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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 17

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閑話21-47 とあるリザードマン、群れの仲間にいろいろ報告する

副題の「21-47」は、この閑話が第二十一章 四十七話終了以降のお話、という意味です。

ご注意ください。


 辺境の北の山脈から流れる川は、辺境と王都を隔てる山地を迂回して、マレカージュ湿原へと流れ込む。

 湿原は船で辺境から王都へ移動する人間たちにとっての難所であり、開発も進んでいない。

 水棲モンスターが跋扈する湿原は、地の利がない人間にとって生きづらい場所なのだ。

 人間にとっては。


 だが、ある種の生き物は違う。

 水棲モンスター、あるいは水辺での行動を阻害されない種にとって、湿原は生きやすい場所だった。

 なにしろ生活を脅かす人間がいないので。


 迷路のように水場が入り組んだマレカージュ湿原。

 その奥地に、とある生物たちの里があった。

 人間からはモンスターと目されていた種。

 だが実際は知性があり、言葉を話し、文字を使いこなしていた。

 ビッタンビッタンと、地面に太い尻尾を打ちつけながら。


 リザードマンである。


《みんなーッ! アタシが帰ってきたぞーッ!》


『シューシュー!』


《ハル殿、気持ちはわかる。気持ちはわかるが、やはり発音はできていないぞ》


 秋が終わり、長い冬を迎えようとする今。

 リザードマンの里に帰ってきた、大小二体のリザードマンの姿があった。

 ついでに一人のエルフの姿も。


《おお、無事であったか》


《よく帰ってきた。おばば様が待ちわびていたぞ。ところで……その荷物は?》


《これは、アタシがニンゲンの里の近くの森で狩ってきたんだッ! 冬ごもりの干し肉だぞーッ!》


《我らは冬支度を手伝えなかったからな。せめて足しにしようと狩りをしてきたのだ》


『シューシュー! シュー!』


《あははっ! エルフは言葉がヘタだなーッ!》


 帰ってきた仲間の姿を見て、続々とリザードマンが集まってくる。

 鋭い牙、縦の瞳孔、テラテラと艶かしく光る鱗。

 敵ではないと知らなければ、空恐ろしい光景である。


 まあエルフのハルは一切怯むことなく、リザードマンの挨拶らしき擦過音をマネしていたが。

 現役の1級冒険者であるハルは、この囲まれた状態でもなんとでもなる戦闘力がある。

 強者の自信が余裕を生んでいるようだ。


《ほう、ニンゲンの里の近くで獲れた肉か。楽しみだが、まずはおばば様への報告を先にな》


《うむ。あちらの群れにも報告に行かねばならぬからな》


《まあ一日ぐらい大丈夫だろう。報告した後はゆっくり休むといい》


『シューシュー? シュシュシュ!』


《あははっ! わかんない、わかんないぞエルフーッ!》


 笑い転げる小さなリザードマンと、通じないことに気づいて笑わせようとおどけるハル。

 ホウジョウ村で長い時間を一緒に過ごしてきたためか、二人の仲は深まっているようだ。

 言葉は通じなくともコミュニケーションは取れる。

 恥じない心を持って、コミュ力さえ高ければ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 冬。

 湿原には雪が積もっていた。

 水場は場所によっては氷が張り、その上に雪が積もっている。

 水棲モンスターの活動は鈍く、中には冬眠する種もいる。

 湿原の冬は、静寂に包まれていた。


 リザードマンたちは、数体の見張りを残して一つの住処に固まる。

 地面を掘り下げて、木材と枝で枠組みを作り、葉をかぶせた簡易な住処。

 そこに見張り以外の群れの全員が集まって、極力動かず暖を取る。

 活動するのは見張り番がまわってきた時だけ。

 リザードマンたちにとって、いつもの冬の光景である。


 だが、この冬はいつもと違った。

 体を動かさないのは変わらない。

 いつもと違うのは、交わされる言葉が多かったのだ。


《それでな、ニンゲンの里では草を育ててるんだッ!》


《草……ニンゲンは奇妙な物を食べるのだな》


《いや、ちょっと違う。草を育ててその実を加工して食べているそうだ》


《なるほど、我らの口かみ酒のようなものか》


《んんー、それも違うな! パンってヤツにして食べてたぞッ! アタシはフワフワして好きじゃなかったけどなーッ!》


