表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十一章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 2』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

465/537

第三十四話 ユージの妹サクラ、キャンプオフ前日の準備の様子を見てまわる


『おお、すごい! もう準備がはじまってるじゃないか!』


『ええ……? 本気で、日本でテールゲートパーティやるんだ……』


『え? サクラさん、イベントの時の駐車場ってこういうものじゃないの?』


『ルイスくん、日本ではやらないらしいわよ。ねえあなた?』


『ああ。何が必要か調べるところから始めたらしい。私は予算を相談されただけだがね』


 ユージの映画が公開される、秋のキャンプオフ前日。

 清水公園の第三駐車場に到着したサクラたちは、車を降りるなりワイワイ盛り上がっていた。

 明日のキャンプオフ当日に向けた設営のため、広大な清水公園は今日から貸し切られる。

 お昼頃に着いたサクラだが、駐車場にはすでに数台のトラックとスタッフの送迎用らしき大型バスが停まっていた。

 あとなぜかキッチンカーも。

 設営スタッフの食事を提供する、だけではない。

 キッチンカーの近くで、事務局メンバーがBBQしていた。テストのために。

 どうやら本気で『テールゲートパーティ』をやるらしい。

 アメリカでは、スポーツなどを観戦するためにスタジアムに行くと、駐車場でBBQを行う人たちがいる。

 観戦前から気分を盛り上げる『テールゲートパーティ』。

 お祭り気分ここに極まれりである。


「みなさん、ようこそ。もう準備は始めています」


「あ、神谷さ……クールなニートさん!」


 サクラたちアメリカ組が到着したのを見て、近寄ってくる一人の男。

 このイベントを仕切ってきたクールなニートである。

 後ろには名無しのミートやトニー、元敏腕営業マンなどの姿もあった。

 ただのコテハンや名無しではない。事務局スタッフである。

 BBQで焼いた肉をもぐもぐしているが、遊んでいるのではなくテストである。


「やべえ、テールゲートパーティ楽しい!」

「ついてすぐコレっていいね!」

「いやあ、引きこもりとニートにはキツイんじゃないか?」

「ほら、やりたい人だけ楽しめばいいんだから! せっかく貸し切りなんだし!」


 事務局メンバーのテンションは高い。

 直前まで修羅場な忙しさだったため、疲れと寝不足からのハイテンションである。

 倒れないか心配なものだが、彼らが忙しいのは今日を含めてあと三日間だけ。

 終わればゆっくり休めると、気力で乗り切ろうとしているのだろう。

 ユージの映画が公開されて、直後に休めるのかどうか不明だが。


「では昼食は終わりにして、各自持ち場の準備を再開してほしい。進捗や問題は随時報告するように」


「了解!」

「うっし、じゃあはじめますかー」

「今回は設営スタッフもいるしね、ラクなもんですよ」


「サクラさん、お昼はよかったらここで食べていきませんか? その後、各会場の案内をします。俺は準備を見てまわる予定ですから」


「あ、じゃあクールなニートさんのお言葉に甘えちゃおっかな。『みんな、BBQでいい……聞くまでもなかったね』」


『ルイス、トングを取ってくれ』

『ええっと、どこに……ああ、あったあった!』

『二人とも、焼く前に炭を足したほうがよくないか? アタシ、もらってくるよ!』

『ふむ。日本の肉はあいかわらず薄いな』

『でも柔らかいのよねえ。それにほら、すぐ焼けるでしょう?』


 サクラが問いかける前から、アメリカ組は焼き台に群がっていた。

 さすがにまだ焼きはじめていない。他人が用意したBBQセットなので。

 ともあれ。

 アメリカ人のBBQ好きは、イメージだけでなく本物らしい。

 少なくともこのメンツでは。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



『カミヤくん、彼らが映画会社が手配したアクターだそうだ』


『ありがとうございます。では、あとはこちらで打ち合わせます』


『ああ、よろしく。くく、みんなの反応が楽しみだよ』


『えっと、二人とも。何を企んだんですか?』


 今回のキャンプオフでは、清水公園をまるごと貸し切っている。

 とうぜん、アスレチックエリアも。

 そのアスレチックエリアに入ってすぐの場所で、クールなニートとプロデューサーは会話を交わしていた。

 二人だけで通じ合っていて、サクラもその内容を知らないらしい。


「サクラさん、せっかくアスレチックも使えるんです。盛り上げるための演出を、プロデューサーが用意してくれました」


「はあ、それがこの人たち……それで、何するんですか? クールなニートさん?」


「そうですね、俺もうまくいくか不安ですし……少し見せてもらいましょうか」


 グループの中にいた日本人が、クールなニートの言葉を通訳する。

 ニヤリと笑ったリーダーらしき外国人の男を先頭に、集団から5人が走り出す。

 目の前にある、アスレチックに向かって。

 そして。


「な、なにこれ……」


『うむ、やはりこうした環境では絵になる。衣装を着たアクションが楽しみだ』


『こ、これは……』


 駆け、跳び、まわる。

 体一つで障害物を縦横無尽にクリアして、しかも無意味に縦回転や横回転を入れる。


『おおおおおおお! すごい、すごいよ! 衣装も準備してるって!? まさかこの目で見ることができるなんて!』


『ぼく、しってる! にんじゃ!』


 木立の中にあるアスレチックを駆けまわる姿は、サクラの子供が言ったように。

 まるで忍者のようだった。

 しかもアメリカ人がイメージするところの『ニンジャ』である。


 パルクール。

 日本では、過去に『YAMAKASI』という映画が公開された際に話題になった程度だろうか。

