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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十一章 代官(予定)ユージ、スターダムをのし上がる 2』

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第六話 ユージ、新生ホウジョウ村防衛団と一緒にワイバーンと戦う

 ユージがこの世界に来てから7年目。

 元の世界ではキャンプオフが終わり、日常が戻っていた。

 一方で。

 雪が解けたホウジョウ村は、春の風物詩を目前に控えていた。


 ホウジョウ村の春の風物詩。

 ワイバーンの襲来である。


「エンゾさん、じゃあよろしくお願いします!」


「おう、任せとけユージさん」


「しっかりやれよ、隊長候補」


「はは、ブレーズに言われると変な感じだな。今後は指示に従えよ、元リーダー。ああいや、村長って言っとくか?」


「うるせえぞ、隊長候補」


 ホウジョウ村は、すでにワイバーンの迎撃態勢に入っている。

 過去、ワイバーンが飛来したのは北から。

 いずれも午前中。

 ワイバーンの姿を遠くに見るようになったいま、ホウジョウ村の非戦闘員たちは午後まで外に出ないように厳命されている。

 索敵としてコタロー率いる14匹のオオカミたちは毎朝村の外、北部の森に散っている。母狼と小狼を村に残して。


「エンゾ団長、オオカミの遠吠えが聞こえました! 近づいてきています!」


「おう、ありがとよマルク。どうやら今日来るみてえだな。よし、全員持ち場につけ!」


 ホウジョウ村の防衛団。

 自警団としてはじまった組織はユージが団長だった。

 ユージが文官として働きはじめたため、いまの団長は元3級冒険者パーティ『深緑の風』の斥候、エンゾが引き継いでいる。


「新生ホウジョウ村防衛団の初陣だ! 無傷の連勝記録を伸ばしてやる! 見ててくれイヴォンヌちゃん!」


 ユージの家の前の小さな広場でエンゾが叫ぶ。

 団長として指揮をとる初めての戦闘に、気合いが入っているらしい。

 ちなみにイヴォンヌちゃんは見ていない。非戦闘員は建物の中に退避しているので。


「ユージ兄、アリス、本当に魔法でバーン! ってやらなくていいの?」


「アリスちゃん、今回ボクらは保険だってさ! エルフの手助けもアリスちゃんの魔法もなしで、真っ当に戦う訓練だって!」


「ハルさん、アリスと子供オオカミたちをよろしくお願いします。コタローもね」


「はーい! ユージさん、気をつけてね! まあ危なくなったらボクらが出るから!」


 ユージの家の庭にいるのは、ユージとアリスとコタローだけではなかった。

 謎バリアは小さな穴こそ開いたものの、いまも効力を発揮している。

 安全地帯ということで、ユージは母狼と小狼を敷地内に避難させていたのだ。

 5匹の小狼は、庭で母狼にまとわりついている。あとコタローに。


 庭にはさらに、春になって村の様子を見に来たエルフで1級冒険者のハルの姿もある。

 アリス同様、ハルも今回は作戦に組み込まれていないらしい。


 かつて、ワイバーンとの戦いは総力戦だった。

 いまやアリスと、居合わせた1級冒険者を温存できるほどになっているらしい。

 ホウジョウ村は基本、戦力過剰なのだ。


「じゃあ行ってくるよ」


「ユージ兄、がんばって!」


 アリスに声をかけて家の敷地を出るユージ。

 皮鎧に大盾、短槍。

 ユージ、完全装備である。文官とはなんなのか。

 とりあえずユージは現役の5級冒険者でもある。

 アリスとハルは反則じみた魔法があるため作戦から外して保険とするが、ユージは一戦闘員として参加するらしい。

 あるいは、三脚にセットしたカメラを調整する役として。



