、俺も」
「俺はニートじゃなくて昔のユージスタイル」
「昔のユージスタイル?」
「……引きニートってこと」
「ああ、なるほど、そんな話だったっけ。引きニートが異世界の森って……難易度高くね?」
一人につられて、ポツリポツリと喫煙者たちが口を開いてく。
俺は『ローテンションでゆっくり』を意識しながら話していた。
まあ単に飾らなくていいってことなんだけど。
あ、すっげえ楽だわコレ。
話しやすいのは、喫煙室コミュニケーションっぽいからかもしれない。
俺も会社員時代はこうやって会話して、謎の人脈できてたなあ、とか遠い目をしつつ。
まあここは喫煙室があるオフィスじゃなくて、集まったのはニートと引きニートみたいだけど。
「……俺でよけりゃ一緒に行こうか? 店員さんよりニートと話すほうが気楽だってんなら」
なんでそんなことを言ったのか、自分でもわからない。
会社の喫煙室でタバコを吸う同僚みたいな仲間意識だったのか。
同情か、優越感か。
それとも。
俺もユージに影響されてたのか。
なんでみんなユージの話を信じるのかわからない、とか思ってたクセに。
「……頼む」
「ああ。まあ俺が何かできるわけじゃないけど。俺は気合い入れれば若い女だろうがしゃべれるからさ。疲れるけど」
「ごめん、助かる」
「あ、俺もいいかな?」
「まあ一人も三人も変わらねえだろ。なんならお揃いにするか? UTでなんか探して。ハハッ!」
おいやめろ、いまのは冗談だ。
そんな、ちょっといいかも、みたいな目をするな。
とりあえず。
俺たちは、自己紹介をした。
あだ名やらハンドルネームやら、みんな適当な名前だったけど。
買い物ミッションは思った以上に時間がかかった。
三人分の服を上から下まで、1セットから2セット。
そりゃ時間がかかるのも当たり前だろう。
俺はそのまま三人を靴屋に連れていく。
それから、美容院スペースへ。
「ほら、無言コースならいけそうだろ? ってか俺もさっき無言コースだったし」
ここまで来たらと乗り気な一人、まだためらってる二人。
あえて無視して美容院の受付カウンターに連れていく。
「おっ、さっきの彼。うんうん、髪はいい感じになってるね。君たちはこれからかな? じゃあこの紙に希望を書いてねー。大丈夫、ボクはこんなんだけど、無言を希望したらみんな無言でやってくれるから!」
日焼けしたチャラいおっさんのテンションは、俺でもちょっと引く。
けど、俺がおっさんの相手をしているうちに、三人は希望を書き終わったらしい。
俺、囮かよ。
紙を見ると、予想通り全員無言コースだった。
シャンプーをありに変更して、三人を美容師さんに任せる。
さっき切ってもらった感じじゃ問題ないだろ。
誰もいない待ち合いスペースのイスに腰掛けて、ボーッと三人の様子を眺めていた。
チャキチャキ鳴るハサミの音が小気味良い。
いつの間にか4時をまわってて、陽が傾いている。
この感じなら帰らないで今日は泊まってくかなー。
そんなことを考えているうちに、一人はカットが終わったようだ。
シャンプーが炊事場だと聞いて顔が引きつってる。
うむ。俺もビビった。
不安そうな目でこっちを見てきたので、ニヤッと笑って頷いてやる。
シャンプーありに変更したのは俺だからな。
全員野菜気分を味わって、乾かしてセットされて帰ってくる。
すっきりした表情で。
照れたようにはにかむ三人は、初めて喫煙スペースで会った時と比べて見違えていた。
なぜか、俺まで達成感が湧く。
「おっ、さっぱりしたな。量産型大学生っぽい」
「…………ありがとう。俺、俺」
一緒にタバコを吸って、服を買って、髪を切るのに付き合って。
仲間意識を感じてたのは、俺だけじゃないのかも。
俺たちは、なんとなく連れ立ってバーベキュースペースへ向かった。
見違えた自分たちに自信を持ちつつ、しんみりと、今日は来てよかったなどと言いながら。
だけど。
しんみりできたのは、そこまでだったらしい。
「ぎゃーーー!!! やめろ! 俺、虫はダメなんだって!」
「大丈夫大丈夫、食べたら美味しいから! ほら目をつぶって!」