《ニンゲンは我らほど強靭なアゴは持ってないようでな。だがニンゲンにとっては充分に堅いらしく、ユージ殿は柔らかくする工夫をしていた》


《ああ、お土産に持ってきたアレか。そうか、アレは草の実であったか……》


 エメラルドグリーンの鱗をした小さなリザードマンと、深い緑の大きなリザードマン。

 話の中心は、ニンゲンの生活を知るために派遣された二体のリザードマンだった。

 大きなリザードマンのほうは、もう一つの群れに報告に行って、雪が積もる前に無事に帰ってこられたようだ。

 冬は長い。

 身じろぎもせずに話を聞くリザードマンたちは、いい聞き手であった。

 里に帰ってきてからも興奮醒めやらない小さなリザードマンにとっては。

 ちなみにこの話、三回目である。

 省エネモードに入ったリザードマンは、話半分で聞いているようだ。


《それでな、オコメってヤツを作れば、ユージがたくさんの干し肉と交換してくれるって言ってたぞッ!》


《オコメ……?》


《口かみ酒の元になっているアレだ。ユージ殿はアレがたくさん欲しいらしい》


《だが、アレはたいした量は生えてないぞ? 探すのが大変ではないか?》


《えっと、安全な場所にタンボってヤツを作ればいいんだってッ! そこで育てられるって言ってたぞーッ!》


《タンボ?》


《水を引き込んで泥地を作るようだ。水量の調整もできるように、と言っていたな》


《ふむ……》


《住処の近くに作れば、アタシたちや子供でも育てられるって言ってたぞーッ!》


《子供でも? ……ふむ》


《子供、年老いた者、戦闘で傷付いた者でもできるかもしれぬ。春になったらユージ殿がここに来て、詳しく説明するそうだ》


《ほう、では儂らでもできることがあるかもしれぬのう》


《ジジイッ! アタシたちに戦い方を教えてるクセになに言ってるんだッ!》


《そーだそーだ、ちょっとはてかげんしろー》


《むっ。次代の戦闘力を高めるのは儂ら年老いた者の役目。強い群れでなければ生きていけぬゆえな》


《それも大事なことだ。だが、狩り以外でも食料が確保できるならそれに越したことはあるまい。そうなれば……》


《みんなで食料を増やせれば、群れは大きくなるからなーッ! 次の春からアタシは狩りに出るけどッ!》


《お嬢、正気か? おばば様、まだ早くないか?》


《問題ないわい。この小娘、ニンゲンとエルフにいろいろ魔法を教わったようでねえ。すでに私以上の使い手になっているよ》


《は? リザードマン希代の魔法使いと言われたおばば様以上の?》


《旅は子供を成長させるようだねえ》


 ユージとアリス、ハルの海でのパワーレベリングについていった二体のリザードマン。

 魔法が使える小さなリザードマンは、ホウジョウ村に滞在中、エルフの少女・リーゼやアリスと一緒に魔法の訓練に励んでいた。


 小さなリザードマンが使うのは風魔法である。

 おばば様が水魔法の使い手のため、これまできちんと教わったことはなく、自己流で風魔法を訓練していた。

 それが、ホウジョウ村で同じ風魔法の使い手たちに教わった。

 小さなリザードマンの風魔法は、種類も威力も跳ね上がったようだ。

 なにしろ教えたのはエルフの1級冒険者『不可視』のハルと、テッサと嫁と子供たちとともに少数で一軍を退けた『風神姫』のイザベルである。

 あとコタロー。


 一流のコーチ陣が披露する風魔法の数々。

 使えない、イメージできない魔法も多かったものの、ユージの通訳の甲斐もあって、小さなリザードマンはそれなりの風魔法使いになっていた。

 ホウジョウ村基準で『それなり』の、である。

 通常の人間と比べると、すでに一流に片足を突っ込んだ魔法使いとなっていた。

 ホウジョウ村の防衛戦力は過剰もいいところなのだ。


《狩りだけじゃなくて食べ物が手に入るようになれば、群れが大きくなるなッ! アタシの子分たちがいっぱいだーッ! ふふん、これからが楽しみだッ!》


 外は雪が降り、厳しい寒さと静寂に包まれている。

 住処の中は薄暗く、温めた石とたがいの体温で暖を取る。

 そんな環境で。

 エメラルドグリーンの鱗を持つ小さなリザードマンは、未来の繁栄を想像してゆっくりと尻尾を振るのだった。


 マレカージュ湿原の厳しい冬の中。

 リザードマンは豊穣の夢を見るようだ。

 ホウジョウ村の、北条雄二と出会ったことで。……駄洒落ではなく。



ということで最後の閑話集スタート。


次話、明日18時投稿予定です!

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