 ユージの家の前の広場には昨年に続いて塹壕が掘られていた。

 塹壕の前に盛られた土には、こちらも昨年同様にバリスタが設置されている。

 今年はアリスとエルフたちの魔法ではなく、エンゾ指揮のもとに元冒険者たちが掘ったものだ。


「ユージさん、今年もよろしくお願いします」


「ケビンさん! こちらこそお願いします」


 塹壕に到着したユージに、一基のバリスタの前に陣取ったケビンが声をかける。

 どうやらこの商人は今年もワイバーン戦に参加するらしい。


「ケビンさん、聞いてるかもしれませんけど、今年は」


「ユージさん、来ましたよ! 中へ!」


 何か言いかけたユージだが、その言葉を遮ってユージを塹壕の中に招き入れる。

 ワイバーンが飛来したのだ。

 毎年倒されているのに、今年も『巣立ちの狩り』の場所を変えることなく。


「よーし、任せたぞドミニク! ……ほんとはここで重装歩兵の出番なんだけどな」


 今回、というか今後は村の防衛戦の指揮をとるエンゾが、同じパーティメンバーだった盾役・ドミニクに指示を出す。

 大盾を持って、のっそりと広場の中央に進み出る大柄な男。

 元3級冒険者の盾役は、一人で重装歩兵の一小隊分の働きはできるらしい。

 というかそもそも、初めてワイバーンと戦った時は尻尾による攻撃をシャットアウトしている。

 4級以上の上級冒険者たちは、人外であった。



 森の中にある開けた空間、ホウジョウ村を見つけたのだろう。

 獲物を見定めるようにぐるっと旋回するワイバーン。

 今年もホウジョウ村に目をつけて、広場の中央にポツンと佇む人間を狙うようだ。

 誘われるままに。


「うっし、ドミニクが狙われたな。バリスタ、1から4番、発射準備!」


 ワイバーンの様子を見ながら指示を出すエンゾ。

 塹壕から、はーい! と声が返る。

 元3級冒険者で弓士のセリーヌ、狩人のニナ、エンゾとセリーヌにしごかれて扱いを覚えた犬人族のマルク。

 そして、商人のケビンの4人である。

 4基のバリスタには、すでにホウジョウ村在住の鍛冶師謹製のボルトが用意されていた。



 村の南、開けた空間からドミニクに向かって、ワイバーンが飛翔する。

 ポツンと立っているように見える獲物めがけて、一直線に。

 どうやら頭はそれほどよくないらしい。


「まだだ、まだ引きつけろ……いまだ! 射てっ!」


 数秒後にワイバーンがドミニクに接触する。

 タイミングを見計らって、その直前に合図を出したエンゾ。


 4基のバリスタからボルトが放たれた。


 ワイバーンめがけて放たれたボルトが、空中で広がる。

 まるで投網のように。

 というか、投網そのままに。


 掲示板住人が知恵を出して、鍛冶師たちが試作を重ねた新兵器・投網ボルトである。

 初めて使われた新兵器ではあるが、実は去年のワイバーン戦でも用意されていた。

 去年はアリスの親友・リーゼの祖母でエルフのイザベルが風魔法を使ったために、使用されなかっただけだ。

 新兵器は一年ごしに日の目を見たようだ。


 放たれた投網は、ワイバーンの体に絡み付いて自由を奪う。


 ワイバーンは動揺したのか、翼を開こうともがきながら速度を落としていた。

 広場の中央にいるドミニクの前で、動きが止まった。

 魔法を使っているのか、投網が絡んで翼が動いていないのに、空中に浮かんだまま。


「セリーヌ、ニナは弓を射て! おら野郎ども、見せ場だぞ!」


 エンゾの声が戦場に響く。 


「うおおおおおおお!」


 雄叫びをあげて、男たちが塹壕から飛び出していった。

 村長で元3級冒険者のブレーズと、元5級冒険者の5人の独身男たちである。

 独身男の見せ場である。

 いや、一人はすでに針子の女性といい感じになっていたようだが。


 空中に浮かんだワイバーンに突き刺さる矢。

