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10年ごしの引きニートを辞めて外出したら自宅ごと異世界に転移してた  作者: 坂東太郎
『第十六章 エルフ護送隊長ユージは種族間交易の人間側責任者にランクアップした』

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第十三話 ユージ、ふたたび長老たちとの会合に出席する

『では、第8153回エルフの里長老会をはじめる』


『え? あの、今度は多くないですか? でもそんなものなのかな』


『ふむ、ユージ殿にツッコミの才能はないようじゃな』


『しかりしかり。……うむ。この言い方、長老っぽいの』


 エルフの里、その裏手にある林の中。 

 大きな楕円の木のテーブルのまわりには、老エルフたちとユージたち一行の姿があった。

 歳を重ねたエルフ、男女あわせて10人の長老会である。

 『稀人が来たら案内する場所』を見た翌日、ユージは再びこの場に招かれたのだった。


『えっと、今日はなんの用でしょうか?』


『うむ。リーゼの祖母・イザベルより、他の稀人の手紙や遺物を託すよう依頼があってな』


『そういうことよ、ユージさん。急にごめんなさいね』


『いえ、わかりました。あそこにある木箱がそうですか?』


『そうじゃ。まあ中身は宿に戻ってからでもゆっくり見ればいいじゃろう』


『ユージさん、実はもう一つ話したいことがあって』


 ため息まじりに発言したのはリーゼの祖母。

 心当たりがないユージは首を傾げる。横に座るアリスもコタローも。


『そうじゃ! ユージ殿! あれはユキウサギの料理じゃろう? 間もなく夏なのになぜいま食べられるんじゃ!』


『ユージ殿、布の花も服も見事だったわ。それに見せてもらったわよ、あのハレンチな下着』


『うむ、あれは素晴らしい』


『む、おぬしまだ枯れておらんかったのか?』


『お祖母さま! おみやげ、みんなに見せたの?』


『うふふ、ちょっと朝の散歩に出たら捕まっちゃってね。ついつい自慢しちゃったの!』


『お祖母さま、レディはさりげないのがいいのよって……』


『リーゼ、諦めなさい。母さんは昔からこうだ』


「ケビン、お前の企み通りみたいだぞ?」


「ええ、これは予想以上ですね。では私は秘密兵器を持ってきましょう。ユージさん、しばらく外しますね」


「あ、はいケビンさん。よろしくお願いします」


 ユージとケビンは、リーゼの家族に開拓地で作った保存食と服飾品を手土産として渡していた。

 保存がきく缶詰、現在のデザインを再現したコサージュと衣服、そしてユージたちが心身を削って開発した下着。

 下着はまだ試作品段階ではあるが、どれも好評だったようだ。


 ユージに言葉を残し、立ち上がったケビンが里の中心部に戻っていく。

 ケビンいわく『秘密兵器』を取りに行ったようだ。

 リーゼの家から持ち出した手土産を囲み、会話しながらユージたちはケビンの戻りを待つのだった。



『こ、これは、なんという……』


『まあ! まあ!』


『美しい……』


『ゲガス、この布はお前が?』


『ああ、ケビンがウチを辞める時に餞別にな』


