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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第二十八話 ユージ、パワーレベリングを終えて帰路につく

※7月8日に前話を加筆・修正しています。

 話の流れは変わりませんが、周辺の地理について書き加えました。

 読まずとも今後に影響はありません。

 投稿後の大幅修正で申し訳ありません。


「ユージ兄、ほらほら!」


「おおー、すっかり日焼けしたなあアリス。水着の跡が残ってる」


 ユージたちが浜辺でパワーレベリングをはじめてから三日目。

 いまはケビンが立てたターフの影で、昼食後の食休みである。

 スクール水着の肩ひもをペロンとめくってユージに日焼けをアピールするアリス。

 もともと色白だったアリスの肌は、薄い小麦色に日焼けしていた。

 二日間続けて日なたでモンスター討伐をした影響である。


 アリスが見せつけてきた日焼け跡を、ユージは軽く流していた。

 ユージはロリコンではない。巨乳至上主義者である。


「アリスちゃん、コレを塗っておくといいそうですよ。海辺の村で教えてもらいました」


 午前中、ケビンは今日も近くにある海辺の村に行っていた。

 昨日食べた塩漬けの魚と干物がなかなか美味しかったようで、販売用に仕入れたらしい。

 訪れたケビンの肌を見て、村人は日焼け跡に塗るトロッとした液体を売りつけたようだ。

 ユージが元いた世界で言うところのアロエ的なアレだろう。


「わあ、なんだかひんやりする!」


 ケビンから受け取って、さっそくペタペタと腕に塗り付けるアリス。

 アリスの肌がてらてら光る。

 ユージ、女性に塗るベタなチャンスを逃したようだ。

 アリスは10才の少女で、ユージはロリコンではない。


「ユージさん、今日で切り上げて明日帰ろうか! モンスターの出が悪くなってきたからね!」


「あ、ハルさんもそう思いましたか。場所を変えて、とかしないんですか?」


「ほら、海をこの船で行くのはキツイし、かと言って違う場所を歩いて探すのも大変だからさ! 大丈夫、次の夏にはまたここで狩れるようになってるよ!」


「ユージさん、それにバスチアン様との約束もあります。そろそろいい頃合いでしょう」


「そうですね、わかりました。アリス、今日の午後で終わりだってさ」


「はーい! じゃあアリス、あとで違う魔法試す!」


「あ、うん、ほどほどにね?」


 位階を上げるためのモンスター討伐は、午後で終わり。

 それを聞いたアリスは、最後に試したい魔法があるらしい。

 ユージの頬はひくついていた。イヤな予感がしたようだ。


《なあなあ、私も位階が上がったってことだろ?》


《昨晩の痛みはそうだな。便乗したようで申し訳ないが》


《ユージはいいって言ってたぞーっ! 危ない世界だから、強いほうがいいからって!》


《ふむ、わかっているではないかユージ殿》


 うれしそうに笑うリザードマンを見て、ユージの頬がまたひくつく。

 リザードマンの笑顔は、口を持ち上げてキバをのぞかせるものだったので。

 ユージは爬虫類に萌えないタイプらしい。


「よし、じゃあはじめようか!」


「はーい! 最後だからアリスに任せてね!」


 ふんす、と鼻息荒いアリス。

 ガウッ! と吠えるコタローも気合いが入っているようだ。

 そして。

 ユージのイヤな予感は、当たるのだった。



「アリス? いまの魔法はなにかな?」


「あははっ! アリスちゃんの魔法はやっぱり面白い! これ、火の魔導書に付け加えておいたほうがよさそうだ!」


「あのねえ、アリス、お祖父ちゃんに教わった燃えない火の魔法がうまくできなかったの!」


「うん、知ってる。シャルルくんはうまかったね。それで?」


「だからねえ、燃やすんじゃなくて、水の中で爆発させたの! こうやって! えい、えい、えい!」


 アリスの掛け声とともに生まれた火の玉が海に向けて飛んでいく。

 海面に接しても消えることなく海中へ。

 しばらくすると、放たれた火の玉の数だけ水柱が立った。


「あは、あはは! ほらほらユージさん、魚が浮いてきてる!」


《なあなあ、あれ取ってきてもいいかーっ?》


《ちょっと待て。モンスターが寄ってくるかもしれん。後でな、後で》


「これは……アリスちゃんは水中の敵も問題なさそうですねえ」


 アリスの魔法に、観客は盛り上がっている。

 呆然としているのはユージだけだ。

 盛り上がる人間とリザードマンをその場に置いて、バウッ! とコタローが駆け出す。


 ()()()()()()()()

