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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十一章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 2』

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第三十三話 ユージの妹サクラ、キャンプオフと映画公開を前に来日する


『よし、準備OK!』


『おーけー!』


『サクラ、そろそろ時間だよ。大丈夫かな?』


『うん、ジョージこそ大丈夫? ……え? ジョージ、荷物少なすぎない? 本当に大丈夫なの?』


『はは、男なんてそんなものさ! ベイビーだってそう思うだろ?』


『ぱぱ! ぼく、りゅっく!』


『おっ、かっこいいリュックだなー』


『はあ、もう二人とも……ジョージ、忘れ物してても知らないわよ?』


『大丈夫、大丈夫。もし忘れてたって、パスポートとパソコンとスマホとカードがあればなんとでもなるって! ユージさんと違って、ボクらが行くのは()()なんだから!』


『にほん! ぼく、はじめて!』


『ふふ、日本は初めてじゃないのよ? 一年前じゃさすがに覚えてないかな』


『うーん、まだベイビーがベイビーだったからなあ』


『ぱぱ! ぼく、べいびーない!』


 ユージの妹・サクラとその夫のジョージの会話に混ざる男の子は、むうっと不機嫌な様子で主張している。


『そうね、最後に行ったのは去年の秋だから、まだ1才ちょっと。覚えてないよねえ』


『まま! ぼく、べいびーない!』


 ユージの甥っ子は2才ちょっと。

 ついこの間まで、一語から抜け出して二語がやっとだった。

 一人称を覚えたのは最近である。


『ジョージ、ルイスくんの車だ!』


『ああ、一度こっちに寄るから一緒に行こうって言ってたっけ。さあ、忘れ物はないね?』


『私のセリフよ、ジョージ。日本じゃカードを使えない店も多いんだけど……でもみんなと一緒だし、大丈夫ね、うん!』


『だいじょうぶ!』


 ベイビー扱いされた不機嫌さはコロッと忘れて、母親の言葉を繰り返す男の子。

 単語を連呼したいお年頃である。

 ちなみに、言葉は両親やまわりの大人からのほか、動画で覚えている。

 2才ちょっとで、指をすいすい動かして父親のスマホやタブレットを操作するのだ。

 ロック解除からYoutub○の起動、再生、次の動画を再生するところまで一人で操作できる。

 おそるべしデジタルネイティブ。

 スマホすら持っていなかったユージとの格差たるや。


『おーい、ジョージ、サクラさん、準備はいいかな?』


『ルイスくん! あらあら? ケイトさんと一緒だったの?』


『なんだルイス、言ってくれればいろいろ教えたのに』


『それがイヤだから黙ってたんじゃないか! ほら、行くよ!』


『そうね、時間はたっぷりあるもの。良かった、長時間の飛行機でも退屈しないですみそう』


 ニンマリと笑うサクラ。

 いくつになっても、女性は恋バナが好きなものであるらしい。


 アメリカ、ロサンゼルス。

 ユージの妹のサクラと夫のジョージ、その子供。

 ジョージの友人でCGクリエイターのルイス。

 稀人・キースの子孫で、知り合って以来、ルイスと行動を共にすることが多いケイト。

 5人は2台の車でロサンゼルス国際空港に向かうのだった。

 空港ではプロデューサーと脚本家の夫婦、映画の衣装担当、映画会社の人間たちと合流する予定になっている。


『ひこーき! にほん!』


 そして一行は長時間のフライトで、日本へと。


 日本で待つのは、サクラが社長を務めるユージの遺産、著作権や肖像権などを管理する会社の従業員たちと、引きこもりやニートを支援するNPO法人のスタッフたち。

 そして。

 ユージの映画の公開を待つ、観客とマスコミである。


 この秋に、日本で開催されるキャンプオフ。

 今回のキャンプオフは、ユージの映画が世界で最初に公開されるイベントなのだ。


 アメリカ組は、日本へと。

 それぞれの思いを抱えながら飛び立つのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



『なに……これ……?』


『ひといっぱい! ぱぱ! まま! ひといっぱい!』


『サクラさん、私たちと離れて行くといい。後で合流しよう』


 成田国際空港。

 飛行機から降り立ったサクラたちは、入国審査と手荷物検査を終えて到着ロビーに出ようとしていた。

 が、自動ドアの手前でサクラが立ち止まる。

 到着ロビーには、待ち構えるようにいくつものカメラとインタビュアーらしき人物がいたのだ。


『え? あの?』


『サクラ、ちょっとタイミングをずらそうか。ルイスはどうする?』


『んんー、ボクの顔はバレてないだろうけど、ちょっと時間を置くよ! サクラさんもケイトもドキュメントのほうは出ちゃったんだし、ズラしたほうがいいと思うなあ』


『了解! それにしてもスゴいな……』


『予想以上に話題になってるようね。ふふ、公開が楽しみだわ。さあ、あなた、行きましょ?』


『ああ。ではみんな、後ほど』


 映画会社のスタッフの先導を受けて、プロデューサーや脚本家が歩き出す。

 集まっていたマスコミは、ユージの映画の公開直前に、プロデューサーや関係者が来日するという情報を得て、取材しに来ていたらしい。


 たしかにサクラも、ユージの話が知れ渡ったことは知っていた。

 実際、ドキュメント番組の放送を受けて、サクラも取材を申し込まれたことがある。

 だが、それはアメリカでの話だ。

 安全のためにボディガードも付けられたし、日本でもボディガードが付くと知ってはいたが、過剰ではないかとさえ思っていた。少なくとも、銃社会ではない日本では。


 しかし。

 到着ロビーに集まった報道陣は、30人を超えている。

 その事実に、サクラは目を丸くしていた。


 ひとまず一般人であるサクラやケイトを置いて、プロデューサーと脚本家の夫婦や映画会社の人間が取材を受け、メディアを散らしてくれるらしい。

 サクラは、到着ロビーの手前からガラス越しにその様子を眺めるのだった。

 パシャパシャ光るフラッシュの光とたくさんの人を目にして、なぜか上機嫌な息子とともに。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「はあ、ちょっと疲れちゃった」


