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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十一章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 2』

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第三十九話 掲示板住人たち、キャンプオフに参加するpart4


 秋開催は三回目となったキャンプオフ。


 お昼時から午後、時間が進んでいくにつれて、キャンプ場には徐々に人が集まりつつあった。

 バンガローエリアの服屋や美容院スペースの利用、そして、バーベキューのために。



『ぱぱ! ぼく、やる!』


『うーん、もうちょっと大きくなってからだなあ。ほらサクラ、焼けたよ』


『ありがとうジョージ。ほらほらベイビー、あんまり近づいちゃダメよ。火のそばは危ないから』


『ぼく、べいびー、ない!』


『ああもう、ルイスはちょっと座ってて! アタシに任せてくれればいいから!』


『あ、うん』


 焼き台の一つは、ユージの妹のサクラと夫のジョージとその息子、加えてジョージの友人でCGクリエイターのルイスと仲を深めつつあるケイトの五人に占領されていた。

 アメリカからの来日組である。

 プロデューサーと脚本家の初老の夫婦や映画会社のスタッフたちは上映準備に向かったため別行動らしい。


『ありがとうケイト! BBQにアトラクション、いいキャンプだね! 毎年こんな感じでやってくれればいいのに!』


『ルイスは長い仕事が終わったところだし、いい息抜きかもな。それにしても……いよいよ一般公開。緊張しないのかい?』


『ジョージ、もう緊張したってしょうがないよ。ボクにできることはやったし、いまからじゃ何もできないしね!』


 ルイス、余裕の発言である。

 CGクリエイターのルイスは、これまでユージの話の映画化のため、映像制作にかかりっきりだった。

 すでに作業は終わり、最終チェックと修正も終わって、あとは上映するだけ。

 CGクリエイターといっても、もうルイスの手は離れているのだ。

 まあ普通、いまさら何もできないと言っても緊張するものなのだが。

 ルイスの態度は、自らの技術への自信の表れなのかもしれない。


『はあ、それにしても楽しかった! ニンジャにゾンビだもんね! 最高すぎるよ!』


『あれは良かった。本音を言えば、剣だけじゃなくて銃も欲しかったところだけど』


『ジョージ、それは無理よ、ここは日本だもの』


 アスレチックと忍者装束で行われたパルクール、ダンジョン風の立体迷路。

 サクラたちは、清水公園のアトラクションを一通り楽しんできたらしい。

 だが、ジョージはダンジョン用のコスプレに銃が用意されていないことが不満だったようだ。

 さすがアメリカ人である。

 あとサクラ、別にモデルガンやサバゲー用のエアーガンであれば日本でも問題ない。本物を使う気か。すっかりアメリカナイズされているらしい。


『今回はほんとスゴいよね! ユージさんの動画も流しっぱなしだし!』


 そう言ってキャンプ場の一画に目を向けるルイス。

 そこには、大型モニターが並んでいた。


 中央にある大型のスクリーンは、ユージの映画を上映するためのもの。

 いまは最終チェックをしているのか、何人かのスタッフが作業している。

 スクリーンを挟んで左右には4つずつ、計8台の大型モニターが用意されていた。

 いまはユージが撮影してきた動画と写真、複数のカメラで捉えたキャンプオフの様子、リアルタイムで掲示板が映っている。


 ユージがいる世界では先ほど収穫が終わったようで、収穫祭がはじまるまでの合間にユージの降臨もあった。

 収穫後の記念写真としてアップされた画像が大型モニターに映されると、キャンプ場は大きな盛り上がりを見せていた。

 特にコテハン・巨乳が好きです、の興奮は目立っていた。

 ホウジョウ村の収穫が終わった記念写真の中に、ついに、ついに領主夫人の姿があったのだ。

 領主夫人は巨乳で色っぽかったとユージが報告したのは4年目のこと。

 話題になってから3年ごしの画像である。

 テンションが上がるのも無理はないだろう。


 掲示板に集合写真をアップしたユージは、キャンプオフ参加者から収穫祭の様子を動画で撮影してくるように厳命されていた。

 エルフの少女・リーゼ、エルフたち、アリス、領主夫人、犬人族、黒ヤギの医者、リザードマン。

 参加者たちが見たいものは数多い。

 あちらでは収穫祭がはじまったいま、あっちもこっちも大騒ぎである。

 もちろん、BBQに興じるサクラもジョージもルイスも。

 おかげでアメリカ組は、ハーフな子もいいですねえ、次は女の子が生まれてくれれば……などという呟きを聞き逃していた。

 コテハン・YESロリータNOタッチである。

 サクラ、息子で助かったようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 キャンプ場が騒がしいのは、ユージの記念写真がアップされたせいだけではない。