「勇気。そうだ、勇気は大事。会話が続いたし服も買えたし髪も切れたし、そう、これだってがんばったらその先に」
「はやまるな! その先には何もねえから! 虫が食えたって話のネタにしかならねえから!」
「はは、田舎者め。俺は引きニートだけどイナゴぐらい食える。ただの佃煮」
コテハン・ドングリ博士ってヤツの、恒例らしいサバイバルフードのスペースで大騒ぎする。
「コタロー! 今回も似た犬を連れてきてくれたんだ!」
「コタロー? ああ、ユージが飼ってるっていう犬か。あれ? ユージ還ってこれたの?」
「似てるけど別モノだって! お前そのへんは知らないのな」
「はあ、落ち着くわー。撫でる用に犬を飼うかな」
圧倒的犬派ってコテハンが連れてきた犬と遊ぶ。
「ユージィ! 戻れ! まだゴブリン生きてるぞ!」
「コイツほんとすげえな。よく異世界で生き延びてるわ」
「あ、信じるようになったんだ?」
「コタロー! 俺もコタロー飼いたい!」
ユージの映画の発声上映で大騒ぎして、続編のティザーを見て盛り上がる。
気づけば俺は、ただ楽しんでいた。
ユージの話が本当かどうかなんて、どうでもよくなって。
事務局からテントとカンテラと寝袋を借りて、四人で潜り込む。
今回、キャンプ用品を扱うロゴ○がレンタルに全面協力しているらしい。
事務局は『ウチもレイクタウンに店舗があるんですよ。近くで大型キャンプのイベントをやってるそうじゃないですか。声かけてくれないってどういうことですかねえ』と言われたとか。
次のキャンプオフでは、レンタルだけでなく販売のブースも出すって話になってるようだ。
次。
次か。
「なあ、秋にもキャンプオフがあるんだろ? おまえら来るのか?」
「……俺は、行くよ。変われた気がするけど、半年もしたらまた元に戻ってそうだから。外に出るいい機会だと思う。今回、みんなのおかげですごく楽しかったし」
「そっか」
「俺は迷ってる。それで、君はどうなの?」
「俺か? 俺は参加だな。俺んち、バスが出てた新越谷駅まで電車で15分だから」
「近いな! 田舎者とか言ってごめん」
「気にしてねえって」
テントの中で、横になってだらだら話をする。
「BBQして映画見てキャンプする。俺らリア充みたいじゃない?」
「ははっ、ニートと引きニートなのにね」
「言うな言うな。案外、次のキャンプオフじゃ誰か働き出してるかも?」
「君が一番ありそうじゃん。服屋で普通に話してたし、家は開催地の近くらしいし。事務局はスタッフ募集してたよ?」
「事務局か。条件見てみるかな。ニートになって二年。まだ貯金はあるけど、そろそろ働こうかと思ってたところだし」
「そっか……ねえ」
「ん?」
「あの、その、さ」
「なんだ? 俺、ノンケだぞ?」
「いやそうじゃなくて! その………………みんな、連絡先交換しない?」
純粋か!
耳まで赤くなってるじゃねえか!
……きっと、コイツにとっては精一杯の勇気だったんだろう。
いや。
思いついたのに言い出さなかった俺より、コイツのほうが強いかもしれない。
断られたらと思って、俺は口に出せなかったから。
全員、スマホは持っていた。
現役の引きニートも。家族と家を出た弟の連絡先しか入ってないけど、と笑いながら。
ユージの話が本当かどうかなんて、俺にはわからない。
CGな気もするし、コイツらもキャンプオフに参加した大半の人も信じてるように、本当なのかもしれない。
でも。
ユージの話が本当かどうかなんて、俺にはどっちだっていいんだと思う。
俺にとって、たぶんそれはきっかけにすぎなくて。
キャンプオフが楽しかった。
学校も仕事も関係ない友達ができた。
前に進もうとしてるヤツがいて、刺激を受けた。
ユージの話が本当かどうかなんて関係なく。
今度は、友達と一緒に。
あいかわらずニートなのか引きニートなのか、もしかしたら変わってるのか。
それはわからないけど。
次のキャンプオフも行くことにしよう。
俺は、それだけを決めるのだった。
今日できた友達と、夜を徹してくだらない話をしながら。
次話、明日18時投稿予定です!





