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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第十二話 ユージ、異世界の研究者から話を聞く

6/25『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら ①〈下〉』発売記念の複数回更新!

本日24日分、二話目です。


「ふむ、なるほど。ユージ殿がこちらに来た経緯はわかった。この家の本来の機能と、こちらの世界に来てから追加された機能も」


 ユージの家のリビング。

 そこには、王都からやってきたこの世界の研究者・ローレンの姿があった。

 ユージは押し切られる形で家の中に案内したらしい。


「そうなんです。それで、謎バリアに穴が空いた原因を探って、なんとか対策をとれないかっていうのもいま考えてまして……」


 押し切られたというより、ローレンに元いた世界の家の話を伝え、現状の『謎バリアの魔素に穴が空いた』という問題を解決するヒントがないか知りたかったようだ。

 もちろん元の世界に還る方法も。


 リビングにいるのは二人のほかにアリスとコタロー、アリスの兄のシャルル、アリスの祖父で貴族のバスチアン、エルフの1級冒険者でローレンの研究のスポンサーであるハル。

 ダイニングからもイスを持ち出して、6人と一匹が集まっていた。


「ううむ、なかなかに難しい。まずユージ殿。この世界のあらゆるものには魔素が宿っている」


「あ、はい、それは聞きました」


「だが、シャルルくんが言うにはこの家の家具や物品には魔素がないのだという。まあそれは後で私も調べるとして、いまはそれを事実と仮定して話をしよう」


「はあ……」


 ユージ、あいまいな返事である。

 コイツちょっとめんどくせえな、と思ったわけではあるまい。きっと。


「となると、ユージ殿が元いた世界には魔素が存在しない可能性が考えられる。謎ばりあと言っていたが、元の世界では存在しなかったし、それは魔素でできているのだろう?」


「はい」


「私は、いや、私の師匠もその師匠も、ずっと別の世界に行く方法を探していた。稀人が別の世界から来たのであれば、私たちが別の世界に行く方法もあるはずだ。あるいは望むがままに、稀人をこちらの世界に呼び込む(すべ)も」


「はあ、ハルさんから聞いてます。テッサの話を聞いた人が研究をはじめたのが最初だって」


「うむ。だがそう、別の世界には魔素が存在しない……文明はこちらよりも発達しているが、こちらの世界が観測されていない……ユージ殿。これは仮説も仮説だが、おそらく」


「おそらく?」


「ユージ殿、ああいや、ユージ殿に限らず稀人がこの世界に来たのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……はい?」


「ユージ殿が元いた世界には魔素が存在しない。とすると魔法も存在しないだろう。魔法は魔素があってこそ成り立つのだから。また、たがいにそれぞれの世界は観測されていない」


「はあ、たぶんそうです」


「では。では、どうやって別の世界に行くのだ? 行き先は不明、科学とやらでも方法は確立されていない。というか観測できていない以上、向かう場所もわからないのだ。魔法の介在なしにそんなことが可能なのか? あるいは超越的な存在によるものか? 宗教上の神はいるが、超越的な存在はこの世界では実証されていない。ユージ殿の世界もだろう? では最も可能性が高いのは、こちらの世界の魔法、あるいは魔素を起因とするなんらかの理由だろう」


「えっと……つまり、どういうことですか? 何が言いたいのかよく……」


「ユージ殿が家ごとこの世界に来て、家の敷地が魔素に包まれた、ではない。なんらかの理由によりこの場所の魔素の濃度が増して、内側にユージ殿の家が呼び込まれた。これが私の意見だ。まだなんの裏付けもなく、仮説とも呼べない仮説だがね」


「え?」


「だが、こう考えればいくつか残っている事例にも合致するのだ。田舎の道を歩いていて突然この世界の森の中に現れたテッサ様。別の世界の森にいたはずが、こちらも森の中に現れたキース様。山の中に現れた寺院と稀人たち。ユージ殿から見ても、この世界に来た稀人の共通点はないのだろう?」


