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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十一章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 2』

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第二十五話 ユージ、村にエルフの住居を建てる手伝いをする


 ホウジョウ村の共同浴場から移動するユージ。

 ユージの後ろには、ペタペタと尻尾を地面に打ちつけて二体のリザードマンが続いている。

 せっかく尻尾を洗って浴槽につけていたのに台無しである。


《アタシ知ってるぞっ! エルフはこっちでドタドタやってるんだーっ!》


《住処を作ろうとしているのだろう》


《んー、もう作りはじめてるのかな? 許可はもらってきたから、ムダにならなくてよかったけど……》


 取引と情報交換がしやすいという名目で、ホウジョウ村に家を建てることを望んだエルフたち。

 実際はエルフの里以外にも遊ぶ場所が欲しかっただけらしい。

 人里に出ると、長命で美しいエルフは人間から狙われることが多い。

 そのためエルフは里に籠もり、限られたエルフだけが外に出ることを許されていた。

 だが、ホウジョウ村の出入りは許可制である。

 住人以外でこの村を訪れる者は数えるほどで、しかも素姓がはっきりしている者だけ。

 襲われる可能性はほぼないだろうと判断して、エルフはこの村に家を建てようと考えたらしい。


「ええっと、こっちのほうにいるってブレーズさんが……」


 共同浴場から離れて、自分の家をぐるりとまわるユージ。

 ホウジョウ村は、主にユージの家の南側を開発していた。

 缶詰生産工場はユージの家の北東、共同浴場は家の西だが、針子の工房や住居、農地はすべて南側である。

 南側が開発されたのは、街まで続く道が近いため、土質が農地に向いていたためである。

 ユージの家の北側は、北東の缶詰生産工場とその敷地を除いて、いまも森が広がっている。


 ちなみに。

 ユージがこの世界に来た初期に考えた、食べられる茸を家の北側で栽培する作戦はあっさり失敗していた。

 原木栽培は素人には難しい。

 というかそもそも、この世界の茸が原木栽培できるとも限らない。

 農業に関しては掲示板住人のアドバイスも万能ではなかった。

 何しろ土質も植生も栽培する品種も違うので。


「あ、いたいた! ハルさん! イザベルさ……ん?」


「ユージさん、お帰りなさい! それで、家は作っていいのかしら?」


「まあここまで準備して、ダメって言われたら大変だけどね!」


 ユージの家の裏手、北側にいたのは王都を拠点にしている1級冒険者で村に遊びに来ていたエルフのハルと、かつてユージが保護していたエルフの少女・リーゼの祖母、イザベルであった。

