第十四話 ユージ、商人と貴族と村長と防衛団長とエルフとリザードマンと会話をする
夏。
ユージの家の前にある小さな広場に、人が集まっていた。
ユージとアリス、コタロー、夏休みで遊びに来たバスチアンとシャルル。
だけではない。
「ユージさん! すごいどうがでしたね! 街や王都で流せればお金をとれます! 大人気間違いなしですよ!」
「ケビンさん、それはできないですし、その、できたとしてもさすがに知らない人たちにまで見せる気はなくて……」
「ユージさん! エルフの里で流したいわ! それで、私は出てくるのかしら? リーゼは? 里のみんなは?」
「あのね、リーゼちゃんは出てくるんだよ!」
「そうなのアリスちゃん! ……え、私は?」
「くくっ、エルフも人間も変わらねえんだなあ」
「そんなこと言ってる場合じゃないぞブレーズ! ユージさん! イヴォンヌちゃんが出てないってどういうことだ!」
ケビン商会の会頭のケビン、エルフの里からやってきたリーゼの祖母のイザベル、ホウジョウ村の村長・ブレーズと防衛団長のエンゾ。
どうやらこの面々も、ユージの映画の予告編を見せてもらったらしい。
大騒ぎである。
《おお、ニンゲンがいっぱいだなーっ! エルフもいるっ!》
《ふむ、これが我らの里にいた時のユージ殿の気持ちか。発見ばかりだ》
二体のリザードマンも、ユージの家の外に出るようになっていた。
ユージ、もしくはブレーズの付き添いは必須だが、リザードマンはユージの家の付近を出歩くようになっている。
ホウジョウ村の村人たちは、最初こそおっかなびっくりだったが、二、三日も経つと平然と見守るようになっていた。
こちらに危害を加えず、ユージとは話が通じる。
ユージと村長のブレーズが持っている辞書を使えば、コミュニケーションも取れる。
見た目は異形だが、リザードマンたちはあっさり受け入れられていた。
ホウジョウ村の村人はずいぶんタフであるようだ。
まあエルフも、それどころかオオカミ型のモンスターも受け入れているのだ。いまさらである。
ユージ宅から外出するようになったリザードマンは、共同浴場がお気に入りなようだ。
熱と湿気を楽しんでいるのか、浴槽の近くで寝そべるのが日課であった。
ホウジョウ村にある水路は、上水は基本入らないでくれと注意され、下水はいまいち気に入らなかったらしい。当然である。
「そうですか……もったいないですが、仕方ありませんね」
「すみませんケビンさん」
「ケビン殿、気持ちは儂も同じじゃ。貴族の娯楽としても人気が……いや違うのじゃ、儂の知り合いの貴族もあれを見たら喜ぶじゃろうと思ってな!」
「お祖父さま、言い直したところで……」
バスチアンとシャルルは、お忍びのため身分を平民と偽ってホウジョウ村に滞在している。
去年、長期間過ごしたためさすがにバレているが、村人は平民として接していた。
自らバラされても困る。村人のほうが。
「それで、ケビンさんも何か用があったんですよね?」
「え? ああ、そうでした、私としたことが。ユージさん、二つ伝えにきました。一つ目ですが……移住に興味を持っている医者の身辺調査が終わりました。問題なしです。ユージさん、勧誘に行きましょう」
「おおっ、頼むぜユージさん! いや、ここは俺も行って勧誘しないとな! 待ってろイヴォンヌちゃん!」
「エンゾさん……でも気持ちはわかります。ケガしたり病気になったら大変ですからね。がんばりましょう、エンゾさん!」
元3級冒険者の斥候で、現在はホウジョウ村防衛団の団長を務めるエンゾ。
そのエンゾの妻のイヴォンヌは妊娠している。
いまのところ安定しているが、この村には医者も産婆もいない。
ケビンと領主によって移住できそうな医者の目星がつけられ、ひとまず身辺調査の結果待ちだった。
ようやくGOサインが出たらしい。
「ユージさん、あとで勧誘の作戦を話し合いましょう。以前、木工職人のトマスさんに声をかけた時のように、何か武器を持っていければと」
「了解です! うーん医者、医者か……」
木工職人を勧誘する際にユージが伝えたのは、金物を使わずに家を建てる日本の伝統構法だった。
ユージ、医者の勧誘も同じ手口でいくらしい。
考えているようだが、どうせ掲示板住人に丸投げである。
いまや掲示板住人に限らず、さまざまなブレーンが存在しているので。
「それから二つ目です。これはユージさんの他に、エンゾさん、マルクくんにもですね。領主様が王都から帰ってきたようです。代官様から、顔を出すようにと連絡がありました」
「あ、はい。医者の件もありますもんね!」
「そうか……ケビンさん、ひょっとして」
