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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 16

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閑話20-40 二度目のテスト開催となった秋のキャンプオフ当日part1

副題の「20-40」は、この閑話が第二十章 終了後で「39」の話の後、という意味です。

ご注意ください。


 足下の芝生、目の前に広がる海。

 夏には家族連れや恋人たちで賑わう公園。

 いまの季節は秋。

 浜辺のキャンプ場は海風が冷たく、平日なこともあってこの季節は閑散としている。

 いつもなら。

 今日はその場所に、ちらほらと人が集まっていた。


 人だけではない。

 連なって設置された大型のターフには、いくつかの店が出店しているようだ。


 準備に奔走した一人の男は、キャンプ場を歩きまわっていた。

 最終チェックである。

 近くを、あるいは遠くを見ながらブツブツ呟く男。

 虚空と会話しているようだ。危ない男である。

 違う。

 男はスマホにマイク付きイヤホンを接続して通話しているのだ。

 周囲から見ると危ない男だが、普通に話しているだけである。


「ミート、状況はどうだ?」


「よし、なんとかなりそう! これで設置は終わり!」


「そうか、ありがとう」


「まあ大きく見たら地元だからね! 多少はツテもあるし!」


「ミート、それはさすがに言いすぎだろう。()()()()はかなり離れてるはずだ。助かったことは確かだが」


「みんなイベント好きだからねー。心配しないで、はじまったら裏方にまわってもらうから! アイツらが参加したら浮いちゃうし!」


「……すまん、助かる」


「まあアイツらはアイツらで、夜は()()に繰り出すらしいし! 気にしないで!」


 最終チェックに余念がないのは、このイベントを取り仕切っていた男。

 クールなニートである。

 スマホ越しに会話していたのは名無しのミート。

 いまは宇都宮の会社とNPOに籍を置いているが、熊本出身の自由人である。

 このイベントにあたって、名無しのミートはまさに獅子奮迅の活躍であった。

 友達も多く、地元のイベントに呼ばれる程度には歌唄いだった男は、いろいろとツテがあったらしい。友達の友達はだいたい友達である。


「BBQの準備よし、モニターよし、Wi-Fiよし。待避所もOK。あとは来場者待ちだな。どれぐらい集まるか……」


「まあそれも含めてテストだからさ!」


「ああ、そうだなミート。さて、でははじめようか。今回は二箇所同時開催のテストだ」


 マイク付きイヤホンで告げられたクールなニートの言葉に、パチパチと拍手が返ってくる。

 クールなニートと名無しのミートの一対一ではなく、グループ通話だったのだ。

 繋がった先は、宇都宮の森林公園にいる事務局メンバー。

 そして。

 ここ福岡、海の中道海浜公園キャンプ場にいる事務局メンバーである。


 二箇所同時開催のテストキャンプオフ。

 一箇所はユージの地元・宇都宮のキャンプ場。

 もう一箇所は福岡。


 西日本の掲示板住人たち、念願の二箇所開催である。

 関西を通り過ぎて、九州で。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「サクラさん、本当にこっちに来るとは思いませんでした」


