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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第二十六話 ユージ、アリスと一緒に海辺でパワーレベリングされる


《おおおおお! おっきい池だーっ!》


「俺はひさしぶり……あ、もう15年ぐらい経つのか」


「ふふ、私もひさしぶりです。ゲガス商会に勤めていた頃はたまに来たものですけどね」


「うわあ、うわあ! ユージ兄! アリス、()は初めて!」


「ボクはたまに来るよ! 海がらみの依頼は難易度が高いらしくてね、ときどき頼まれるんだ」


 シャルルとバスチアンと別れたユージは、ハルの案内で旅を続けていた。

 別れた場所から半日。

 エルフの船で川を下って、ユージたちがたどり着いたのは小さな浜辺だった。


 船を下りたユージたちのテンションは高い。

 アリスとエメラルドグリーンの鱗を持つ小さなリザードマンは、海を見るのが初めて。

 ハルを除けば、ユージもケビンももう一体のリザードマンも、海に来るのはひさしぶりなようだ。

 そして。

 ワンワンワン! と、コタローは浜辺を駆けまわっていた。

 波打ち際に近づいては後ずさり、近づいては飛び退()いている。

 これ、これがうみで、これがなみね、はじめてみるわ! とばかりにテンション高く。

 コタローも海を見るのは初めてだった。

 何しろユージの家は宇都宮にあったので。栃木に海はない。



「ユージさん、着替え終わった?」


「終わりましたけど……ハルさん、これからモンスター討伐ですよね? いいんですかコレ?」


「大丈夫大丈夫! それにほら、濡れちゃうかもしれないしさ!」


「ほうほう、これが異世界の水着ですか……ユージさん、ちょっと触らせてもらってもいいですかね?」


「あ、ちょっ、やめてくださいケビンさん。今度、今度着てない時に貸しますから!」


 季節は夏。

 白い砂浜、穏やかな海。

 到着後の休憩を終えて、ユージたちが談笑している。


 ハルはエルフの里のブールで着ていた水着。トランクス型の薄手の水着である。

 エルフの里で手に入れたのか、ケビンも同じタイプの水着をはいている。

 ユージがはいているのも、形としては同じトランクス型。

 だが、ユージの水着は独特の生地でぴっちりしていた。

 スクール水着である。男性用の。


 20才から10年引きこもっていたユージ、遊び用の水着は持っていなかったようだ。

 生地が珍しいのだろう、ケビンがユージの水着に手を伸ばす。

 ユージは慌ててケビンから離れていた。

 なにしろ男性用のスクール水着に、男が触ってもいい場所などないので。


《これが海かーっ! あったかくて冷たくて気持ちいいな!》


《うむ、これが良いのだ。あとはモンスターさえいなければな》


 準備を終えたのは三人の男性陣だけではない。

 二体のリザードマンはすでに波打ち際をウロウロしていた。

 二足歩行できるのに、腹這いで。

 砂の熱さを体で感じて、海水で体を冷やす。

 冷えたらまた砂と太陽の熱を楽しむ。

 海イグアナか。

 ちなみに成人しているオスのリザードマンも、風魔法が使えるまだ子供のメスのリザードマンも全裸であった。

 というか彼らはもともと全裸である。

 そこにおっぱいはない。二足歩行するトカゲなので。


「ユージ兄、お待たせー!」


 四人の人間とエルフの中でただ一人の女性、アリスが支度を終えてタッタッタッとユージに走り寄る。

 アリスもとうぜん水着姿。

 アリスは、紺色のワンピース型水着を着ていた。

 胸には文字が書かれた白い布。

 そこには、堂々と書かれていた。

 『6-2 北条さくら』と。

 スクール水着である。


「よかった、ぴったりみたいだね、アリス」


「うん! でもぴったりしててちょっと動きづらいなあ」


「うーん、サクラが小学生だった時よりアリスのほうが大きいのかなー。それにしても、出発前に水着を用意しておいてって言われた時は何かとおもいましたけど……」


「ふふ、場所はナイショにしておこうと思ってね! ケビンさんの分はボクが用意したものだし!」


「あ、そうだったんですね。なんだ、俺だけ知らなかったのかと思いましたよ」


「……それもおもしろいかもね! ところでユージさん、アリスちゃんが着てるのが()()()()()()かな?」


「ハルさん、なんで知って……あ、いいです、聞かなくてもわかりました」


 ユージは、アリスの水着を『スクール水着』だと看破したハルへの質問を途中で止めた。

 テッサくんだもん仕方ないよね、である。

 過去の稀人は、ちゃんと現代知識で無双してチーレムして異文化SUGEEEしていたようだ。

 実現できなかったことも多かったが、その知識の一部はいまも残されていた。


「それでハルさん、これからどうするんですか? 泳ぐんですか?」


「なに言ってるのユージさん! もちろんモンスター退治で()()()()()()()()だよ!」


「あ、やるんですね。……え、水着で?」


 ユージの呟きはスルーである。

 返事をする者はいなかったが、返事をする犬はいた。

 バウバウバウッとご機嫌そうに。ゆーじ、うみよ、みずぎかいよ、とばかりに。いや、さすがに気のせいだろう。コタローが水着回を理解しているはずがない。そもそもコタローは常に全裸である。


 おっさん二人、エルフ一人、オスのリザードマンが一体。

 10才の少女が一人、メスの子供リザードマンが一体、犬が一匹。

 誰得な水着回である。

 とりあえず、肌色は多い。何しろ半分弱は水着を着てない全裸なので。毛皮と鱗を『肌色』と言うのなら、だが。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ユージさん、アリスちゃん、次行くよー!」