 コタローは、爆発のあおりをうけて荒れる海面を駆けていた。


「コ、コタロー?」


「おおっ! コタローは僕が使ってた風魔法を覚えたみたいだね! やるなあ!」


「……コタローさんですもんね、ええ。深く考えるのはやめましょう」


《うおお! 犬ってすごいんだなーっ! 私たちも飼おう!》


《我も初めて見た。犬とはすごいのだな》


 アリスの火魔法、コタローの風魔法。

 位階が上がった少女と犬は、目を疑う光景を作り出していた。

 ユージは口が開きっぱなしである。

 ハルの案内と指揮のもと、湿原と浜辺で繰り返したモンスター討伐。

 パワーレベリングの効果だろう。きっと。

 少女と犬の成長を感じて今日の討伐を終えて。

 明日から、ユージたちは帰路につくようだ。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「あっ! いたよユージ兄! お祖父ちゃんだ!」


「アリス、人がいる時はバスチアン様って呼ぼうな。ほら、バスチアン様は一人じゃないみたいだし」


「いやあ、擬装用の準備をしてきてよかったよ! ユージさん、漕ぐ必要はないからね!」


「あ、はい、ハルさん。大丈夫ですよ、リザードマンたちが押してくれてますから」


 ユージたちは浜辺を出て川を遡っていた。

 エルフの船に乗っているが、潜水はしていない。

 さも普通のボートのように水面の上で、ユージとハル、ケビンは木製のオールを手にしている。

 見た目は普通の手こぎボートだが、動力はハルの風魔法とリザードマンの泳ぎであった。


「まあ大丈夫でしょう。リザードマンはモンスターではなく、コミュニケーションを取れるのだと理解してもらうのにいいかもしれません」


「そっか、明らかに協力してもらってますもんね」


「はい。それからユージさん、リザードマンの言葉は話さないようにしておいてください。バスチアン様は、ユージさんが作った辞書で意思疎通するようですから」


「あ、はい、わかりました。《もうすぐバスチアン様と再会するって。俺は話さないほうがいいみたい》」


《了解したユージ殿。ただどうしてもわからなかった場合、助け舟をお願いしたい》


《え? わかったけど……まあ揉めなければ大丈夫じゃないかなあ》


《もうすぐ別の部族と会えるのか! 楽しみだーっ!》


 バスチアンの領地に、マレカージュ湿原で暮らすリザードマンとは別の群れがいる。

 リザードマンがモンスターではないことを知ったバスチアンは、不幸な事故を避けるために協力してほしいとユージたちに頼んでいた。

 モンスター素材の提供、スライムの討伐の報酬として、知り合ったリザードマンたちに来てもらい、バスチアンの領地のリザードマンと話をつけることになっていたのだ。

 そしてユージたちを乗せた船は、陸地で待つバスチアンたちのもとにたどり着く。


「1級冒険者のハル殿と協力者の方々。大儀であった」


「異種族である我らエルフを遇してくださるバスチアン様の頼みとあれば。こちらにリザードマンのお二方をお連れしました」


「うむ、ハル殿に心からの感謝を。それからリザードマンたちよ、儂がこの地を治めるバスチアンじゃ。協力に感謝しよう。しゅー」


 バスチアンは1級冒険者のハルに依頼して、リザードマンと交流を図った。

 ハルはエルフの伝手を使って見事にその依頼を達成、バスチアンのもとに協力者のリザードマンを連れてきた。

 そういう設定になったらしい。

 一番の功労者のユージが、表に出ることを嫌ったので。

 報酬は支払われるが、ユージの功績は隠されるようだ。


《ニンゲン、いまいちマネがうまくないなーっ! 挨拶はこうだぞーっ! シュー!》


《黙っておれ。示された文字は……やはり挨拶か。こんにちは》


 バスチアンの言葉ではなく、同行していた執事が指さすユージ作の辞書の単語を見て挨拶を交わすリザードマン。

 バスチアンに同行していた護衛や役人らしき者が、おおっ! とどよめく。


 二足歩行するトカゲ。

 これまでモンスターと思っていた彼らに、実は知性がある。

 バスチアンから聞いてはいたが、それが真実だと理解したのだろう。

 ちなみに、アリスの兄でバスチアンの孫のシャルルはいない。

 シャルルは王都に戻るべく、すでにバスチアンの領地を離れていた。


「儂の領地ではあるが、リザードマンが棲んでいるのは人も入れぬ湿地。取り決めさえすれば、儂らは共存できよう。なにしろ儂の領地の湿地と海にモンスターが少ないのは、リザードマンたちのおかげであるのだろうから」