「ふふ、私もね! でもこっちに来てよかった!」


『飛行機、サブウェイときて船! 今回のキャンプはおもしろい場所だね』


『そうねえ、船なんて何年ぶりかしら。あなた、落ち着いたらクルーズでもどうかしら?』


『ああ、それもいいかもな。ほら、話は荷物を置いてからにしよう』


 クールなニートが海の中道海浜公園の桟橋で出迎えたのは、ユージの妹のサクラたち。

 アメリカ組である。

 プロデューサーが東京で仕事を片付け、サクラがベイビーを友達に自慢した後。

 一行は飛行機で福岡まで飛んできたのだ。


 ジョージや脚本家の老婦人は、年甲斐もなくはしゃいでいた。

 今回のキャンプ地である海の中道海浜公園に行くには、いくつもの方法がある。

 電車、自家用車、バス。

 そして、海を突っ切る船である。

 アメリカ組は、わざわざ高いお金を出して短時間の船旅を楽しんだようだ。ブルジョアである。


「あれ? サクラさん、ルイスさんは? 日本に来てるって聞いた、というか掲示板に書き込みがあったけど?」


「えっと……ああ、ミートくん! ルイスはね、宇都宮に行かせたわ。ルイスくんの家もあるし」


「はあ、俺たちも手伝ったし、それは知ってますけど」


「ミート、ケイトさんもいないんだ。察してあげるべきだろう」


「ああ、そういうことか! くっ、あっちも楽しそう!」


 アメリカ組からは二人が欠けている。

 CGクリエイターのルイス、稀人・キースの子孫であるケイト。

 二人は宇都宮開催のキャンプオフに参加するらしい。

 気をきかせて置いていかれた、とも言う。


「ミート、すまないがサクラさんたちをホテルまで案内してあげてくれないか? 俺はキャンプ場に戻ることにする」


「そのほうがいいね! じゃあサクラさん、俺についてきて、っていうかもう見えてるけどね!」


「よかった、いまいち案内図がわかりづらかったの! 公園に着けばなんとかなるとは思ったんだけど」


 サクラ、ホテルのウェブサイトではなく公園のウェブサイトを見てしまったようだ。

 海の中道海浜公園は国営である。

 ウェブサイトの見づらさは推して知るべしである。

 広大な敷地に数々の施設があるのに、イマイチな広報っぷりも。

 まあ地元の人に知られていれば充分だという考えなのだろう。きっと。


「……なんか、思った以上に豪華なホテルなんだけど」


「はは、サクラさん、中に入ったら驚くと思うよ! 公園の中でもあそこだけ別世界だから!」


「えっと、待避所もここに?」


「いや、今回はテントを用意したんだ! さすがにちょっとね」


「そうよねえ……」


 名無しのミートと会話しながらホテルに向かうサクラ。

 サクラが言うように、園内のホテルは立派なものだった。

 ただし驚いていたのはサクラだけ。

 夫であるジョージも、初老の夫婦も特に驚くことはない。ブルジョアなので。

 まあサクラの腕に抱かれたベイビーは、意味もわからずキャッキャとはしゃいでいたようだが。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 春のキャンプオフと秋のキャンプオフは意味合いが異なる。

