第八話 ユージ、プルミエの街まで整備された道を歩く
「おお、だいぶ歩きやすい! 歩きやすい、けど……」
「ユージさん、どうしました?」
「なんかこう……草で覆われてて、道って感じがしないんですよね」
「ああ、なるほど。大丈夫ですよユージさん。往復する人が増えれば踏み固められますから。それにこの程度であれば、峠越えにも利用したあの馬なら荷車をひけますし」
ホウジョウ村開拓地を後にしてプルミエの街へ向かうユージたち。
プルミエの街まで続く『荷車が通れる道』は開通したと報告されていた。
だが、その道を歩くユージは首を傾げている。
たしかに木は伐採されて道は拓けているのだが、足下は草と落ち葉に覆われているのだ。
ほとんど土が見えないことが、ユージがイメージする『道』とは違う理由だろう。
「ユージ兄、アリス、魔法でえいってやる? エルフの里で教わったの!」
「うーん、このままでも通れるしなあ。どうしますかケビンさん?」
「使い続けるのは大変でしょうから、凹凸がひどい箇所はアリスちゃんに魔法を使ってもらいましょう」
「はーい!」
木を伐採したため、木漏れ日が差し込む森の道にアリスの元気な声が響く。
「あとはその……コタロー? 街まで一緒に行くつもりじゃないよな?」
歩きにくい、あるいは荷車が進みにくい箇所があったらアリスに魔法を使ってもらう。
ひとまず話の決着がついて、ユージはもう一つ気になっていたことに話題を変える。
ユージの声が聞こえたのか、なあに? とばかりに振り返るコタロー。
街に向かう7人の隊列の先頭は、コタローだった。
いや。
コタローと、コタロー率いる15匹のオオカミたちだった。
「さすがにこのまま街に連れていくつもりはないと思いますが……きっといろいろ教えているんですよ。ええ、きっと」
「あはは! いやあ、ユージさんのまわりはホントおもしろい!」
コタローの横を日光狼が進み、14匹の土狼たちは時おり道から外れてまわりをウロウロする。
土狼のうち、体格のいい三匹が時々コタローと日光狼に近づいてガウガウ言うのは報告なのだろうか。
まるで護衛、あるいは索敵部隊である。
「コタロー、俺たちがいる時はいいけど、オオカミだけでこの辺に来ないようにね。あと森で人間に出会っても襲わないように。あ、でもゴブリンとかオークならやっちゃっていいんだけど……見分けがつくかな?」
「ユージさん、さすがにそれはむずか――」
ケビンの言葉を遮って、ワンッ! とコタローの威勢のいい鳴き声が響く。わかってるわよ、ゆーじ、けびんもしんぱいしないで、と言うかのように。
「すごい、すごいわコタロー! かわいいのに賢いのね! オオカミたちも……毛皮は諦めようかなあ」
「ジゼル、毛皮が欲しいのか? どいつがいい?」
前を歩いていた日光狼が尻尾を丸めて、潤んだ瞳でジゼルとゲガスを見つめている。え、かわをはがれてにくをくわれるの、じょうだんだよね、とばかりに。
「あの、ジゼルさん、ゲガスさん」
「ユージさん、冗談、冗談だから! ほらコタローも日光狼もそんな目で見ないで!」
ユージ、アリス、コタローと15匹のオオカミたち。
商人のケビンとその妻・ジゼル、ジゼルの父親で商会もお役目も引退したゲガス。
王都を拠点にしている1級冒険者でエルフのハル。
旅慣れたメンバーである。
そして。
「マルクくん、大丈夫? 疲れてない?」
「あ、はい! これぐらい大丈夫ですユージさん! ちゃんと警戒しながら歩いてて、みんなすごいなあ……」
強くなりたいと決意して、プルミエの街でいろいろ見てまわることになった犬人族の少年・マルク。
7人と犬とオオカミたちは、順調に旅路を進むのであった。
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「土さん、ちょっとたいらになってー!」
アリスが手をつくと、地にあった穴が周囲の地面と同じ高さまでせり上がる。
「あ、魔法を教わってもその言い方は変わらないんだ」
「まあ魔法に詠唱は必要ないからね! きっかけだったり、イメージを固める補助だから! アリスちゃんのはさすがに聞いたことないけど」
「すごい、すごいわアリスちゃん!」
「もう慣れましたけど……あいかわらずですねえ」
「へへー、できたよユージ兄!」
「おう、アリスはすごいなー」
むふーっと自慢げなアリスの頭を撫でるユージ。
切り株を抜いた跡らしき穴を埋めたアリスは、ユージに褒められてご満悦であった。
コタローもアリスの足下に近づき、体をこすりつけて妹分を褒めているようだ。
そして。
「アリスちゃんの魔法はこんなに役に立つんだ……」
マルクは呆然としていた。
15匹のオオカミたちも。
犬人族のマルクは開拓地でアリスの魔法を見てきたが、ここは危険な森の中。
守られるだけで何もできない自分と違って、大人たちに頼られ、役立っているアリスを見て感じ入るものがあったようだ。