 弓士のセリーヌとニナの攻撃である。


 そして。

 塹壕から飛び出した男たちは、投擲用の槍を掲げていた。

 奇妙な道具とともに。


「ユージさん、あれは?」


 バリスタに次弾を準備しながら問いかけるケビン。

 ホウジョウ村で変なものを見かけたら、たいがいユージが原因。

 付き合いが長いケビンはよくわかっている。


「えっと、槍を投げるのを補助する道具です。コツさえ覚えれば、強く遠くに投げられるって」


 投槍を構えて助走を付ける6人の元冒険者たち。

 槍を直接手に持って、ではない。

 槍は奇妙な道具にセットされていた。


 槍は、細長い木製の道具の、縦に長く削られた溝にセットされている。

 一番後方が窪んでおり、槍を投げる時に引っかかるようになっているようだ。

 中央アメリカで使われていたアトラトル、あるいはオーストラリアのアボリジニで言うところのウーメラ。

 要は槍を投げる際の補助具である。

 60〜80センチほどの長さの小さな補助具。

 だが。

 ユージが元いた世界では、熟練者が使うと100メートル以上離れた小さな的に命中し、ゾウにさえ深々と突き刺さるのだという。

 ましてこの世界では、位階が上がれば身体能力が上がる。


 元3級冒険者と、元5級冒険者の5人。

 放たれた6本の槍は。


 空中に浮かんだワイバーンに、深々と突き刺さった。


 グオオオオと悲鳴を上げて、ワイバーンが地に堕ちる。

 1本が彼方に飛んでいったのはご愛嬌である。


「これは……ユージさん、またすごいものを……」


「え? 投げ槍はあるって聞いたんで、コレはあるだろうってみんな言ってたんですけど」


 暢気に会話するケビンとユージ。

 まあ仕方あるまい。

 ワイバーンは空中を飛び回るからこそ仕留めづらいのだ。

 地に堕ちて、しかも網で自由を奪われたワイバーンなど脅威でさえない。

 暢気に会話するのも、ユージが三脚からカメラを外して手持ちに切り替えるのも仕方ないことなのだ。余裕か。


「よし、尻尾は斬り落とした! もう動きもねえ。マルク!」


「はい! どうしたんですかエンゾ団長?」


 投槍からそれぞれの武器に切り替えて、元冒険者たちの近接組はワイバーンを瀕死に追い込んでいた。

 すでに尻尾は斬り落とされて、青い血を流しすぎたのか動きは緩慢である。


「ちっと遅れた成人祝いだ。おまえがトドメをさせ」


「え? でも……」


「心配すんな、みんな同意の上だ」


 エンゾの言葉に頷く元冒険者たち。

 接待プレイである。

 いや違う。

 エンゾの言葉通り、前の秋に15才となったマルクへの成人祝いであるらしい。

 マルクには、ユージのアイデアと鍛冶師たちの努力、ケビンによる素材の手配で、村人の連名で胸当てが贈られていた。

 だが、マルクを鍛えてきた男たちは、直接何かを贈りたかったらしい。


 親心なのか、元冒険者たちは爽やかに笑っている。瀕死のワイバーンを前に。余裕か。

 涙ぐんだマルクが、ぐしぐしと目を擦って。

 手にした片手剣を何度も振り下ろして、マルクはワイバーンの首を切断するのだった。



「よし! 新生ホウジョウ村防衛団、初勝利だ!」


 エンゾが勝利を叫び、マルクがワイバーンの首を掲げる。


 ちなみに。

 マルクがトドメをさすことはアリスに根回しされていたらしい。成人のお祝いだから、今回は譲ってやってくれ、と。

 道理で『アリス、敵を殺って位階を上げたいの!』なアリスが大人しくしていたはずである。


 ユージがこの世界に来てから7年目。

 三回目のワイバーン戦は、今回もケガ一つ負わずに終了した。

 ワイバーンは今年も何もできなかったようだ。哀れ。



次話、明日18時投稿予定です!

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