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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第三十二話 ユージ、引き継ぎ予定の村長と防衛団長の立候補を受ける


「おーい、ケビンさん! 荷車が到着したってよ!」


「ブレーズさん、お知らせありがとうございます」


「あ、ケビンさん、俺も迎えに行きますよ。マルクくんも帰ってきたんですよね?」


 ユージが不在にしていた村を見てまわった翌日。

 今日もケビンとうろうろしていたユージの元に、元3級冒険者で副村長のブレーズが知らせを持ってくる。

 プルミエの街とこのホウジョウ村を行き来している荷車が、村に到着したらしい。

 見聞を広めるために、ケビン商会預かりとなっていた犬人族のマルクとともに。


 ユージは副村長のブレーズとケビンとともに、ホウジョウ村の入り口に向かうのだった。



「布は針子の作業所へ、インゴットは缶詰生産工場に運んでください。それからこちらは……ああ、ケビン商会の店舗へお願いします」


「了解っすケビンさん!」


「やった、じゃあまた店が開くのね!」

「ちょっと、イヴォンヌにお金の使い方教わったでしょ。また買い物する気?」

「マ、マルクくんがあんなに凛々しく……ちょっとヤバいかも」

「あら、あの護衛さん死んだ夫にそっくり……独身かしら?」

「え、ああいうのが好み? 枯れ専ってヤツ?」

「元冒険者の人たちって力持ちなんですね!」

「そうよ、現役はアレだけど引退した冒険者はいい嫁ぎ先なの。狙っちゃう?」

「わ、私はまだ未成年なので……」


 ケビン商会の荷車は、何度も街と村を行き来している。

 それでもホウジョウ村の住人にとって、荷車の到着はニュースであるようだ。

 森の中の小さな村で、変わらない住人の顔ぶれを考えれば仕方ないことだろう。

 というかそもそも、布やインゴット、食材といった自分たちの仕事に関わる品も持ち込まれるのだ。

 ニュース以前に、荷下ろしに駆けつけるのも当然である。


 ケビン、あるいは商会の人間の指示を受けつつ、自分の仕事に使う荷物を受け取って運ぶ。

 女性陣も軽い物は手分けして運び、重い物は元冒険者たちにお願いする。

 荷車が到着するたびに起こるお祭りである。

 または独身で恋人がいない元冒険者や工員たちの力自慢アピール大会である。

 もしくは独身女性が意中の男に近づくきっかけを作る場である。


 ユージはちょっと離れた場所でアリスとコタローと、その様子を見守るのみ。

 ユージは針子でも工員でもない。

 荷下ろしの邪魔にならないようにという気遣いであった。

 元引きニートは、こうしてアピールの機会を逃しているようだ。


 だが、いつもと違って、今日はユージに近づく人物がいた。


「ユージさん! 無事に帰ってきました!」


 離れていた間にちょっと顔つきが変わっている。

 うれしそうにブンブンと振られる尻尾は変わらない。


「おかえりマルクくん。街はどうだった?」


「はい、今回もいろいろ勉強させてもらいました!」


「そっか。じゃあマルセルとニナさんにたくさん聞かせてあげてね」


「はい、もちろんです!」


 ユージの元奴隷で、いまは農業を仕切るリーダーとなった犬人族のマルセル、狩人で猫人族のニナ。

 その夫婦の息子で、犬人族のマルク。

 『強くなってみんなを守れるようになりたい』と言った二足歩行するゴールデンレトリバーのマルクは、いったん修行を終えてホウジョウ村に帰ってきたようだ。

 マルクは今度の秋の収穫祭で15才となって、成人と認められる。

 将来を家族と相談するため、家族と一緒に収穫祭を迎えるために、このタイミングで帰ってきたのだろう。

 だが、マルクは知らない。

 マルクが強くなる努力をしている間に、ユージもアリスもコタローもさらに強くなったことを。

 不憫な少年である。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 ホウジョウ村開拓地、ユージの家の門の前の広場。

 夕陽に照らされる広場に、ホウジョウ村の主要メンバーが集まっていた。

 