 家の裏手にまわりこんだユージは目を丸くしていた。

 二人の存在に、ではない。

 木材にするため、薪にするため、多少の木は伐採したものの、北側は森が残っているはずだった。


「あら? ブレーズはいいって言ってたわよ? 家がダメだったとしても、伐採が進むのはいいことだって」


「伐採だけならそうだけどさ! もう、なんとか言ってやってよユージさん!」


 ユージの家の北側は、木々の間隔が広く空けられ、公園のように手入れされた地になっていた。

 水路は『用水路』と『見た目から楽しめる小川』に分かれている。

 まるでエルフの里のように。

 だが。

 ユージが驚いたのは、そのせいだけではない。


「あ、家は作っていいことになりました。俺とエルフのみなさんの好きにしていいって。それでその……」


「やった! じゃあ予定通り作りましょ! ハル、みんなを呼んできてちょうだい」


「了解! うん? ユージさん、何か言いかけた? どうしたの?」


「その、このでっかい岩を積んだ小山はなんですか? 元々ありませんでしたよね? どこから持ってきたんですか?」


 ユージが驚いたのは、ちょっと見ない間にキレイになった森のせいではない。

 その片隅に、白くて大きな岩がこんもりと積まれていたせいだ。


《おおおおーっ! 白くて硬い! 湿原じゃ見かけない石だーっ》


《ふむ、これを敷けばニンゲンは歩きやすいだろう。ぬかるみでは我らほどうまく動けないようだから》


 白い岩を検分したリザードマンたちが感想を述べる。

 彼らが暮らす湿原では見たことがない岩らしい。


「ユージさんが街に行ってる間に、船でちゃっちゃと運んできたんだ! ほら、川までずっと水路が繋がってるから!」


「船で? え? エルフの船ってそんなに大きくないですよね? いない間にこんなに持って来れます?」


「ふふ、ユージさん。水か風を操作して、浮力を増せばいいんだもの。問題ないわよ?」


「長老たちがやる気になっちゃってるからねえ。ユージさん、水路作りや水を引く時、長老たちの魔法を見たんでしょ? 長老たち、やる時はやるタイプだから!」


「ああ、そっか、魔法……」


 岩は重い。

 とうぜん、運ぶのは大仕事である。

 エルフたちは水運で、さらに魔法を使って運んできたようだ。ファンタジーである。この世界で暮らして7年目のユージが呆れるほどに。


「ユージさん、じゃあボクはちょっとエルフの里まで行ってくるから! すぐ帰ってくるよ!」


「あ、はい、気をつけてください」


「よろしくねハル! 私はこっちで準備しておくわ!」


 ユージとイザベル、リザードマンたちに手を振って水路に向かうハル。

 停めていた船にさっと乗り込んで、あっさり出発する。

 ホウジョウ村から繋がる水路を遡って、川を遡って、エルフの里へ。

 家造りのために手伝いを呼んでくるつもりらしい。



「さーてっと。えいっ!」


「えいって…………おおう、マジか」


 ハルを見送ったイザベルが、白い岩が積まれた小山に向かい合う。

 エルフの中でも長老クラスに長生きしているのに、イザベルは年甲斐もない掛け声とともに細剣を振るう。細かくステップを踏みながら。

 ユージでさえ突っ込みかけたが、それよりも。

 もたらされた結果に、ユージはポカンと口を開けていた。

 白い岩が、キレイなレンガ状の石に切り出されていたのだ。


《むう……やはりエルフは強者か》


《な、なんだこれーっ! すごい、すごいぞエルフっ!》


「イザベルさん、まさか、エルフの家ってそうやって石を切り出していくんですか?」


「え? これは私やハルぐらいね! ほら、私は風魔法が得意で、土魔法はあんまりだから。ほかのエルフは、だいたい土魔法の使い手に頼んで分けてもらってるわよ」


「そ、そうですか、土魔法……その、アリスも使えちゃうとか?」


「んー、どうかしら。でも、アリスちゃんなら教えればできそうな気がするわねえ」


「できちゃうんだ……」


 ユージ、ちょっと引き気味である。

 エルフの剣技と魔法、学べば使えそうというアリスの才能、どれに驚いたかは不明だが。

 いや、おそらくすべてにだろう。


「ユージさん、そのうち土魔法の使い手が来るから、アリスちゃんがヒマな時に連れてきたらどうかしら? 石を切り出す魔法も教えるわよ?」


「わかりました。アリス、どんどん開拓に役立つ魔法を覚えてくなあ。……あ、攻撃魔法もか」


 ユージ、ちょっと遠い目である。

 突っ込む者はいない。何しろコタローはユージと別行動しているので。ツッコミ不在である。


「イザベルさん、そういえば場所はここで良かったんですか? なんかこの辺の土は農地に向いてないって」


「いいのよユージさん、ここで農業するわけじゃないから。それにほら、ここならユージさんの家の裏口から近いでしょう?」


「はい、すぐそこですけど」


 チラリと振り返って、敷地の裏口とその先、家の横にある勝手口に目をやるユージ。

 北側のため窓こそ明かり取り程度しかないが、出入り口はある。

 ユージがその気になれば、家から一分とかからずにたどり着くだろう。


「ユージさん、何かあったらここに逃げてくればいいわ。そうすればすぐに水路に出て、そのまま脱出できるから」


「え?」


「敵が来たら、あるいは面倒になって逃げたくなったら。いつでも言ってちょうだいね。かつて稀人に助けられた私たちエルフは、無条件で稀人を助けるつもりよ」


「まさか、そのために家を? その、俺のために?」


「……そう、そうよ! そうなのユージさん! 取引とか情報交換しやすくなるからって理由よりそっちのほうがいいわね! うん、みんな遊びに来られるようにってわけじゃないのよ?」


「ありがとうございます、俺のために!」


 ユージ、素直に感謝を伝えていた。

 明らかにいま気づいた後付けの理由であるのに。

 コタローの不在は、こんなところに影響が出ているようだ。

 まあコタローが突っ込んだところで、ユージもエルフもリザードマンも言葉は理解できないのだが。コタローはツッコミ役だが、犬なので。


「手伝いますよイザベルさん! その、俺のためなのに俺がボーッと見てるわけには!」


「そう? じゃあ、切り出した石をあっちに並べてちょうだい。切り終わった石をどけて、次の石を切りやすくしたいだけだから、並べ方は適当でかまわないわ」


「了解です!」


 ユージ、エルフが家を建てる理由を勘違いしたままのようだ。

 まあ決して間違いというわけではない。

 上がった身体能力でレンガ状の石を運んでいくユージを見て、何を思ったのか二体のリザードマンも手伝っていた。

 人間、エルフ、二体のリザードマンの共同作業。

 ユージが通訳を務めつつ、四人は雑談しながら作業を進めていくのだった。



 ユージがこの世界に来てから7年目。

 ユージはもはや自然にエルフとリザードマンと馴染んでいるが、ありえない光景である。

 この世界であっても、とうぜん元の世界であっても。

 ホウジョウ村はずいぶん異色の場所になっているらしい。



次話、明日18時投稿予定です!

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[良い点] ピュアユージィ
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