「すごかったわね! 迎えに来たこっちまで、ファンならインタビューさせてくださいって言われちゃったわよ!」


「ごめんね、恵美」


「いいのいいの、インタビューされるなんてちょっと有名人気分だったし!」


「え? 答えたの!? ちょっと、変なこと言ってないでしょうね!」


「大丈夫、大丈夫!」


「ウソでしょ、不安すぎる……」


「まあ使われないんじゃない? 心配性なママですねー」


『まま! おにわ! ぼく、あそぶ!』


『ふふ、ちょっと休憩したら一緒にお庭に出ようね』


 成田国際空港で、迎えに来た日本サイドの人々と合流したアメリカ組。

 用意された車に分乗して、一行は宇都宮に移動していた。

 長時間のフライトを終えた初日ということもあって、サクラは荷物を置いてホテルのカフェで休憩中。

 友人の恵美とのんびりお茶していた。

 広い庭園を見渡せるロビーのカフェで、一杯500円ごえのコーヒーである。ブルジョアか。


 一行が泊まるのは、宇都宮では『歴史がある』とされるホテル。

 最寄り駅はJR宇都宮駅でも東武宇都宮駅でもないが、ためらうことなくタクシーを使うブルジョア組には問題ない。

 カフェから見える広い庭園に、サクラの子供はテンションが上がっていた。


「あ、英語で話すんだ。日本語はわかるのかな?」


「んんー、もう少ししたら日本語を教えようかなって。まだ話せないぐらい幼い時に二つの言語で話しかけると混乱するって説もあるのよね」


「ふーん。国際結婚も大変なのね。それで、ジョージくんは?」


「なんか打ち合わせについていくって、プロデューサーと出ていったよ。キャンプオフ、楽しみでしょうがないみたい。ほんと子供なんだから」


「こっちでも盛り上がってるわよー。掲示板もすごいんだから!」


「恵美、知ってるって。私もネット見てるんだし」


「あ、そっか。なんか今回、参加者1000人超えそうだって! ついでにってことなんだろうけど、宇都宮も観光客すごいんだから!」


「へえ、意外。清水公園ってけっこう離れてるのに」


「やっぱりアレじゃない? 家の跡地のキャンプ場を見たかったり、ユージさんゆかりの地をまわったりするんじゃない? 聖地巡礼ってヤツよ!」


「聖地巡礼……ウチが、ねえ……」


 サクラ、いまいち実感がないらしい。

 ユージと違って、映画が公開される世界にいるのに。暢気か。さすがユージの妹である。


「サクラは打ち合わせ行かなくてよかったの? 社長さんなんでしょ?」


「うーん、名目だけだから。社長って、お兄ちゃんの財産とか肖像権とか著作権とか管理するだけの会社だし。キャンプオフはNPOの方のお仕事だからね! それに前日からあっちに行くんだし、その時でいいかなって」


「ふーん。あ、当日は私も行くからね! 車で行って、泊まらないで帰るけど。それで映画はどんな感じなの?」


「ふふ、実はね……。私もまだ見てないの! 関係者に見せる時に誘われたんだけど、せっかくならみんなと同じタイミングで見たいと思って!」


「ユージさんの一番の関係者なのに、なに言ってるんだか……まあサクラらしいけど」


 マイペースなサクラに、はあっとため息を吐く恵美。

 慣れたものであるらしい。

 だいたいユージのまわりの人間と同じ反応である。


『まま! おそと! おにわ!』


「『うん、じゃあお外に行こうか。エミお姉ちゃんと一緒にね!』恵美、もう出てもいいかな? 外で遊びたいみたい」


「子供もマイペースか! でもそうよね、こんな広い庭見せられたらしょうがないか。よーし、お姉さんが遊んであげよう!」


「ふふ、ありがと。あ、お会計は部屋につけておいてください」


 二人して、『お姉さん』にはスルーである。

 二人は同級生なのだ。

 おばさんではない。お姉さんなのだ。


 さっと立ち上がって、ルームキーを示すサクラ。ブルジョアな行動である。

 いや、宿泊するレストランやカフェを利用した時には当たり前の行動なのだが。

 宿泊明細にカフェの名前が出るか確認しないあたり、出張のサラリーマンとは違う。

 『まるっと宿泊費の項目にまとまりませんかね?』などと聞くことすらない。……ただの例え話である。



 ユージと掲示板住人が、エルフの少女・リーゼの登場で盛り上がっている頃。

 アメリカ組は、映画会社の人間やスタッフと一緒に来日していた。

 全世界で一番最初にユージの話の映画が公開される、キャンプオフに参加するために。


 キャンプオフは、もう間もなく。

 映画の公開も、もう間もなくである。



次話、明日18時投稿予定です!

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