『すごいでしょお祖母さま! でも、ジゼルさんが着るともっとすごくなるんだから!』


 戻ってきたケビンが広げた『秘密兵器』。

 それは、ジゼルに結婚を申し込むために作ったドレスであった。


『ふむ、里で作ってる布がこうなるとはのう……』


『ケビン、その、誰かが着てるところが見たいんだけど』


『あら! じゃあ私の出番ね!』


『お祖母さま、ダメよ! これはジゼルさんのなんだから!』


「『ありがとうリーゼちゃん』。そうですね、ちょっと他の人には着せたくありません」


『当たり前だケビン! そんなことは俺が許さねえ!』


『いいよねこれ! ああ、ボクも作ってもらって誰かに贈ろうかな! 二、いや三着?』


『あのハルさん、これ花嫁衣装なんですけど……』


 カオスである。

 ゲガスの商会を辞める時に、餞別だとケビンに渡されたエルフの里産の絹の布。

 ケビンはユージと針子たち、掲示板住人たちの協力で、ドレスを作ってもらった。

 これを持ってゲガスの娘に結婚を申し込んだのだ。

 絹のドレスは、エルフをも虜にする出来だったようだ。


 それにしてもハル、その数はなんなのか。

 ひょっとしたら稀人のテッサからハーレム思考を教わってしまったのかもしれない。


「ユージさん、いまがあの話をする時だと思いますよ」


「ああそうでした!『みなさん、一つお話があるんです。その、辺境を治める領主様から言われたんですが……交易、しませんか?』」


『交易……ふむ』


『これまでそういう話はボクが断ってたんだけどね! まあ稀人からの話だし、ひとまず長老会かなって!』


『そうねえ、ハルに聞いてもこっそり見に行っても、特別欲しいものはなかったもの。今までは』


『ユキウサギ……こう、寒い日に熱々のシチューで……それが、季節問わず……』


『儂、気づいたんじゃが』


『どうした爺? やっとお目覚めか?』


『このハレンチな下着……絹でも作れるんじゃなかろうか』


『お、おぬし天才かッ!』


『というかおぬしらまだ枯れておらんのか。これだから700代のヤツらは……』


『絹で作るのは大変ですけど、作れなくはないと思います。でもその、絹はエルフの里にしかないって』


『うむ。ニンゲンのお役目、次はケビンか。ケビンに提供することになるのう』


『あらあら。あらあらあら。リーゼ、これが流行ったら弟か妹ができるかもしれないわね』


『母さん!』


『ふむ、交易。ユージ殿、たしかにこの保存食と服飾品は我らエルフも欲しい物じゃ。じゃがやはり、あまり領主や貴族などと繋がりたくないのもわかってほしい』


『うむ。例えばじゃが、もしエルフがニンゲンに捕まった場合、問答無用で奪い返すからの。交易の場が存在すれば、エルフが報復されることもあるじゃろう』


『ユージさん、そういうことだ。あるいはその貴族が報復されるかもしれねえが』


『あいかわらずニンゲンは複雑じゃのう。これでもまだテッサさまの国はマトモだというのじゃから……』


「場所と繋がりが問題、ですか……でも、ユージさんと私がいれば問題ないんじゃないですか?」


「……あ! そっか、俺たちは里に入れるから!『その、じゃあ、エルフの里で俺とケビンさんと取引をするのはどうでしょう? 俺たちが来る時に商品を持ってきて、欲しい物があったら買ったり売ったり』」