 切り株を加工したイスに座るのは、いまのところ村長で開拓団長で防衛団長で、文官の勉強をはじめたユージ。

 副村長のブレーズ、元3級冒険者で斥候のエンゾ、木工職人のトマス、針子のユルシェルとヴァレリー夫妻に鍛冶師やケビン、農業担当で犬人族のマルセルもいる。

 このあたりはいつものメンバーである。

 今日は、マルセルの息子で犬人族のマルクもいた。

 はじめてこの村で成人するマルクは、将来についての考えを相談するつもりのようだ。

 あとなぜかコタローもいる。

 オオカミと馬、鶏、ホウジョウ村の家畜担当なので。頼れるボスである。犬だけど。


「マルク、自分の将来のことだ。ユージさんたちには自分で言いなさい」


「はい、お父さん」


「あ、決まったのかな? マルクくん、それでどうするつもりなの?」


「ユージさん、ボクはケビンさんの厚意でプルミエの街に行って、いろいろ見てきました。冒険者としても登録しましたし、護衛として王都にも連れていってもらって」


「よかったじゃねえかマルク。村でも王都に行ったことあるヤツは少ないんだぜ? 護衛がいなきゃ道中危ねえからな」


「はい、ブレーズさん。いい経験をさせてもらいました。それでいろいろ勉強して、ケビン商会でジゼルさんにも相談して、どうしたいか決めたんです」


 ケビンが自由に動いている間、ケビン商会は妻のジゼルが取り仕切っている。内助の功というヤツである。

 いや。

 ジゼルは嬉々として、むしろ自らが表に出て衣料品を売りさばいていた。流行を作るんだ! とノリノリで。

 プルミエの街のケビン商会の店舗は、ケビンの影が薄くなって久しい。

 さすが王都でも名の知れた『ゲガス商会』の娘である。

 ケビン商会預かりとなっていたマルクは、自分の将来をジゼルにも相談していたようだ。


「それで? マルクくんはどうしたいの? 冒険者? それともケビン商会に就職する?」


「ユージさん。ボクは……やっぱり、この村で仕事しようと思ってます」


「そっか。マルセルもニナさんもいるしね! それで、なんの仕事をするつもりかな?」


 一時はプルミエの街で暮らしていたが、ホウジョウ村に戻って地元で就職する。

 そう聞いたユージは、キョロキョロと周囲の人間に目をやっていた。

 ここには鍛冶師や針子、農業など、村の主要産業の担当者が集まっていたので。

 元引きニートがトップの村だが、初めて成人する男の子は引きニートにならないようだ。朗報である。


「ユージさん、ボクは、この村の防衛団員になろうと思ってます。その、将来ここを守る部隊ができたら、そのままそこにいきたいと思って」


「ああ、いずれ防衛と治安維持に、いまの防衛団以上の組織を創るってなってたっけ」


「ユージさん……領主様たちに言われてたんだろ?」


「あは、あはは、その、先のことだからって。最近はそれどころじゃなかったしなあ……」


 ユージ、忘れていたようだ。

 呆れたようなブレーズの言葉に、ごまかし笑いを返すユージ。

 集まった面々は苦笑いを浮かべているが、いつものことである。この程度は予想の範疇だ。


「えっと、俺はそれでいいと思いますけど、でもいまの防衛団って、みんな兼務でやってるただの自警団で収入がないような……」


 ユージ、忘れていたわりに的確な言葉である。

 村長で防衛団長で文官の勉強をはじめたために、このあたりも成長したのかもしれない。


「あー、ユージさん、ちょっといいか? それに合わせて俺からもあってな」


「エンゾさん? ……っていうか大丈夫ですか? ずいぶんやつれてますけど」


「はは、これは気にしねえでくれユージさん! 幸せ痩せってヤツだな!」


 ユージとマルクの会話に割って入ったのは、元3級冒険者で斥候のエンゾ。

 もともと細マッチョだったエンゾだが、ここ最近は頬がげっそりこけている。

 心配したユージに、エンゾは目がギラついた笑顔で返していた。

 イヴォンヌちゃんの制服風衣装のせいである。

 励みすぎたエンゾの自業自得である。幸せ痩せなどという言葉はない。


「あの、それで?」


「ああ、ほれ、俺とニナさんはオオカミたちと一緒に周囲の見まわりやら狩りをしてたろ? ひとまずマルクもそれに組み込もうと思ってよ。見まわりを兼ねた採取と狩りを交代制で。三人いりゃ人を分けて遠出もできるようになるしな」