 あるいは、インターネット上にアップされている、ありえないアクションをする動画のほうが有名かもしれない。


「予想以上です。あとは衣装を着て動けるかどうかですね」


「俺も彼らも楽しみでしょうがなかったんです! 日本でおおっぴらに、しかも忍者の衣装を着てできるなんて!」


 満足げに頷くクールなニートに、通訳した男のテンションも高い。


「日本じゃマイナーですからね、お声がけいただいて嬉しいです! この機会に広めたいところですね!」


「えっと……それは無理じゃないかなあ……」


 思わずサクラが呟くのもしょうがないだろう。

 たしかに、木立の中のアスレチックを縦横無尽に駆けまわる姿はインパクトがある。

 それが忍者装束となれば、盛り上がるのは間違いないだろう。

 だが、誰でもできるものではない。

 サクラが言うように、広めるのは不可能だ。

 というか安全面の問題から、貸し切りでなければ清水公園のアスレチックさえ出禁になるに違いない。


 キャンプオフ当日は、とうぜんアスレチックも利用できる。

 自分たちで楽しむこともできるが、アクターがニンジャの衣装を着てパルクールを見せるようだ。

 アクティブではない参加者も、せめて目で楽しめるようにという仕掛けらしい。

 それに。

 衣装も揃えて飛び回るアクターたちは、非日常感を演出するのに一役買うことは間違いないだろう。

 ユージが行なった中世風ファンタジー世界とは異なるが、『ニンジャ』も一つのファンタジーなのだから。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「クールなニートさん、ここは? なんかすごい大掛かりなんですけど……」


「名無しのミートの発案ではじまったんです。巨大な迷路があって予算がかけられるなら、と」


『おおおおおお! すごい、すごいよ! サクラさん、ジョージ、ボクちょっと行ってきていいかな? いいよね?』


『落ち着けルイス。まだ設営中だ。それでサクラ、いつ設営が終わるか聞いてくれないかな? 5分? 10分?』


 続いてクールなニートとサクラたちが訪れたのは、公園の端にある巨大迷路であった。

 これまでのキャンプオフでは使われなかった場所である。

 今回、この迷路も利用するようだ。

 なにしろ園内まるごと貸し切りなので。


「これ……絵かな? ううん、プリント?」


「さすがにサクラさんにはわかりますか。これは布にプリントしたものです。この布ですべての壁を覆う予定です」


「すごい、めちゃくちゃ大掛かり……」


「いまは陽がありますから屋根がないこの迷路では雰囲気が出ませんが……薄暗くなったら」


「すごい、すごい! ホントにダンジョンじゃない!」


 巨大迷路の木の壁を、絵が描かれた布で覆い隠す。

 ある箇所はレンガ調で、ある箇所は洞窟のような雰囲気で。

 事務局スタッフはこの巨大迷路をダンジョン風味に演出することにしたようだ。

 屋根がない迷路のため、太陽の光に照らされたいまは絵であることがバレバレである。

 だが、夕方以降は。

 それっぽく見えるように、照明も調節する予定らしい。


「こちらにもアクターがいます。コスプレをしてもらって」


「あ、あれかな? 昔っぽい服がいっぱいある」


「サクラさん、あれは希望者が着られる服のほうです。せっかくですから、参加する側も簡単なコスプレをして気分を出してはどうかと」


『おおおおお! ジョージ、貫頭衣だ! 麻の服もある! ディティールにこだわってるなあ!』


『待て待てルイス。あれを見ろ』


『あああああ! ゴブリン! 日本はスゴいね、こんなかぶり物まで!』


「なんかごめんなさい。ジョージもルイスもテンション上がっちゃったみたいで」


「いえ、おかげで自信が持てました。それに……みなさんをはじめ、アメリカからの参加者もいますからね、用意してます。ゴブリンのほかのモンスターも。コスプレ班ががんばってくれました」


「クールなニートさん、まさか……」


 ハッと何かに気づくサクラ。

 後ろでは、ルイスとジョージも期待に満ちた目で次の言葉を待っている。


「ええ。といっても破れた衣装とメイク程度のわりとフレッシュなタイプですからね。明るいところで見ると粗が目立ってしまうでしょう。それでも迷路で突然遭遇すれば、多少は驚いてもらえるはずです」


「じゃ、じゃあ……」


「ええ、用意しました。…………ゾンビを」


 クールなニートの言葉に、サクラが訳すまでもなくジョージとルイスが小躍りする。

 『ゾンビ』は聞き取れたらしい。

 ジョージとルイスのテンションは天元突破である。


 ダンジョン風の迷路には、モンスター役としてゾンビも用意されているらしい。

 アメリカ組のためである。

 いや違う。

 人型のモンスター以外は動けないため、むしろ衣装とメイクだけでどうにかできる『ゾンビ』は難易度が低いのだ。

 あとはかぶり物をしたゴブリン、自前で甲冑風のコスプレを用意したリビングアーマー、ベタだがパッと見はわかりにくいヴァンパイアぐらいである。ハロウィンか。


 大騒ぎをするアメリカ組をよそに、サクラの息子はベビーカーでスヤスヤだった。大物である。

 ユージを叔父に、サクラを母に持つ男の子は、マイペースであるらしい。必然である。



 見てまわるだけのアメリカ組をよそに、キャンプオフの準備は進む。

 今日から貸し切りのため、ユニク○や靴屋、メガネ屋、美容院などの出店企業も準備が進めやすいようだ。

 キャンプ場中央に設営される、映画用のスクリーンと音響機材も。

 今回は事務局だけではなく、設営のプロたちも準備に参加している。


 秋に開催されるキャンプオフとしては三回目。

 春のキャンプオフと合わせると八回目のキャンプオフ。

 それは、ユージの想像を超える規模であるらしい。



次話、明日18時投稿予定です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