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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第十三話 ユージ、ぼーっとしながらホウジョウ村をうろつく

『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら ①〈下〉』、今日が公式発売日!

ということで、本日更新一回目です!


 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。


 家の縁側に、庭の桜の木をぼんやりと眺めるユージの姿があった。

 寄り添うように縁側におすわりしているのは愛犬・コタロー。

 今日はひさしぶりに他の人の姿はない。


 一昨日はエルフの長老たちから、昨日はこの世界の研究者から話を聞いたユージ。

 観測した結果、ライフラインやネットを繋いでいるらしいユージの家の謎バリア。

 魔素からできたそれは、電気・ガス・水道を使う、攻撃を防ぐ、修復をするたびに魔素が減っていた。

 『魔素が見える』魔眼持ちのシャルルいわく、いまでは門の前、上部に小さな穴が空いているのだという。


 エルフもこの世界の研究者も、一様に『魔素を補充する手段はない』という。

 それどころか過去の稀人・テッサの話を聞いて別世界との往還方法を探っている研究者は、現段階では『還る方法がわからない』とも。


 ユージは、還ることを強く望んでいたわけではない。

 それでも。

 立て続けに得られた情報は、ユージの心に棘を打ち込んだのだった。


「ふう。葉桜がキレイだなあ。こうしてるといろいろ思い出すな、コタロー」


 縁側に並んで腰掛けたコタローの背をゆっくり撫でるユージ。

 応えるようにコタローがワフッと鳴く。そうね、ゆーじ、とばかりに。

 ユージがこの世界に来てから、コタローとはずっと一緒に歩んできた。

 というかユージが元の世界にいた頃、家の敷地から出ない引きニートだった頃からずっと。


 ユージとコタローは、いまや20年来の付き合いである。

 モンスターや生き物を殺すと位階が上がって身体能力が上がり、寿命も延びる。

 ひょっとしたら、その恩恵を最も受けているのはコタローかもしれない。

 なにしろコタローは20才。

 本来なら寿命を迎えていてもおかしくないので。


 ところで、いまは夏である。

 ユージ、庭に一本だけ植えられた桜の木を見てカッコつけたようだが、うっそうと茂った桜の葉は『葉桜』ではない。

 葉桜とは桜の花が終わって、新緑の葉が芽生える頃の桜を言うのだ。

 いや。

 ユージはきっと、葉桜が夏の季語だと知っていたのだろう。きっと。

 まあ旧暦と季節を合わせているので、これもじゃっかんズレているのだが。


「還れない、かあ。それに、いつか電気もガスも水道もネットも繋がらなくなる。どう思う、コタロー?」


 犬に話しかける35才男性。末期である。

 コタローは困ったように首を傾げていた。わたしにいわれてもこまるわ、しゃべれないもの、とばかりに。

 ユージから庭へと視線を移したコタローが、縁側から庭に飛び降りる。


「え? コタロー?」


 コタローはすたすたと庭を横切って、門のほうへ。

 ユージを振り返ったコタローは、ほら、そこでうだうだしてないでそとにいきましょ、もうひきにーとじゃないんだから、とでも言っているかのようだった。賢い女である。犬だけど。


「散歩に行きたいのかな? ちょっと待っててね」


 コタローの思いはユージに通じなかったらしい。

 コタローは賢い女だが、しゃべれないので。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「ああっ、ユージ兄だ! コタローもいる!」


「おう、ユージさん。用事はもういいのか?」


「アリス、ブレーズさんも。はい、ひとまず片付きましたから」


 コタローの先導でホウジョウ村を歩くユージ。

 ユージに声をかけてきたのは、アリスと副村長で元3級冒険者のブレーズだった。


「二人は何してるんですか?」


「ああ、トマスに頼まれてな。家を建てるってんで、下準備をしに来たところよ」


「アリス、土魔法でお手伝いするんだよ! アリスがいると木を深く差し込めるから頑丈なんだって!」


「そっか、ローレンさんが移住してくるから」


 この世界から別の世界へと往還する方法を研究しているローレン。

 稀人のユージと、元の世界から丸ごと移ってきた家を知って、あっさりと王都からホウジョウ村への移住を決めた。

 エルフのスポンサー・ハルの資金提供で、さっそく家の建設がはじまるらしい。

 現役の1級冒険者ともなれば、多少の無茶を叶える金銭的余裕があるようだ。


「ああ。貴重な本も多いらしくて共同住宅はマズいだろうって話になってな。しばらくはハルさんの別宅で、専用の家を建てるんだと」


「そうですか……共同住宅ももういっぱいですもんね」


「まあな。だがほれ、この前の秋までと違ってトマスたちの手が空いたろ? 木材も運べるようになったし、これからはどんどん家を建てるってよ」


 木工職人のトマスとその弟子二人。

 去年の秋までは、缶詰生産工場と針子の作業所の拡張で忙しく動きまわっていた。

 缶詰と衣料品の生産はホウジョウ村の主要産業。

 木工職人のトマスに優先してもらうのも当然である。

 完成した今は、共同住宅から世帯ごとの家に移れるように建設ラッシュらしい。


「第三次開拓団も入れて……40人ちょっとですか。人も増えましたからねえ」


 遠い目をするユージ。

 ユージが家ごとこの地に来たのは5年ちょっと前のこと。

 その時は、ただ森の中にポツンと家があるだけだった。

 いまや開拓は進み、開拓地は名前だけではなく『村』と呼べる規模になっている。

 40人ちょっとと口にしたところで、コタローがカプリとユージの服のすそを噛んで首を動かす。

 ちょっと、わたしと、こぶんたちのことをわすれてるでしょ、と言うかのように。

 コタローも配下の15匹のオオカミたちも、開拓民のつもりらしい。


「はは、他人事だなユージさん。だが誇っていいんだぜ? この開拓団の団長はユージさんで、村長もユージさんだからな」


 第一次開拓団として、まだユージの家と獣人一家のテントと小さな畑しかなかった頃に移住してきた元3級冒険者のブレーズ。

 副村長としてこの地をまとめる男が、ユージの肩にポンと手を置く。


「そんな、俺なんて何も」


「はは、そいつは謙遜しすぎだ。ユージさんは金を稼ぐ商品を考えた。そりゃ俺らも戦ったけどよ、防衛団長としてゴブリンやオーク、ワイバーンも撃退した。それに水路ができるまではユージさんがいたから暮らしていけたんだぜ?」