「そうですか、なら大丈夫ですね! じゃあエンゾさんに任せちゃっていいですか?」


「ユージさん、俺からもう一つあるんだわ」


「はあ、なんでしょう?」


「マルクと同じだ。いや、ちょっとちげえな。いずれ防衛団以上の、ここを守る組織ができたら……その隊長に立候補する」


「え? その、マジですかエンゾさん?」


「ああ。ほら、前にユージさんは村長と防衛団長を辞めるって話になったろ? その時から考えてたのよ」


 ユージはいま、村長と開拓団長と防衛団長を兼務している。

 だが、この村担当の文官になるにあたって、ユージは言われていたのだ。

 村長と防衛団長は、別に見つけたほうがいいと。

 文官は担当地から徴税することになる。村長とは利害が衝突することもあるだろう。

 規模の小さな村は自警団で充分だが、発展すれば治安維持と防衛のための組織が必要となる。

 文官とは別に、治安維持と防衛のための組織の長がいるのが、この国の一般的な形態であるようだ。

 ホウジョウ村が小規模のうちは文官と兼務でもいいと領主から言われていたが、引き継ぎ先を探すのはユージの課題となっていた。


「領主様は派遣してもいいとおっしゃってましたが、できればこの村の住人から出すほうがいいでしょう」


「ケビンさん?」


「どのような人物が来るかわかりません。でしたらそれよりは、この村をよく知る人間が、領主様の許可を得て役職を務めたほうがよいでしょう」


「そりゃそのほうが俺もありがたいですけど……知らない人より知ってる人のほうがいろいろ進めやすいですし」


「そういうこった。ってことでユージさん、俺は防衛団員と狩人をやって、ここを守る組織ができたらその長に立候補する。マルクを部下にしてな」


「エンゾさん。その、なんでですか? 『深緑の風』のリーダーはブレーズさんで、いえ、エンゾさんがどうこうってわけじゃないんですけど」


「はは、まあ当然の疑問だな。ユージさん、答えは単純だ。俺はよ……イヴォンヌちゃんの夫だからな! イヴォンヌちゃんの夫がただの村人ってのもな!」


 広場に沈黙が下りる。

 どうやらこの男、嫁のために長に立候補したらしい。バカか。いや、それだけ自分の嫁を評価しているのだろう。

 これも一種のプライドである。


「それに、ブレーズはブレーズの考えがあるんだってよ。まあみんな予想はしてただろうけどな」


「え? エンゾさん?」


 今度のエンゾの言葉は無視されず、参加者全員が頷いていた。

 ピンとこないユージを除いて、コタローさえも。

 全員の目がブレーズに集まる。


「嵌められた感はあるが、まあしょうがない。ユージさん。俺、副村長のブレーズは、村長に立候補する。ユージさんが予定通り文官になって、村長を辞める気ならな」


「あ、そういうことですか。村長がブレーズさんで、防衛組織の長がエンゾさん。それで、マルクくんが防衛組織の一員。うん、いいんじゃないですかね」


 ユージ、軽すぎか。

 広場に集っていた面々が苦笑を浮かべる。


「ユージさん、村長は問題ありませんが、新たな防衛組織の長には領主様の承認が必要ですよ。戦闘力や指揮能力を求められますから。公的なものではなく今の防衛団、自警のための組織なら自由ですけどね」


「そうなんですね。じゃあ村長のブレーズさんは決まりで、エンゾさんはとりあえず俺がやってた防衛団長を引き継ぐってことで」


 ケビンの説明を聞いても、あいかわらずユージは軽い。

 まあそれだけこの二人を信頼している証である。たぶん。


「はは、悩んでたのは俺たちだけみてえだな! まあそれだけ信じてもらってるってことにしとくか!」


「あいかわらずだなユージさん……ブレーズと違って俺は領主様の許可が必要だからよ。まあ秋までに集団戦の指揮を勉強しておくわ。あとイヴォンヌちゃんに教わって、もっと読み書きできるようになっとかなきゃな!」


「エンゾさん、私はプルミエの街に戻って、その後、王都に行くつもりです。部隊指揮の教本を探しておきましょう」


「おう、ありがとうケビンさん!」


「エンゾさん、これからよろしくお願いします」


「ああ、ユージさん。マルク、一緒に勉強すんぞ! ケビン商会にいたマルクのほうがいろいろわかってたりしてな!」


 あっさり決断したユージ。

 まあこれもこれまで村長で防衛団長として、ブレーズとエンゾ、マルクを見てきたからである。きっと。

 これは適当でも軽いのでもない、信頼されてるからだと言い聞かせ、ブレーズとエンゾ、マルク、ケビンは今後のことを話しはじめるのだった。


 ユージがこの世界に来てから6年目。

 この地の開拓をはじめ、さまざまな役職を兼務してきたユージ。

 ようやく、信頼できる人間と仕事を分担することにしたようだ。……これまでも実務はほぼ人任せだったが。

 まわりの人間を信頼していたので。そう、信頼していたので。



次話、明日18時投稿予定です!

明日は掲示板回の予定。

最初から「防衛団長」じゃなくて「自警団長」にしとけばもっとわかりやすく……

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いんだけどねー お約束?なんだろうけど、ユージがいつまでたっても簡単なことすら察せられないのは良い加減いらっとしちゃう。
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