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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第二十章 代官(予定)ユージ、文官として働きはじめる』

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第四話 ユージ、アリスの兄・シャルルに魔眼で家を見てもらう


 ホウジョウ村開拓地、ユージの家の中。

 そこには、いつもと違う面々が集まっていた。


 緊張した様子のユージ、めずらしく落ち着きがないコタロー。

 一人と一匹の視線の先には、手を繋いだアリスとその兄・シャルルがいた。


 先ほどまでは、自慢げにアリスが家の中を案内していた。

 なにしろアリスの兄も祖父も、この家を見るのは初めてだったので。

 兄妹の後ろには祖父のバスチアンの姿もある。

 シャルルに見てもらうにあたって、豊富な知識を持つ人がいたほうが良いと判断したユージは、エルフのハルとケビンも家に招いていた。

 二人はすでに家に入ったこともあるので。


 案内を終えて、いよいよユージはシャルルに見てもらっていた。


 魔眼を持つシャルルに、()()()()()()()()()()宿()()()()()()()()()を。


 シャルルの赤い瞳が、さらに紅を深くする。


「どうだろう、シャルルくん?」


「ユージさん、その、なんと言えばいいか……」


 ユージが最初にシャルルに見せたのは、一階のダイニングキッチン。


 ここなら小物も家具も家電もあり、電気やガス、水道もあるので。

 ユージはシャルルに魔眼を発動してもらってから蛇口をひねって水を出し、コンロに火をつけ、電球のスイッチのオンオフを切り替えていた。

 ついでにクーラーや換気扇もまわしている。


「どんなことでもいいよ、シャルルくんに見えたことを教えてほしいんだ」


 ユージ、いつになく真剣な口調である。


 それも当然だろう。

 この世界にはすべてのものに魔素が宿っている。

 ものに限らず、空気中にも。

 そのため過去の稀人・テッサの話を聞いた研究者は、当たり前のように魔素の存在・魔法の使用をキーに異世界の往還方法を考えていた。

 ユージが元の世界に還る、あるいは元の世界からこちらの世界に渡るにも『元の世界に魔素が存在する』という前提に立って研究していたのだ。


「ユージさん。その…………魔素がありません。いえ、ちょっと違いますね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「えっと……? どういうことだろう?」


「シャルルくん、どれに魔素が宿っていてどれに宿っていないか教えてください」


 シャルルの言葉に質問するユージ。

 後ろで聞いていたケビンが、フォローするように具体的にあげてほしいと依頼する。


「あ、はい。まず、この机や戸棚、お皿には魔素がありません。いえ、ないんだと思います。こんなの初めて見ました……」


 この世界のすべてのものに魔素は宿る。

 逆に言えば、魔眼で魔素が見えるシャルルは、魔素がない物を見たことがなかった。


「ですが、その水。それから火……これには()()()宿()()()()()()。それからたぶん、電気? というものも。光っている明かりには魔素がありますが、点いてないのにはありません」


