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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
閑話集 16

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閑話20-30 ホウジョウ村に移住した鍛冶師たち、ユージの無茶ぶりに応える

副題の「20-30」は、この閑話が第二十章 三十話終了ごろという意味です。

ご注意ください。

「はあ、今日も缶詰作りか」


「おい、気ィ抜くなんてずいぶん偉くなったじゃねえか」


「……んなこと言ったって、鋳造なんて目をつぶってたってできますよ」


「そう言うヤツから事故ってくのよ。おい、おめえがしっかり見ててやれ」


「うっす」


 ホウジョウ村には4人の鍛冶師がいる。

 ケビンに誘われて、鍛冶ギルドと領主の許可を得て移住した鍛冶師たち。

 二人は見習いで、二人は親方から一人前だと認められている。


 主な仕事は、ケビン商会の缶詰生産工場の中に作られた鍛冶スペースでの缶詰の容器作りである。

 また、注文を受ければ鍋や包丁、ナイフ、金釘といった日用品の製造と剣や槍、武器防具の修理も行う。

 鍛冶師見習いの一人にとっては面白くない仕事らしい。

 まだ若い男がそう思うのもしょうがないのかもしれない。

 もう一人の見習いは、ただ黙々と先輩鍛冶師の言うことに従っていた。


「アイツはまだわかってねえみたいだな」


「……仕方ない。青い」


「おめえはもうちょっとしゃべれよ」


「性分だ」


「はあ。そんなんだからおめえのほうが腕がいいのに、俺が仕切れって言われるんだろうが」


「それでいい。それがいい」


「はいはい、ありがとよ。さて、働きますか!」


 鍛冶師見習いの二人は、缶詰容器を作る作業に向かった。

 見送った鍛冶師たちがわずかに言葉を交わす。


 なんでもない日の朝。

 ホウジョウ村に暮らす鍛冶師たちの一日は、こうしてはじまるのだった。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



()()()? ケビンさん、それは何に使うものだ?」


「ユージさんから聞いたもので、私も実物は見てないんですよ。ただだいたいは聞きました。道にレールを敷いて、その上に馬車を走らせるんです。そうすれば速度も出せますし、雨や雪解け水で道がぬかるんでいても問題ないと」


「ってことは車輪が乗るんだな? 馬車の重量がかかるってことか。うん? 走らせる? どこまでだ?」


「プルミエの街まで、ですよ」


「はあ? 街まで二日あるんだぞ? そこまでぜんぶ()()()を敷くのか?」


「それは見積もり次第ですね。左右合わせて、二本で一組。強度は馬車が乗って走っても問題ないように。なにしろ荷は缶詰が主ですから」


「そいつァなかなかな注文だな。木箱びっしりの缶詰はかなりの重さだぜ?」


「それを運べるように、です。それにレールが完成すれば、街から金属素材も運びやすくなりますしね」


「なるほどな。まずは試作してみっか」


「お願いします。何種類か作っていただいて、それぞれ見積もりをください」


「素材はケビンさんの手配だろ? んじゃ重量と手間賃だけ出すわ」


「ええ、それでかまいません。よろしくお願いします」


「あいよ。おい、おめえら、集合だ!」


 缶詰工場内に作られた鍛冶スペースには、打ち合わせをする場所がある。

 普段はここで日用品の発注や、修理についての打ち合わせをする場所。

 そして。

 ユージやケビンからもたらされる、無理難題を聞く場所でもある。

 今日発注されたのは、レールの試作品。

 形はシンプルで、求められる強度もそれほどでもない。

 今日のオーダーはあっさりクリアできそうだ。



「……ってことだ。おう、おめえら見習いも作ってみろや」


「うっす」


「ええ? 俺もですか?」


「なんだ? 缶詰と日用品以外も作りてえって言ってたじゃねえか。やれ」


「はいはい、わかりました。……チッ、それ以外って武器のことを言ってんのに」


「ああん? なんか文句あんのか?」


 レール作りを申し付けられた見習いの一人は、明らかに不満げな様子であった。

 リーダーがピリッとするも、ほかの二人の取りなしでその場は収まる。

 いま、この時は。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「おう、湯沸かし器は成功だ。よくもあんな複雑な形をってケビンさんが驚いてたぜ。さすがだな」


