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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十一章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 2』

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第十三話 ユージ、自分の部屋に人生で最大の人数を招く


「シャルルくん、どうかな?」


「ユージさん、それほど広がってません。いま書きますね」


「よかったねユージ兄!」


 アリスの兄のシャルル、祖父のバスチアン、二体のリザードマンを家に迎えたユージ。

 家の案内を終えたユージは、さっそくシャルルに魔眼を発動して確かめてほしいとお願いしていた。

 ユージの家を包む謎バリア。

 魔素でできており、電気・ガス・水道・ネットの源となっているらしいそれの確認である。

 一年前、シャルルが見つけた穴はどうなっているのか。

 この一年、ライフラインの使用を制限してきた結果を知りたかったようだ。


「ここから……ここまでですね」


「おお、あんまり広がってない! よかった、努力はムダじゃなかったんだ!」


 謎バリアの魔素は、ライフラインやネットの使用、家の機能の修復、攻撃を防ぐことで減少する。

 去年、シャルルの協力で計測してわかったことである。

 以来ユージは、水は村の水路やアリスの魔法でまかない、明かりは自らの光魔法で代用していた。

 ガスコンロは使わず料理は村の炊事場で、お風呂は二日に一度、村の共同浴場で。

 ホウジョウ村の名物である露天の共同浴場へのお湯の提供も止めた。

 いま、共同浴場は村を流れる水路から水車で水を引いて、鍛冶師謹製の湯沸かし器で温めるスタイルである。


 ユージの努力はひとまず報われたようだ。

 というかユージ、ほとんど村人と変わらない生活である。

 違いは家と家具、ネットぐらいのものとなっていた。

 すでに服は村の針子たちが作ったものがほとんどで、見た目もただの村人だ。文官だけど。


「ユージ殿、研究者……ローレンじゃったか、彼は何か言っておったかのう? 季節一巡りして、わかったことはどうじゃ?」


「えっと、ローレンさんはまず俺が元いた世界に魔素があるか探るって言ってたので、物をいろいろ渡してます。まだはっきりしないんですけど、元いた世界にも少しは魔素があるかもしれないって」


 バスチアンは異世界との往還の研究状況が気になるようだ。

 興味本位なのか、あるいは打算があるのかは不明である。


「ふむ……魔素の有無か。じゃが、魔眼がないじゃろう? どうやって調べておるのじゃ?」


「ウチにあった物を渡して、魔力を通してみてるそうです。魔素がない物は初めて見るらしいんですけど、信じられないぐらい魔力の通りが悪いって。でも、中にはこの世界の物と同じように魔力が通るものがあるらしいんです」


「なるほどのう。では落ち着いたら儂とシャルルで見に行くとしよう。魔力の扱いは儂が、魔素の有無や変化はシャルルが見て取れるじゃろうからな」


「あ、ありがとうございます。なんか、向こうの神社とかお寺とかが関係した物には魔素があるっぽいんですよね。お守りとか、親の登山杖とか御朱印帳とか……」


「ふむ、気になるのう。神に関わるもの、ということじゃな?」


「えーっと、たぶん」


 なぜかはわからないし、研究者が『おそらく』と言うほど微弱な魔素。

 それでも、ユージと一緒にこの世界にやってきた家にあった物のうち、神社仏閣に関わる物はわずかに魔素があるらしい。

 研究を続けたローレンのちょっとした成果である。


 ローレンのちょっとした成果だが、ユージが報告すると元の世界は大騒ぎになっていた。

 当然である。

 何しろユージがこの世界に来たのは、故意か偶然かは不明だが魔素が関わっていることは確実。

 そして、魔法を使うには魔素が必要と考えられているのだ。

 逆に、魔素があれば魔法を使える可能性がある。


 異世界に繋がる可能性、魔法を使える可能性。

 大騒ぎする理由には充分である。


 日本もアメリカも、いや、いまや世界中で大騒動となっていた。

 魔素を観測しようと教会や神社仏閣に向かう研究者たち。

 部屋中にお札を貼ってむにゃむにゃ唱える掲示板住人。通報待ちか。

 何を思ったか禅寺の門を叩いた者。ただの修行者である。

 日本の、世界各地の宗教施設をまわる者。観光か。

 ユージの両親の登山杖の出元である富士山に赴き、山小屋と山頂を往復している者もいる。山岳部の荷下ろしバイトのごとく。いや、バイトなら麓と山小屋の往復のはずだ。

 魔法フィーバーである。

 とりあえず、魔法が使えるようになった者はいない。

 使えると言い張っている胡散臭い人間はすでに誕生しているが。


「異界の神か。気になるのう」


「えっと、何かわかったら教えてください」


「うむ、当然じゃユージ殿。じゃがいまは……他にも用事があるのじゃろう?」


「あ、そうでした。シャルルくん、ありがとう! 撮影もしたし、一回中に入ろうか!」


「はい、ユージさん」


「はーい、ユージ兄!」


 謎バリアに空いた穴の現状は観測した。

 わずかに広がっているが、このペースであれば百年単位で持つだろう。

 ともあれ、その結果を写真に残したユージは、みんなに声をかけて中に向かうのだった。


 ちなみに。

 ユージの家を案内されたリザードマンは、和室と玄関が気に入ったようだ。

 和室は草の匂いと風が、玄関はひんやりして気持ちいいらしい。

 ローブを脱いだ状態で外に出ることは控え、いまは和室で二体並んで丸くなっていた。留守番である。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ユージ殿、見せたいものとはなんじゃ?」