「ええ、そうですエンゾさん。領主様は、エンゾさんが隊長に立候補したこともマルクくんが隊員になると希望したことも報告を受けているそうですよ。人となりを確かめるとのことです。おそらく戦闘力も、ですね」
「うっし、じゃあがんばんなきゃな! 合格して、医者も移住させる! イヴォンヌちゃんにいい報告を聞かせてやるぜ!」
「エンゾさん、前向きですね……試験なのに……」
ユージ、採用試験なのにテンションが高いエンゾに引き気味であった。気持ちはわかる。稀に日本でもこういう人物はいるのだ。信じがたいことに。
「領主様への挨拶と試験……それに医者を勧誘するなら、早いほうがいいですよね。どうするかなあ」
チラッとリザードマンに目をやるユージ。
妊娠中のイヴォンヌのことを考えると、一刻も早く村に医者がいるに越したことはない。
だがいま、村にはリザードマンも、身分を隠した貴族のバスチアンとシャルルもいる。
何も考えず気軽にほいほい行くわけにはいかない。
ユージもいろいろと気がまわるようになったようだ。
成長である。
《なにか用かおもしろいニンゲンっ!》
《ユージ殿、だ。ちゃんと覚えなさい》
《えっと、ちょっと俺は街に行かなきゃいけなくなって。まだ滞在する気なら、この村で待っててほしいんだけど……》
《むむっ、留守番かーっ! アタシも連れてけニンゲンっ!》
《黙れ。ユージ殿、了解した》
《大丈夫ですか? 言葉が通じないわけですし……》
《なに、言葉は通じずとも仕草でわかる。ユージ殿にもらった辞書もあるしな》
《むー。よーし、ニンゲンの里を見ててやるっ! アタシがお留守番してるんだ、はやく帰ってくるんだぞーっ!》
《うん、ありがとう》
「ユージ殿、リザードマンはなんと?」
「とりあえず留守番には納得してもらいました。その、バスチアンさんとシャルルくんは……」
「儂らのことは気にせずともよい。むしろリザードマンとの交流にユージ殿とこの村を利用させてもらっておるのじゃ。不在の間、儂とシャルルがこの辞書でコミュニケーションを図ろう」
「ユージさん、ボクも黙って連れてきちゃったんだし、協力するよ! 心配だったら、リザードマンを連れてどこかの川辺で待っててもいいしね!」
「心配すんなユージさん。ここの村人は変わったことにゃ慣れてるからよ。辞書を持って、俺がついてまわるわ」
「ありがとうございますバスチアンさん。ハルさんも、ブレーズさんも」
「おうブレーズ、ついでに防衛団長代理も頼むわ! 俺とマルクがいなくなるからよ!」
「はあ、まあしゃあねえか。きっちり受かってこい。落ちたとしても、医者のほうは確実にな」
「もちろん! イヴォンヌちゃんのためだからな!」
ため息を吐きつつ、ユージたちが不在の間の面倒を引き受ける村長のブレーズ。
ユージが村長で、ブレーズが副村長だった頃からおなじみの行動である。
元3級冒険者パーティのリーダーだった男は、苦労人であるようだ。
そもそもパーティメンバーはお調子者の気があるエンゾ、無口な大男、紅一点の弓士である。
冒険者時代から苦労人であったようだ。
一人まともな女冒険者に相談しているうちに恋愛に、という流れである。どうでもいい。
「バスチアンさんとシャルルくんも街には行かないほうがいいですよね?」
「うむ、そうじゃな。儂はかまわぬが、シャルルの今後を考えるとのう」
「すみませんお祖父さま、ユージさん」
「じゃあ街に行くのは俺とケビンさん、エンゾさん、マルクくんか。アリスはどうする?」
「アリス、シャルル兄とお祖父ちゃんと一緒にいる! ユージ兄と違ってなかなか会えないから!」
「わかったよアリス。じゃあ今回、街に行くのはそれぐらいかなあ」
ユージの言葉に反抗するように、クイッと引っ張られる袖。
コタローである。
どうやらコタローも街に行く気らしい。ありすはおにいちゃんとおじいちゃんがいるもの、わたしがゆーじのめんどうをみるわ、と言わんばかりに。母性あふれる女である。犬だけど。
「おっ、コタローも行きたいか。じゃあ俺とコタローとケビンさん、エンゾさんにマルクくんだね!」
こうして。
ユージの街行きが決まるのだった。
身分を隠した貴族の二人、二体のリザードマン、二人のエルフという変わった来客を村に置いて。
来客と村人の間に問題が起きないように面倒を見るのは村長のブレーズの仕事である。
ついでに防衛団長の代理と、もし来客があった場合の割符のチェックも。
ホウジョウ村の村長は、大変な仕事であるようだ。
だいたいユージのせいで。
会話するメンツがバラエティ豊かすぎてキツイです…筆力……
次話、明日18時投稿予定です!