「あ、はい、たぶんないと思います。消えた瞬間を誰も見てないとか、そういうのはありますけど、でもこれといって共通点は見つかってないです」


「うむ。だが、こちらに現れた時はいずれも()()()()()()に現れている。過去、稀人が街中や道の上、農地など、人里に現れたという話はない」


「はあ……」


「魔素は人里ではなく、自然が色濃い場所に溜まる。ゆえに稀人が現れるのはこの世界の森の奥深く、あるいは山の中。そうは考えられないかね? もちろんさっきから言ってるようになんの裏付けもない説だ。実証するのはこれからだがね」


「それで、その……謎バリアの魔素を修復する方法とか、もしくは元の世界に還る方法とか……」


「うむ、それが気になるだろう。だがユージ殿。私はテッサ様の話もキース様の話も記録を読んでいる。そしていま、ユージ殿の話も聞いた。そのうえで言おう。おそらく……()()()()()()()()()()


「え?」


「同じ世界からこの世界に来たはずなのに、少なくとも三人は時間も位置関係も違うのだろう? しかも別の世界には魔素が存在せず、たがいの世界は観測できない。ではこの世界からいつ・どこに送ればいいのだ? 観測もできない場所にどうやって送る? ユージ殿、いまのこの条件で、還る方法を考えるというのは不可能だ。森の中で一枚の葉を見つける幸運に賭けるか、それこそ超越的な存在でもない限り」


 ローレンの言葉を聞いて固まるユージ。


 とはいえユージは、還りたいと強く願っていたわけではない。

 現状で不自由なく生活できて、元の世界に残した妹とも連絡が取れる。

 もはや友人とも呼べる掲示板の住人たちとも話ができる。

 それでも。

 はっきり言われたことで、ショックを受けたようだ。


「ユージ殿、勘違いしないでほしい。あくまで現段階では、だ。私は、いや、いまは亡き師匠も含めた一門は、別の世界との往還を為すことが命題の研究者だ。研究を進め、新たな情報や着想を得てどうなるかなど誰にもわからない。そもそも私も師匠も、『魔素が宿らない物』など存在すると思わなかったのだから」


「はあ……」


 ユージの返事は小さい。


「それからこの謎バリア、というかこの空間の魔素の修復であったな。おそらく同質の魔素を同じ場所に留められれば修復できるだろうが……その方法は私にもわからない。魔法ギルド、あるいはエルフのほうが詳しかろう」


「そう、ですか……その、ハルさん? バスチアンさん?」


「ユージさん、長老たちから言われなかったんなら、ボクたちには……」


「ユージ殿、王都に帰ったら調べてみよう。儂にもわからぬ」


「その、シャルルくんとアリスは?」


 ついでにと問いかけたユージに、小さく首を振るシャルル。

 アリスは眉をしかめて、むむーっと考え込んでいる。

 魔眼と卓越した火魔法、才にあふれた兄妹もわからないらしい。


「そう、ですか。還れない。謎バリアの修復方法もわからなくて、いつかライフラインもネットも使えなくなるかもしれない、かあ……」


「ユージにい……」


 ユージの表情は暗い。

 ずっと隣にいたアリスが心配して、その顔を覗き込むほどに。

 コタローがユージのヒザの上に飛び乗って、静かに体をこすりつけるほどに。


「ユージ殿、諦めるのはまだ早い。研究とは無数の失敗と検証の繰り返しだ。師匠も、その師匠も、テッサ様から話を聞いた人物から連なる数多の研究者も、ついに異世界と往還する方法を見つけ出すことはできなかった。だがそれは決してムダではない。先人たちのすべてを継いだ場所に、私は立っているのだから」