「そっか、このあたりの海は比較的安全って、それで……」


「そういうことでしょう。他の領地より水棲モンスターは少なく、彼らは水辺の行動を苦にしないのですから」


 ユージとケビンが小声で言葉を交わして、チラッと二体のリザードマンに目を向ける。

 湿原も川も、一緒に行った海も。

 大人のリザードマンも、エメラルドグリーンの子供リザードマンさえ、水辺も水中も苦労した様子はなかった。

 漁業、製塩業が盛んなバスチアンの領地。

 リザードマンの群れの存在は、実は生命線であったようだ。


《彼らの要望は少ないだろう。住処さえ脅かされなければ問題ないはずだ。約束通り、報酬として我が協力しよう》


《初めての他の群れ! 楽しみだなーっ!》


 おたがいにユージ作の辞書の単語を指差してのコミュニケーション。

 簡単な単語を指さしながらのそれは、たどたどしくもどかしいもの。

 だが、バスチアンはユージの手助けを求めない。

 ユージが稀人であることを隠したいのもあるが、製塩業は領地の大事な産業なのだ。

 これからも代を重ねて続くはずであり、リザードマンが存在して水棲モンスターが少ないことは生命線。

 ユージ一人に頼ったら、いなくなって問題が起きたら対処できない。

 バスチアンはそれを理解しているのだろう。


「では、案内を頼む。ハル殿、これでそなたへの依頼は達成としよう」


「かしこまりました。バスチアン様、また何かあればお声がけください」


「うむ。ではゆくぞ!」


《ニンゲン、エルフ、またなーっ! 魔法を鍛えて、今度は負けないからなーっ!》


《ユージ殿、我らはここでお別れだ。困ったら、あるいは問題が起こったら連絡しよう》


 ユージたちに背を向けて歩き出すバスチアンと執事、そのお供たち。

 二体のリザードマンは、ユージたちに別れの挨拶を送る。

 バスチアンたちがさっさと歩いて距離を空けていくのは、ユージたちとリザードマンに挨拶を交わさせようという心遣いなのだろう。


《わかりました。バスチアン様は信頼できますけど、気をつけてくださいね!》


《ふふ、大丈夫だ。我らとこの地の部族には交流がある。何かあっても湿原に逃げ込めば、ニンゲンには手出しできんよ》


《はあ、やっぱりついていこうかなあ。さっきもちょっとした会話に時間かかったし》


《ユージ殿、気持ちだけいただいておこう。これはこの地に住むリザードマンとニンゲンの問題なのだ。ユージ殿のおかげで、文字で意思疎通ができるようになった。ならばあとは当人たち同士の問題よ》


《そういうもんですか……》


《うむ。橋渡しはするが、我らの部族も深入りする気はないからな。ではユージ殿、また会おう》


《あ、はい、また》


《じゃあなーっ、おもしろいニンゲン!》


「アリス、また会いに行くね! ばいばーい!」


「ユージさん、ボクらの分もさよならって伝えておいてね! さあ、行こうか!」


 バスチアンたちについていくのは二体のリザードマンのみ。

 言葉が通じないなりに、別れの言葉をかけられたことはわかったのだろう。

 アリスはブンブンと手を振っていた。

 ワンッ! と大きく吠えて、コタローも。



 ユージ、アリス、コタロー、ケビン、ハル。

 四人と一匹になった船がゆっくりと動き出す。

 旅の仲間と別れて、帰り道に。

 パワーレベリングの旅を終えて、ユージたちはホウジョウ村への帰途につくのだった。



※7月8日に前話を加筆・修正しています。

 読まずとも影響はありませんが、もしお時間があれば。

 急な私事により投稿後の大幅修正となりました。

 申し訳ありません。


書き溜め、二巻目発売日前〜当日の複数回更新で使い切ったせいです……

溜めとかなきゃ!


次話、明日18時投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] リザードマンがかわいいです♪ メスの子どもリザードマンのおめめはきっとキラッキラ コミックでここを描いてくれるのか分からないけど、見てみたいです。コミックでコタローの可愛さにおちてWEB…
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