「増産か?」


「ああ。全部で6つ。頼んだわ」


「了解」


 鍛冶師のリーダーともう一人の鍛冶師が、がっしりと握手を交わす。

 サンプルを提出してクライアントにプレゼンし、GOをもらった。

 仕事を成し遂げた男と男の握手である。


 一方で。


「どういうことだよ! 俺の()()()はケビンさんに見せないって!」


「ああん? あんなもん見せられるわけねえだろ」


「なんでだよ! ガッチリ硬い金属使ったのに!」


「はあ、マジでわかってねえのか……おい、あのレールを持ってこい」


「うっす」


 レールの試作を頼まれた鍛冶見習いの一人は憤っていた。

 湯沸かし器を試した翌日、試作品のレールを数メートルずつ敷いて、強度を試すことになっていた。

 だが鍛冶師と見習い二人が作った四つのレールのうち、一つは試さないと言われたのだ。

 それを聞いて、製造した鍛冶師見習いが不満を述べているのである。


「そうだ、作業台の上に置いてくれ。はみだしていいからよ」


「うっす」


「おい、なんでだって言ってたな。見てろ」


 鍛冶師のリーダーが、両手で持った槌を振りかぶる。

 歯を食いしばって、全力で振り下ろす。

 と、ガインッと大きな音を立てて、試作品のレールが折れた。


「ほれ見ろ。槌で叩いただけでコレだ。こんなもん見せるまでもねえ」


「そんな……だって、ここにある一番硬い金属で……」


「バカかおめえは。硬いからって強いわけじゃねえ。何度も言ったろ?」


 ポッキリと折れたレールを見て、鍛冶師見習いはうつむいていた。

 いまの自分にできる最硬のレール。

 それが、ただの一振りで折れた。

 根拠のないプライドも折れたようだ。


「金属の特性を知れ。硬けりゃいいってもんじゃねえ。粘りがなかったらあっさり折れる。アダマンタイトでさえ同じ。例外はオリハルコンだけだな。おめえ、武器を作りたかったんじゃねえのか? もしこれで剣でも作ってたらどうなった?」


「……その、俺は」


「はっきり言え。これが武器だったらどうなった?」


「折れて、ました」


「そうだな。何に使われたかわからねえが、折れてただろうよ。訓練ならまだいい。モンスターとの戦闘中だったら?」


「その、予備の、武器を」


「出せたらいいなあ。いいか、俺たちゃ鍛冶師だ。作った武器を持って戦うのは俺たちじゃねえ。俺たちの失敗で死ぬのは俺たちじゃねえんだ。学べ。考えろ。なんのために使うのか、何が求められてるのか。おめえが作ったレールは、ケビンさんとユージさんに見せられねえよ」


「……はい」


自分(てめえ)が作りたいもの作って、自分(てめえ)が使うんなら何も言わねえ。自慰みてえに好きなようにしてろ。だがな、俺たちの失敗で人が死ぬんだ。学べ、考えろ、鍛えろ。依頼主の希望通りに日用品も簡単な試作品も作れねえで、いい武器が作れるわけねえだろ」


「はい……」


 バッキバキである。

 二人の会話を聞いていたもう一人の鍛冶師も見習いも、何もそこまで言わなくても、とは思わなかったようだ。鍛冶仕事は体育会系らしい。ブラックではない。きっと。

 日用品や試作品を作れることと、いい武器を作れることの繫がりがないように思えるが、決してブラックではない。たぶん。


「おめえはまだ若い。いまから気持ちを入れ替えりゃまだ間に合う。この硬い素材を扱う腕はあったんだ。きっちり学べばいいものを作れるようになるだろうよ」


 先ほどまでとは違うソフトな声で、見習いを褒める鍛冶師のリーダー。

 いまにもヒザから崩れ落ちそうな見習いの肩をポン、と叩く。

 見習いは涙を流していた。

 飴と鞭である。

 ブラックではない。


「うし、設置も終わったし今日は飲むか。酒だ酒!」


「うっす!」


「取ってくる」


 イヤな雰囲気を振り払うように宣言する鍛冶師のリーダー。

 落ち込む見習いをその場に残して三人が散る。

 酒宴で落ち込んだ気分を盛り上げるつもりらしい。体育会系である。


 飲んで騒いでクダを巻いて、夢を語って。

 根拠のないプライドを抱えていた見習いは、一度叩き折られてすっかり真面目になったようだ。



 だが。

 ホウジョウ村の鍛冶師たちの苦難は続く。

 缶詰、湯沸かし器、レールに続いてユージとケビンから持ちかけられたのは、マルク用の防具だった。

 マルクの成人祝いである。

 斬撃にも刺突にも殴打にも強く、軽く、動きを阻害しない防具。

 無理難題である。

 通常であれば、自分たちが作る最高のものを提出して終わりだろう。

 だが、ホウジョウ村ではそれでは済まない。

 なにしろユージには半端な知識があるので。


「ハニカム構造ってヤツが衝撃に強いみたいです」

「硬くて粘りがある金属の割合って、こういうのがあるらしいんですけど……」

「硬いプラスチックなら軽いらしいんですよね」

「あのこれ、ウチにあったヤツで、地震対策で家具の下に敷くシートなんですけど、こういう感じで衝撃を吸収できませんかね」


 無茶ぶりである。

 そもそも元の世界の金属の配合を教えられたところで、金属自体がこの世界と同じものかどうかもわからない。

 ユージも掲示板住人も知識は提供できるが、この世界のものを分析はできないのだ。

 アップで撮ったところで金属の表面と断面を見るのがせいぜいである。

 炉の温度に限界はあるし、ゲルなど存在していない。スライムはいるけど。

 よくわからないけど口だけ出す。

 最悪なクライアントである。

 デスマーチまっしぐらである。


 だがそれでも。

 試行錯誤を繰り返し、使える知識だけを利用して。

 鍛冶師たちは、マルクの胸当てを完成させるのだった。


 ユージに食いついて有用な知識を引き出したのは、あの時ポッキリ折られた鍛冶師見習いであった。

 キレイに折られた分、立ち直りも早かったのかもしれない。


 ホウジョウ村の缶詰生産工場の一角にある小さな鍛冶場。

 木工職人のトマスと違って、鍛冶師たちには元の世界の技術は教えられなかった。

 それでもホウジョウ村の鍛冶師たちは腕を上げているようだ。

 ユージの無理難題と、ネットを通じてユージが提供する知識のおかげで。



次話、明日18時投稿予定です!

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