オオカミたちは単純にあったはずの穴がなくなったことに驚いているようだが。
「ユージさん、良さそうな場所を見つけたら野営の準備をしましょう」
「了解ですケビンさん! いやあ、やっぱり道があると進みやすいですねえ」
「ええ。残りの道程も順調なら、明日の閉門前には街に着けそうです。ちょっと早起きしないといけないでしょうが」
「歩いて二日! 一日分も短縮できるんですか!」
「ユージさん、ボクらの歩くスピードはなかなか速いよ! フツーのニンゲンなら二日は厳しいんじゃないかな」
そう言ってチラリと斜め後方に目を向けるハル。
その視線の先には、疲れた様子のマルクの姿があった。
9才のアリスはいまだ元気だが、13才の少年は疲労の色が濃くなっていた。
年齢による体格差よりも、位階が上がって身体能力が上がっているかどうかの差が大きいようだ。
開拓地で日々力仕事をしていても、モンスターを倒しているアリスよりマルクのほうが体力がないようだった。
「マルクくん、大丈夫? 今日はもうちょっとだから」
「はい、がんばります!」
マルク13才。
男の子の意地である。
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「おーいユージさん!」
「あれ? どこからだろ?」
「ユージ兄、木の上! お猿さんだよ!」
どこからか聞こえた声にキョロキョロとあたりを見まわすユージ。
そんなユージに声をかけ、指で示したのはアリスだった。
ちなみに気づいていなかったのはユージだけ。
同行していた1級冒険者のハルも『血塗れゲガス』もその娘も、『戦う行商人』ケビンも、それどころか犬人族のマルクもオオカミたちも、すでに視線は木の上を捉えていた。
「ユージさん、ちわっす!」
「あ、はい、こんにちは」
木から下りてユージに挨拶したのは一匹の猿だった。
いや違う。
猿ではあるが、猿は人語を話さない。
道の開拓の役務に就いていた猿人族の男である。
「プルミエの街までっすか? あ、まだ木を伐ったぐらいっすけど、野営なら場所を造りはじめてますよ!」
「あ、そうか、道ができたから。次は宿場でしたっけ?」
「はい! ユージさん、その節はありがとうございました! みんなも感謝してます!」
「ケビン、コイツがアレか?」
「はいお義父さん。彼ともう一人は冒険者ですけどね。ってお義父さん?」
「おう、そこの猿。そろそろ野営場所を探そうと思ってたからな。ちょうどいい、案内してくれや」
「はい! じゃあみなさん、ついてきてください! 7人と……コタローさん? えっと、そのオオカミたちは?」
踵を返して宿場予定地に案内しようとする猿人族の男。
だが、途中で足を止める。
コタローがゾロゾロ引き連れているオオカミたちが気になったようだ。
「たぶん一緒に行くつもりだと……その、気にしないでください。ボスのコタローの言うことを聞くみたいで、人間は襲いませんから」
「ボス……すげえなコタローさん!」
目を剥いて驚く猿人族の男に、ふふんと誇らしげに胸を張るコタロー。謎の価値観である。ちなみに胸はある。メスなので。
「ユージさん、ケビンさんも! ちわっす!」
「んちゃーっす!」
「あ、このノリまだ続いてるんだ。こんにちは」
「みなさん、今日はこちらに泊めてもらいます。よろしくお願いしますね」
「了解っす! おうお前ら、ユージさんとケビンさんが口を利いてくれたからこの役務に就けたんだ。感謝しろよ!」
「あざーっす!」
「ほう、なかなか統率が取れてるじゃねえか」
「ああ、パパの悪いクセが……」
猿人族の男に案内されてたどり着いたのは、道の横にある小さな空き地。
そこには、木こりの大男と5人の犯罪奴隷がいた。
あわせて7人になった男たちを見てなぜかニヤニヤと嬉しそうなゲガス、頭を抱えるジゼル。
更生した元ならず者は、ゲガスの好物であるらしい。
「うわあ、広場になってる! おじちゃんたちがんばったんだね!」
アリスは強面な元ならず者に囲まれても、強心臓でマイペースであった。
まあその気になれば一瞬で全員を消し炭にできるからかもしれない。王都の祖父、そしてエルフたちから魔法を教わったアリスは、もはや人間兵器なのだ。
「へへへ、ありがとうなお嬢ちゃん。おうおまえら、今日は恩人たちを歓迎するぞ!」
「うっす!」
「あの、そんな、普通に泊まれればそれでいいですから」
ホウジョウ村開拓地を出て一日目。
プルミエの街に向かう道の途上、建設中の宿場予定地で。
7人の男たちに歓待されて、ユージたちは最初の夜を過ごすのだった。
ちなみに、マルクの尻尾は丸まっていた。
一人だけ落ち着かない夜であったようだ。当然である。7人の元ならず者プラス見た目は海賊のゲガス、自分よりも強いオオカミ型モンスター15匹に囲まれていたので。
ユージ、ずいぶんタフになったようだ。男には。