 もはやキャンプオフで恒例となった、一つのコーナーがある。

 今回もそのコーナーのまわりでは大騒ぎが巻き起こっていた。


「大丈夫、コレは美味しいから」


「おい! ()()()ってどういうことだよ! 俺違うの食ったぞ!」


「味じゃなくて見た目が問題なんだよなあ……」


「ぎゃー! 近づけるな! 頼む、頼む!」


「あ、ドングリコーヒーはまあまあいける」


 大騒ぎである。

 コテハン・ドングリ博士プロデュースによるサバイバルフードのコーナーである。


 ドングリを粉末にして調理した料理はまだいい。入念な下準備で、エグみも渋みも軽減されている。

 問題は、回を重ねるごとに充実していく虫食である。

 ユージが湿原でパワーレベリングを行って以降、虫に加えて用意された爬虫類も問題である。

 蚕のサナギ、ハチの子、ざざむし、イナゴ、タガメ、サソリ、ミールワーム、カエル、ヘビ、トカゲ、カメ。

 どこから入手してくるのか、品数はどんどん増えている。

 最初は「ドングリと虫が食べられれば異世界に行っても生きていける」程度だったのに。

 現代日本でも普通に食べられている蚕のサナギやハチの子は、もはや初心者向けとなっていた。基準がおかしい。

 キャンプオフの焼き台の一つは、毎回ドングリ博士の専用となっているようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 キャンプ場は騒がしいだけではない。

 静かにバーベキューを楽しむグループもいる。

 コテハン・物知りなニートの周辺である。

 人見知りな、あるいは心に傷を負った参加者たちが集まる謎セラピーである。

 バームクーヘンからはじまり、マシュマロ、クレープ、パンケーキ、ミルクレープ、ワッフル、数々のスイーツを作ってきたベテラン班である。


 今回、物知りなニートと参加者たちはいつもとちょっと違うようだ。

 いつも通り口数は少ない。

 いつも通り焼け具合をじっと見つめている。

 だが、参加者には笑顔が浮かんでいた。


 キャンプオフ参加者が静かに囲む焼き台の網の上にはフルーツやクラッカー、フライパンを使ったパンケーキが並んでいる。

 一部の参加者は、じっと焼け具合を見つめていた。

 そして焼き台の網の上に、今回のキーとなる物が乗っている。

 ココットである。

 ココットの中には、濃い茶色のドロッとした液体が入っていた。

 チョコレートフォンデュである。


 串に刺した生のフルーツを、あるいは焼き目を付けたフルーツをココットの中に入れる。と、溶けたチョコが絡む。

 ニヤニヤと笑みを浮かべてフォンデュした参加者が、そのまま口に入れる。

 チョコの香りと甘み、フルーツの味わい。

 笑顔が広がる。女子か。


 静かにその場で楽しみ、時おり何種類か皿に盛って周囲の希望者に配っていく。

 今回、物知りなニートが用意したのは、チョコレートフォンデュであった。スイーツ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 アスレチック、ダンジョン風立体迷路、コスプレ、ショッピング、バーベキュー。

 参加者が思い思いにキャンプオフを楽しんでいるうちに、陽は傾いていく。

 夕方になると、貸し切りの園内各所に散っていた参加者たちは、キャンプ場に集まってくる。

 設営されたスクリーンと、大型モニターが見える場所に。


『サクラ、じゃあボクはベイビーをつれてコテージに帰ってるから』


『ごめんねジョージ。でもやっぱり、お兄ちゃんの映画は最初に見たくて』


『気にしないでサクラ。上映がはじまったら、明るくなるまで何度も繰り返すそうだから。ボクはサクラが帰ってきたら交代して見に行くことにするよ』


『ありがと、ジョージ』


 スヤスヤと眠る我が子を抱いてコテージに戻るジョージ。

 どうやらジョージは留守番らしい。


 キャンプ場に設置されたスクリーンの前には関係者席が設けられている。

 サクラ、ルイス、ケイト。稀人のテッサの姉と母親の姿もある。

 サクラの横には、スーツを着込んだ郡司とそのお仲間の弁護士チームが座っている。この男たち、今回のキャンプオフにも参加していたらしい。スーツで。場違いである。


 映画会社の人間やプロデューサー、脚本家は仮設スクリーンの正面、映写機の近くに設けられたスタッフ控え室にいた。

 後ろから画質をチェックしつつ観客の反応を見るつもりらしい。



 スクリーンの周辺、キャンプ場の照明が落ちていく。

 明かりが残っているのは仮設スクリーンと、先ほどよりも距離を離されて置かれた計8台の大型モニターだけ。


 徐々に光量が落ちて、キャンプ場のざわめきも静まっていく。

 そして。

 スクリーンの前に、マイクを持った一人の男が歩いてくる。


 このキャンプオフの責任者。

 初期から掲示板に書き込み、何度もユージにアドバイスを送ってきた男。

 コテハン・クールなニートである。


 キャンプ場が沈黙に包まれる中、マイクを持ったクールなニートが口を開く。



「これだけの人が集まってくれたのを嬉しく思う。……いまさら細かい話はいいか。では、上映をはじめよう。ユージの物語で…………俺たちの物語の」



 スクリーンの前に立ったクールなニートが、一言だけ告げて。

 スクリーンに、カウントダウンの数字が映る。


 30秒前。

 モニター以外の明かりが消える。


 20秒前。

 スクリーンの横に置かれた音響設備から、カウントダウンの音が流れはじめる。


 10秒前。

 キャンプ場に座り込んだ参加者たちから、自然とカウントダウンがはじまる。


 5秒前。

 カウントダウンの声は大きく。

 拳を握って、うっすら涙を浮かべる者もいる。


 0。

 ユージの映画が、はじまった。



次話、明日18時投稿予定です!


…明日! 明日こそ映画の内容と観客の反応ですから!

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― 新着の感想 ―
[一言] 「ユージの物語で…………俺たちの物語の」 読んできて何度も何度も泣かされてきましたが、「......俺達の物語の」が一番グッときたな〜
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