「……やっぱり」


「ユージさん、どうでしょう? これまでの話で心当たりはありますか?」


「水道、ガスでつけてる火、電気。えっと、これって元の世界の他の場所に繋がって初めて使えるものなんですよ。でもいまは繋がってなくて、でもなぜか使えていて……」


 この場にいるのはユージを稀人だと、この家を元の世界にあった家だと知る人のみ。

 ユージは水道、ガス、電気がなぜか使えるのだということも話す。

 というか状況を説明しなければはじまらない。


「ふむ……シャルル、ほかはどうじゃ?」


「はい。それから、その食べ物が入った箱。それにはすごく薄いんですけど、魔素が宿っているように見えます。隣のその箱も」


「え? いや、冷蔵庫は電気が流れてるけど……でも外装を傷付けてもそのままで……それに電子レンジも……」


 かつて検証スレの面々と試したこと。

 冷蔵庫、洗濯機、エアコン、ほか各種家電も白物家電も外装に傷つけたけど直らなかった。パソコンも。


 水道、ガス、電気に魔素が宿っていることは、ユージもなんとなく予想していた。

 なにしろ、無から有が生まれているのだ。

 下水も考えれば、さらに有から無になっている。

 元の世界ではありえない事態であり、魔素、あるいは魔法の存在を疑うのも当然だろう。


「シャルルくん、ほかはどうだろう?」


「あの、その扉のガラス。それにははっきりと魔素が宿っています。それぐらいですね」


「……これ?」


「はい、そうです」


 ユージが近寄って指を差したのは、キッチンの奥にある勝手口の扉。

 その上半分の曇りガラスである。


「なんでコレだけ……まあいいや、先にほかの部屋も見てもらおう。いいかな、シャルルくん?」


「あ、はい。どこに行きましょうか」


「とりあえずリビングと和室、それからお風呂をまわってから……二階。俺の部屋に」


「シャルル兄、アリスが案内するね!」


 ひとまず考えるのは後にして、いまはシャルルに見てもらう。

 ユージ、賢明な判断である。

 あるいは掲示板住人たちにぶん投げる気かもしれないが。



 リビングは、ダイニングキッチンと変わりはなかった。

 ソファやテーブルなどの家具、小物、動くけど映らないテレビに魔素は宿っていない。


 シャルルが反応したのは、和室の奥、床の間に設けられた細長い窓だった。


「ユージさん、あそこもです。あの透明なガラスがさっきの扉と同じように、濃い魔素が宿っています」


「これ? …………そうか、さっきの曇りガラスも!」


「ユージさん、じゃあ入り口の鏡もじゃない? ほら、ボクが斬ったヤツ!」


「……えっと? ユージさん? ハルさん?」


「シャルル兄、次は玄関だって! おっきくてキレイな鏡があったとこだよ!」


 シャルルの手を引いてずんずんと進むアリス。

 いまや勝手知ったる我が家である。

 そして。


「なんだこれ……ユージさん、えっと、ここから上は魔素がうっすらで、ここから下は魔素がクッキリ宿ってます」


「ほらユージさん、やっぱり! ボクが斬って剥がしたあたりだ!」


「そうか……電気、ガス、水道は魔素が、あとは壊して直った箇所も魔素が宿ってる。うん、そういうことかな……」


「ユージさん、次はどこに行きますか?」


「あ、ごめんシャルルくん。じゃあ次はお風呂じゃなくて、先に俺の部屋を見てもらおうか。その後は外かな」


「はい、わかりました」


「シャルル兄、階段を上がって二階に行くんだよ! あ! ねえユージ兄、()()()()見せるの?」


「うん、その辺を見てもらおうと思って」


 ひさしぶりに兄と手を繋いで、アリスはニコニコであった。

 いや。

 ユージ、アリス、コタロー、シャルル、バスチアン、ハル、ケビン。

 6人と一匹の中で、ただアリスだけがご機嫌であった。

 ほかの5人は思い思いに考え中であるようだ。

 ちゃかちゃかと爪音を立てて階段を上るコタローさえ。



「ここなんだけど……どうかな、シャルルくん?」


 今日何度目かもわからないユージの問い。

 シャルルは嫌がることもなく、真剣に部屋を見まわしている。エロ本サーチではない。いや、時代が違う。いまやエロいものは実物の隠し場所に悩まなくてもいいのだ。

 現代の男たちの部屋には、ベッドの下にも引き出しの奥にも引き出しの裏にもクローゼットの奥にも何もないだろう。どうでもいい。


 ユージの部屋のパソコンもプリンタも電源は入れているが、モニターはデスクトップ画面を映すだけである。


「ここも……一緒です。寝台とか机とか椅子には魔素がありません。ただ……その絵が映ってる()()()()ですか? それと、その横にある黒い箱は、炊事場の箱と同じようにうっすら魔素が宿っているように見えます」