「はーい! アリス、火魔法の準備はできてるよ!」


「ハルさん……忍者かな?」


 白い浜辺で大盾と短槍を構えて立つユージ。

 身につけているのは水着と靴だけ。変態である。


 ユージたちがたどり着いた浜辺では、モンスター討伐がはじまっていた。

 『濡れちゃうし、ほら、危ないヤツが出たらボクに任せればいいから!』というハルの言葉に従って、全員水着か全裸のままで。


 ユージの後ろではアリスが手を前に出して、すでに火魔法を発動させている。

 モンスターが陸に上がってきたら、すぐに火の玉を放てるように。

 アリスはキッと凛々しい顔で海を見つめているが、アリスもスクール水着と靴だけを履いた姿である。まあアリスの場合は遠距離で戦うので、ユージほど危険はない。


 ズザッと浜辺に着地するハル。

 先ほどまでハルは、波間を飛びまわっていたのだ。

 風魔法で自分を軽くして地面を跳ねまわる応用だよ、波は上に突きあげる力もあるしね、などと言って。

 ユージはただ首を傾げるのみ。

 理解できなかったあたり、ユージも元の世界の常識が残っているのだろう。


《あはは、エルフはすごいなーっ! 私もやるぞーっ!》


《落ち着け。あれは風魔法を使っているそうだ……む、ならばいけるのか?》


《私も風魔法を使えるからなーっ! えいっ!》


 ハルの魔法に触発されて、風魔法を使って海に跳ぶ小さなリザードマン。

 そのままバシャンッと海中に落ちる。

 ハルのようにはいかなかったようだ。

 まあ海中での行動を苦にしないため、すぐに浜辺に戻ってカラカラと笑っていたが。


 浜に戻ったリザードマンを追いかけるようにモンスターが現れる。

 その姿を見て、ユージは目を丸くしていた。


「ウソだろ、いきなりこんな大物……だ、大丈夫かなアリス?」


 現れたのは巨大なモンスター。

 クネクネと足を動かして浜辺に上陸してきたそれは、ぬめった白い体をてかてかと輝かせている。


「クラーケン……ユージさん、下がってください! ハルさん、対応をお願いします!」


「ユージ兄もケビンおじちゃんも大丈夫だよ! アリス、位階が上がってるんだから! うねうねして気持ち悪いヤツだって楽勝だもん! てい、てい、ていー!」


 慌てるケビンを無視して、ぶんぶんと両手を振りまわすアリス。

 かわいらしいアクションだが、手が振り下ろされるたびに炎の矢がクラーケンに飛んでいる。

 矢の幾つかはクラーケンの足に、いくつかは足をすり抜けてクラーケンの胴体に。

 そして。

 刺さった炎の矢が、()()()()


 矢が当たった足は千切れ、胴には巨大な穴が空き。

 クラーケンの体が倒れる。


「アリスちゃん、コイツはしぶといからね! もう一回魔法を!」


「はーい! これなら外さないから、アリスあれやるね! 『万物に宿りし魔素よ。炎神姫の血脈、アリスが命ずる。魔素よ、炎となりて敵を討て。火は(くれない)に、火は(あけ)に。破壊の王が求めるままに、すべてを壊す球と成れ。炎球(フレイム・ボール)』」


 指にはめた火紅玉の指輪が煌めき、アリスの目の前に20センチほどの小さな炎の球が生まれた。

 煌煌と輝くそれは、ワイバーンを一撃で倒した炎の球。

 堅いモンスター、でかいモンスター用にとエルフが教えた魔法である。

 炎の球はゆっくりと飛んでいき、倒れたクラーケンの胴体へ。

 やがて。

 ビチャッと湿った音を立て、クラーケンの体が破裂した。


「きたねえはなびだっ!」


「アリス、その言葉は言わなくていいからね。たしかに汚い花火だったけど」


 クラーケンはワイバーンより柔らかかったのか、あるいはアリスの魔法の威力が上がったのか。

 クラーケンの肉片と内臓が千切れ飛んで、浜にも海にも降り注いでいた。

 汚い花火である。

 水着でよかったのは間違いない。


「はは、ははは。クラーケン。船で出会っても海辺の村で出会っても、絶望の象徴なんですけどねえ……こんなあっさり……」


「あ、やっぱり雑魚じゃなかったんだ。そりゃそうですよね、あんなでかいモンスター」


《むう、すごいなニンゲン! 私だってそれぐらいできるようになってやるーっ!》


「よし、じゃあ次はユージさん用に小さいヤツを探すかな! あんなヤツに接近戦はしんどいからねー」


 アリスの魔法であっさり倒していたが、本来クラーケンは強敵であるようだ。

 まあでかいだけのモンスターなど、いまのアリスにとってはただの的にすぎない。

 むしろ素早いモンスターのほうが相性は悪いことだろう。

 そのあたりを勘案して、ハルはアリスと相性がいい水辺、続けてこの浜辺を選んだようだ。

 水陸両用で活動できるタイプでも、陸上は素早く動けるモンスターは少ないので。


 そのハルはふたたび波間を跳びまわっている。

 今度はユージと相性のいいモンスターを探して。

 アリス用、ときどきユージ用。

 モンスターを海からプルして、ハルによるパワーレベリングは続いていく。


 ちなみに。

 コタローは戦闘に参加せず、じっと波間を跳びまわるハルを見つめていた。

 まるで、ハルが使っている風魔法を見取り稽古しているかのように。

 風魔法を使える犬が、水上を走る日も近いのかもしれない。犬とは何か。



 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

 位階を上げて寿命を延ばし、エルフの少女・リーゼと長い時を過ごせるように。

 ユージとアリスの戦いは続くのであった。

 付随して、二人の身体能力と魔法の威力も上がっていきながら。



次話、明日18時投稿予定です!

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― 新着の感想 ―
[良い点] そのうちコタローが水上走りしそう [一言] にんけん、にんけんよ!
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