 二年連続の開催となったが、秋はあくまでもテストなのだ。


 一度目はユニク○と靴屋と美容師たちに出張してもらって、利用者はどれぐらいか、出店料をいくらにするかのテスト。

 今回の二度目は、二箇所同時開催で問題なく運営できるかどうかのテストである。


 いまのところ宇都宮も福岡も順調。

 参加者も集まって、出店者のブースも問題なく利用され、BBQも盛り上がった。

 いつものコテハンたちは、おたがい好きなほうに参加している。


 二箇所に分かれたため、アクも薄まった。

 わけがない。

 西日本での開催は初めてのため、海の中道サイドは何事もなく静かに進んでいる。

 わけがない。


 去年の秋開催で腕を振るったチャラいおじさま美容師。

 今回は自費で海の中道サイドに参加していた。

 どこから集めたのか、現地の美容師メンバーを引き連れて。

 ボクの教え子はこっちにもいるからね! などと言いながら。

 意外に狭い美容師の業界の中で、けっこうな有名人だったらしい。


 洋服組Aと店員さんカップル。

 とうぜん宇都宮サイドの参加である。

 掲示板住人たちの歯ぎしりと怨嗟と祝福を浴びながら。

 今回は清水公園ではなく市内の森林公園ということで、昼間は店員さんの娘も遊びに来たようだ。

 危ないところである。

 コテハン・YESロリータNOタッチも宇都宮サイドだったので。


 カメラおっさんと検証スレの動画担当は、それぞれ分かれて。

 海の中道サイドは動画担当、宇都宮サイドはカメラおっさんが担当していた。

 それぞれ仕事仲間に声をかけて、チームで撮影していた。

 一箇所に一人では足りなかったらしい。

 ずいぶん話が大きくなったものだ。


 海の中道サイドを盛り上げたのは、ドングリ博士である。

 盛り上げた、というか歓声と悲鳴に包まれていただけだ。

 今回ドングリ博士がBBQに持ち込んだのは、いくつかの食材である。

 ユージが湿原でモンスターを倒した時、素材はすべてリザードマンの手に渡った。

 『どれも食べれるんだけどな』と書き込んだ男は、手に入る物を持ち込んだようだ。

 もちろんモンスターではない。

 ただの魚、ただのナマズ、ただのトカゲ、ただのヘビ、ただのカメの肉である。

 自己責任! と大きく書かれた看板の前で、ドングリ博士の食材講座は盛況だった。

 初心者にはドングリの粉を加工した食品と、蚕のサナギを用意している。初心者レベルかどうかは別として。


 弁護士の郡司、物知りなニートは宇都宮サイド。

 盛り上がりには加わらず、二人とも静かに過ごしていた。

 郡司はアルコールを片手にリュックを背負ったまま。

 物知りなニートは、今回もゆっくりデザート製作で。

 ちなみに今回はワッフルであった。

 型はどこから準備してきたのか。コイツはコイツで謎である。


 とうぜん、コテハンではないメンバーで常連の参加者も、今回が初参加の人もいる。

 静かにBBQを楽しむ者、積極的に、あるいは勇気を出して服屋や臨時美容院を利用する者。

 待避所にこもって各地の中継と掲示板を見ながら楽しむ者。


 ユージの話が広がっていくにつれて参加者は増えたが、余計な喧噪はなんとかシャットアウトできていた。

 キャンプ場は貸し切りで、参加者以外立ち入り禁止、メディアは一切お断り。

 駐車場の出入り口にこそカメラを構えたメディアがいたが、クールなニートは顔出しNGな参加者は往復バスを利用するようにというアナウンスで、最低限の被害に抑えたようだ。

 まあそれができるのも今回までだろう。



『さて、そろそろいいかな?』


「そろそろいいかって。えっと、なんのことか」


「サクラさん、わかってます。ええ、頃合いでしょう」


 海の中道サイド、後方にいたクールなニートとアメリカ組がわずかに言葉を交わす。

 プロデューサーがGOサインを出して、クールなニートが両方の事務局に指示を飛ばす。


 両方のキャンプ場に設置された大型モニター、そしてネット上に用意された生中継会場。

 そこにカウントダウンが映る。

 60秒前という、少々長いカウントダウンである。

 大きな音を出さずに注目を集めようとしたのだろう。

 最初は気づかなかった参加者たちも、周囲から声をかけられて、あるいはまわりの視線で次第にモニターに注目が集まっていく。



 突然はじまったカウントダウン。

 ゼロになった瞬間にはじまったのは。


『ふふ、ルイスががんばってくれてね。全世界のどこよりも早く、ここで流すことにしたよ』


 一本の動画だった。


 わずか2分30秒の短い動画。


 キャンプ場は沈黙に包まれていた。

 参加者たちは、食い入るように映像を見つめている。


 プロデューサーのGOサインで、クールなニートの指示で二箇所とネット上で公開された動画。


 それは、内々に予定されていた「よくわからないけど興味を煽る」ティザームービーではなく。

 れっきとした、映画のトレーラー映像。

 いわゆる予告編であった。


 次々に移り変わっていく場面。

 大型モニターに映し出された異世界。

 迫るモンスター、武器を手に対抗する人間たち。


 ユージの話が、映画になる。


 テスト開催のキャンプオフ。

 二箇所とネット上で公開されたのは、ユージの話の映画の、第一弾の予告編であった。



……福岡側、本当はデイキャンプしかできません。ご注意ください。


次話、明日18時投稿予定です!

もうちょっとだけキャンプオフ関連。

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― 新着の感想 ―
[一言] そうか、福岡勢は終わったら天神か。 中洲じゃないのが残念(笑)
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