 ポンポンとユージの肩を叩くブレーズ。

 防衛戦力としては元冒険者たちがいたが、たしかに村として金を稼ぐ手段、初期の水場の供給はユージがいてこそである。

 掲示板住人の協力や家の謎機能を利用していたが、ユージがいてこそである。


「そう……ですね、うん」


 ブレーズの言葉に一つ頷いて、ユージはゆっくりと周囲を見渡す。


 4棟となった共同住宅、夫婦や家族が住む住居、建築中の家。

 槌音が響く缶詰生産工場、女性陣の華やかな笑い声が漏れる針子の作業所。

 ホウジョウ村を流れる水路、広がった畑。

 村の中央を走る道の奥には、うっすらと木の柵が見える。


 5年ちょっと前には、ただの森だった場所。

 そこはいまや、41人が暮らす『ホウジョウ村』となっていた。


「ユージ兄! ほら、すごいでしょ! アリスえいって魔法で土をへこませたんだよ!」


 感慨にふけるユージの耳にアリスの声が届く。

 魔法少女は、今日もホウジョウ村で活躍しているようだ。


「ああ! アリスはすごいなあ!」


 駆け寄ってきたアリスの頭をわっしゃわっしゃと撫でるユージ。

 アリスはきゃーきゃー言いながら、満更でもなさそうに笑っている。


「ユージ兄、どうしたの? いいことあった?」


「そうだねアリス! ブレーズさん、ありがとうございました!」


「うん? おう、よくわからねえけどスッキリしたんならそれでいい。おっし、ありがとなアリスちゃん。じゃあトマスを呼んでくるか!」


 アリスと手を繋ぎ、ブレーズと別れてユージは歩き出す。

 不安を抱えながら、それでもこれまでの実績に胸を張って。



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



 夕方、各々が今日の作業を終えたホウジョウ村開拓地。

 ユージの家の前の小さな広場に、今日も何人かが集まっていた。

 招集をかけたのはユージ。

 呼ばれたのは、ケビンとハルである。

 当然のようにアリスとコタローもいるが、それはいつものこと。


「それでどうしたのユージさん? また長老たちを呼ぶ?」


「ああいえ、それはもういいんです。ハルさん、コレをイザベルさんか、この前来た長老の誰かに返しておいてください」


 そう言ってユージが差し出したのは、拳大の黒い石。

 エルフの長老から預かった結界石である。


「うん? わかった、明日にでも渡しに行くよ! 伝言はあるかな?」


「じゃあ、使いません、とだけ」


「了解!」


 稀人のテッサが土魔法で創り出した結界石は、害意ある者の侵入や攻撃を阻む。

 いわばユージの家の謎バリアの劣化板である。

 だがユージは使わないことにしたらしい。


「たぶん還れない。家で自由に使えた水も火も明かりも、自由に使えなくなるかもしれない。それに、元の世界との連絡も取れなくなるかもしれない」


「ユージにい……」


「でも、いいんです。そりゃいまと比べたら不便になるかもしれないですけど……ここはホウジョウ村開拓地で、俺は開拓団長で村長ですから。まあもうすぐ誰かに引き継いでもらって、文官になるんですけどね!」


「ユージさん……強く、なりましたね」


「そうですよケビンさん! 俺、これでも5級冒険者ですから!」


 ぐっとヒジを曲げて力こぶをアピールするユージ。

 10年引きこもっていた男は、5年ちょっとの開拓暮らしでたくましくなっていた。

 少なくとも、肉体的には確実に。


「それに……ウチだけが安全でもしょうがないんです。マルセルたち獣人一家もブレーズさんたちも、トマスさんも針子のみなさんも、鍛冶師も工員のみなさんも。みんな、ここに移住してきてくれたんですから。ちゃんとみんなを守れるようになりたい」


「ふふ、言いますねユージさん」


「ユージ兄! アリス、アリスもみんなを守る! 魔法でバーンってモンスターを()るんだよ!」


「よし、よく言ったねユージさん、アリスちゃん! じゃあ今度、約束してた()()()()()()()()に行こうか!」


「やったあ! アリス、位階を上げて長生きして、リーゼちゃんと遊ぶんだ!」


「ハルさん……よろしくお願いします!」


 家の前の広場に、アリスとユージの声が響く。

 ワンワンワンッ! と興奮した様子のコタローの鳴き声も。わたし、わたしもわすれないでね! と言いたいようだ。自己アピール激しめの女である。



 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

 それは、ユージにとって一つの節目になるのだった。

 いや。

 秋に予定されている文官の仕事始めも含めて、6年目自体が一つの節目になるのかもしれない。


次話、本日25日12時投稿予定です!


いよいよ『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら ①〈下〉』の公式発売日!

今日は7時、12時、18時の三回更新です!

……昼間はどこぞの本屋に見に行く予定。


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― 新着の感想 ―
ここから本当に主人公チートになるのか まあ稀人って言っても寺院だか教会の人間達みたいに特に何もなく生きてくパターンもあるからユージも普通に代官して終わるパターンも
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