「えへへー、お祖父ちゃん、まだ内緒! アリスはもう見たんだよ!」


《ニンゲンの住処はおもしろいな! 二つ重なってるんだもんなーっ!》


「ユージさんどうしたの、ボクまで呼んで?」


「みなさん、ちょっと待ってくださいね」


 パソコンを起動するユージ。

 ユージの部屋には、7人と一匹が集まっていた。

 リザードマンを獣人族と同じように人とカウントするなら、だが。

 ユージとアリス、コタロー。

 アリスの祖父で貴族のバスチアン、兄のシャルル。

 1級冒険者でエルフのハル、湿原からやってきた二体のリザードマン。


 ユージの部屋にこれほど人が入ったのは、人生で初めてのことである。

 引きこもる前でもここまで人を招いたことはない。あと男くさい。

 女性はアリスだけである。コタローとリザードマンの一体は女だが、メスなので。たぶんリザードマンも雌雄で呼ぶべきなのだろう。基準は不明である。


「よし、準備OK」


「アリス、何回見てもドキドキする! ユージ兄、はやくはやく!」


 7人と一匹が見つめているのは、パソコンのモニターである。

 とあるファイルをダブルクリックするユージ。

 画面一杯にソフトが起動して。


 映像が、はじまった。

 ユージの映画のトレーラー映像。

 予告編である。



「な、なんじゃこれは……」


「お祖父ちゃん! これはね、えいがって言うんだよ!」


「アリス、これは映画じゃなくて予告編だよ。映画はまだできてないから」


《あははっ、なんだこれーっ! ちっちゃいニンゲンが動いてる!》


《我もわからぬ。ハコと小人? この中にいるのか?》


「あはは! ユージさん、すごいすごい! これ、ひょっとしてユージさんかな? これがコタロー?」


「あのね、これがアリスなんだよ! すごいでしょー! あとね、シャルル兄もいるの!」


「え? ボク?」


 大騒ぎである。

 当然だ。

 エルフのハルは写真と動画の存在を知っているが、この予告編を見るのは初めて。

 ほかのメンバーは動画さえ知らないのだ。

 リザードマンにいたっては、この中に誰かいるのか、あるいは後ろの景色が映ってるのかと、モニターの横にまわって後ろを覗き込んでいた。


 アリスは、そんな騒動を見て誇らしげに胸を張っていた。

 あとコタローも。


「なんて言ったらいいかな……えっと、俺が稀人なのはみなさん知っての通りで。それで、こっちに来てから俺が体験した話が、元の世界で映画になるんですよ。映画……えーっと、動いて、目で見る物語です。いま見てるのは2分半の短いヤツで、秋に2時間ぐらいのヤツができるんです」


「楽しみだねユージ兄!」


「なんという……ユージ殿、それはここでしか見られぬのか? もし王都で見られるなら……」


「バスチアンさん、それがたぶんムリなんですよ。持ち運びは難しそうで」


「おお、なんということじゃ……」


「……これはすごい。ユージさんがいた世界の冒険者やモンスターは強そうですね!」


「あ、シャルルくん。これは本物じゃなくて……そうだよなあ、そこからか」


《おい、おもしろいニンゲンッ! アタシたちはどこだーっ!》


《落ち着け。長いほうで出てくるのだろう》


「ユージさん、エルフの里でも無理なのかな? みんな見たがると思うよ! リーゼお嬢様も、ウチの長老たちも」


「ハルさん。そうなんですよ、俺もリーゼに見せたくて。いまちょっと方法を探ってます。長老たちやほかのエルフは、見たければここに見に来てくれればいいんですけど……」


 大騒ぎである。

 ユージは、映画の予告編をアリスには見せていた。あとコタロー。

 バスチアンやシャルル、リザードマンたちが家に泊まることになったため、ついでにどんな反応をするか見せてみたようだ。

 結果は上々である。

 王都やエルフの里で見せたいと言うほどに。


「うーん、ほんと、タブレットがあればよかったのになあ」


 ポツリと呟くユージ。

 今回の来客だけではなく、ユージにはこの映画を見せたい人たちが、この世界にもたくさんいる。

 商人のケビンやその妻のジゼル、ジゼルの父で元会頭のゲガス。

 開拓の初期メンバーである獣人一家。

 元冒険者たちに職人、針子、ホウジョウ村の住人たち。

 権力という点で面倒かもしれないが、ユージが稀人であることを薄々気づいていた初期から、ムリに取り込むことなく見守ってくれた領主夫妻や代官にも見せたい。

 王都のゲガス商会の面々や、シャルルの従者となった狼人族のドニにも見せたいし、エルフの里にいるテッサの嫁・イザベルやキースの想い人・ユリアーネにも見せたい。

 そしてもちろん、アリスの親友で、ユージとも長い時間を過ごしたエルフの少女・リーゼにも。


 トレーラー映像をリピートして、6人と一匹の大騒ぎを聞きながら、ユージは考えにふけるのであった。

 まあユージが考えたところで、アイデアなど出てこないのだが。

 元の世界のブレーンたち、掲示板住人のアイデアを待つばかりである。

 それと、エルフの里からの朗報を。



次話、明日18時投稿予定です!

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