『む? 稀人との取引を、エルフの里の中で、か』


『交易というよりもっと小規模な物じゃな。稀人との間であれば、これまでもなかったことはないのじゃが……』


『ユージさん、私は賛成よ! 女はいくつになっても着飾りたいものなの!』


『お、お祖母さま、下着を持って言われても……レディなのにはしたないわ!』


『リーゼ、母さんに言っても無駄だよ。私が一番よく知ってる』


『じゃがユージ殿、問題があってな』


『問題? なんでしょうか?』


『エルフの里は貨幣がないのじゃよ。物々交換か貸し借りでまわっておるのじゃ』


『そっか、売り買いするのにお金がない「……ケビンさん、どうしましょう?」』


「ユージさん、農村ではよくあることですよ。ねえお義父さん?」


「ああ。あとはまあ奥地の部族なんかともそうやって取引したな。価値観が違ってよ、意外におたがい良い商売になったもんよ」


「お義父さん? 詐欺の匂いがしますよ?」


「あ? 俺は正直な取引しかしてねえよ! 目の前の暴利にぐらついたがな!」


「物々交換でもいいのか『……あ、でも絹はそんなに交換できませんよね? 欲しくても、すぐに蚕は増えないですもんね?』」


 ガヤガヤと盛り上がっていた場が、ピタリと静まる。


『ユージ殿、いまなんと?』


『え? 絹はそんなに交換できませんよねって』


『その後じゃ』


『すぐに蚕は増えないですもんね?』


『なぜ知って……ああそうか、ユージ殿はテッサさまと同郷の稀人であったか』


『え?』


『ユージさん、絹が何から作られているかは、里でも一部にしか知らせていない秘密なの』


『ユージ兄、リーゼ知らなかったわ!』


『ふふ、リーゼはまだ子供だからね。ウチの一族だから大人になれば知らされるはずだったけど』


『はい?』


『何かあった時のために、外貨を稼ぐ手段はいくつも秘匿しておいたほうがいい。ニンゲンを信用するな。過去の稀人の助言じゃよ』


『例えば飢饉の時。ニンゲンのお役目に絹を多く渡して食料を調達してもらう。例えばなんらかの理由で移住せざるを得なくなった時。行動するには物資が必要で、物資を集めるには対価が必要でしょう?』


『あ、はい。なんとなくですけどわかります』


『うむ、そういうことで秘密にしておったのじゃ。まあ稀人であるユージ殿は知っておったようじゃがな』


『では話を戻そうかの。長老会、第何回じゃったっけ?』


『戻しすぎよ!』


『ユージ殿とケビンが何か、というか保存食や服飾品を持ち込んで、我らエルフと取引する分には構わんじゃろう。交易というには規模が小さいがな』


『うむ。物々交換できそうな物じゃが……まあまだしばらく逗留するのじゃろう? しばらく里を見てまわるがよい』


「ということなんですけど、どうでしょうケビンさん?」


「ユージさん、いいと思いますよ。細々とということですが、物々交換であればそのほうがいいですから。特に最初のうちは」


「はい、わかりました。『そうだ。すぐじゃなくてよければ、蚕の飼い方とか増やし方、教えましょうか? 俺も絹がちょっと欲しいなって、その、別に下着用ってわけじゃなくて』」


 冷たい目でユージを見つめるコタロー。そう、しるくのしたぎにするのね、と責めるように。着るのはコタローではないので。コタローはユージと仲良しだが、犬なので。

 だが。

 長老たちは、それどころではないようだった。


『え?』


『は? ユージ殿、なぜ知っておる』


『テッサさまさえ試行錯誤だったのに……』


『え? いやだって、地元の隣の県に有名な工場があったから、遠足だったか社会科見学だかで……そりゃまあ小中高と、日光から福島にかけてのほうが多かったですけど』


 そういう問題ではない。

 長老たちが聞きたかったのは、そういうことではないだろう。


『ただ蚕の育成法とか最適な環境とかはうろ覚えなんで一度家に戻って、ああ、でもこの世界の蚕はまた違うのかな?』


 ユージはインターネットも見られるし、掲示板住人に質問することもできる。

 養蚕は秘匿されることが多かった技術だが、現代ならば情報も入手できるだろう。

 教えてくれればエルフと取引のために里に行く頻度が上がりますよ、となれば嬉々として調べてくれるはずだ。

 ユージの言うように、むしろこの世界の蚕は蚕なのかという問題があるが。


『あいかわらず稀人というのは謎じゃなあ……』


『うむ。この感じは久しぶりよの。テッサさま以来となれば、140年ぶりか』


『ふふ、懐かしい。ユージさん、そんなにすぐの話じゃなくていいわ。エルフの里は、いつでも稀人のユージさんを歓迎する。ユージさんが持ちこんだ物で欲しい物があったら取引する。難しく考えないで、最初はそれでいいかしら?』


「『はい!』いいですよね、ケビンさん?」


「ええ、いいと思いますよユージさん。最初は小さく単純に。私とユージさんの取引もそうだったじゃないですか」


 領主から頼まれた、エルフとの交易の交渉。

 『交易』と言われて想像するほどの規模かどうかはともかく、ひとまず交渉自体はうまくいったようだ。

 しばらく細々とした物々交換が続くだろうが、ユージは絹の布も手に入れられるかもしれない。

 まあ手に入れて下着を作ったところで、ユージには相手もいないのだが。

 ともあれ。

 ユージ、エルフの里でやらねばならないことは終わったようだ。

 ここからは観光の時間である。

 いや、それよりも。

 撮影の時間である。



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― 新着の感想 ―
[一言] 8150回分とんでて草
[一言] ユージ、、、いや、でもパジャマは最高の着心地だから、作ってもらったら?
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