「ローレンさん?」


「ハル殿! 私はここに移住する。実物が目の前にあって、別の世界の情報が数多あるこの場所へ。師匠も先人も誰も持てなかった最高の環境で研究させてほしい」


「了解、まあそう言うと思ってたよ! ボクらエルフが目指しているのは稀人の保護と、希望があったら元の世界に還れるようにすること。研究が進むなら是非もないよ!」


「よし! ではさっそくユージ殿に聞いた話をまとめなくては。ユージ殿、諦めないでほしい。微力ながら私もこのホウジョウ村で力を尽く……あ」


「どうしましたローレンさん?」


「うむ、この村に住める建物はないだろうか。雨風が凌げる程度でもよいのだが」


「えっと……」


「ああユージさん、気にしないで! とりあえず木工職人のトマスだっけ? 彼に一軒お願いして、それまではボクの別宅に泊めておくから! ほらローレン、その前に王都から荷物を運ばなきゃ」


「くっ、こんなことなら……いや問題ない。ハル殿、研究室にある書物と書き付けだけ手配できれば問題なく、つまり私が帰らなくても」


「言うと思った。その辺はウチで打ち合わせするよー。じゃあねユージさん!」


 稀人、別の世界の情報が山ほどある。

 ローレンにとってここは夢にまで見た場所。

 名残惜しそうに抵抗していたが、ハルに服を引っ張られて連れ出される。


 残されたのはアリス、シャルル、バスチアンとコタロー。

 そして、ぐったりとソファに沈み込むユージである。


「ユージ殿。儂とシャルルは、今日はケビン殿のところでお世話になろう。アリス、ユージ殿を支えるのじゃぞ」


「うん、お祖父ちゃん! ごめんねシャルル兄!」


「ふふ、ずっとボクがアリスを独占してたからね。じゃあアリス、また明日」


 続けて気を利かせたバスチアンが、孫のシャルルを連れて家の外に向かう。

 これでユージの家にいるのは、二人と一匹。

 この世界に来てから、5年以上ともに過ごしたアリスとコタローである。


「ユージ兄……悲しいの?」


「悲しい……うーん、ちょっと違うかな。そうだなあ、いろいろ新しい情報が入ってきて、まだうまく気持ちが整理できてないみたいだ」


「そっかあ。あのね、ユージ兄」


「うん? どうしたのアリス?」


「アリス、このお家は好きだけど、それより、このお家でユージ兄とコタローと一緒に楽しく暮らすのが好きなの。いつかリーゼちゃんもまた一緒に暮らすんだよ!」


「アリス、でも家は……」


「アリス、お水出せるもん! お湯にだってできるし、お料理の火も出せるし、明るくもできるんだよ! だから大丈夫!」


「アリス……はは、ありがとう」


 ライフラインが使えなくなるかもしれない。

 なんとなくそんな話を理解したアリスは、落ち込むユージに自分が魔法でできるのだと指折り数えてアピールする。

 まるで、これでユージ兄の心配はなくなったでしょ、と言わんばかりに。優しい少女である。

 ほぼ逆プロポーズで、しかものちのちリーゼも一緒のハーレム状態である。

 ユージは気づかない。まだ10才のアリスもリーゼも、保護すべき少女としか考えていないのだろう。


「ありがとう、アリス」


「へへー」


 頭を撫でられて、アリスはバフッとユージの胸に飛び込む。

 ユージのヒザの上にいたコタローも、一緒になって寄り添っていた。わたし、わたしもいるのよ、と言わんばかりに。できた女である。犬だけど。



 ユージがこの世界に来てから6年目の夏。

 エルフ、そしてこの世界の研究者から新たな情報と見解を得た。

 それでもユージは変わらずに、アリスとコタローを胸に抱くのだった。


 この日。

 ユージはひさしぶりに、二人と一匹で寝たようだ。両手に花である。

 一人は10才の少女で、一人は人ではなく雌犬だが。セーフである。いまのところ、まだ。


次話、明日25日7時投稿予定です!


明日は6/25で、『10年ごしの引きニートを辞めて外出したら ①〈下〉』の公式発売日!

ということで、明日は7時、12時、18時の複数回更新します!

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