「マジか……じゃ、じゃあガラスや鏡と同じで直る可能性も! いやでも前に傷付けた時は直らなかったし……」


「ユージ殿、まずはすべて見せてから考えたらどうじゃ? 危急ではないのじゃろう?」


「……そうですねバスチアンさん。シャルルくん、一回外を見てもらいたいんだ。魔眼、使いっぱなしだけど大丈夫?」


「大丈夫ですユージさん。長時間維持できるように鍛えましたから」


「そっか、キツくなったら言ってね。って言っても、ひとまず見てほしいのはあとウチの外ぐらいなんだけど。ほかは明日でもいいから」


「はい、それぐらいなら大丈夫です」


「シャルル兄はすごいねえ!」


 アリス、よくわかっていないもののシャルルを褒めていた。ブラコンか。

 ともあれユージは、バスチアンの助言に従って考えることを後まわしに、外に出るのだった。

 そして。



「うわっ!」


「どうしたのシャルルくん? あ、やっぱりあそこの車庫に魔素が宿ってた?」


「あ、すみませんユージさん。はい、あの建物にははっきり魔素が宿ってます」


「車庫。やっぱりか」


 ユージの質問に答えるシャルル。

 だが、驚いたのは車庫にではないようだ。


「シャルルくん、ウチの建物はどうだろう?」


「……こっちもですね。中からは見えなかったのに……外側には魔素が宿っています。それに、建物の横から出てるあの線も」


「家も、それに電線もか。あとは……シャルルくん。家の敷地と外の境はどう?」


「その、さっきそれで驚いたんです。境界が……それに、上も」


 家の敷地の入り口、門を見てさらに左右に目を向けるシャルル。

 シャルルの紅い目は、上空にも向けられた。


「魔素がある?」


「はい。それも、これまでボクが見たことないほどクッキリと」


「ふむ、魔眼ではそのように見えるのか。ユージ殿、おそらく魔素が色濃く存在しているということじゃろう」


「謎バリア……」


 ポツリと呟くユージ。

 単語の意味はともかく、謎バリアの存在を知っていたケビンやハルは納得顔で頷いている。


「ユージさん、あの魔素が宿った線は、この壁みたいにクッキリした魔素と繋がってます」


「え? あ、まあそうか、電線、途中で切れてるもんな。謎バリアのところで途切れてておかしくない」


「ああいえ、そうじゃなくてですね……ボクの魔眼で見ると、この魔素の壁の内側は、何もないところも魔素が濃いんです。その、線も繋がってるし、すべてはここからなんじゃないかと……」


「うーん」


 シャルルの言葉に生返事をするユージ。

 というか、家の敷地の中の魔素が濃いと聞いたところで、今のところユージにはそれぐらいしか返せない。

 ユージより遥かに物知りなケビンも、貴族としての知識を蓄えたバスチアンも、長い時を生きてきたエルフのハルも何も言えないのだから。


 アゴに手をあてて考える姿勢を取りながら、ユージはフラフラと庭を歩く。

 気がつけば、ユージの目の前には門があった。


「シャルルくん、これはどうかな? 何回も修復してるから、これにも魔素が宿ってると思うんだけど」


 ユージの言葉に誘われて、シャルルが門に近づく。


「あ、はい、そうですね。これにも魔素が宿っています。それにしても境界にはこんなにクッキリ魔素が……あれ?」


 門、そして謎バリアに近づいたシャルルが、興味深そうに謎バリアに目を凝らしている。

 端から見れば虚空を見つめる少年である。危ない。

 そのシャルルが、わずかに首を傾げる。


「うん? どうしたのシャルルくん?」


「ユージさん……ここ、門の上、その、境界の魔素がここだけ薄く……いえ。()()()()()()()()()()()()()()()()


「えっ!?」


 謎バリアは魔素でできているらしい。

 ほかとの繋がりはともかく、ユージもそれぐらいは理解できていた。

 だからこそ。


 シャルルから告げられた言葉は、ユージを驚かせるのだった。


次話、明日18時投稿予定です!

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